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アジアにおける生命保険事業展開

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アジアにおける生命保険事業展開

谷 口 哲 也

■アブストラクト

日本の生保は,少子高齢化の進展による死亡保障の市場規模縮小の中で,

国内市場における持続的な成長への取組を続けながら,生保事業の海外展開 を模索し,さらなる収益力向上に向けた動きを見せている。展開先としては,

人口,経済成長性,保険普及度に着目すると,アジア地域の潜在的な成長性 の高さが注目される。しかし,こうした地域の市場規模はまだ小さいため,

成熟市場の収益性とのバランスを取りながら海外展開を図る必要がある。

海外展開を図る際には,こうした成長性・収益性といった 事業 として の側面のほか, 生命保険 の本来的な社会的意義という側面にも目を向け たい。現在のアジア諸国は貯蓄性商品が中心だが,日本の生命保険市場の発 展経緯を振り返ると経済成長とともに段階的に保障機能が充実してきている。

各国の状況を見極め,日本の生保はその強みを活用し,アジア各国の生命保 険市場の発展と社会基盤整備に貢献することができると考える。

■キーワード

海外保険事業展開,成長戦略,生命保険の社会的意義

1.はじめに

日本では,少子高齢化の進展で生産年齢人口の減少が続いており,働き盛 りのお客さまにニーズのある死亡保障商品について市場規模の縮小が継続し

23

*平成23年10月22日の日本保険学会大会(神戸学院大学)報告による。

/平成24年1月20日原稿受領。

1 .

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和文のやり方 昭和

欧文のやり方Laws,.-欧文の中の数字

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ている(図表1参照)。このような環境の下,日本の生命保険会社は,国内 市場においては年金・貯蓄・医療分野に注目した事業展開を行い,持続的な 成長のための取組を続けながら同時に海外における生命保険事業の展開を模 索し,さらなる収益力向上に向けた動きを見せるようになってきている。

図表2にあるとおり,第一生命では海外事業は足元の規模が小さいながら 高い成長性を確保できると考えており,中長期的にグループ連結利益の向上 に貢献していくことを目標としている。国内がだめだから海外へシフトする という単純な図式ではなく,国内にも軸足を置きながら,海外にも展開して グループ全体として持続的な成長を目指すものである。

ここでは,こうした流れを踏まえ,生命保険会社の海外展開について報告 したい。生命保険事業を海外へ展開するときに何に着目するか,また,日本 の生保市場で事業を営む中で積み上げてきた経験もしくはそこで育んできた 理念をどう活かしていけばよいか,日本の生命保険会社が海外展開を行う際 の一つのモデルを示したい。

(図表1)日本の人口動態

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2.海外における生命保険事業の成長性

海外展開は何のためにするか?冒頭述べた通り, 持続的な成長の実現 はその問いのひとつの答えとして考えられる。第一生命は,グループ連結収 益への貢献を海外生保事業展開の目標として掲げ,海外市場の成長を享受す べく取り組んでいる。海外生命保険会社に出資する際には,出資比率は15%

以上,加えて非常勤の取締役を派遣し,最低でも収益を連結できる関連会社 とすることを基本スタンスとしている。

こうしたスタンスの下,海外展開においては事業にコミットしたまとまっ た投資となるため,展開する国については,数をある程度絞ってしっかり選 択していく必要がある。その選択にあたっては,人口,経済成長,収入保険 料に着目し,その国の生保市場がどの程度成長する余地があるかを予測する ことが重要である。

つまり,生命保険は人に付保される保険であり,その国の市場規模を決定 付けるものとして人口は大きな要因となる。また,単に人口が多いだけでは 足りず,保険料を支払うための経済力が一定程度必要であり,実際に収入保

(図表2)第一生命の事業ポートフォリオと中長期戦略

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険料がどれくらい伸びているかも,今後の市場成長の判断材料となる。

図表3は,人口,GDP,収入保険料について,日本を除くアジア太平洋,

東欧を除く欧州,ロシアを含む東欧,北米,中南米,そして日本といった地 域別に規模や成長性を整理した表である。この表で人口に着目するとアジア が大きな占率を占めている。また,GDPの成長率を見ても他を上回る実績 を挙げている。収入保険料は,まだそれほど大きなボリュームを占めていな いものの,その成長率では,東欧,中南米とともに高い水準となっている。

さらに経済成長の伸展と収入保険料の関係を取り出してみると,各地域,

各国の潜在的成長性が浮き彫りとなる。図表4は,縦軸に保険深度 ,横軸 に一人当たり

GDP

を置いて,各国をプロットしたものである。全体的な傾 向としては,一人当たり

GDPが増加,つまり,経済成長が伸展すると保険

深度が上昇するという関係が浮かび上がってくる。

(図表3)地域別比較表(人口,GDP,収入保険料)

1) 収入保険料をGDPで除して計算される比率。収入保険料ベースで生命保険 がどの程度浸透しているか示す指標。

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加えて,実線に注目すると,一人あたり

GDP

が1,000ドルを超えたあた りから保険深度が上昇し始め,さらに10,000ドルを超えたあたりから上昇の スピードが増加する傾向にある。一般的に考えて,所得が伸びてくると,ま ず衣食住を充実させ,車や家を購入する。その後,さらに所得が伸びて余裕 が出てくると貯蓄を始めるが,保険の加入を考えるのも多くの人はこのタイ ミングだと考えられる。もちろん,国民性や社会保障の状況等によって程度 は左右されると思うが,上記傾向はこうした行動の積み重ねが顕れていると 考えられる。

現在,ベトナム,インド,中国,タイといったアジアの多くの国は,保険 の普及という点では発展期にあり,今後経済成長が進むにつれて生保市場の 大きな拡大が見込まれることが推測できる。

以上を踏まえると,成長性という点では,アジアが非常に魅力的なことが 分かる。もちろん,実際にその国に進出すべきかどうか考える際には,市場 の成長性のみならず,政情・治安から宗教や対日感情等に至るまであらゆる

(図表4)経済発展と保険普及度合い

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側面から検討を行い総合的に判断することになるが,成長性は進出国の優先 順位をつける際に重要なポイントとなる。

3.海外生命保険事業戦略の基本的な考え方

成長性という視点では,アジアは魅力的だが,一方で成長性の見込まれる 国々の生命保険市場はまだ発展途上であり,規模の点では十分なレベルに達 していない。

そこで,アジアへの取組と同時に潜在的成長性がそれほど高くなくても規 模がある程度あって安定的な成長が期待できる成熟市場への進出も考える必 要がある。つまり,足元でのグループ連結収益への貢献という点では,中長 期的に地域の分散と企業成長ステージの分散を意識した展開を行い,成長性 と収益性のバランスを念頭に置いた戦略策定を行うことが重要である(図表 5参照)。

(図表5)第一生命の海外生保事業展開の基本的な考え方

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さらに,アジアにおいては,日本の生命保険市場で培ってきたノウハウを 活用して投資先となる生命保険会社の成長を加速させ,バリューアップを図 ることが重要であると考えている。

ここで,第一生命の事業展開の状況を,日本の生命保険会社の海外展開の 事例として説明したい。図表6は第一生命の海外生保事業展開の状況を示し ている。現在,ベトナム,オーストラリアに100%子会社を持つほか,イン ド,タイに関連会社を持ち,加えて,中国にも50%出資の合弁会社を設立す る予定である。

このうちアジアの国々においては,当社が長年に亘って培ってきたノウハ ウを活かし,各市場における子会社・関連会社のバリューアップを図ってい る。

ベトナムについては,個人募集代理人チャネルを通じて養老保険やユニバ ーサル保険を販売しているが,個人募集代理人チャネルの個人能率アップに は,第一生命が経験を積み重ねてきた研修ノウハウを注ぎ込んでいる。ただ

(図表6)第一生命の海外生保事業展開状況

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し,このチャネルは,他に仕事を持つパートタイマーで構成されており,雇 用関係にある営業職員チャネルを前提とする日本流をそのまま持ち込む訳に はいかない。そこでノウハウの提供にあたっては現地の状況に合わせたアレ ンジが必要となっている。

タイについては,同様にパートタイマーの個人募集代理人チャネルが主流 となっており,ベトナムと同様,日本のノウハウをアレンジして現地の関連 会社に提供しつつ,当該会社のバリューアップを図っている。

インドについては,現地の国有銀行2行とともに合弁会社を設立したため,

ベトナム,タイと異なり,パートナーである国有銀行を販売チャネルとする バンカシュランスを中心に据えた事業展開を行っている。こちらに対しては 第一生命グループ内にて銀行を販売チャネルとしている第一フロンティア生 命からもノウハウを提供している。また,品質管理という点では,ジャパン クオリティに対する信頼が厚く,リスク管理やコンプライアンス等について ノウハウ提供を行っている。個人募集代理人チャネルについては2011年3月 より販売体制の構築を開始し,対面販売の強みを活かした顧客開拓を目指し ている。

なお,中国市場は大変魅力のある市場であり,第一生命は参入すべく取り 組んできたが,昨年合弁会社設立の認可を中国当局より取得した。現在,パ ートナーと伴に事業開始に向けて取り組んでいる。パートナーは電力会社で あるため,現地にて保険ビジネスを知る人材を採用しつつ,当社のノウハウ を活用して事業展開を図りたいと考えている。

4.生命保険の社会的意義

以上,生命保険事業の海外展開について, 事業 という側面から,成長 性,収益性に着目して俯瞰してきた。ここからは, 生命保険 の社会的意 義の側面から生命保険事業で海外に展開するということについて考えたい。

生命保険は,人の生死に関する保険事故の発生に備えて多数の者が公平に 保険料を負担し,実際に保険事故が発生すると一定の保険金が支払われる制

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度である。近代生命保険の父と言われるヒューブナー博士 は,人間の生命 価値という概念を用いて,生命保険の担うべき社会的意義を説明している。

生命価値は,4つの重大なリスク,すなわち, 早期死亡 長期労働不 能 病気や怪我による一時的労働不能と医療費の支出 定年退職 によっ て損失を蒙る。この場合の損失とはそのリスクが顕在化した人の所得力の喪 失であり,その損失はその人の家族に及ぶことを適切に理解しなければなら ないと,同博士は説いている。

こうした損失に対処するための一つの対応策としては,その損失を埋める ために十分な資産を積み上げることだが,それが可能なのは一部の裕福な人 のみであり,大半の人はこうした選択肢を有しない。同博士によると,こう した損失に対処するのに最も適しているのが生命保険であり,世帯主は家族 のために,自分に万が一のことがあってその所得が失われることがあっても,

自らの生命価値を保障するために生命保険に加入することは義務であるとさ れている。

このことから生命保険を提供している生命保険会社は,加入者やその家族 に金銭面での安定性と心の平穏を相互扶助というメカニズムを通じて提供す ることを,その使命として意識する必要があると考える。

日本において保障性商品が普及しているのは,日本人の国民性や社会的背 景もあるだろうが,低廉な保険料で高額な保障を得ることができる同商品が 生命価値の保護に有用であることから,日本の生命保険会社が生命保険の社 会的意義を意識しながら販売に力を入れてきたという背景もあろう。第一生 命も,お客さまの生命価値の保護を支援すべく保障性商品の販売に取り組み,

経験を積んできているが,アジアに対する海外展開においてもそうした経験 を活かして保障性商品の普及を図り,進出国の社会的安定に貢献することを 事業展開の一つの目標として考えている。こうした取組は欧米生命保険会社

2) ソロモン・S・ヒューブナー:米国ペンシルバニア大学ウォートン・スク ール教授。1904年同校にて初めて保険経済学の教鞭を執り,保険の経済学的研 究に取り組んだ。その功績から近代生命保険の父と言われている。

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との差別化にもつながると考えている。

なお,第一生命は子会社・関連会社に対してのみならず,アジアを中心と した諸外国の官民の生命保険事業関係者に対して既にノウハウ提供を行って おり,それらの国の保険思想の啓発・普及を図ることで当該地域における経 済発展や社会保障制度の充実に貢献している。具体的には,1970年国際保険 振興会(FALIA)を設立し,国内及び海外にて保険事業関係者を招いてセ ミナーを開催している(図表7参照)。

図表7にあるとおり,日本にて開催したセミナーの参加者は,2011年3月 時点で累計27カ国,3,260名となっており,多くの

FALIA

卒業生がそれぞ れの国の生命保険の普及を通じて自国の経済発展や社会保障制度の充実に寄 与している。

(図表7)アジアにおける生命保険事業発展への貢献:FALIA

 

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5.アジアの一般的な生命保険市場(商品・チャネル)

成長し,収益をあげるという 事業 の側面だけでなく, 生命保険 の 社会的意義を意識して保障性商品の普及に向けた取組をしたいと述べたが,

供給側が望んでも需要がなければ取組は実を結ばない。そこで,アジア諸国 の生命保険市場の一般的な状況を見てみたい。

図表8は,ベトナム,インド,タイ,中国の生命保険市場における商品や チャネルの構成を表している。

まず商品だが,どの国でも養老保険が半分以上を占めている。これ以外の 商品では,各国の株式市場等の発達状況に応じてユニットリンクといった投 資型商品が売れている等各国の特色が見られるが,いずれも貯蓄性商品が中 心である。

(図表8)アジアの生命保険市場の現状

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次にチャネルだが,どの国でも個人募集代理人が一定規模を有しているが,

タイ,中国では銀行を通じた保険販売の成長が著しい。貯蓄性商品は銀行に とって扱いやすい商品であり,貯蓄性商品が売れている市場では銀行が販売 チャネルとして力を発揮しやすいことが窺われる。なお,ベトナムはデータ が得られなかったが,銀行に対する信頼が低かった経緯もあり,銀行を通じ た販売は緒についたレベルではないかと思われる。

このように貯蓄性商品が中心となっている状況はアジアでは一般的であり,

保障性商品の普及が今すぐに進むという環境ではない。アジアは,保障性商 品が普及している日本とは異なる様相を呈しているが,振り返ってみると,

日本もかつては貯蓄性商品が中心であり,保障性商品の普及が進んだのは戦 後,高度経済成長が進む過程においてであった。

先ほど生命保険の社会的意義の中で,生命価値を脅かす 早期死亡 長 期労働不能 病気や怪我による一時的労働不能と医療費の支出 定年退 職 という4つのリスクに対処するのに生命保険が適しており,なかでも保 障性商品が有用であることに触れたが,こうしたリスクからいかなる方法で 家族を保護するかについては,社会的・文化的側面が影響すると考えている。

社会的・文化的に考えると,日本はアジアの一員であり,欧米社会との比 較感で言えば,家族に対する考え方や人と人との接し方等似通っている,あ るいは,共感できる部分はあるのではないか。そう考えると日本が辿ってき たように,アジア諸国においても経済成長が進む中で各世帯の所得が高まり,

守るべき生活レベルが高まってくれば,それを保障性商品で保護しようとす るニーズが何かしら出てくる可能性は十分にあるのではないか。

そこで次に,日本の辿ってきた道を振り返りつつアジアにおける保障性商 品の普及について検討したい。

6.日本における経済成長と生命保険市場の歴史をヒントに

図表9のグラフは,日本における一人あたり

GDP

と生命保険の保有契約 高が過去数十年に亘ってどのように推移してきたかを表している。また,一

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人あたり

GDPの折れ線グラフ上に,ベトナム,インド,中国,タイといっ

た比較的人口の多いアジアの主要国の2008年の一人あたり

GDP

の水準が,

日本の過去どの時点のものと同レベルかをプロットしたものである。

2.海外における生命保険事業の成長性 にて,一般的に一人あたり

GDP

が増加すると保険深度は高まる傾向があることを説明したが,ここに 示したアジアの国が日本のいつ頃のポジションにあるかイメージできると思 う。これらの国々が日本と全く同じ道を辿るというわけではないが,既に生 命保険市場の成長著しいいずれの国もまだ発展の緒についたばかりであり,

今後各国において一人あたり

GDP

が増加するにつれて市場の成長が見込ま れるということが直感できる。ただし,各国において保有契約高がどこまで 伸展するかはもう少し商品別の発展経緯を見ていく必要がある。

(図表9)日本における経済成長と生命保険市場の発展

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その話に移る前に,図表9の下段をご覧頂きたい。日本において生命保険 会社は,他の金融機関と比べて長期性資金を供給できるため,社会インフラ 整備にも貢献し,その公共性を発揮している。具体的には,戦後から1955年 頃にかけて電力・鉄鋼・石炭・海運といった基幹産業に長期設備資金を供給 し,日本の戦後経済復興の一翼を担った。その後は重化学工業等重要な産業 を支えてきたほか,住宅公団への資金供給を通して国民への住宅供給にも貢 献してきた。

生命保険事業をアジアに展開するということは,生命保険事業の発展だけ でなく,日本で実践してきたように進出した国における社会インフラ整備に も貢献できるのであり,この点でも単に 事業 として収益をあげるだけで はなく, 生命保険 としての社会的意義を意識して取り組みたいと考えて いる。

話を戻して,次に図表9でご覧頂いた保有契約高の推移の裏で実際に何が 起きていたのか,すなわち,日本の生命保険市場が辿ってきた発展経緯を見 ていきたい。図表10は,終戦後から最近に至るまで,保有契約高や一件あた り保険金額がどのように推移してきたか,そして,そのときにどういった商 品が主力商品として販売されてきたかを,第一生命の事例を基に示したもの である。

終戦直後から50年代までの間,日本でも現在のアジア諸国と同様,養老保 険が中心であり,貯蓄性商品で顧客の裾野を広げながら保有契約高を少しず つ増加していった。

その後,60年代から70年代前半にかけてこの養老保険に定期保険をセット して保障性を高めた商品が販売され,徐々に一件あたり保険金額は上昇した。

同時に保険に対する世帯加入率も上昇した。ここで注目すべきは,この段階 で早くも世帯加入率が9割を超えたという点である。

さらに70年代後半から90年代初めまでの間で,定期特約付養老保険から定 期特約付終身保険へと主力商品が推移し,低廉な保険料で高額な保障の提供 が行われるようになると保障の大型化が進んだ。保有契約高が大きく伸展し

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たのもこの時期だが,既に世帯加入率が9割を超えていたことを考えると,

一件あたり保険金額が大きく上昇することで保有契約高が増加したという構 造であったことが分かる。

このように日本の生命保険市場は,貯蓄性商品中心の市場から出発し,経 済成長の過程で段階的に保障性商品中心の市場へと発展していったと考える ことができる。現在,貯蓄性商品が中心となっているアジアの国においても,

経済が成長するとともに万が一の際に守るべき生活水準が向上し,保障性商 品のニーズが段階的に高まっていくと予想される。どこまで保障性商品が普 及するかは,その国の社会制度,国民性等に左右される部分が大きいと考え るが,その普及は段階的に進んでいくものと考えられる。

(図表10)商品展開の変遷(第一生命の例)

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7.まとめ

3.海外生命保険事業戦略の基本的な考え方 にて触れたとおり,海外 における生命保険事業展開においては,アジアの潜在的成長性と成熟市場の 収益性とのバランスを取りつつ,さらにアジアにおいてはその成長の加速を 図るべく日本の生命保険市場で培ってきたノウハウを活用して投資先企業の バリューアップを図ることが肝要である。

第一生命は,ベトナム,インド,タイといったアジア諸国の生命保険市場 の成長を享受すべく,同社のノウハウも活用しながら子会社・関連会社のバ リューアップを図っていく取組をしており,まずは進出国の実情,具体的に は貯蓄商品を中心とした展開を行い,地固め行っている。しかし,一方で 4.生命保険の社会的意義 や 6.日本における経済成長と生命保険市 場の歴史をヒントに で説明してきたようにアジアにおける保障性商品普及 の意義や日本の生命保険市場の拡大経緯を踏まえ,こうした国々においても 保障性商品普及に向けた取組を行う価値は十分にあると考えている。

しかしながらアジアへの事業展開を先行して取り組み,成功している欧米 生保は,この分野に本腰を入れて取り組んでいない。こうした地域の経済発 展段階がまだ保障性商品を必要とするレベルに達していないなかで,トップ ラインを確保すべく売りやすい貯蓄性商品を積極的に販売して市場を形成し た。現在のアジア諸国の市場における商品構成は,こうした供給サイドの事 情も要因として考えられるのではないか。アジアにおいて保障性商品の市場 はほとんど未開拓となっている。

日本における市場発展経緯を踏まえると,保障性商品の普及は,各国の経 済発展段階に合わせて段階的に進んでいく。ただし,その普及の裏側では営 業職員のようにニード販売を担えるチャネルの体制整備が進められていたこ とは忘れてはならない。 5.アジアの一般的な生命保険市場(商品・チャ ネル) で概観したように,アジア諸国の足元の状況から考えると,一足飛 びに保障性商品普及に取り組んでもよい結果は得られないが,アジアで一般

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的に主力チャネルとなっている個人募集代理人は,生命保険会社に雇用され ず,他の仕事をしながら保険を販売しているパートタイマーであるといった 違いはあるものの,お客さまと密着して保険を販売しているという点などそ の基本的属性については日本の営業職員と似通っており,保障性商品販売の 担い手となってくれる素地は十分にある。

図表11は第一生命のアジアにおける取組基本方針を示したものだが,当面 は進出した国における メインマーケット(顧客層) への 売れ筋商品 販売に力を入れつつ,その担い手となる個人募集代理人チャネルの販売力強 化に努める。それと同時に各国の発展段階を見極め,順次保障性を高めた商 品を投入し,他社に先んじて保障性商品市場に取り組むことで先行者メリッ トを享受しようとしている。

日本の生命保険会社は,日本において営業職員を通して保障性商品を供給 し,市場を拡大してきた経験を有している。第一生命も約4万名の営業職員 チャネルのマネジメント力と保障性商品の開発ノウハウに強みがある。各国 の状況に合わせつつ保障性商品普及を意識した取組を継続し,時機を逃さず こうした強みをアジアへの生命保険事業展開にも活用することで,各国の生

(図表11)第一生命の海外進出国(アジア)における取組基本方針

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命保険市場の発展と社会基盤整備に貢献することができる。そして,こうし た取組は同じくアジアに展開する欧米各社と差別化にもつながると考えてい る。

以上, アジアにおける生命保険事業展開 としておきながらほとんどが 第一生命の取組の説明となってしまったが,ひとつのケーススタディとして 捉えていただき,今後の皆様の研究に役立てていただければ幸いである。

(筆者は第一生命保険株式会社勤務) 参考 献

生命保険経済学 ソロモン・S・ヒューブナー著 小林惟司訳 慶應通信

参照

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