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哺乳動物細胞におけるバキュロウイルスの遺伝子発現

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 松 山 高 央

学 位 論 文 題 名

哺乳動物細胞におけるバキュロウイルスの遺伝子発現

―転写制御における問題点―

学位論文内容の要旨

  バキュロウイルス科に属する核多角体病ウイルス( Nucleopo′.カPdr。ぬ, s:NPV)は飾足動 物(主に昆虫)を宿主と するウイルスである。NPVは 微生物農薬や昆虫細胞における効率の良 い外来遺伝子発現ベクターとして利用されており、我々の身近のものとなっている。さらに、本 ウイルスは哺乳動物由来の培養細胞にも侵入可能であるが増殖はしないため、ヒトなど哺乳動物 細胞を対象とした遺伝子導入ベクターとしての開発も活発に進められている。ところで、自然界 には節足動物と脊椎動物 の両方で増殖できるウイルスが存在し、それらはすべてRNAウイルス である。それでは何故、DNAウイルスは飾足動物と哺 乳動物の両方で増殖することができない の であ ろう か。 .DNAウイ ルス とRNAウ イル スの 増 殖機構を比較すると、DNAウイルスの増殖 に はRNAウ イ ル ス の 増 殖 に は 含 ま れ な ぃDNAか らRNAへ の 転 写 段 階 とDNAの 複 製 段 階 が 含 まれている。このことから、昆虫細胞と哺乳動物細胞において、これらの段階に関わる細胞因子 や機構に違いのある可能 性が示唆される。また、ウイルスDNAの複製は一般にウイルス遺伝子 産物により制御されていることを考えると、まず転写が適切に進行する必要があるといえる。こ れまでのところ哺乳動物 細胞の核まで侵入し、組換え遺伝子の発現まで行うこと のできるNPV が哺乳動物細胞で増殖できない分子機構の詳細は明らかにされていない。しかし、本ウイルスの 利用を適切に進める上で、この分子機構について明らかにすることは極めて重要である。そこで 本実験では、哺乳動物細 胞におけるNPVの遺伝子発現および必須制御遺伝子Zm田ea独め・鍛fウj

(めめの機能発現にっい て調査すると共に、昆虫細胞と哺乳動物細胞におけるプロモーター配 列の特異性について比較解析を行った。

  NPVは感 染後 、ま ず 宿主 のRNAポ リメ ラー ゼII転 写系 を利 用し てimmediate.earlyおよび delayed・early遺伝子群を発現する。early遺伝子産物の多くは転写制御因子として機能すること が 知ら れて おり 、こ れらearly遺伝子産物により発現誘導されたウイルスRNAポリメラーゼを 用いて1ateおよびveryーlate遺伝子群が転写される。一過性発現実験において、NPVe即ly遺伝 子プロモーターの哺乳動 物細胞(BHK)における活性 を調べたところ、弱いながら活性を保持 し てい るこ とが 明ら かと なった。DNAマイクロアレイ解析においても、哺乳動物 細胞(BHK) に侵入した4小ぼVは少な くとも一部のearly遺伝子やlate遺伝子を発現していることが判明し、

一 過性 発現 系で の実 験結 果を裏付ける結果であった 。さらに、ne8tedRT.PCRに よってDNAマ イクロアレイでは発現が 確認できなかった必須制御遺伝子わJの発現も確認された。わヱ産物

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(2)

、(IE1)はウイルスの増殖において鍵を握る必須制御タンパク質であることから、哺乳動物細胞 においても昆虫細胞と同様にIE1が機能するかどうかを調 査した。昆虫細胞においては、IE1は ウ イル スゲ ノム 上の 標的 配列 であ るhomologous regions(んみに結合してプロモーターを活 性 化す る( んぱ 依存型転 写活性化)機構と、hrs非依 存型(DNA非結合型)の転写活性化機構を 有 し て い るこ とが 知ら れて いる 。最 近 、哺 乳動 物細 胞(BHK)にお い てもIE1によ る血 ぢ依 存 型転写活性化が起こることが 報告された。しかし、本研究において、昆虫細胞で認められるIE1 のhrs依存 型転 写活 性化 が、 必 ずし もBHK細 胞におい て確認できるとは限らないことが判明し た。一方、hrsの存在しない様々なプロモーターを用いてIE1による活性化を調査した ところ、

昆 虫細 胞で はす べて のプ ロモ ータ ーが 活性 化された が、哺乳動物細胞ではBmNPV iel (Biel) プ ロモ ータ ーに おいての みIE1による活性化が観察さ れた。Bielプロモーターにおけるこの活 性 化に 必要 な領 域を検索 したところ、TATA.boxおよ びCAGTモチーフを含むコアプロモーター 領域のみが必要であることが 判明した。そこで、他のプロモーターのコア領域についても同様に 調 査し たと ころ 、哺 乳動 物細 胞(BHK、vero)においてもIE1による活性化が観察され、これ らのプロモーターでは哺乳動 物細胞においてはコアプロモーターの上流配列がIE1による活性化 を阻害していると考えられた。

  このように昆虫細胞と.哺乳動物細胞では、IElに対するプロモーターの応答性に違いがあるこ と、またコアプロモーターに っいては多くの場合、両者において同様にIE1応答性が認められる ことが判明した。このことは 、コアプロモーターによる基本転写に関わる因子が両者において良 く保存されていることを示唆 している。昆虫細胞と哺乳動物細胞におけるコアプロモーターの機 能 につ いて さら に詳しく 調査する目的で、コアプロモーター活性に影響するDNA配列(コアプ ロモーター配列)にっいて解 析を行った。その結果、昆虫細胞(BmN、Schneider2、Sf9)では TAr、A‐boxを有する昆虫関連遺伝子由来のコアプロモーターの活性が他のコアプロモーターに比 べ て顕 著に 高か った が、 哺乳 動物 細胞 (BHK、Vbro、HeLa、L)では、コアプロモーターの活 性に顕著な違いは認められな かった。これらのことから、昆虫細胞と哺乳動物細胞ではコアプロ モーター配列の認識に何らか の違いがあることが推測された。また、W灯A.boxを持つコアプロ モーターにおいて、AT含有量 およびピリミジン含有量の増減や、イニシエーターのコ ンセンサ ス配列(CCA(十1)GTCC)の 有無が活性に与える影響を調べたが、明らかな影響は認められなか った。一方、n`.T A・boxからイニシエーターまでの塩基数を変化させたところ、昆虫細胞(BmN、 Schneider2)では塩基数が22〜24の場合に活性が高くなることが判明した。しかし、 哺乳動物 細 胞(BHK、vero) では、このような傾向は認められ なかった。これらのことから、昆虫細胞 ではコアプロモーター活性の決定において、W`T A.boXからイニシエーターまでの距離の制約が、

哺乳動物細胞に比べて厳しいことが示唆された。

  以上 のよ うに 、哺 乳動 物細 胞に 侵入 したNPVは必須制御遺伝子由jを含むいくっかの遺伝子 を発現しており、必須制御タ ンパク質IElは哺乳動物細胞 においても潜在的に転写活性化能を保 持していることが明らかにな った。しかし、昆虫細胞と哺乳動物細胞とではプロモーター配列に お ける 構造 的制 約に違い が存在し、これが哺乳動物細胞におけるNPV遺伝子発現制御に大きな 影響を及ぼすことが推定された。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

哺乳動物細胞におけるバキュロウイルスの遺伝子発現

― 転 写 制 御 に お け る 問 題 点 一

  バキ ュ ロ ウイ ル ス 科に 属 す る核 多 角 体病 ウ イ ルス (Nucleopolyhedrovirus: NPV)は微 生 物 農薬 や 哺 乳動 物 細 胞へ の 遺伝子 導入ベ クターと しての 利用が進 められて おり、 我々の 身 近 なも の と なっ て い る。NPVは 昆 虫 のみ な ら ず哺 乳 動 物細 胞に侵入 し組換 え遺伝子 の発 現 が 可能 で あ るが 、 増 殖は し な い。NPVの 利 用 を適 切 に 進め る上で、 本ウイ ルスが哺 乳動 物 細 胞で 増 殖 でき な い 分子 機 構につ いて明 らかにす ること は極めて 重要であ る。そ こで、

本 実 験で は 昆 虫細 胞 と 哺乳 動 物細胞 におけ るプロモ ーター 配列の特 異性につ いて比 較解析 す る と 共 に 、 哺 乳 動 物 細 胞 に お けるNPVの 遺 伝 子 発現 お よ びウ イ ル ス必 須 制 御遺 伝 子 の 機 能 発現 に つ いて 調 査 した 。

  まず 、 一 過性 発 現 実験 に お いて 、NPV early遺 伝子 プ ロモ ーターは 哺乳動 物細胞に おい て も 弱い な が ら活 性 を 保持 し ている ことが 明らかと なった 。さらに 、哺乳動 物細胞 に侵入 し たAcNPVは 少 な く と も 必 須 制 御 遺 伝 子ielを 含 む 複 数 の 遺 伝子 を 発 現し て い るこ と が DNAマ イ ク ロ ア レ イ 解 析 お よ びnested RT‑PCR解 析 に お い て 明 ら か と な っ た 。iel産 物 (IEl)は ウ イ ル ス の 増 殖 に おい て 鍵 を握 る 必 須 制御 タ ン パク 質 で ある 。 そ こで ま ず 、哺 乳 動 物細 胞 に おい て も 昆虫 細 胞 と同 様 にIE1が 機能 す る かど うかを調 査した 。昆虫細 胞に お い て は 、IE1は ウ イ ル ス ゲ ノム 上 の 標的 配 列 で あるhomologous regions(皿 み に 結 合 し て プ ロ モ ー タ ー を 活 性 化 す る (hrs依 存 型 転 写 活 性 化 )機 構 と 、hrs非依 存 型(DNA非 結 合 型) の 転 写活 性 化 機構 を 有 して い る こと が 知 られ て いる 。最近、 哺乳動 物細胞(BHK) に お いて もIE1に よ るhrs依存 型 転 写活 性 化 が起 こ る こ とが 報 告 され た が 、本 研 究 の結果 か ら 、哺 乳 動 物細 胞 に おい て は 必ず し もhrsの 存在 がIE1に よ る 転写 活 性 化に 結 び っかな い こ とが 示 さ れた 。 ま た、hrsの 存 在 しな い 様 々な プ ロ モ ータ ー を 用い てIE1に よ る活性 化 を 調査 し た とこ ろ 、 哺乳 動 物 細胞 に お いて も 各 種コ ア プロ モーター につい てはIE1によ る 活 性化 が 観 察さ れ る もの の 、多く の場合 、哺乳動 物細胞 において はコアプ ロモー ターの 上 流 配 列 が IE1に よ る 活 性 化 を 阻 害 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。   昆虫 細 胞 と哺 乳 動 物細 胞 に おけるコ アプロ モーター の機能 について さらに 詳しく調 査す     ‑ 1277−

徳 郎

久 一

戸 田

伴 上

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

る 目 的 で 、 コ ア プ ロ モ ー タ ー 活性 に 影 響す るDNA配 列 (コ ア プ ロモ ー タ ー配 列 ) に つい て解析を行った。その結果、昆虫細胞では I、A′I、A.boxを有する昆虫関連遺伝子由来のコア プ ロ モ ータ ー の 活性 が 他 のコ ア プロモ ーターに 比べて 顕著に高 かった が、哺乳 動物細胞 で は 、 コ アプ ロ モ ータ ー の 活性 に 顕著な 違いは認 められ なかった 。これ らのこと から、昆 虫 細 胞 と 哺乳 動 物 細胞 で は コア プ ロモー ター配列 の認識 に何らか の違い があるこ とが推測 さ れ た 。また 、TAT.A.boxを持 つコア プロモー ターに おいて、AT含有量 およびピ リミジ ン含 有 量 の 増減 や 、 イニ シ エ ータ ー のコン センサス 配列(CCA(十1)GTCC)の有無 が活性 に与 え る 影響を 調べた が、明ら かな影 響は認め られなか った。 一方、弘 `TA.boxからイ ニシエ ー タ ー まで の 塩 基数 を 変 化さ せ た と ころ 、 昆 虫細 胞 で は塩 基 数 が22〜24の 場 合に 活 性が 高 く な るこ と が 判明 し た 。し か し、哺 乳動物細 胞では 、このよ うな傾 向は認め られなか っ た 。これら のこと から、昆 虫細胞 ではコア プロモーター活性の決定において、吼`1、A.box か ら イ ニシ エ ー ター ま で の距 離 の制約 が、哺乳 動物細 胞に比べ て厳格 であるこ とが示唆 さ れた。

  以 上 、 本 研 究 に よ り 哺 乳 動 物 細 胞 に 侵 入 し たNPVは 必 須 制御 遺 伝 子わJを 含 むい く つ か の 遺 伝子 を 発 現し て お り、 必 須 制 御タ ン パ ク質IE1は 哺 乳動物 細胞に おいても 潜在的 に 転 写 活 性化 能 を 保持 し て いる こ とが明 らかにな った。 しかし、 昆虫細 胞と哺乳 動物細胞 と で は プ ロモ ー タ ー配 列 に おけ る 構造的 制約に違 いが存 在し、こ れが哺 乳動物細 胞におけ る NPV遺 伝 子 発 現 制 御 に 大 き な 影 響 を 及 ば す こ と が 推 定 さ れ た 。本 研 究 はNPVの 哺乳 動 物 細 胞におけ る遺伝 子発現を 解析し た最初の 例であ り、これ ら,の成 果は本ウイルスの安全性 を分子レベルで理解する上で極めて重要な知見を与えるものである。

  よっ て 審査員一 同は、 松山高央 が博士 (農学) の学位を 受ける のに十分 な資格 を有する も の と認 め た 。

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