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博 士 ( 歯 学 ) 木 村 幸 文

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Academic year: 2021

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博 士 ( 歯 学 ) 木 村 幸 文

  学 位 論 文 題 名

骨 芽 細 胞 由 来 酵 素 に 対 す る 局 所 麻 酔薬 の 作 用 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

【目的】歯科臨床において、局所麻酔薬は歯槽骨周囲に浸潤麻酔として頻用されてい る。その作用する部位には、骨芽細胞、破骨細胞などの骨のりモデリングに関与する 細胞が存在するので、これらの細胞に対する局所麻酔薬の作用を考慮する必要がある と考えられる。しかし、実際に骨およびそこに存在する細胞に対しどのような影響を 与えているかの詳細は明らかではない。そこで、骨芽細胞が有する酵素活性を指標と して各種局所麻酔薬の作用を検討した。骨芽細胞において骨形成に関与する可能性の ある酵素として、Ca−ATPase、Mg―ATPaseおよびアルカリ性ホスファターゼ活性に対 する、各種局所麻酔薬の作用を調べた。

【 方法 】骨芽 細胞様細 胞株であ るMC3T3‑E1細胞を 培養した 後にミク ロソーム分 画 を 調整 し 、存 在 す るCaお よびMg依 存 性 のATPase(Ca‑お よ びMg−ATPase)活性に 対する作用を調べた。また、ヒト骨由来のアルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性に対 する効 果も調べ 、その比較 のために ヒト小腸 由来のALPに 対する作用も調べた。麻 酔薬はりドカイン、プリロカイン、ジブカイン、プロカイン、テトラカインを用いた。

【結果と考察】

1. Ca一ATPase活性に対する局所麻酔薬の作用

  各 麻 酔薬はい ずれも臨 床に使用 される濃 度の範囲 で、その 濃度に依存 してCa− ATPase活性を 抑制した 。活性を50% 抑制する 濃度(ICso)は、リドカインでは8mM、 プ リロ カイン12 mM、プロカ イン15 mM程度 であった 。また、 テトラカ インでは約 1.6 mM、ジブカインでは0.1 mMと低い濃度で抑制された。

  局所麻酔薬がCa−ATPase活性を抑制する理由を調べることを目的として、Ca‑ATPase のCaに対 する親和 性が局所麻 酔薬存在下では変化するか否かを調べた。局所麻酔薬 は りド カイン 、プロカ インを用 いたが、 麻酔薬存 在下でもATPase活性はCa濃度 の 増加と ともに増 加し、麻酔 薬の存在によるCaに対する親和性の変化は見られなかっ た。

  次に、Ca‑ATPaseのATPに対す る親和性が局所麻酔薬によって変化するか否かを調 べるこ とを目的 として、ATP濃 度を変化 させて活 性を測定 した。活性を50%発現す るのに必要ナょATP濃度は、局所麻酔薬非存在下では約0.1 mMであったが、プロカイ ン存在 下では0.5 njM、 リドカイン 存在下で は0.8 mMとなり 、局所麻酔薬存在下で はATPに対する親和性が低下することが示された。

53 ‑

(2)

2.Mg‑ATPase活性に対する局所麻酔薬の作用

  Mg‑ATPase活性も、臨床で使用されている濃度範囲で、局所麻酔薬の濃度に依存し て抑制された。IC‑o値は、プロカインとプリロカインでは12 mM、リドカインでは8mM 程度 で 、また 、テトラ カインで は1 mM、ジブ カインでは0.1 mM程度であ った。各 麻酔薬のCa―およぴMg−ATPase活性抑制の強さの順序は、臨床的に推定されている各 麻酔 薬 の作用 あるいは 毒性の強 さの順序 にほば一致 していた 。以前に 報告され た Na,K‑ATPaseの場合も同様の傾向を示すことから、細胞の形質膜に対する局所麻酔薬 の 作 用 の 結 果 と し て 、 こ れ ら の 酵 素 が 抑 制 さ れ る 可 能 性 が あ る 。   次に、Mg‑ATPase活性 のMg濃度依 存性に対 するりド カインとプロカインの影響を 調べた。局所麻酔薬が存在しなぃ場合のMgによる50%活性化濃度は0.02 mM程度であ ったが、リ ドカイン およびプ ロカイン存在下では0.1 mMと増加した。麻酔薬はMg− ATPaseのMgに対する親和性を低下させており、活性抑制の一因となっている可能性が 示された。 さらに、Mg‑ATPase活性のATP濃度依存性に対するりドカインとプロカイ ンの作用を調べた。リドカイン存在下でのATPによる50%活性化濃度は局所麻酔薬非 存在下と同程度であったが、プロカイン存在下では50%活性化濃度は低下した。っま りATPに対する親和性がわずかに増加する結果となり、局所麻酔薬によるMg一ATPaSe活 性 抑 制 に 、ATPに 対 す る 親 和 性 の 変 化 は 関 与 し て い な い も の と 考 え ら れ た 。 3.骨 型 ア ル カ リ 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ 活 性 に 対 す る 局 所 麻 酔 薬 の 作 用   骨型ALP活性に対する局所麻酔薬の作用を調べた。リドカインとプロカインでは濃 度に依存して活性が低下した。リドカインによるICso値は16 mM程度であったが、プ ロカインでは48 mMでも500/0程度しか減少しなかった。プリロカインでは、低濃度で 10%程度活性が増大した後に、高濃度では濃度に依存した活性の抑制が見られた。ジ ブカインおよびテトラカインでは活性の抑制は見られなかった。骨アルカリ性ホスフ ァターゼ活性の抑制は、局所麻酔薬に共通した作用ではなかった。リドカイン、プロ カイン、プリロカインの抑制作用の理由については、今回の結果からは不明であるが、

これらの局所麻酔薬投与により骨芽細胞のアルカリ性ホスファターゼの抑制が起こる ということについては、注意が必要であり、今後検討していかなければならなぃと考 えられる。

4.小 腸 型 ア ル カ リ 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ 活 性 に 対 す る 局 所 麻 酔 薬 の 作 用   骨 型ALPのアイソ ザイムで ある小腸 型ALPを用い て同様の実 験を行っ た。プロ カ インとプリ ロカイン 存在下の 小腸型ALP活 性は、骨 型と同様 の濃度依存性で活性が 変化した。しかし、リドカインにおいては骨型と異なり、プリロカインと同様に低濃 度で活性がやや増大したのち、より高濃度では低下した。ジブカインある山ヽはテトラ カインでは、骨型と同様に、活性は抑制されなかった。

5.小 腸 型アル カリ性ホ スファタ ーゼ活性 のりドカイ ン依存性 に対するSDSの作用   骨型と小腸 型ALP活性の りドカイ ンによる 抑制の濃 度依存性に違いが認められた が、 両ALP活 性 のALP阻 害 剤に 対 す る反 応性に ついても同 様の報告 があり、SDS存 在下では小腸型の反応性が骨型に変化したと報告されている。そこで、小腸型の活性 測定の際にSDSを添加す ることに より、リ ドカイン による抑 制の濃度依存性が骨型

54 ‑

(3)

  

に変 化す るか 否か を検 討す るた め、

0.5

お よぴ

10

SDS

存 在下 で、小腸型ALP活性

  

のり ドカ イン の濃 度依 存性 を調 べた。その結果、SDS存在下でも、小腸型ALP活性

  

抑制 のり ドカ イン 濃度 依存 性は

SDS

非存在下と変わらず、骨型ALPの場合とは異な

  

っていた。

  

【結語】

  1.

局 所麻 酔薬 は臨 床使 用濃 度の 範囲で、骨芽細胞のCa‑およぴMg‑ATPase活性を抑

  

制した。またりドカイン、プロカインとプリロカインはアルカリ性ホスファターゼ活

  

性も抑制したことから、骨代謝に対する安全性の検討をさらに進める必要が示唆され

  

た。

  2.

アルカリ性ホスファターゼの阻害は各局所麻酔薬に共通したものではなく、また、

  

リ ド カ イ ン 以 外 で は 骨 型 と 小 腸 型 に よ る 作 用 の 違 い も 見 ら れ な か っ た 。

  3. Na

,K−ATPaseに対する作用との比較から、CaーおよびMg−ATPaseに対する局所麻

  

酔 薬 の 作 用 は 、 基 本 的 に は 形 質 膜 に 対 す る 作 用 で あ る と 推 定 さ れ た 。

  4.

そ の 結 果 と し て 、

Mg‑ATPase

活 性 の

Mg

に対 する 親和 性が減 少し 、Ca−お よび

  Mg‑ATPase

活 性 の

ATP

に 対 す る 親 和 性 を 前 者 で 低 下 、 後 者 で 増 加 さ せ た 。

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(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

骨芽細胞由来酵素に対する局所麻酔薬の作用

  審査は、審査員全員の出席の下に行った。まず、学位申請者に対して提出論文の内 容の説明を求め、さらに、研究内容とそれに関連した知識について口頭試問を行った。

学位申請者からは以下の内容の論述がなされた。

  骨芽細胞が有する酵素活性に対する各種局所麻酔薬の作用を調べることを研究目的 とした。対象は、骨芽細胞様細胞株であるMC3T3―E1細胞のミクロソーム分画に存在 するCa (Ca‑ATPase)およびMg (MgーATPase)依存性のAI`Pase活性と、ヒト骨由来 のアルカリ性ホスファターゼ(骨型ALP)活性とした。骨型ALPとの比較のために、

ヒト 小腸由来 (小腸型ALP)のALP活性に対 する作用も調べた。麻酔薬はりドカイ ン 、 プ リ ロ カ イ ン 、 ジ ブ カ イ ン 、 プ ロ カ イ ン 、 テ ト ラ カ イ ン を 用 い た 。   各麻酔薬は臨床使用濃度の範囲で、その濃度に依存してCa−およぴMg‑ATPase活 性を抑制した。各麻酔薬の両ATPase活性抑制の強さの順序は、臨床的に推定されて いる各麻酔薬の作用あるいは毒性の強さの順序にほば一致していた。以前に報告され たNa,KーATPaseの場合も同様の傾向を示すことから、細胞の形質膜に対する局所麻酔 薬の作用の結果として、これらの酵素が抑制される可能性がある。局所麻酔薬は、

Mg‑ATPase活性のMgに対する親和性を減少させ、Ca‑およびMg−AI`Pase活性のATP に対する親和性を前者で低下、後者で増加させた。

  リドカイン、プロカインおよぴプリロカインは骨型ALP活性を抑制したが、ジブ カインとテトラカインは抑制せず、骨型ALP活性の抑制は、局所麻酔薬に共通した 作用ではなかった。また、リドカイン以外の局所麻酔薬の作用は、小腸型ALPの場 合も骨型と同様であった。

  以上 の結果の ように、局所麻酔薬は骨芽細胞のCaおよびMg依存性のATPase活性 を抑制し、リドカイン、プロカインおよびプリロカインは骨型ALP活性も抑制する こ と か ら 、 骨 代 謝 に 対 す る 安 全 性 の 検 討 を さ ら に 進 め る 必 要 が あ る 。

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(5)

  申 請 者 に 対 す る 口 頭 試 問 お よ び 討 論 の 内 容 は 以 下 の 通 り で あ る 。

(1)本 研究 結果を 直接 臨床 と結 びっ けて 考え るこ とが 出来るのか、について   本研究結果をそのまま臨床における局所麻酔薬の危険性に結びっけることは意図し ていない。しかし、骨代謝に対する局所麻酔薬の有害作用などが見られた際には、本 研究結果は重要な情報になると考えられる。結果をより有用なものにするためには、

Ca−およぴMg―ATPase活性抑制の可逆性や経時的変化、および、より臨床に近い実験 系での検討が必要であると考えている。

(2)本研究結果を踏まえた上での、臨床上での局所麻酔薬使用の注意点について   各種局所麻酔薬が、臨床濃度で骨芽細胞に存在するCaーあるいはMg‑ATPase活性を 抑制することは事実であり、軽視できない可能性もある。骨代謝が盛んな小児に対す る局 所麻 酔薬 の使 用に おい ては、念頭に置いて注意する必要があると考える。

(3)局所麻酔薬による低濃度でのALP活性の増大について

  その原因については不明であるが、ビスフオスフォネートのALP活性に対する作用 においても同様の現象が見られる。局所麻酔薬の細胞膜に対する作用に関係する可能 性もある。

(4)ALPの一般的な性質について

  ALPは骨芽細胞のマーカー酵素とされ、骨芽細胞の分化、あるいは硬組織形成の指 標として測定されることが多い。ヒトのALPには、骨型を含む臓器非特異型、小腸型、

胎盤型、類胎盤型のアイソザイムが知られている。ALPは発見から約100年の歴史が あ る も の の 、 い ま だ に不 明 た 点 が 多 い 酵 素 で あ る こ と な ど が 述 べ ら れた 。

(5)今後の研究の展開と将来の展望について

  今後の展開としては局所麻酔薬を臨床で使用した状態により近づけた研究、すなわ ち経時的な変化や吸収といった視点からの実験を進めていきたい。また、本研究に使 用した骨芽細胞に存在するCa―あるいはMg−ATPaseは、最近酵素活性の測定が可能に なった酵素であることから、プロポフオール等、全身麻酔薬の作用も検討したいと展 望が述べられた。

  これらの質問に対して、申請者は適切かつ明快な回答を行い。研究の立案と実行、

結果の収集とその評価について十分な能カがあることが理解された。また関連分野に 関しても広範な知識を有し、今後ますます研究を発展させていく可能性が高いと判断 された。以上のことから申請者の学識は博士(歯学)に値するものと判断し、主査並 びに副査は合格と判断した。

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参照

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