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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 小 林    真

学 位 論 文 題 名

極東ロシ アの針広 混交林において山火事が炭の 生成を通じて土壌および樹木の更新へ与える影響

学位論文内容の要旨

  北方林 は主要 な撹乱 要因で ある山 火事に よる破 壊と樹木の更新による再生を繰り返しながら動 的に維 持されている。山火事は森林の構造をさまざまな程度で改変し、光、温度、養水分などの物 理環境 に勾配 を作り 出すこ とによ って撹乱 後の樹 木の更 新と成長に影響を与える。樹木群集は炭 素 貯留 な どの 生態系 機能の重 要な担 い手で あるた め、そ の維持 機構を 理解す ることは 木材資 源 の持続的生産、生物多様性の保全、環境保全の観点からも重要である。

  山火事 が樹木 へ与え る影響 はさま ざまで あるが 、特徴のーっには生成された炭を介する経路が あ る。 山 火事 は微地 形や局所 的な有 機物の 蓄積量 の違い によっ て、異 なる温 度で森林 を燃焼 す る。ま た、森林には各種の有機物が燃料として存在するため、山火事によってさまざまな特徴を持 った炭 が生成 される 。これ らの炭 は林床表 面や土 壌にお いて環境勾配を生み出し、樹木へ多様な 影響を 与える ことが 予想さ れる。 しかし、 森林生 態系内 で考えられる炭の特徴や存在状態が樹木 の更新 と成長 ヘ与え る影響 の違い について 検討し た例は 少をい。また、炭が植物へ与える影響の メカニ ズムに ついて 実験的 に研究 した例は 近年増 えたが 、炭以外にもさまざまな環境要因が樹木 の成長 などへ 影響を 与える 中で、 炭が樹木 の更新 過程に 顕著な影響を及ばしているかを検証した 例は極 めて限 られる 。炭は 山火事 によって 特異的 に生成 される物質であり、その生態系における 多 様な 影 響と その重 要性に関 する知 見は、 山火事 を撹乱 要因と する森 林の維 持機構を 理解す る 上で不可欠である。

  本 研 究 では、 炭が樹 木の更 新と成 長ヘ与え る多様 な影響 の実験 的な評 価と、 実際の 山火事 跡 地 にお い て、 炭が森 林樹木の 更新ヘ 与える 影響の 検証を 行った 。本研 究では モデル試 験地と し て、山 火事に よる撹 乱が樹 木群集 の構造ヘ 重要な 影響を 与えると考えられる極東ロシア南部のヨ ーロッパアカマツ、グイマツ、ポプラ・カンバ類を主な構成種とする混交林を対象にした。そして、同 地 にお け る山 火事後 の状況を 想定し た制御 実験や 現地調 査をロ シア・ アムー ル州の極 東農業 大 学の協カを得て実施した。

  極東ロ シア南 部では 、樹木 群集の地上部炭素量が約80 tonC ha‑1 (150年生の林分)と推定され た。こ の値は 北方林 の他の 植生タ イプと比 較した 場合に 、東シベリアのグイマツ林や中央シベリ ア のヨ ー ロッ パアカ マツ林の 同齢林 に比べ て2〜3倍 量であ り単位 面積当 たりで は比較 的大量 の 炭素が 地上部に蓄積していることを示す。このことは、同地域が資源管理の視点からも樹木群集の 維 持 機 構 に 関 す る 基 礎 的 な 知 見 が 求 め ら れ る 地 域 で あ る こ と を 意 味 す る (2章 ) 。   山 火 事 に よ る 林 床 の 有 機 物の 炭 化 が グイ マ ツ と ヨー ロ ッ パ アカ マ ツ 種 子の 発 芽 ヘ 与え る 影 響を 評 価 し た。 極 東 ロ シア 南 部 の山火 事跡地 の林床 におい て高頻 度で存在 してい た3樹種 の 炭化し た葉リターと、炭化していない同樹種の葉リターを極東農業大学構内の温室へ持ち帰り、発 芽床と して播種試験を行った。その結果、炭化した葉リターでも樹種によって発芽床としての機能

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が異ならていた。ま た、同じりターでも炭化前 後では発芽床としての機能は異なっていた。本結果 より、山火事による 有機物の炭化は山火事前と は異なる発芽環境を、これら2樹種ヘ提供へしてい ることが示唆された (3章)。

  次 に 、山 火事 跡地 で想 定 され る炭 が存 在す る 多様 な条 件が稚樹の成長ヘ与 える影響について 明らかにするため、 各種の炭の存在状態を模倣 したポットにグイマツ実生を植え、その影響を北海 道大 学 農学 部に て調 べた 。 炭が グイ マツ 実生 へ 与え る影 響は炭の生成温度に よって異なった。

400℃の 低温 で作 成 した 炭は 、土 壌 中の 含有 量の 増加 に 伴い 実生 の成 長を 促 進す る正の効果が 顕著 に なっ た。 一方 、800℃ の高 温で作成した炭 は、土壌中での含有量に関係 なく実生の成長ヘ 有意 な 影響を与えなか った。また、炭が実生の成 長ヘ与える影響は、たとえ土 壌中に添加される 量が 同 量でも、その存 在部位と状態により異なっ た。土壌への炭の添加は、概 して実生の成長ヘ 正の 効 果を 持っ てい たが 、 その 効果 は炭 が土 壌 表面 に存 在する場合や土壌中 に散在する場合よ りも 、 土壌の内部に層 状に存在する場合に最も顕 著であった。炭が実生の成長 に促進効果をもた らした理由として、炭の孔隙に大量に保持された可給態リン¢)が樹木によって利用され、その結果 として成長が増加し たと考えられた(4、5章) 。

  実 際 の山 火事 跡地 では 、 炭の 生成 以外 にも 養 分循 環に 影響を及ばす土壌微 生物相やりター層 の厚さなど無機環境 もさまざまに変化する。そ こで室内実験で見られた炭と 土壌中の高い可給態P 量と の 関係が、野外で も存在するどうかを検証す るため、北海道大学天塩研究 林において、山火 事を模倣した火入れ実験を行った。火入れ実験により生成した炭を放置する区と除去する区を作り、

林床 の 養分 条件 の違 いを 比 較し た。その結果、野 外でも炭の存在によって可 給態P量が高く保た れていることが確認 された(6章)。

  これらを踏まえ、2007年9月に地表火が発生し た極東ロシア南部に位置す るグイマツとヨーロツ パ ア カ マ ツ の 混交 林 にお いて 、2009年7月 に土 壌 中の 炭量 およ び可 給 態P量 、 山火 事後 に更 新 した1年 生の 実生 数 との 関係 を100個のプロット(50女50 cm)を対象に調査した 。その結果、土壌 中の 炭 の量 と可 給態P量 、山 火事 後に更新したヨ ーロッパアカマツの実生数と の間に有意な正の 相関が認められた。 また、同プロットで土壌中 での炭の存在様式を調査した結果、炭が散在してい る箇 所 、炭が見られな い箇所、一部層状に見られ る箇所、層状に見られる箇所 、一面が炭の箇所 に類別され、それぞ れ41%、29%、16%、12%、そして2%の頻度で出現していた。炭の分布様式別 にヨ ー ロッパアカマツ 実生の成立本数を調べた結 果、炭が一部層状に見られる 箇所で実生数が最 も多く、続いて層状 の炭が見られる箇所の順で あった。極東ロシア南部で発生する山火事の多くは 地表 火 で、 有機 物は 比較 的 低温 で炭 化さ れる 。 その ため 同調査地では、炭の 含有量が高いほど 実生の成長が促進さ れ、結果として生残した実 生数が多かったと推察される。また、空間統計学的 な手 法 を用 いて 、山 火事 跡 地の 炭の 量、 土壌 中 の養 分量 、および実生数の空 間的な分布を解析 した結果、炭の量、 可給態P、そして更新実生数 が多い場所はランダムに分 布していることが明ら かになった(7章) 。

  北 方 林 で は 生態 系 が成 立し た後 に強 度 の山 火事 など の壊 減 的な 撹乱 が長 期 間発 生し ない 場 合、土壌中のPが樹 木の成長の制限要因となることが報告されている。本研究の結果よ,り、極東ロ シア 南 部の 混交 林に おけ る 山火 事の発生は、リタ ーなどに含まれる有機態Pを 燃焼によって無機 化し て 樹木に利用され やすくしていた。そして、Pを保持する炭の分布とPの利 用可能量へ空間的 な不均一性を与える ことで、Pを成長の制限要因 とする樹木実生の群集構造 を多様にすることが明 らかとなった。この ことから、極東ロシア南部などの北方林における山火事は、炭の生成によるPの 動態 の 変化 を通 して 、樹 木 群集 の多 様性 やそ れ に伴 った 炭素貯留に関わる重 要な攪乱要因とし て機能していると結 論づけた。

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学位論文審査の要旨

主査   教授   小池孝良 副査   教授   波多野隆介 副査   教授   橋床泰之 副査   准教授   渋谷正人

副査   教授   松浦陽次郎(森林総合研究所)

学 位 論 文 題 名

極 東ロシアの針広混交林において山火事が炭の 生成を通じて土壌および樹木の更新へ与える影響

  本 論 文 は 、8章 か ら な り 、 図29、 表23、 引 用 文 献 数146を 含 む 総頁 数160の和 文論 文であり、別に10編の参考論文が添えられて いる。

  北方域の森林は、主要な撹乱要因である山 火事による破壊と樹木の更新による再生を繰 り返しながら動的に維持されている。山火事 が樹木へ与える影響はさまざまであるが、特 徴のーっとして、生成された炭を介する経路 がある。炭は山火事によって特異的に生成さ れる物質であり、その生態系における多様な 影響とその重要性に関する知見は、山火事を 撹乱要因とする北方域の森林の維持機構を理 解する上で不可欠である。私は、炭が樹木の 更新へ与える多様な影響の実験的な評価と、 実際の山火事跡地において炭が樹木の更新へ 与える影響の検証を行った。本研究ではモデ ル試験地として、山火事による撹乱が樹木群 集の構造へ重要な影響を与えている極東口シ ア南部の針広混交林を選び、同地における山 火事後の状況を想定した制御実験や現地調査 を行った。

  極東口シア南部では、北方林の他の植生夕 イプと比較した場合に、単位面積当たりでは 比 較 的 大 量 の 炭 素 が 林 内 に 蓄 積 し て い る こ と が 推 定 さ れ た (2章 ) 。   はじめに、山火事による林床の有機物の炭化が樹木種子の発芽へ与える影響を評価した。

極東口シア南部の山火事跡地の林床にて高頻 度で存在していた3樹種の炭 化した葉リター と、炭化していない同樹種の葉リターをロシ ア・アムール州の極東農業大学構内の温室へ 持ち帰り、発芽床として播種試験を行った。 その結果、炭化した葉りターでも材料となる 樹種 によ って 発芽床としての機能が異 なっていた。また、同じりターでも炭化前後では 発芽 床と して の機能は異なり、山火事 による有機物の炭化は、山火事前とは異なる発芽 環境を樹木へ提供へしていることが示唆され た(3章)。

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  次に、山火事跡地で想定される炭が存在する多様な条件が稚樹の成長へ与える影響にっ いて明らかにするため、各種の炭の存在状態を模倣したポッ卜にグイマツ実生を植え、そ の影響を調べた。炭がグイマツ実生へ与える影響は炭の生成温度によって異なった。400℃ の低温で生成した炭は、土壌中の含有量の増加に伴い、実生の成長を促進する正の効果は 顕著になった。一方、800℃の高温で生成した炭は、土壌中での含有量に関係なく実生の成 長へ有意な影響を与えなかった。また、炭が実生の成長へ与える影響は、たとえ土壌中に 添加される量が同量でも、その存在部位により異なった。土壌への炭の添加は、概して実 生の成長へ正の効果を持っていたが、その効果は、炭が土壌表面に存在する場合や土壌中 に散在する場合よりも、土壌の内部に層状に存在する場合に最も顕著であった。炭が実生 の成長に促進効果をもたらした理由として、炭の孔隙に大量に保持された可給態リン(P)が 樹 木 に よ っ て 利 用 さ れ、 その 結果 とし て成 長 が増 加し たと 考え られ る(4、5章) 。   実際の山火事跡地では、炭の生成以外にも養分循環へ影響を及ぽす土壌微生物相やりタ ー層の厚さなど無機環境もさまざまに変化する。そこで室内実験で見られた炭と土壌中の 高い可給態P量との関係が、野外でも存在するどうかを検証するため、北海道大学天塩研 究林において、山火事を模倣した火入れ実験を行った。火入れ実験により生成した炭を放 置する区と除去する区を作り、林床の養分条件の違いを比較した。その結果、野外でも炭 の 存 在 に よ っ て 可 給 態P量 が 高 く 保 た れ て い る こ と が 確 認 さ れ た (6章 ) 。   これらを踏まえ、2007年9月に地表火が発生した極東口シア南部に位置するグイマツと ヨーロッバアカマツの混交林において、2009年7月に土壌中の炭量お よび可給態P量、山 火事 後に 更新 した1年生 実生 の数 との 関係 を100個の プロ ット(50x50cm)を対 象に調査 した。その結果、土壌中の炭量と可給態P量、山火事後に更新したヨーロッパアカマツの 実生数との間に有意な正の相関が認められた。また、同プ口ットで土壌中での炭の存在様 式と実生数との関係について調査した結果、炭が層状に見られる箇所で実生数が多い傾向 が合った。極東ロシア南部で発生する山火事の多くは地表火で、有機物は比較的低温で炭 化される。また、空間統計学的な手法を用いて、山火事跡地の炭の量、土壌養分量、およ び実生数の空間的な構造を解析した結果、炭の量、可給態P、そして更新実生数が多い場所 はランダムに分布していることが明らか になった(7章)。

  北方域の森林では生態系が成立した後に強度の山火事などの壊減的な撹乱が長期間発生 しない場合、土壌中のPが樹木成長の制限要因となることが報告されている。本研究の結 果より、北方域の森林における山火事の 発生はりターなどに含まれる有機態Pを燃焼によ って無機化し、樹木に利用しやすくする とともに、Pを保持する炭の 分布とPの利用可能 量に空間的な不均一性を与えることで、Pを成長の制限要因とする実生の群集構造を多様に す る こ と が 示 唆 さ れ た。 これ によ り北 方林 の 維持 に貢 献す る基 礎資 料を 提示 した 。   よって、審査員一同は、小林真が博士 (農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。

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