• 検索結果がありません。

学位論文審査要旨(課程博士)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "学位論文審査要旨(課程博士)"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

学位論文審査要旨(課程博士)

論文提出者:

櫻井 真一 (さくらい しんいち)

論文題目:

エンパワメントに基づく路上生活者支援に関する研究

-自立支援センターPの実践を手がかりに-

論文審査委員:

主査 人文科学研究科 教授 和気純子 副査 人文科学研究科 教授 阿部 副査 明治大学公共政策大学院 教授 岡部

(2)

博士論文審査要旨

論文提出者: 櫻井 真一

論文題名: エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援に関する研究 -センターPの実践を手がかりに-

論文審査委員: 主査 教授 和気純子 副査 教授 阿部

副査 教授 岡部 (明治大学公共政策大学院)

Ⅰ.論文要旨 1.問題関心

ソーシャルワークの発展の系譜を貧困・低所得者に対する支援という点から振り返ると、

ソーシャルワークは貧困・低所得という問題を抱える当事者や貧困問題を生み出す社会に 対し、どのように対処するのかという問いに応答する中で、その理論やアプローチを発展さ せきたと言える。しかしその発展の過程において、ソーシャルワークは広く多様な生活問題 を体現する当事者に対する支援策として社会に一般化されるに従い、貧困・低所得者を対象 としたソーシャルワーク支援に対する関心がフィールドや研究領域で低下している。

その中で、近年の社会、経済状況を反映し、貧困・低所得者を対象とした支援のあり方に ついて再び注目されつつある。しかし、現状における貧困や低所得者問題に関する研究は、

貧困・低所得者問題の実証的分析あるいは制度・政策の検討という問題論や政策論からの捉 え方が中心であり、貧困・低所得の状況となった当事者に対する支援そのものをソーシャル ワークの視点から検証するという取り組みは必ずしも十分とは言えない状況にある。

特に、本研究で着目した路上生活者は、社会の辺境に置かれ、搾取、排除の典型として位 置付けられる存在であり、ソーシャルワークが真に向き合わなければならない対象に属す る人たちである。

これらを踏まえ本研究は、「ホームレス状態」に置かれている人たちを対象とした支援が、

どのように実施されているのかをソーシャルワークの視点から検証するものである。

2.研究目的

上記問題関心を踏まえ、本研究の研究目的は、路上生活者に対する今後の支援のあり方 として差異と多様性、個別性に依拠するソーシャルワークが求められていること、特にエン パワメントの視点に基づく支援の有用性を明らかにすることである。なお、この点を解明す るため路上生活者の支援の場として自立センター(以下、センター)を素材に検討する。

3.研究の視点

本研究は、路上生活者の支援についてソーシャルワークにおけるエンパワメントの視点

(3)

から検証を試みる。なお、本研究では、エンパワメントの視点に基づく研究の必要性を以下 4点から指摘する。

1に、路上生活者は、「住居がない」ということにとどまらず、これまでの人生におけ る様々なステージにおいて、パワーレスの状態に置かれている。また、社会から差別・偏見・

排除の対象として弱い状態に置かれた存在としてもとらえられる。

2 に、従来の路上生活者に対する支援アプローチは、路上生活に至った原因を本人の 属性に見出しその課題解決を目指すいわゆる医学モデルに基づくアプローチが主であった。

しかし、医学モデルではパワーレスの要因に対し個人に着目しとらえるものであり、環境並 びに個人と環境との間の関係性が及ぼす影響というパワーレスの要因を捉えていない。

3 に、支援プロセスの現状を見ると、アセスメントがサービス利用者の生活全体を把 握し有効な支援策を見出す過程ではなく、あらかじめ設定された支援の利用条件の適否を スクリーニングすることが目的化している実態がある。

4 に、路上生活者の支援を捉え直すためには、生活全体を捉える視点並びにパワーレ スの状態からの回復という視点が必要である。

4.研究課題

本研究は、「センターは就労支援に特化された施設であるにも関わらず、なぜ就労自立率 が低いのか」(以下、研究課題Ⅰ)「なぜ、センターのスキームにより就労自立を果たすこ とができたのか」(以下、研究課題Ⅱ)という2つの研究課題を設定している。

<研究課題Ⅰ>

エンパワメントの視点に基づく支援を論じるにあたり、センターの支援枠組みの中にパ ワーレスの構造が存在することを、以下の2点による検証から試みている。

1 に、センターはどのような人が利用し、どのような支援が実施されているのかであ る。ここでは、特に、アセスメントの実施体制の実態調査、入退所実績の分析により、セン ターの支援を通して「自立困難」層がどのように生み出されるのか、その実態を把握した。

2に、「自立困難」層は、センター退所後にどのような経路をたどるのか、である。本 研究では、センターの再利用者に着目し、センターの再利用の目的は「再チャレンジの機会」

なのか「一時的な生活の場の確保」なのかという枠組みに基づき、それぞれがたどった経路 を検証した。また、再利用を繰り返すことに伴う支援上の影響についても検証している。

<研究課題Ⅱ>

エンパワメントの視点に基づく支援が求められる理由を明らかにするため、センターが3

~5割という就労自立率を維持しながら事業運営を行っているという側面に注目し、その数 値となるのかその背景を検証した。ここでは、センターにおいて就労自立という事業目的を 達成した事例に着目し、元利用者及び彼らの支援を担当した職員に対するインタビューを 実施した。インタビューによる元利用者並びに職員の「語り」から、元利用者の中に生じた 生活や物事に対する肯定的な認識の変化をセルフエンパワメントの促進過程ととらえ、そ

(4)

の促進に寄与した職員の関わりを潜在的なエンパワメントアプローチの要素と位置付ける ことを試みた。

5.研究方法

本研究は、文献研究並びに調査研究である。

<文献研究>

1)就労自立困難者の退所後の継続的支援策はどのように実施されるか。(第1章)

2)ソーシャルワークにおけるアセスメントはどのような概念か。(第2章)

3)ソーシャルワークにおいてエンパワメントの考え方が取り入れられた背景並びにその内 容は何か。(第4章)

<調査研究>

支援の現状を明らかにするためセンターPを対象に以下の調査を実施。

1)センターにおけるアセスメントの実施体制に関する調査。(第2章)

2)利用実態を通してみる支援課題に関する調査。(第3章)

3)センターの支援において就労自立という事業目的を達成した事例の検証。(第5章)

文献研究ならびに調査研究 1)、2)の結果を通して、センターは路上生活者の自立支援を 通して具体化するためには、「個々の自立のあり方に応じた支援」へ転換が必要であり、そ のためにはエンパワメントの視点に基づく支援方法の研究をすることの必要性を示した。

調査研究 3)ではセンターを利用し就労自立を果たした事例の分析を通して、これまで組

織化されずに行われている実践からエンパワメントの要素の抽出しその有用性を明らかに した。

Ⅱ.論文の構成と概要 1.論文の構成

(5)

序章 本研究の目的と方法 はじめに

1 問題関心 2 本研究の目的

3 研究課題、本研究の構成 4 用語の定義

1 生活困窮者自立支援法下におけるセンターの位置づけ はじめに

1 本章の目的と方法

2 特措法に基づくセンターはどのような自立概念に基づく支援を実施したか 3節 特措法と困窮法が想定する自立の異同

4設立根拠が困窮法へ移行するに伴い、センターが提供するサービスにどのよう な変化が起きたか

5節 根拠法の変更によりセンター事業の実施体制はどのように変化したか 6 考察

2 センターにおけるアセスメントに関する一考察

-東京都におけるセンターPの実践を手がかりに-

はじめに

1 問題関心

2 先行研究及び研究目的 3 研究の枠組み

4 調査の概要 5節 考察

3 自立支援センターの利用者実態を通してみる支援課題

-センターPの再利用者に着目して-

はじめに

1 問題関心 2 問題設定 3 調査結果 4節 考察

4 エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援に関する研究

-エンパワメントをテーマとした先行研究のレビュー-

はじめに

1 問題関心 2 問題設定

(6)

3 先行研究ならびに用語の定義

4 路上生活者支援においてエンパワメントの視点を取り入れることの必要性 5 エンパワメントとはどのような概念か -エンパワメントの構成要素の整理-

6 筆者の捉えるエンパワメントのモデル 7 考察

5 エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援に関する研究

-退所者・職員インタビューの検証を通して-

はじめに

1 問題設定 2 研究の結果 3 考察 終章 全体考察

1 全体考察 2 本研究の結論 3 本研究の成果と課題

おわりに エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援モデルの構築に向けて 謝辞

参考文献一覧 巻末資料

資料1.雑誌「社会福祉研究」における貧困・低所得者を対象とした研究一覧

資料2.雑誌「ソーシャルワーク研究」における貧困・低所得者を対象とした研究一覧

資料3.「42ケースの入所経緯の概要」

資料4.緊急一時保護事業再利用者(10回以上)のケース記録の抜粋

資料5.路上生活者支援に関するインタビュー逐語録(元利用者・職員)

2.論文の概要 序章

序章では、本研究のテーマと問題の所在、先行研究の動向を踏まえて研究目的と研究課題、

研究の独自性を提示した。また、本研究の全体構成を示した。

1 生活困窮者自立支援法下におけるセンターの位置づけ

1 章では路上生活者支援を主題とした先行研究の概観、センターの設立根拠であるホ ームレス自立支援法(以下、特措法)並びに生活困窮者自立支援法(以下、困窮法)の条文 比較、東京都におけるセンター運営の方針等の行政資料の内容を検証した。

先行研究のレビューや政策動向に関する資料分析の結果、主な先行研究では、センターに は多様なニーズを抱えた人々が就労支援に特化されたセンターに入所者として「混在」して いること、そのことがセンターの就労自立率が低いという結果をもたらしているという点 に言及されていることが明らかとなった。

(7)

また、ニーズと支援策が乖離した者の多くは「就労自立困難」を理由にセンターの支援枠 組みから退出を求められること、さらに「就労自立困難」層に対するセンター退所後の継続 的支援の目的は、一時的な生活の場の提供であるため、安定した地域生活の再開に向けた見 通しを立てることが難しい状態に留め置かれるという支援構造が明らかとなった。

2 センターにおけるアセスメントに関する一考察

2 章では、就労自立率が低いという結果に至る構造についてセンターP における実践を 手がかりに、支援実施状況に関する実態把握を目的とした。

本研究ではソーシャルワークの共通言語として語られる「アセスメント」の局面に注目し た。特に、センターPの緊急一時保護事業の利用期間中に実施される基礎アセスメントの実 施状況を調査しその結果を検証した。

センターPで実施される基礎アセスメントの目的は、自立支援事業において実施される就 労支援の条件の適否をスクリーニングすることに主眼が置かれていた。また、基礎アセスメ ントにより、自立支援事業への移行を「適さない」と評価され「自立困難」を理由にセンタ ーを退所する人は、入所者全体の約4割を占めていた。

これら「自立困難」層に対する基礎アセスメントの記述内容からは、センターの退所後に どのような支援を通して地域での生活に至るのかという道筋を見出すことができないとい う結果が明らかとなった。

ソーシャルワークの領域で共通して語られるアセスメントは、利用者本人を中心に位置 付けて、現状を起点に自己選択と自己実現を支えるための支援計画を立案するために、本人 のストレングスへの理解や環境調整等に必要となる情報の収集、解釈の局面と考えられる が、センターPで実施されている基礎アセスメントは異なる内容であった。

本章の検証結果に基づく研究課題Ⅰに対する応答は、明らかに就労支援とは異なるニー ズを有する人がセンターの入所者として「混在化」していること、また、「混在化」した層 は、スクリーニングにより「自立困難」層として排除されるのみであり、彼らに対するその 後の支援の見通しが無い状況のまま支援が終了しているという実態が明らかとなった。

3 自立支援センターの利用者実態を通してみる支援課題

3章では、センターの利用により「自立困難」を理由に退所した人々は、その後にどの ような支援経路を辿っているのかに注目した。

そこで、センター利用者の約 2 割を占める再利用者における利用目的に注目した。そのた め、センターPにおける入退所実績の再集計並びにケース記録の検証を実施した。特に、制 度が想定する利用目的(「再チャレンジ」)と再利用者の利用目的(「再チャレンジ」もしく は「一時的な生活の場の確保」)がどのくらい一致しているのか、制度の想定と異なるニー ズを有する人がどのくらいの割合でセンターを利用しているのか、制度の想定と異なるニ ーズを有する人は、実際にはどのようなニーズを有しているのか、制度の想定と異なるニー ズを有する人が、ニーズと乖離した支援策の利用を繰り返すことで、当事者と支援者という 支援関係においてどのような影響を及ぼすのかについて検証を行った。

(8)

その結果、センターの再利用回数の増加と「一時的な生活の場」を目的とする層の増加に は相関性が見られ、センターの再利用は、「再チャレンジ」の機会としては機能していない ことが明らかとなった。

次に、センターの自立支援事業の再利用の上限回数を超過した者のケース記録を検証し た結果、これらの者の主な支援ニーズは、精神的な疾患、家族・職場・知人等との対人関係 を形成における脆弱さ等の生活上の困難に起因する内容であることが明らかとなった。す なわち、早期の就労自立を前提としたセンターの就労支援を繰り返し利用してもこれらの 人々のニーズはセンターが想定する機能を超えたニーズであり、その充足は明らかに困難 と考えられる。しかし、実際にはこれらのニーズを有する人々がセンターの再利用を繰り返 しているという実態が明らかとなった。

さらに、センターの再利用を10回以上繰り返している4名を対象に、各回の入所時面接 の記録を検証した。その結果、ニーズと乖離した支援策が繰り返されることにより、「一時 的な生活の場の確保」から路上生活を前提とした「自身のタイミングによる支援の枠組みか らの離脱と再参入」という利用形態に変化するという傾向を見出すことができた。

また、その背景には実施機関が路上生活からの脱却を念頭に置くのではなく「一時的な生 活の場」の提供として社会資源を斡旋していることも「離脱と再参入」を促進する要因とな っていると考えられた。

以上の点から、センターの支援スキームには、地域で安定した生活の再開に向けた見通し の立たない支援が繰り返されることによる利用者のパワーレス化が進行するという構造が 内在している。また、就労支援の実施が困難な利用者が就労支援を目的とする支援施設の主 な利用者層を形成することにより、職員もパワーレス化が進行するという構造が明らかと なった。

4 エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援に関する研究

4-1路上生活者支援を念頭に置いたエンパワメントモデル(私案)第4章では、路上 生活者を支援におけるエンパワメントの視点の有効性を見出すためにエンパワメントの概 念整理並びに分析枠組みの構築を試みた。

「エンパワメントはどのように定義されているのか」では、ソロモン(Solomon.B)をは じめ、リー(Lee)、ジマーマン(A.Zimmerman)、グティエーレス(L.M. Guti´errez)、小 松、久保などがエンパワメントについて言及することがらを整理し、エンパワメントの定義 付けを試みた。

次に、「ソーシャルワークにエンパワメントが導入された背景と路上生活者支援の現状に 類似性は見られるか」では、川原、北川、久保、新保などの見解とエンパワメントをテーマ とした先行研究の比較を通してソーシャルワークにおいてエンパワメントの考え方が取り 入れられた背景との路上生活者支援における状況との類似性を明らかにした。

さらに、「エンパワメントはどのような要素で構成されるのか」では、利用者自身による セルフエンパワメントの視点、職員によるエンパワメントアプローチの視点、入所者と職員

(9)

の相互関係におけるエンパワメントという 3 つの側面から先行研究で示されているエンパ ワメントの要素を整理した。

これらの先行研究の見解を踏まえ、筆者の捉えるエンパワメントのモデル(私案)として

「図4-1 路上生活者支援を念頭においたエンパワメントモデル(私案)」を提示した。

5 エンパワメントの視点に基づく路上生活者支援に関する研究

5 章では、センターP の利用を通して就労自立という事業目的を達成した元利用者及 び彼らの支援を担当した職員を対象に実施したインタビュー調査の結果を検証した。

元利用者を対象としたインタビュー調査からは、当事者の視点からセンターを利用した ことの意義、センターの利用を通して生活や物事の認識にどのような変化が生じたのか、そ のような変化が生じた結果として現状をどのように認識しているのか、認識の変化を促進 した内的要因と外的要因として考えられる要素は何か、特に、外的要因の 1 つであるセン ターPの職員によるどのような関わりを通して認識の変化が促進されたのかに注目した。

職員を対象としたインタビュー調査では、それぞれの元利用者の「語り」に基づき、元利 用者に生じた生活や物事の認識の変化に対し、支援者としてどのような認識をしていたの か、元利用者の認識の変化を促進するためにどのような関わりを実施したのか、その関わり はエンパワメントを意識した意図的な関わりであったのかを担当職員の「語り」を通して検 証した。

元利用者を対象としたインタビュー結果からは、彼らがセンターを利用した意義は、「ケ ジメ」「リセット」「ターニングポイント」など、彼らの人生や生活に対する認識の変化を生 み出したことであることが明らかとなった。

更にこれらの認識の変化は、自身の内的変化に加え、他の利用者や「親身に相談できる存 在」「付かず離れずの関係」「喜びを共有できる」職員との関わりにより促進されていると元 利用者は認識していることが明らかとなった。

職員を対象としたインタビューでは、職員の視点に基づくと日常業務の一環としての対応 であり必ずしも利用者のセルフエンパワメントの促進を意図したアプローチの結果ではな いことが明らかとなった。

両者の「語り」を第4章で示した「路上生活者支援を想定したエンパワメントモデル(私 案)」照合すると、センターPにおける支援を通してセンターの支援においてエンパワメン トの要素が内在し、それらが利用者のセルフエンパワメントを促進として機能している。し かし、潜在化しているエンパワメントの要素を引き続き可視化していく取り組みを継続す ることが必要である。

終章 全体考察

終章では、本研究で設定した 2 つの研究課題に関する検証の結果を整理した上で全体考 察を行った。

研究課題Ⅰについては、現状の支援実績として明らかにされた就労自立率は、実質的には 制度が想定する層の以外の層による支援実績である。したがって、単純に3~5割という就

(10)

労自立率の数値のみを持って「低い」とは言えない。問題は、センターの支援スキーム自体 が既に破綻しているにも関わらず、ニーズと乖離した支援策が繰り返し実施されているこ と、ニーズと異なる支援策が繰り返されることにより利用者、支援者共にパワーレスの状況 に陥るという結論に至った。

研究課題Ⅱについては、制度が想定していた対象像とは異なる層に対する整合性の乏し い支援策であるにも関わらず、所与の条件において利用者と職員による支援関係を通して

「折り合った」成果であると考えられた。すなわち、センターにおける就労支援を媒介とし た支援関係において、それぞれの利用者が直面した転機に際し、利用者自身の内面に生じた

「生活と物事に対する認識の変化」、その変化に対する職員の働きかけが結果として利用者 のセルフエンパワメントを促進するような関わりとなっていた。そのことが事業目的であ る就労自立に至ったものと考えられる。

本研究におけるインタビュー回答者の属性からも明らかなように年齢的や身体状況から 見ても長期にわたる就労の継続の想定は困難が予想される。就労あるいは就労の継続とい うことは企業側の裁量で採否が決まる側面が大きく、センターにおける支援効果であると は断言しがたい。したがって、就労できたか否か、あるいは退所先はどこかという件数の積 算ではセンターの支援の成果を明らかにできない。

センターが社会福祉の支援施設として、入所者の自立を支援する場として位置づけられ るのであれば、社会福祉における専門職として入所者に対しどのような支援が行われ、どの ような成果を生み出すことができたのかについてソーシャルワークの視点から語られる必 要がある。支援者は、日常業務における事象への対応にとどまらず、利用者の人生や生活に 対する認識の変化に気づき、その背景にある構造や利用者の心情を読み解くことによりエ ンパワメントを促進するようなアプローチを目的意識的に活用することが求められる。そ のための職員の資質やスキルを蓄積することにより、今後のセンターにおける存在意義を 見出すことが求められるということが本論文の結論である。

今後に残された課題として、本研究はエンパワメントの視点に基づく路上生活者の支援 として具体的な支援モデルとして体系化し、その有効性を検証するという段階までは至っ ていないこと、また、センターPという1つの施設における支援実績や支援の実施体制に基 づく検証であったため、他のセンターをはじめ、居住支援や寄り添い型支援の実践などセン ター以外の支援団体の実践内容を、エンパワメントの視点から検証を行う必要がある。

さらに、本研究はセンターの利用に至った者を対象とした「個人対個人」というミクロな 領域におけるエンパワメントの有用性に言及しているにとどまる。

エンパワメントという考え方に立脚するならば、エンパワメントに基づく支援は、センター の支援策にも到達することが困難な状況にパワーレスの状況のまま留め置かれている人々 に対して真に求められる支援であると考える。また、路上生活者支援に対する政策動向にも 働きかけるようなマクロの次元を含めたエンパワメントの視点に基づく支援論を展開して いくことの必要性を今後の課題として言及した。

(11)

(筆者作成)

エンパワメント

(セルフエンパワメントの向上・促進・強化)

【意識化レベル】

環境からの応答 テーマを共有するグループ

当事者A 環境

問題状況は発生しているが、その存在を認識していない。

パートナーシップ セルフエンパワメントプロセス

ミクロ

(個人)

マクロ

(社会)

1段階(支援開始前段階)

2段階

3段階

環境への働きか

【意識前レベル】

【参加レベル】

4段階

【社会化レベル】

環境

環境 環境への働きかけ

職と住居の喪失

支援者 ホームレス状態への対処

支援者

(側面的支援、グループのストレングスの促進、支援のネットワーク化)

個人に対するエンパワメントアプローチ 環境調整

環境からの応答

個と集団に対するエンパワメントアプローチ

パートナーシップ

環境調整

ソーシャルアクション:公正な社会の実現を目指す

当事者 環境

当事者個人の元に発生した生活課題は地域社会で共有する課題であるとい う環境への働きかけを通して、当事者と環境の双方がエンパワーされる。

支援者

【ゴール】

新たな気づき・新たな課題への挑戦

当事者が社会的・政治的理解、環境にある 資源をコントロールための支援

5段階

パワーの増大・向上

4-1 路上生活者支援を念頭に置いたエンパワメントモデル(私案)

(12)

Ⅲ.本研究の評価 1.本研究の意義

(1)支援の是正

本論文では、ソーシャルワークの観点から自立支援センターの支援の仕組み・内容・方法・

体制について調査を通しその現状と課題を明らかにしていることに意義がある。

とりわけ、送致する実施機関や自立支援センターにおいてスクーリングとアセスメント の十分な検討が行われず一部に混同されている実態があり、アセスメントに関する共通認 識の必要性やその後の支援内容や支援方法等を組織的・継続的・計画的に実施する必要につ いて言及している。このようにソーシャルワークの観点から、自立支援センターについてそ の全体像を指摘した研究はこれまでになく、研究上の意義がある。

(2)エンパワメントアプロ-チの有効性の析出

本論文では、当事者と支援に関わった担当職員の「語り」を通してエンパワメントアプロ

-チの有効性について明らかにしていることは意義がある。

路上生活者がセンターを経由し居宅生活を営むプロセスの中、どのような心境や生活に 対する認識をしているのか、またその後どのように変化したのか、さらにそこにセルフエン パワメントを促進した職員のどのような関わりが、心境や生活に変化をもたらしたのか、両 者の「語り」を丹念に読み取り、エンパワメントアプローチの有効性について言及している。

また実証と理論をベースに路上生活者支援を念頭に置いたエンパワメントモデルを構想す るなど路上生活者の実態に即したソーシャルワークのあり方を追求する点は、評価できる。

2.本研究の課題

(1)包括的な視点とモデルの構築の必要性

ソーシャルワークにエンパワメントが導入された経緯を踏まえると、路上生活者に対 するミクロな支援論から政策論を含めた包括的なソーシャルワークの視点からエンパ ワメントに基づく支援を論ずる必要がある。今回の研究はエンパワメントの視点に基づ く支援モデルの構築の足がかりとして位置づけることができるが、そのため、それに向 けた更なる研究が望まれる。

(2)他フィールドでの検証

センターPの研究は、他の自立支援センターや他の路上生活支援団体の実践において も、同様の結果に至るのか、また路上生活者以外の生活困難層の利用する場においても 同様の結果に至るのか、検証することが必要である。

(13)

(3)エンパワメントアプローチの有効性と限界性の検証

本研究では、エンパワメントアプローチにて一定の成果が得られる有効性の観点から 論じられているが、その有効性と限界性の両面からの検証が必要である。

3.総合評価

1月30日の公聴会とともに最終結果を行った結果、本研究にあげたいくつかの課題が 見られた。

しかし、筆者は、学部・大学院時代を通して、ソーシャルワークの研究を深めると共に、

日本における貧困問題を中心とする生活問題に関心を持ち解決するための方策(ソーシャ ルワークと制度・政策)を学ぼうとする、学問に対する真摯な姿勢が高く評価される。とり わけ、修士課程修了後、貧困・低所得者のフィールド(生活保護施設や生活困窮者・ホーム レス一時生活支援事業)に10数年にわたり勤務した経験を背景に置き、当該論文において は先行研究をにおいて、ソーシャルワークの理論や歴史を広く読み込み、貧困・低所得状態 に置かれている人たちに対するソーシャルワークの可能性を検討している点は高く評価で きる。

本博士論文は、これまでホームレス領域で十分行われてこなかったソーシャルワークか らのアプローチから検討がされていること、当事者・支援者からインタビュー調査を行い、

その「語り」から支援の方法や内容を検証していることは、学術上に大きな意義があると考 える。

著者は、これまで学術論文4本、国内学会報告4本、調査報告書1本を発表している。

以上により、審査会委員会は、本論文が博士論文としての水準に達しており、合格と判定 した。

参照

関連したドキュメント

担い手に農地を集積するための土地利用調整に関する話し合いや農家の意

(7)

3 主務大臣は、第一項に規定する勧告を受けた特定再利用

※お寄せいた だいた個人情 報は、企 画の 参考およびプ レゼントの 発 送に利用し、そ れ以外では利

3 指定障害福祉サービス事業者は、利用者の人権の

2012 年度時点では、我が国は年間約 13.6 億トンの天然資源を消費しているが、その

2012 年度時点では、我が国は年間約 13.6 億トンの天然資源を消費しているが、その

6 他者の自動車を利用する場合における自動車環境負荷を低減するための取組に関する報告事項 報  告  事  項 内