• 検索結果がありません。

学位論文審査要旨(課程博士)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "学位論文審査要旨(課程博士)"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【学位論文審査の要旨】

(2)

1

東京都立大学大学院 人文科学研究科 社会行動学専攻 社会福祉学分野

学位論文審査要旨(課程博士)

論文提出者: 千葉 寿夫 (チバ ヒサオ)

論文題目:

タイとフィリピンにおける障害者運動の発展過程の比較研究

― 国際障害者福祉と国際協力実践の視点から

学位の種類 博士(社会福祉学)

課程・論文の別 課程博士

審査委員

主査:東京都立大学 教授 杉野昭博

副査:東京都立大学 教授 矢嶋里絵

副査:東京都立大学 教授 堀江孝司

(3)

2 1.論文の課題と意義

本研究は、論文提出者自身が2000年代にタイを中心におこなった障害者運動の政策参加 のための国際協力実践が、他の途上国でも同じような効果をあげられるのか、そのためには 国情の違いなどにどのように対応すればよいのかという国際協力実践家としての初発の問 題意識に根差している。この課題にこたえるために本論文では、途上国の障害者運動史を比 較できる分析視角を作成し、これをもとに各途上国の障害者運動に対する国際協力の課題 を抽出できる実践的なチェック項目(アセスメントツール)を作成することを目的とした。

障害者運動史の研究は米英日で一定の蓄積はあるものの、記述的な研究が多く、理論的な研 究や国際比較研究は少なく、途上国の障害者運動となると記述的な研究自体も貴重である。

そうしたなかで本論文では、先進国の障害者運動史研究から比較分析視角を理論的に抽出 し、タイとフィリピンの先行研究と独自調査による情報を用いて比較分析を行ない、障害者 運動の比較分析視角試案を提案している。この比較分析視角の有効性は今後の検証を待た なければならないが、障害者運動史の比較研究がほとんど存在しない現状においては比較 分析視角を提案したこと自体に一定の学術的意義が認められる。さらに本論文は、この比較 分析視角を利用して障害者権利条約下での途上国への国際協力実践において国ごとの重点 課題を簡便に見つけ出すアセスメントツールを独自に開発した。アセスメントツールの開 発は、ソーシャルワーク実践研究においては豊富に存在し、その方法も確立されているが、

国際協力実践といった開発ワークがソーシャルワークに含まれるようになったのは近年の ことであり、この分野の実践や研究はまだ非常に少なく、その点では本論文は先駆的な実践 研究としての意義がある。

2.論文の構成

第1章 研究目的と意義とその背景

1.1開発途上国の障害者運動の発展過程を研究する意義〜障害者福祉研究として 1.2障害者福祉の発展における障害者運動の役割~日米英を事例として

1.3障害者権利条約がもたらした国際障害者福祉の展開

1.3.1 国際連合における障害の政治~権利条約成立までの道

1.3.2 国際障害者団体の国連への参加 ~DPIの事例を中心に

1.3.3 権利条約の成立と意義 ~ 当事者参加と監視

1.4 途上国の障害者運動の概要

1.5 本研究の目的と方法~国際協力のための途上国の障害者運動の比較研究

(4)

3 第2章 障害者運動の分析視角

2.1 障害者運動史の先行研究

2.2 価値形成に着目した田中の日英障害者運動の分析視角

2.3 BARNARTT & SCOTCHの社会運動理論による米国の障害者運動の分析視角

2.4 田中とBARNARTT & SCOTCHの分析視角を用いたタイとフィリピンの障害者運動

の分析視角

第3章 タイの障害者政策の現状と障害者運動の発展過程 3.1 タイ王国の社会福祉の歴史と現状

3.2 タイの障害者の概況と障害者政策 3.3 タイ障害者運動の発展過程

3.3.1 障害者運動の形成期(1980年まで)

3.3.2 障害者運動の誕生とリハビリテーション法の成立(1981年〜1990年代)

3.3.3 障害者運動の発展とエンパワメント法の成立(2000年代)

3.3.4国際協力によるタイ自立生活センターの設立とバリアフリー運動

第4章 フィリピンの障害者政策の現状と障害者運動の発展過程

4.1 フィリピンの社会福祉の歴史と現状

4.2 フィリピンの障害者の概況と障害者政策 4.3 フィリピンの障害者運動の発展過程

4.3.1 障害者運動の形成期(1980年まで)

4.3.2 障害者運動の誕生と障害者のマグナカルタの成立(1980年代)

4.3.3 障害者運動の発展(1980年代後半〜2000年代)

4.3.4 主要な障害者団体の誕生と発展

第5章 タイとフィリピンの障害者運動の比較分析と途上国の障害者運動の分析試案 5.1 田中の分析視角からの比較―障害概念の価値形成

5.1.1 タイとフィリピンにおける障害概念の転換

5.1.2 タイとフィリピンにおける当事者性概念の発展

5.1.3 タイとフィリピンにおける異化と統合

5.2 BARNARTT & SCOTCHの分析視角からの比較―障害者運動の発生と発展要因

5.2.1障害者運動を形成する促進要因

5.2.2 集団的意識の形成

5.2.3障害者運動を可能にした社会構造要因

5.3 タイとフィリピンの障害者運動の特徴―運動の促進要因と阻害要因

5.4 途上国の障害者運動の発展と政策形成への影響を分析する視角試案

(5)

4

5.4.1 Barnartt & Scotchの分析視角をもとにした途上国の障害者運動の分析視角の検討

5.4.2 田中の分析視角をもとにした途上国の障害者運動の分析視角の検討

5.4.3途上国の障害者運動の発展と政策形成への影響を分析する視角の試案

第6章 途上国の障害者運動支援のためのアセスメントツールの開発

6.1途上国の障害者運動の発展と政策形成への影響を分析する視角試案の 4か国(インド、

南アフリカ、ケニア、セネガル)での検証

6.1.1 インドの障害者運動の分析

6.1.2 アフリカ障害者の10年とアフリカ諸国の障害者運動の分析

6.2途上国の障害者運動の発展と政策形成への影響を分析する視角試案を用いた6カ国の障 害者運動のアセスメントとアセスメントツールの提案

6.2.1 途上国の障害者運動の発展と政策形成への影響を分析する視角試案を用いた6カ国

の障害者運動のアセスメント

6.2.2 国際協力における障害者運動の発展と政策形成への参加を促進するためのアセスメ

ントツールの提案

6.2.3 障害者権利条約のもとでの国際協力実践者によるアセスメントから支援計画の策定

例:連合体が存在しない、もしくは機能していない場合の支援計画

第7章 結論と課題 7.1 本研究の結論

7.2 本研究の限界と課題

3.論文の要旨

1章「研究目的と意義とその背景」では、本研究の背景として、先進諸国の障害者福祉政 策に障害者運動が強い影響を与えてきたこと、国連における障害者権利条約の策定過程で も国際的な障害者団体が強い影響力を発揮してきたこと、さらに障害者の参加を確保した 上で権利条約の実施の監視体制が途上国も含めて構築されていることなどを述べている。

また障害者権利条約の下では、途上国も先進国も条約が求める方向で障害者政策を実施し、

定期的な報告と監視の義務を負うという点で、各国の障害者政策が収斂していく傾向にあ るという国際障害者福祉の状況下において、障害者運動の国際比較がとくに重要になるこ とが述べられる。そのうえで、本研究の目的として、途上国の障害者運動の発展過程の比較 が可能な分析枠組みを、理論と実証に基づいて構築することと、さらにこれを踏まえて、国 際協力において「障害者運動の発展と政策形成への参加を促進するために必要な支援のた めのアセスメントツール」を開発することが述べられている。

(6)

5 2章「障害者運動の分析視角」では、先進国の障害者運動史の先行研究を振り返り、途上 国の運動を比較分析するために、田中耕一郎(2005)とBarnartt & Scotch(2001)の分析 視角を採用した理由が述べられる。田中(2005)は、1960年代から1990年代の日英の障害者 運動を「価値形成」という視点から比較分析しており、数少ない障害者運動史の比較研究で ある。一方、Barnartt & Scotch(2001)は、社会運動理論を用いて、1970年から1997年 までのアメリカの障害者の抗議活動の分析を試みている。本章では、田中(2005)とBarnartt

& Scotch(2001)を詳細に検討したうえで、途上国の障害者運動の発展過程を比較するため

の分析項目をそれぞれ抽出して整理した。

3章「タイの障害者政策の現状と障害者運動の発展過程」では、まずタイ王国を紹介し、

社会福祉に関する歴史と現状を振り返る。タイ障害者の概況を国連データに基づき紹介し、

障害者政策と担当省庁の現状を記載する。次いで障害者政策の発展、障害者権利委員会の総 括所見を記載する。これらの基本情報を踏まえたうえで、主として西澤(2011)や吉村(2009、

2012)の先行研究を独自調査で補いながら、タイ障害者運動の発展過程を1960年代から2000

年代まで記述し、タイ障害者協会(CDPT)が障害者の政策参加に大きな役割を果たしたこと を記す。

4章「フィリピンの障害者政策の現状と障害者運動の発展過程」では、3章と同様にフィ リピンの障害者政策に関する基本情報を記したうえで、主として Medina (1995)と The Danish Council of Organizations of Disabled People(2001)などの先行研究を独自の調 査で補いながら、フィリピン障害者運動の発展過程を1950年代から2000年代まで記述し、

障害者を統括する連合体の活動が継続していないことを示している。

5章「タイとフィリピンの障害者運動の比較分析と途上国の障害者運動の分析視角試案」

では、2章で整理した田中(2005)とBarnartt & Scotch(2001)の分析視角を用い、タイ とフィリピンの障害者運動の価値形成と運動の発生と発展要因について比較分析を行う。

さらにこの結果を踏まえて、田中(2005)とBarnartt & Scotch(2001)の分析項目を統合 し、途上国の比較分析に適したものに修正して、途上国の障害者運動の発展と政策形成への 影響を分析する視角試案を作成する。

6章「途上国の障害者運動支援のためのアセスメントツールの開発」では、5章で作成し た途上国の障害者運動の比較分析視角の試案が、他の途上国であるインド、南アフリカ、ケ ニア、セネガルの障害者運動にも応用可能なのか検証した。そのうえで、タイとフィリピン を含めた6カ国の障害者運動を比較して、各国の運動の促進要因や阻害要因など、その特徴 や課題を「6カ国のアセスメント結果」としてまとめた。このアセスメント結果を踏まえて、

国際協力実践における短期中期の介入を前提に、5章で作成した分析視角試案の項目をさ らに整理検討して実践家が使いやすいように改善した「国際協力実践における障害者運動 のアセスメントツール」を作成した。最後にアセスメントツールの利用事例として「障害者 団体を統括する連合体が存在しないか、機能していない場合」における支援計画の策定例を 示した。

(7)

6 7章「結論と課題」では、本論文の趣旨をまとめた上で、限界と課題を示した。本研究で 開発した比較分析視角とアセスメントツールは、おおむね2010年以前の6か国のデータに よって作成されたものであり、今後、最新のデータや、他の途上国の情報に適用する中で改 善されていくべきものである。そのためには、今後はこの比較分析視角とアセスメントツー ルの普及を図る必要がある。

4.審査結果

本論文の審査にあたっては、比較分析視角のもとになった、田中(2005)とBarnartt &

Scotch(2001)の理論的整合性をどう処理すべきかという懸念が指摘された。いわば田中 の価値形成比較は社会運動理論で言えばアイデンティティの政治に基づく「新しい社会運 動論」であるのに対して、Barnartt & Scotchは、集合行動論と資源動員論を援用したもの で、両者の理論的齟齬は、社会運動を運動主体の視点でとらえるか客観的な社会現象として とらえるのかという基本的視角の違いにもつながるという指摘があった。このことは、さら に途上国へと対象を拡大した時に、途上国における障害者運動支援とは、障害者が内発的に 運動を起こすことを支援することだとしても、一人ひとりの障害者自身をエンパワメント することなのか、障害者政策を発展させる手段として障害者運動を作り出すのかという支 援のスタンスの根本的な違いにも関連するという指摘もあった。また、途上国の障害者運動 を組織化し発展させて障害者制度を整備したところで、法律の実効性をどのように担保す るのか、途上国に限ったことではないが、とくに途上国では法律が効力を発揮しないことが 多いが、このアセスメントツールでは法律の実効性は評価できないという指摘もあった。ま た、2020年9月1日13時30分からオンラインで実施された公開審査会では、途上国のデ ータに関する詳細な質疑応答に加えて、先進国の障害者運動理論によって途上国の運動を 評価し、それに基づいた支援をおこなうのは、あまりに先進国に偏った見方になるのではな いかといった危惧が述べられた。これらの指摘や論点は、本論文の内容にとどまらず、日本 の国際協力政策そのものの課題や、社会福祉学における国際比較研究や途上国研究の課題 を改めて確認する機会ともなった。

これらの指摘や論点に対して論文提出者は誠実に過不足なく答えており、必要な訂正や 追加をおこない、その対応能力の高さを示している。また、本論文では、理論的に齟齬のあ る二つの分析視角を、実証データと照らし合わせながら論理的に統合するなど、高い論理的 能力を示すとともに、途上国研究の専門家からのデータをめぐる詳細な質問にも的確に応 答して、途上国の状況について表層的な理解にとどまらない知識を有していることを示し た。

以上のような評価に基づき、審査委員一同、千葉寿夫に博士(社会福祉学)の学位を授与 することが適切だと判断した。

参照

関連したドキュメント

合に、触法精神障害者家族に対する〈当事者〉性の付与と引き受けがどのような心理的・

(3)安全保障を地方自治体の視点で捉える問題視角の展開 (4)ガバナンス理論の動向と本稿におけるガバナンスの定義 第3節 研究対象の位置付け

「顧客の意見を収集、製品・サービスへ反映させる仕組み」と解釈された。両者の解釈の

本研究は、質的研究デザインであった。研究対象は、38 名(独居者 16 名、家族と同居者 22 名)であり、半構造化面接にてローデータを得たのち、データ分析方法として Miles,

論文題名 Development of a Resilience in Daily Activities Scale (RSAS) of Mothers of Children with Autistic Spectrum

前章で導出された靴下設計指針の妥当性を検証している。まず、歩行能力テストの結果を主成 分分析した結果、主成分 1

平均分子量の異なる Polyethylene glycol(PEG)混合試料の TOF-SIMS データを対象に、MCR

たとえ多変量解析を有効に応用してもスペクトルの解釈および分布評価は難しい。そこで、評価試 料の TOF-SIMS