Form J (F→O) 提出日Submission Date: 2012 / 11 / 21
博士学位論文審査報告書
Summary of Doctoral Thesis and Report of Examination
研究科長 殿
下記のとおり、審査結果を報告します。
To the Dean:
We report the result of Examination for the Doctoral Thesis below.
学籍番号 Student I.D. No.: 4004 S 023 - 8 学生氏名 Name: 真喜屋 美樹
和文題名Title in Japanese: 沖縄における軍事基地の民生転換と内発的都市計画形成の可能性
英文題名 Title in English: Strategic Conversion of Military Areas and Facilities to Civilian Use for Endogenous Urban Renaissance in Okinawa
記
1. 口述試験参加教員 Faculty Members Involved in Oral Examination
①審査委員会主査 Chief Referee of the Screening Committee
氏名 Name: 山岡 道男 印
所属 Affiliated Institution: 早稲田大学アジア太平洋研究科
資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
博士(学術) 早稲田大学
②副査(審査委員1)Deputy Advisor (Member of Screening Committee 1)
氏名 Name: 原 剛 印
所属 Affiliated Institution:
資格 Status: 早稲田大学名誉教授 博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
農業経済学博士 東京農業大学
③審査委員2 Member of Screening Committee 2
氏名 Name: 西川 潤 印
所属 Affiliated Institution:
資格 Status: 早稲田大学名誉教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
博士(学術) 早稲田大学
④審査委員3 Member of Screening Committee 3
氏名 Name: 江上 能義 印
所属 Affiliated Institution: 早稲田大学政治経済学術院
資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
政治学修士 早稲田大学
⑤審査委員4[該当者のみ]Member of Screening Committee 4 [if any]
氏名 Name: 印
所属 Affiliated Institution:
資格 Status:
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
2. 開催日時 Date / Time: (Y)2012 /(M) 11 /(D) 21 (Time) 3時限P e r i o d
~ 4時限P e r i o d
[時限 / Period] 1st: 9:00-10:30, 2nd: 10:40-12:10, 3rd: 13:00-14:30, 4th: 14:45-16:15, 5th: 16:30-18:00, 6th: 18:15-19:45, 7th: 20:00-21:30
3. 会場 Venue: 19-712教室
博士論文審査報告書
申請者 真喜屋 美樹
論文名 沖縄における軍事基地の民生転換と内発的都市計画形成の可能性
The Civil Conversion of Military Areas/Facilities in Okinawa:
Toward an Endogenous Urban Renaissance
I 論文概要
1
本論文は、内発的発展論やサステイナブル・シティの理論的・概念的枠組み に依拠して、沖縄の米軍基地跡地利用問題や地域振興政策を総体的に把握・考 察した、斬新さと独自性に富んだ論文である。
まず、サステイナブル・シティを実現している海外の軍事基地跡地の事例と して、環境保全による都市再生を目指したアメリカのプレシディオ地区と、住 民自冶により都市再生を目指したドイツのヴォバーン地区の
2
つを先行事例と して取り上げて考察し、跡地利用に関わるアクターがどのように機能してまち づくりを行ったかを明らかにした。次に、沖縄問題の中核をなす米軍占領下の軍用地問題に焦点を当て、軍用地 の生成過程や現状を検討すると同時に、民生転換に関する行政府によるマクロ プランの変遷に関して、一次資料を用いて詳細に検討し、跡地利用の推進と跡 地での内発的都市計画の形成を阻害する要因について検証した。
最後に、沖縄県における米軍基地の跡地利用の事例として、外来型開発であ る成長・開発優先の事例として那覇市と北谷町を、また農業型開発である内発 的都市計画形成の事例として読谷村を取り上げ、この都市圏にある両者の開発 方式を比較検討した結果、後者の事例のなかに、都市再生に向けて、内発的発 展による跡地利用が、環境・経済・社会的な持続可能性を統合するサステイナ ブル・シティとなる可能性を明らかにした。この読谷村の事例研究に基づいて、
普天間飛行場返還後の跡地利用に関して、内発的なサステイナブル・シティ形 成の可能性を検証した。
2 まず、真喜屋美樹論文の構成を示しておく。
序章
第
1
章 都市再生と環境再生による海外軍事基地の民生転換 第2
章 内発的発展を阻害する収奪の構造第
3
章 沖縄県の基地行政と跡地利用推進の阻害要因第
4
章 沖縄初の基地跡地利用の総合計画「国際都市形成構想」と基地返還 アクション・プログラム第
5
章 米軍基地の跡地利用開発の検証第
6
章 返還軍用地の内発的利用:持続可能な発展に向けての展望 第7
章 内発的都市計画形成の可能性に向けて終章
3
以上が、真喜屋美樹論文の構成であるが、以下に、各章ごとの概要を紹介す る。
序章では、拙論で取り組む問題の背景と目的、及び本論の構成を述べ、その 後に、理論的概念的枠組みと先行研究の整理から、既存研究の課題を検討した。
次に、本論文の重要な枠組みとなる内発的発展論とサステイナブル・シティに 関して解説し、まず、内発的発展論が、沖縄の基地跡地利用とどのように関わ ってきたかの先行研究を整理し、そのうえで、持続可能な都市・地域としてヨ ーロッパを中心に取り組みが広がっているサステイナブル・シティについて、
その概念が登場した背景や現在進められている具体的な展開を述べた。その後、
サステイナブル・シティの概念が、沖縄の米軍基地の跡地利用における内発的 都市計画形成にどのような示唆を与えるかを考察した。
第
1
章では、サステイナブル・シティの取組みが、荒廃した都市や環境を再 生するために活かされた海外の具体的な事例として、環境首都として知られる ドイツの仏軍跡地・ヴォバーンと、アメリカの米軍基地跡地・プレシディオを 取り上げ、持続可能な地域再生のために、住民参加がどのように機能したかを 実証的に検証した。その結果をもとに、沖縄への適用の可能性を検討した。ヴォバーンとプレシディオに共通していたのは、都市における自治と
NPO
の 強さであり、これらの地域では、平和・環境・社会公正を求める市民運動が、そのまま跡地利用のオルタナティブを提示する運動につながっていたのに対し て、沖縄全体では、基地返還運動と跡地利用にオルタナティブなビジョンを提 示する活動とはリンクしていなかったために、ヴォバーンやプレシディオの経
験は、沖縄にすべて適用できるわけではないが、どのように住民参加を促すべ きかの仕組みづくりへの示唆を与えた
第
2
章は、戦後の沖縄の軍事基地がどのように形成され、どのように拡大し てきたかを、歴史的に検証した。このことから、基地問題の根源である軍用地 に焦点を当て、戦中期から、沖縄県が初めて作成した基地跡地利用を主とする 沖縄の将来像であった国際都市形成構想が登場するまでの期間にわたり、日米 の対沖縄戦略を軸にして、沖縄が置かれてきた状況を考察した。第
3
章は、沖縄県がどのように基地の跡地利用に取り組んできたかについて 整理した。沖縄県が行政として、基地や基地跡地を将来のマクロプランのなか でどう扱ってきたか、または扱ってこなかったかを検証した。米軍統治下にあ った復帰以前は、米軍に従属する機関であった琉球政府は、基地返還後の県土 の総合計画を立てることはなかった。その後は、基地返還の取組みはあったも のの、跡地をどのように再開発するかのマクロプランは、1996
年に、基地返還 アクション・プログラムを提案する国際都市形成構想の登場まで作成されなか った。それまで沖縄県の地域開発計画は、基地を除いた部分で策定されたもの であった。また、基地が返還された後も、日米両国政府の軍事的政治的要因と、跡地利用推進政策の未整備という構造的な要因によって、沖縄県独自の努力に よる跡地利用の推進は困難な状況にあることを明らかにした。
第
4
章では、それまで沖縄にはなかった革命的ともいえる取組みであった、①沖縄発の基地跡地利用の総合計画であった国際都市形成構想と、②基地の全 面返還のための行動計画である基地返還アクション・プログラムを検証した。
これらは、革新を支持基盤とする大田県政が、基地の「即時・無条件・全面返 還」という大前提を取り払い、より現実的に計画的・段階的に基地の返還を実 行するアクションプランを提示したことにより、返還までの間、基地との共存 を認め、一時的にせよ日米安保を肯定するものであった。
また、基地返還アクション・プログラムの実行を前提とする国際都市形成構 想は、沖縄県が基地のない沖縄の将来像をどのように描いているかを、初めて 提示した。同構想の検証は、中央からの自立を目的として国際都市形成構想を 掲げた沖縄県が、跡地を利用してどのように自立を図ろうとしているかの分析 に有効であった。国際都市形成構想は、全県
FTZ
構想という典型的な外来型開 発によって自立しようとするものであり、沖縄振興開発計画と沖縄振興計画、その他基地の維持・提供とリンクする財政投与によって歪められた経済社会か らの脱却を目指すものであったが、その方策として、外来型開発に依存したと
ころに限界があったことを論述した。
第
5
章では、沖縄本島中南部の都市圏で行われた2
つの跡地利用の事例(那 覇市の新都心地区と、北谷町の美浜アメリカンビレッジ地区)を批判的に検証 した。この2
箇所は、人口と産業が集中する中南部都市圏にあり、都市部の大 規模な跡地利用のモデルケースとなるものとして注目された。両地区の再開発 後の経済波及効果は、基地返還前とは比較にならないほど大きなものであり、基地を返還させることは沖縄の経済的自立の面からも重要であることを示した。
那覇新都心では、地権者と地域整備公団という企業が開発の主要なアクター として参入したことで、跡地利用の基本方向が変更された。広大な土地を短期 間で開発するには、莫大な予算を必要し、財政基盤の脆弱な那覇市に課せられ る行財政負担は甚大であることが明らかとなり、このことから、都市部の広大 な跡地で地域再生のためのまちづくりを推進するには、跡地利用推進のための 施策の整備が不可欠であることを指摘した。
他方、北谷町で行われた商業型開発は、行政と地権者の協働で進められ、合 意形成、都市整備、供用開始を比較的早期に達成することができたが、しかし、
新都心が開発終了後には客足を奪われた。ここでは、経済波及効果のみならず、
このような開発のもう
1
つの帰結の検証は、今後の跡地利用を進める上で検討 されるべき重要な側面であることを指摘した。第
6
章では、農業型の跡地利用が行われた読谷村の事例を、都市型・商業型 の跡地利用と対比して検証した。読谷村は、内発的な村づくりを実践する地域 として知られている。環境的・経済的・社会的持続可能性を統合的に実現しよ うとする現在のサステイナブル・シティの成功や限界を、読谷村が内発的発展 を実現してきたことから抽出される要因とともに考察した。読谷補助飛行場跡地は、農地として利用する農業型開発を行った。読谷村の リーダーとしての村長は、村の基幹産業は農業であるという明確な認識を持っ て村民と行政の協働による農業型開発を推進した。跡地を農業振興地域として 村の農業発展を促進する計画は、住民参加型の第一次産業による持続可能な発 展につながった。このような村の持続可能な発展を着実に推進したのは、自治・
環境・平和・福祉・共生を重視する内発的発展であったことを明らかにした。
第
7
章では、第5
章と第6
章で検討したように、基地跡地での外来型開発の 例として那覇市と北谷町を捉え、これに対置する内発的発展による跡地利用を 行った例を読谷村と位置づけ、これらの地域で行われた跡地利用の検証の結果 から、内発的都市計画形成はサステイナブル・シティとなり得ると結論し、今後の沖縄における基地跡地利用において、これらの経験をどのように活かすこ とができるかを、普天間飛行場の返還を見越して始まっている住民参加の仕組 みづくりに着目して、その可能性を分析した。
普天間飛行場は、新都心型開発が行われた那覇新都心や農業型開発が行われ た読谷補助飛行場跡地の2倍以上という広大な面積を有する。普天間飛行場が 所在する宜野湾市では、従来の跡地利用開発の問題点の克服を目指し、跡地利 用を円滑にすすめるための新しい仕組みづくりを試みている。それらは、地権 者の子息たちで構成する若手の会を行政主導で組織したり、跡地利用計画の策 定に地権者以外の市民が参加できるといった仕組みを作ったりしたことである。
これらの方策は、従来の跡地利用開発の反省を踏まえて、サステイナブル・シ ティ形成に向けて始まった取組みと言える。
終章では、序章と第
1
章の議論の枠組みにより、第2
章から第7
章まで検討 してきた軍事基地の民生転換と内発的都市計画形成の可能性について総括した。そこでは、基地跡地利用を内発的発展の見地から捉え直し、内発的都市計画形 成は持続可能な地域再生へと結びつくことを論じた
II
本論文に対する評価本論文は、内発的発展論という社会発展・変化の分析概念とツールを用いて、
沖縄における軍事基地の民生転換について、今日までに返還された軍事基地の 跡地利用が、必ずしも県全体の自立的発展につながっていないことを示し、跡 地利用を、環境保全に配慮した持続可能な発展と、住民参加型の内発的発展に 結び付けていく方策を議論している。
21
世紀に入って、過去の中央政府からの 資金投入に依存したような経済成長・開発は、明らかに曲がり角に立たされて いるが、このような時点にたって、沖縄の自立的発展を可能とするような方向 へ向けての返還基地の跡地利用構想を、具体的な事例の検証を通じて示したこ とは、沖縄県の当面する問題についての議論に新鮮な問題提起を行った力作で ある。また、沖縄の開発・発展方策についての新しい視点を示したばかりでなく、
内発的発展論についても、過去
20
年間の地方分権・地方主権時代の進展を踏ま えて、従来中央主導型の開発体制の下で進められてきた地域開発政策に対する 代替案として、新しい時代を担う発展方策があることを示すことで、内発的発 展論を前進させている。この論証は沖縄を材料として行われており、次の
3
点の特徴を見出している。①住民参加型の発展であり、グローバリゼーション期に損なわれがちな民主主 義をすすめる発展手段である。②環境に配慮した発展方策であり、国際連合の 場で世界的にすすめられている持続可能な発展と整合的である。③文化と伝統 を重視することから、地域個性の発揮、住民主導の発展を導き得る発展理論・政 策である。
本論文はまた、沖縄県における今日までの主要な基地返還の跡地利用の形態 を厳密に検証し、そこでの問題点を洗い出し、今日までの基地跡利用が必ずし も、県全体の自立経済発展と結びついていない問題点を指摘している。これは 基地返還運動についても言えることで、基地返還運動が、必ずしも沖縄経済の 自立的発展を視野に入れていなかったために、本土依存を繰り返してきた弱さ を明らかにしている。基地の跡地利用が地域発展と結び付くためには、住民参 加や、行政・地権者・
NPO
・地域住民の協働と言った「新しい公共」形成が不 可欠であるとする本論文のメッセージは、これまで跡地利用が前二者(行政と 地権者)の裁量に委ねがちであった沖縄の返還基地利用の流れに一石を投じる ものと言える。さらに、沖縄の軍事基地返還や跡地利用のまとまった分析はこ れまでほとんど行われてこなかったので、跡地利用の問題を実証的に調べ、そ れを世界的な軍事基地の跡地利用の視点のなかに位置づけた本論文は、今後沖 縄で軍事基地返還と跡地利用を議論する際に、必ず参照される基本文献となる と考えられる。以上により、本論文の意義は、高く評価できると考えられる。た だ し 、 審 査 過 程 で 次 の よ う な 問 題 点 、 ま た は 改 善 点 も 指 摘 さ れ た 。 1つには、内発的発展の理解がやや固定的で、国際都市形成構想にしても、沖
縄のコンテキストのなかで、本土からの自立の一歩としての側面が十分評価さ れず、自由貿易=外来型開発と捉え得るのでは沖縄県民の選択がせばまるので はないか、という点である。この点では、国際都市形成構想の生成過程を関係 者のインタビューを含めて、更に検証する必要が示唆された。
他方では、読谷村では農村としての内発的発展が関係者の合意によって成立 し得たが、普天間のような都市地域で同様の内発的発展が実現可能か、という 点である。北谷町の場合も、アメリカンビレッジのような商業地区はおもろ町 との競合で苦しいが、フィッシャリーナのような一次産業と結び付けた港湾開 発、さらに将来の交通インフラ整備の可能性を考えれば失敗と速断できないの ではないか。この町の人口は最近
20
年間に4
割近く増えている。ここでもせっ かく現場をよく調べているので、内発的発展について、より柔軟な考え方がと られてよいのではないか、という議論がなされた。また、構成面で、第2
章が、他章の
1.5
倍の長さとなっており、二次文献中心で重くなっている。ここは、他 章並みの長さに短縮したほうが読みやすくなる、との指摘もあった。以上のような改善点の議論はあったが、本論文の学術的貢献から見ると、そ
の意義は高く評価できることで、審査員の意見は一致した。
III
結論我々博士論文審査委員会は、
2012
年11
月21
日に真喜屋美樹に対して面接試 験を実施した。その結果、真喜屋美樹の論文に対して、博士論文にふさわし いものと全員が判断し、同論文を博士論文に値するものと認定した。博士学位申請論文審査委員会
主査 早稲田大学アジア太平洋研究科教授 学術博士(早稲田大学) 山岡道男 副査 早稲田大学アジア太平洋研究科名誉教授 農業経済学博士(東京農業大学)原 剛 副査 早稲田大学アジア太平洋研究科名誉教授 学術博士(早稲田大学) 西川 潤 副査 早稲田大学政治経済学術院教授 江上能義