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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

学 位 論 文 題 名

博 士 ( 医 学 ) 吉 岡    文

Excessive neutrophil elastase in bronchoalveolar lavage     fluid in subclinical emphysema

    ( 無 症 候 性 肺 気 腫 に お け る 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 中 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ の 増 加 )

学位論文内容の要旨

研究目 的

  肺気 腫は 、ほ とん どが 中 高年 以上 の喫 煙者 に発 症す る疾患で、肺の弾性収縮カを 担 う肺 胞壁 エラ スチ ン線 維 の不 可逆 的破 壊を 特徴 とす る。しかし、臨床的には重喫 煙 者の 一部 にし か肺 気腫 を 発症 しな いこ とか ら、 喫煙 に刔する個体の感受性が注目 さ れる 。そ こで 、本 研究 は 従来 の報 告と は異 なる アプ ローチによってこの喫煙感受 性 因子 の一 端を 明ら かに し よう と試 みた 。多 くの 自覚 症状のない中高年ポランテイ ア の 中 か ら 、 肺CT検 査 に よ っ て臨 床的 肺気 腫発 症前 の気 腫病 変を 有す る被 験者 を 選 び出 し、 同程 度の 喫煙 歴 があ りな がら 気腫 病変 のな い被験者や非喫煙者と比較す る こと によ り、 単に 喫煙 刺 激に 対す る生 体反 応を 見る ばかりでなく、より直接的に 気 腫化 に関 与す る機 序を 検 索し た。 本研 究で は多 種類 のプロテアーゼのうちエラス チ ン線 維分 解能 が最 も強 カ であ る好 中球 エラ スタ ーゼ に着目した。そして血液や尿 よ りも 肺局 所の 状況 をよ り 良く 反映 しう る気 管支 肺胞 洗浄液(BALF)を検体とし、そ こ に見 られ る好 中球 エラ ス ター ゼと その 関連 因子 の個 体差が、気腫化に関する喫煙 感 受性 を反 映し てい る可 能 性に つい て検 討し た。

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対 象と方 法

  自 覚 症 状の な い 中高 年男性ボ ランテ イア39名( 平均年 齢63土10 SD歳)を 対象に同 意 を 得 た う え で 、 肺 高 解 像CT検 査 、 呼 吸 機 能 検 査、 採 血 、気 管 支 肺胞 洗 浄(BAL) を 行っ た 。 肺CTで の気 腫化の診 断は呼 吸器内科 医3名が独立 して、各 対象の 喫煙歴や 呼吸機能の情報を伏せて読影し、low attenuation area(以下LAAと略す)の有無で評価 し た 。3名 が 一 致 し て 肺 野 の 一 部 に で も 明 ら か にLAAが 存 在 す る と 評 価 し た 群 を LAA(十)群、それ以外の群をLAA(‑)群とした。またLAA(十)群についてはその気腫化の 程 度を 視 覚 的に グ レ ード1から5の5段階に分 類した 。現在の 喫煙習慣 と肺CTで の気腫 化の有無によりLAA(一)非喫煙者群(n〓13)、LAA(‑)喫煙者群(n〓13)、LAA(十)喫煙者群

(n〓10)の3群に分類した。LAA(十)の現在非喫煙者3名は小人数のため除外した。現在 の 喫煙 習 慣 を客 観 的 に裏 付 け るた め に 検査 当 日、 過去数 日間の喫 煙量を 反映する 血 漿 コチ ニ ン 濃度 を 測 定し た 。BALは 右肺 中 葉 で行 な い50mlの 生理 的 食 塩水 の注 入と 回 収を4回 繰り 返 し た。最 初の回 収液は肺 胞領域よ りも気 道の状況 を反映 するため 除 外し、 残り3回の回 収液を肺 胞分画B」`Ijとしその 非濃縮 上清を用 いた。BALFの好巾 球 エラ ス タ ーゼ 濃 度 を好中球 エラス ターゼ‑alーア ンチトリ プシン複 合体濃 度として ELISA法に て 測 定し た 。BALFの好 中 球 エラ ス タ ー ゼ抑 制 活 性を 好 中 球エ ラ スター ゼ に高感度の合成基質methoxysuccinyl‑alanyl‑alanyl―prolyl―valyl paranitroanilide  1 (MEOSAAPVNA)を 用い て 分 光光 度 法 によ り 測 定 した 。 ま た、 ロ1‐ア ン チ トリ プシン は 好中 球 エ ラス タ ー ゼの 作 用 を受 け て それ と 結合 したり 分解され たりす ることを 踏 ま えて 、BALF中 のロ1‐ アン チ ト リプ シ ン の分 子 量の違い による存 在様式 をWestern blot法により調べた。

結果

  対 象は 全員 明らかな 感染、 炎症所見 、胸部 疾患は認 められ なかった 。LAA(‑)非喫 煙 者群、LAA(‑)喫煙者群 、LAA( 十)喫 煙者群の3群間で年齢には差がなかった。喫煙

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者 群2群 間 で は 累 積 喫 煙 量と 血漿 コチ ニン 濃度 のい ずれ につ いて も差 はな かっ た 。 しへA(十)喫煙者群の気腫化の程度は全員グレード2未満の軽度であった。BALFの総細 胞 数は 喫煙 者の2群 とも 非喫 煙 者群 に比 ベ多 かっ たが、喫煙者内では 両群間で差はな か っ た 。 マ ク ロ フ ァ ー ジと 好中 球の 比率 は3群 間で 差が なか った 。BALFの 好中 球 エ ラ スタ ーゼ‑a,−ア ンチ トリ プ シン 複合 体濃 度はLAAり喫 煙 者群 では 、非 喫煙 者群よ り 有 意 に 高 値 で あ る の みな らず(0.52土0.10 vs 0.21土0.03 SE }ighng albumin, pく0.01) 、 同 程 度 の 喫 煙歴 をも つLAA(‑)喫煙 者群 と比 べて も有 意に 高値 を示 し た   (0.52土0.10 vs 0.23土0.07 SE yg/mg albumin,pく0.01)。BALFの好中球エラスター ゼ 抑制 活性 はLAA( り喫 煙者 群 では 非喫 煙者 群よ り高値の傾向が見ら れたが(1.43士 0.25 vs 0.89土0.09 SE nmol/mg albumin,p=0.06)、LAA(‑)喫煙者群と比べると有意な 差 がな かっ た。Westem blot法でみたBALF中のロ1‐アンチトリプシン は54kDの固有の 分 子量 に加 えて 分解 され た低 分子 量の 存在 様式 も確 認されたがその出現頻度は3群問 で差がなかった。

考案

  肺 気腫 の外 因と して 最も 重要 なも のは 喫煙 であ る 。喫 煙に より 肺内 に集まった炎 症細 胞か ら放 出さ れる 種々 のプ ロテ アー ゼな どの 攻 撃因 子が 、生 体の 緻密な防御機 能を 上ま わる とき に不 可逆 的な 肺の 破壊 が進 行し 肺 気腫 発症 に至 ると 考えられてい る。 本研 究は 、自 覚症状のない中高年ボランテイ アを対象としたことに特徴がある。

肺気 腫患 者を 対象 にす る場 合、 気管 支肺 胞洗 浄の 回 収率 も悪 く加 えて 気道感染の影 響 を 無 視 で き な い 。 肺 高 分 解 能CTス キ ャ ン で軽 度の 気腫 病変 をと らえ るこ とに よ り気 腫化 の生 成過 程を 反映 する 因子 を明 らか にし よ うと した 。BALFは 生体内の肺胞 被覆 液が 希釈 され 回収 され たも ので あり 、そ の成 分 は肺 胞の 炎症 や破 壊、再構築の 状況 を間 接的 に反 映し てい る。 攻撃 因子 とし て肺 内 の炎 症細 胞か ら放 出されるプロ テア ーゼ には セ1Jン、 メタ ロ、 シス テイ ンプ ロテ ア ーゼ 等が ある がこ れらの中で肺 胞壁 エラ スチ ン線 維を 最も 強カ に分 解す るの は好 中 球エ ラス ター ゼで ある。好中球

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エラスターゼは BALF 中ではそれより過剰に存在する阻害物質al ‐アンチト1J プシン と常に複合体を形成しているため、 BALF の好中球エラスターゼ‑dl ・アンチトリプシ ン複合体の濃度は、炎症細胞から放出された好中球エラスターゼの総量を反映して いる。今回の研究結果では、同程度の喫煙暴露を受けている者の中で気腫病変のあ る群で|まない群と比べて、BALF の炎症細胞数には差がないのに放出された好中球エ ラスターゼの総量は高値を示した。この結果は、気腫病変のある群では炎症細胞か らの好中球エラスターゼ放出能が亢進していることを示唆している。一方、BALF の 好中球エラスターゼ抑制活性は、防御因子であるa1 ・アンチトリプシン等の蛋白分解 酵素阻害物質の活性を表している。この活性の低いことが肺気腫を起こしやすくす るとの考え方もあるが、本研究の結果ではこの活性は喫煙者全体で高い傾向はあっ たが、その中において気腫病変のある群を特徴づける因子ではなかった。また、

BALF 中の好中球エラスターゼ量が高値の群では、ロ1 ‐アンチトリプシンが好中球エ ラスターゼ自身によって小分子量により多く分解されている可能性も予測されたが、

Western blot 法 で は そ の 群 に 特 徴 的 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た 。

   中高年ボランテイアにおいて、BALF 中の好中球エラスターゼ量は同じ喫煙歴を持 ちながら気腫病変のある群ではない群に比べて有意に高かった。従って、好中球エ ラス ターゼは肺の気腫化に関する喫煙感受性を説明するひとつの因子である。

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(5)

学位論文審査の要旨 主査    教授    川 上義和 副査   教授   細川真澄男 副査    教授    小 山富康

学 位 論 文 題 名

Excessive neutrophil elastase in bronchoalveolar lavage     fluid in subclinical emphysema

     (無症候性肺気腫における気管支肺胞洗浄液中好中球エラスターゼの増加)

目 的 と 方 法 : 肺 気 腫 は 、 ほ と ん ど が 中 高 年 以 上 の 喫 煙 者 に 発 症 す る 疾 患 で 、 喫 煙 に よ り 肺 内 の エ ラ ス タ ー ゼ ・ ア ン チ エ ラ ス タ ー ゼ 不 均 衡 が 引 き 起 こ さ れ 、 肺 の 弾 性 線 維

( エ ラ ス チ ン ) の 不 可 逆 的 破 壊 を き た し た 結 果 起 こ る 疾 患 で あ る 。 し か し 、 臨 床 的 に は 重 喫 煙 者 の 一 部 に し か 肺 気 腫 を 発 症 し な い こ と か ら 、 喫 煙 に 対 す る 感 受 性 の 個 体 差 が 注 目 さ れ る 。 本 研 究 は 多 く の 自 覚 症 状 の な い 中 高 年 ボ ラ ン テ イ ア の 中 か ら 、 肺CT 検 査 に よ っ て 臨 床 的 肺 気 腫 発 症 前 の 早 期 の 気 腫 病 変 を 有 す る 被 験 者 を 選 ぴ 出 し 、 同 程 度 の 喫 煙 歴 が あ り な が ら 同 検 査 で 気 腫 病 変 の な い 被 験 者 や 非 喫 煙 者 と 比 較 す る こ と に よ り 、 単 に 喫 煙 刺 激 に 対 す る 生 体 反 応 を 見 る ば か り で な く 、 よ り 直 接 的 な 気 腫 化 の 機 序 で あ る 喫 煙 感 受 性 に つ い て 検 索 し た 。 本 研 究 で は 肺 内 の 炎 症 細 胞 か ら 放 出 さ れ る 種 々 の プ ロ テ ア ー ゼ の う ち エ ラ ス チ ン 分 解 能 が 最 も 強 カ な 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ に 着 目 し た 。 検 体 は 血 液 や 尿 よ り も 肺 局 所 の 状 況 を よ り 良 く 反 映 す る 気 管 支 肺 胞 洗 浄 液(BALF)を 用 い 、 そ の 中 の 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ と そ の 関 連 因 子 の 個 体 差 が 、 気 腫 化 に 関 す る 喫 煙 感 受 性 を 反 映 す る か 否 か を 検 討 し た 。 対 象 は 自 覚 症 状 の な い 中 高 年 男 性 ボ ラ ン テ イ ア36 名 ( 平 均 年 齢63土10 SD歳 ) 。 肺 高 分 解 能CT、 呼 吸 機 能 検 査 、 血 液 検 査 、 気 管 支 肺 胞 洗 浄(BAL)を 施 行 し だ 。 肺CTで の 気 腫 化 の 診 断 は 呼 吸 器 内 科 医3名 が 独 立 し て 、 各 対 象 の 喫 煙 歴 や 呼 吸 機 能 の 情 報 を 伏 せ て 読 影 し 、 気 腫 病変low attenuation・areaの有 無 で評 価 し た 。 対 象 を 現 在 の 喫 煙 習 慣 と 肺CTで の 気 腫 病 変 の 有 無 に よ っ て 、 非 喫 煙 者 の 気 腫 病 変 な し 群 (n=13) と 、 喫 煙 者 の 気 腫 病 変 な し 群 (n=13) 、 喫 煙 者 の 気 腫 病変 あ り群

(n=10) の3群 に 分 類 し た 。 血 液 検 査 で は 全 て の 対 象 に 炎 症 所 見 、 ロ1‑ア ン チ ト リ プ シ ン 欠 損 症 が み ら れ な い こ と を 確 認 し 、 検 査 数 日 前 か ら の 喫 煙 暴 露 量 の 客 観 的 評 価 の た め ニ コ チ ン の 代 謝 産 物 で あ る コ チ ニ ン の 濃 度 を 測 定 し た 。BALは 、 右 肺 中 葉 を 生 理 的 食 塩 水50mlず つ で4回 洗 浄 し 、 最 初 の 回 収 液 は 気 道 の 状 況 を 反 映 す る た め 除 外 し 、 後 半3回 の 回 収 液 を よ り 肺 胞 成 分 を 反 映 す る 分 画 と し て そ の 上 清 を 測 定 に 用 い た 。 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ の 量 を 、 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ ・ ば1− ア ン チ ト リ プ シ ン 複 合 体 の 量 と し てsandwich ELISA法 で 測 定 し 、 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ 抑 制 能 を 、 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ 試 薬とこの酵素に高 感度の合成基質methoxysuccinyl‑alanyトalanyl―prolyl‑valyl paranitroanilide

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(MEOSAAPVNA) を用 いて 吸光光度法で測定した。また肺内での好中球エラスターゼ の量や活性を反映して、a1 −アンチトリプシンの分子が好中球エラスターゼとの複合 体を形成したり分解されたりすることを踏まえて、ば1 ‐アンチトリプシンの存在様式 をWestem blot 法で調べた。

結果:年齢と血漿al ‐アンチトリプシン濃度は3 群間で差はなかった。喫煙者2 群間で 喫煙指数と血漿コチニン濃度に差はなかった。 BALF の総細胞数は喫煙者の 2 群とも非 喫煙者群に比べ多かったが、喫煙者内では2 群間に差はなかった。マクロファージと 好中球の比率は3 群間で差がなかった。BALF 中の好中球エラスターゼ‑al ‐アンチトリ プシン複合体濃度は気腫病変ありの喫煙者群では、非喫煙者群に対してばかりではな く、同程度の喫煙歴をもつ気腫病変なしの喫煙者群と比べても有意に高値を示した。

BALF 中の好中球エラスターゼ抑制能は 3 群間で有意差がなかった。Westem blot 法でみ たB 」6 心中のa .1 ‐アンチトリプシンは54m の固有の分子量に加えて分解された低分子 量の存在様式も確認されたがその出現頻度とdensitometer でみたそれぞれのバンドのa 1 ‐アンチトリプシン量は3 群間で差がなかった。

結語:BALF 中の好中球エラスターゼ量は肺の気腫化に関する喫煙感受性を反映する ひとつの因子である。

口頭発表にあたり、細川教授より喫煙者及び早期肺気腫の予後、好中球エラスターゼ 量の個体差を規定している因子に関して、小山教授より好中球エラスターゼ量と炎症 の関係、対象の集め方に関してそれぞれ質問があった。申請者は概ね妥当に答えたと 思う。

また、細川教授、小山教授より個別に審査を受け、合格との御返事をいただいている。

本論文は、B 触J 中の好中球エラスターゼ量は、喫煙暴露に対する反応を反映してい る、のではなく、肺気腫発症の内因としての喫煙感受性の一部を反映することを初めて 報告した。臨床的にも肺気腫の素因の一端を明らかにする意義ある研究と思われる。

よって本論文は博士(医学)に相当するものと認めた。

参照

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