博 士 ( 獣 医 学 )Mohamed Mohamed Soliman 学位論文題名
Leptinln ruminants: effects of endotoxin, cytokines and parturition
( 反芻家畜におけるレプチンの血中動態に関する研究:
細菌内毒素および炎症性サイトカインと妊娠・出産の影響)
学位論文内容の要旨
レプチンは脂肪細胞から血中に分泌される16KDaの蛋白質で、全身の栄養 状態を反映するシグナル分子として脳視床下部に作用し、摂食を抑制すると同 時にエネルギー消費を亢進させる。このようなエネルギー代謝の調節作用に加 えて、レプチンは、性腺機能や免疫機能に対しても様々な修飾効果を持つこと が明らかになりつっある。
レプチンの合成分泌や血中濃度は様々な因子によって調節される。例えば、
摂食、インスリン、脂肪細胞におけるグルコース利用亢進はレプチンの分泌を 促進し、絶食は抑制する。また細菌内毒素(LPS)や炎症性サイトカイン、ス卜 レスホルモンであるエピネフリンやグルココルチコイドもレプチン分泌に影響 を与える。さらに最近、胎盤や乳腺でもレプチンが産生されることが見いださ れ 、 妊 娠 期 や分 娩 時 の 血 中 レ プ チ ン 動 態に 関 与 す る と 云 われ ている 。 このようなレプチンに関する従来までの知見は、主にヒトや齧歯類で明らか にされたものであり、反芻家畜での血中レプチン動態やその調節機構について は、レプチン血中濃度と体脂肪量の相関関係以外には、不明な点が多い。反芻 家畜は摂食様式やエネルギー基質の種類などでヒトや齧歯類と大きく異なって おり、レプチン動態についても他の種とは異なることが予想される。そこで本 学位論文では、ウシとヒツジの血中レプチンについて、LPSと炎症性サイトカ インの影響および性周期、妊娠、出産での動態を調ベ、炎症時に見られる食欲 の減退や周産期疾患との関連について考察した。
最初に反芻家畜におけるレプチンの構造と発現を確認するために、ウシレプ チ ン のcDNAをク 口 ー ニ ン グ し 、RT‑PCR法に よ る レ プ チ ンmRNAの組織 分 布を調べた。ウシレプチンmRNAは脂肪組織と乳腺組織で発現が確認された が、他の組織では発現がみられなかった。またク口ーニングしたcDNAのヌク
レ オチド配列とその発現組換え体の分析から、ウシレプチンは16kDaのタン パクであることが確認された。さらに、ウシとヒツジのレプチンを検出するこ とが可能なRIAキットを用いて、ウシにおける絶食の影響について調べたとこ ろ、齧歯類やヒトと同様に血中レプチン濃度が低下した。これらの結果から、
ウシレプチンも他の動物種と同様の構造を持っており、栄養状態に応じて血中 レペルが変化することが確認出来た。
次に、ウシおよびヒツジの静脈内にLPSを投与して、経時的にレプチンや関 連する血中成分の濃度変化を調べた。LPSを投与すると顕著な食欲減退や発熱 が見られたが、血中レプチン濃度は24時間にわたってほとんど変化しなかっ た。この時、コーチゾルやグルコース、インスリンなどの血中濃度は他動物種 で報告されているのと同様の顕著な変化を示した。また炎症性サイトカインで ある腫瘍壊死因子(TNF‑a)やインターフェ口ンYをウシに投与した場合にも、
ACTHとコーチゾルの血中濃度が上昇し、グルコース、遊離脂肪酸、インスリ ンも著変し、急性相夕ンバク質であるhaptoglobinの血中濃度も増加したが、
血中レプチン濃度は全く影響を受けなかった。これらの結果により、ヒトや齧 歯類での知見と異なり、反芻動物では、インスリンや炎症性サイ卜カインはレ プチン分泌に対する作用を持たないことが示唆された。同時に、反芻類におい て はLPS炎症時に見られる食欲減退にレプチンの関与は少ないと結論した。
さらにウシの性周期あるいは妊娠と血中レプチン濃度の関係についても調べ た。妊娠及び非妊娠牛から50日間にわたって採血し、血中レプチン濃度を調 べたところ、非妊娠牛では若干の日間変動はあるものの、LHサージに代表さ れるような性周期と関連した変化は見られなかった。また、初期妊娠牛につい ても、個体間の差異があるものの一定の傾向は認められなかった。次に周産期 における変化も調べたところ、出産直前に血中コーチゾルとグルコース濃度の 上昇が観察されたが、レプチン濃度はほとんど変動をしなかった。また各個体 の平均レプチン濃度は出産回数や乳房炎・乳熱の発生とも関係しなかった。
以上の結果から、ウシやヒツジの血中レプチンは、ヒトや齧歯類とは異なり、
反芻動物固有の機構で調節を受けており、LPSや炎症性サイトカインあるいは 性 周 期 、 妊 娠 や 出 産に 関 わ るホ ル モン に は影 響 され な いと 結 諭し た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
斉藤 葉原 大橋 木村
昌之 芳昭 和彦 和弘
学 位 論 文 題 名
Leptinln ruminants: effeCtSOfendotOXin, CytokineSandparturition
( 反 芻 家 畜 に お け る レ プ チ ン の 血 中 動 態 に 関 す る 研 究 : 細 菌 内 毒 素 お よ び 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン と 妊 娠 ・ 出 産 の 影 響 )
レ プ チ ン は 脂 肪 細 胞 か ら 血 中 に 分 泌 さ れ る16KDaの 蛋 白 質 で 、 全 身 の 栄 養 状 態 を 反 映 す る シ グ ナ ル 分 子 と し て 脳 視 床 下 部 に 作 用 し 、 摂 食 を 抑 制 す る と 同 時 に ェ ネ ル ギ ー 消 費 を 亢 進 さ せ る 。 レ プ チ ン の 合 成 分 泌 や 血 中 濃 度 は 、 体 脂 肪 量 、 食 餌 、 イ ン ス リ ン 、 細 菌 内 毒 素(LPS)、 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン 、 グ ル コ コ ル チ コ イ ド 、 カ テ コ ラ ミ ン な ど 、 多 く の 因 子 に よ っ て 影 響 さ れ る 。 さ ら に 胎 盤 や 乳 腺 で も レ プ チ ン が 産 生 さ れ る こ と が 見 い だ さ れ 、 妊 娠 期 や 分 娩 時 の 血 中 レ プ チ ン 動 態 に 関 与 す る と 云 わ れ て い る 。 こ の よ う な レ プ チ ン に 関 す る 従 来 ま で の 知 見 は 、 主 に ヒ 卜 や 齧 歯 類 で 明 ら か に さ れ た も の で あ り 、 反 芻 家 畜 で の 血 中 レ プ チ ン 動 態 や そ の 調 節 機 構 に つ い て は 、 レ プ チ ン 血 中 濃 度 と 体 脂 肪 量 の 相 関 関 係 以 外 に は 、 不 明 な 点 が 多 い 。 反 芻 家 畜 は 摂 食 様 式 や ェ ネ ル ギ ー 基 質 の 種 類 な ど で ヒ ト や 齧 歯 類 と 大 き く 異 な っ て お り 、 レ プ チ ン 動 態 に つ い て も 他 の 種 と は 異 な る こ と が 予 想 さ れ る 。 そ こ で 本 学 位 論 文 で は 、 ウ シ と ヒ ツ ジ の 血 中 レ プ チ ン に つ い て 、LPSと 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン の 影 響 お よ び 性 周 期 、 妊 娠 、 出 産 で の 動 態 を 調 ベ 、 炎 症 時 に 見 ら れ る 食 欲 の 減 退 や 周 産 期 疾 患 と の 関 連 に つ い て 考 察 し た 。
最 初 に 反 芻 家 畜 に お け る レ プ チ ン の 構 造 と 発 現 を 確 認 す る た め に 、 ウ シ レ プ チ ン の cDNAを ク 口 ー ニ ン グ し 、RT‑PCR法 に よ る レ プ チ ンmRNAの 組 織 分 布 を 調 べ た 。 ウ シ レ プ チ ンmRNAは 脂 肪 組 織 と 乳 腺 組 織 で 発 現 が 見 ら れ た が 、 他 の 組 織 で は 発 現 が み ら れ な か っ た 。 ま た ク 口 ー ニ ン グ し たcDNAの ヌ ク レ オ チ ド 配 列 と そ の 発 現 組 換 え 体 の 分 析 か ら 、 ウ シ レ プ チ ン は16kDaの 蛋 白 質 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 さ ら に 、 ウ シ と ヒ ツ ジ
のレプチン を検出することが可能なradioimmunoassay法を用いて、絶食の影響につい て調べたところ、齧歯類やヒトと同様に血中レプチン濃度が低下した。これらの結果から、
ウシレプチンも他の動物種と同様の構造を持っており、栄養状態に応じて血中レベルが変 化することが確認出来た。
次に、ウシおよびヒツジの静脈内にLPSを投与して、経時的にレプチンや関連する血 中成分の濃度変化を調べた。LPSを投与すると顕著な食欲減退や発熱が見られたが、血中 レプチン濃度は12時間にわたってほとんど変化しなかった。この時、コーチゾルやグル コース、インスリンなどの血中濃度は他動物種で報告されているのと同様の顕著な変化を 示した。また炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(NNFーめやインターフェ口ンYをウ シに投与し た場合にも、ACIHとコーチゾルの血中濃度が上昇し、グルコース、遊離脂 肪酸、インスリンも著変したが、血中レプチン濃度は全く影響を受けなかった。これらの 結果により、ヒトや齧歯類と異なり、反芻動物では、インスリンや炎症性サイトカインは レプチン分泌に対する作用を持たないことが示唆された。同時に、反芻類においてはIPS 炎症時の食欲減退にレプチンの関与は少ないと結論した。
さらにウシの性周期あるいは妊娠と血中レプチン濃度の関係についても調べた。妊娠及 び非妊娠牛から50日間にわたって採血し、血中レプチン濃度を測定したところ、非妊娠 牛では若干の日間変動はあるものの、性周期と関連した変化は見られなかっだ。また、初 期妊娠牛についても、個体間の差異があるものの一定の傾向は認められなかった。次に周 産期における変化も調べたところ、出産直前に血中コーチゾルとグルコース濃度の上昇が 観察されたが、レプチン濃度はほとんど変動をしなかった。また各個体の平均レプチン濃 度は出産回数や乳房炎・乳熱の発生とも関係しなかった。
以上の結果から、ウシやヒツジの血中レプチンは、ヒトや齧歯類とは異なり、反芻動物 固有の機構で調節を受けており、LPSや炎症性サイトカインあるいは性周期、妊娠や出産 に関わるホルモンには影響されないと結論した。これらの知見は、反芻動物の生理学の発 展 に寄 与 する も ので あ る。 よ って 、 審査 員 一 同は 、 上記 学 位論 文 提出 者Mohamed Mohamed Soliman氏が博士.(獣医学)の学位を授与されるに十分の資格を有すると認 めた。