あらまし テラヘルツ量子カスケードレーザ(THz-QCL) は超小型,高出力,連続動作可能という特長を有 することから実用型のテラヘルツ光源として期待されている.巨大な縦光学フォノンエネルギーを有するIII 族 窒化物半導体はTHz-QCL における未踏周波数領域 5-12THz 帯の発振が可能になる材料として期待されてい る.しかし,GaN 系 THz-QCL は内部電場の存在に起因する活性領域のバンド構造設計の難しさから,これま でレーザ発振に至っていなかった.本研究では,狙ったサブバンド準位間からのレーザ発振を実現することを目 的として,発振に関わる準位数を最小の三つに限定した量子構造(純粋 3 準位レーザ構造) をもつ THz-QCL の 提案,設計,作製を行った.純粋3 準位レーザ構造は 1 周期当たり二つの量子井戸からなる構造とし,間接注入 機構と対角遷移発光機構を利用することで十分な反転分布が得られるように設計した.その結果,設計周波数と ほぼ同じ周波数にあたる5.5 及び 7.0THz からのレーザ発振動作が実現できた.また,これら発振周波数はこれ までの未開拓周波数帯に位置しており今回新しい周波数領域を切り開くことに成功した. キーワード III 族窒化物半導体,テラヘルツ,量子カスケードレーザ,レーザ発振
1.
ま え が き
光と電波の境界領域に位置するテラヘルツ
(THz)
光
(
周波数:
0.3–30THz
,波長:
1mm–10μm,
エネル
ギー:
1.2–120meV)
は,紙,プラスチック,半導体,
骨など様々な物質に対して「高い透過性をもつ」こと,
比較的「高い空間分解能で分光が可能である」こと,
テラヘルツ帯に「物質固有の吸収スペクトルが存在す
る」こと,エネルギーが十分小さく「人体に安全」と
いった特徴を有していることから,化学物質・構造等
を非破壊かつ安全に検出できる光源として注目されて
いる.その応用は広範に亘り,病理組成診断,医薬品・
DNA
検査,危険薬物・爆発物所持検査等,医療,バ
イオ,セキュリティ等,様々な分野での応用展開が期
待されている
[1]
∼
[4]
.また,テラヘルツ光は現行の
無線通信周波数に対して
1000
倍程度高い周波数であ
るため,次世代の超高速・大容量近距離無線通信の光
†国立研究開発法人理化学研究所,和光市RIKEN, Quantum Optodevice Laboratory, 2–1 Hirosawa, Wako-shi, 351–0198 Japan
††国立研究開発法人理化学研究所,仙台市
RIKEN, Terahertz Quantum Device Laboratory, 519–1399 Aoba, Aramaki, Aoba-ku, Sendai-shi, 980–0845 Japan a) E-mail: [email protected]
源としても期待されている
[5]
.
量子カスケードレーザ
(QCL)
は半導体サブバンド
準位間の光学遷移を利用したレーザで,ワット級の高
出力でテラヘルツ帯の光を出すことのできる唯一の
半導体光源である
[6]
.また,
THz-QCL
は超小型,連
続動作可能,狭線幅,高耐久,安価といった特長をも
つことからも,将来の実用型テラヘルツ光源として
期待されている.
THz-QCL
は
2002
年に
R. K¨ohler
et al.
によって初めて実現された
[7]
.それ以来
GaAs
系化合物半導体材料を用いた
THz-QCL
は目覚まし
い進展を遂げてきた.図
1
に現在までに報告された
THz-QCL
の動作周波数と温度をプロットした図を示
す.これまでに発振周波数範囲は
1.2–5.2THz
まで広
がり
[8], [9]
,動作温度は連続動作で
117K [10]
,パル
ス動作で
199.5K [11]
まで上昇した.しかし,動作温
度は実用性・操作性の観点から室温以上での動作が求
められている.また,
1THz
以下及び
5–12THz [12]
周波数帯は現在も未開拓の状態であり,応用展開の広
がりの観点から更なる周波数範囲の拡張が望まれてい
る.しかし現行で用いられている
GaAs
系材料はその
縦光学
(LO)
フォノンエネルギーが
36meV
と,周波
数にして
9THz
であり,その周波数近傍から電子
–LO
フォノン散乱による光の強い吸収が起こるため,
GaAs
図 1 THz-QCLの発振周波数と動作温度 Fig. 1 Current status of the relationship between
op-erating frequency and temperature of THz-QCLs.
系材料を用いた
THz-QCL
では
5–12THz
帯を実現す
るのは難しい.一方,
III
族窒化物半導体は,その
LO
フォノンエネルギーが
GaAs
系材料に比べ
3
倍程度大
きい
(>90meV)
ため
5–12THz
帯のレーザ発振が可能
となる
[13]
.また,巨大な
LO
フォノンエネルギーを
有していることで,熱活性化した電子の
LO
フォノン
散乱やキャリアのバックフィリング効果を抑制するこ
とができるため動作温度の高温化も期待できる
[14]
.
これまでに
GaN
系
THz-QCL
構造においてサブ
バンド間遷移
(ISBT)
を起源とする自然放出光
(1.4
,
2.8THz)
を観察することに成功している
[15]
.しかし
その発光周波数は本来狙っていた周波数ではなく異
なるサブバンド間準位からの発光遷移であった.これ
は
GaN
系量子カスケード構造
(QC)
が
1
周期当たり
四つの量子井戸からなる複雑な構造をとっていたこと
や,巨大な内部電場によって波動関数が意図せず非縮
退化してしまったことなど,活性領域内の波動関数を
適切に制御できていなかったことが原因であることが
分かった.そこで今回我々は,狙ったサブバンド準位
間からのレーザ発振を実現することを目的として,発
振に寄与する準位数が最小の三つとなる構造
(
純粋
3
準位レーザ構造
)
を考案し,量子設計,構造作製,及
び
THz-QCL
構造への電流注入測定を行った.
2.
純粋
3
準位レーザ構造の量子設計
量子カスケード
(QC)
構造
1
周期あたりの量子井
戸数を二つとし,発光に寄与する準位数をレーザ発振
に最低限必要な三つに限定した量子構造
(
純粋
3
準位
レーザ構造
)
の設計を行った.伝導帯の量子準位及び
図 2 純粋 3 準位レーザ構造を有する QC 構造のバンドプ ロファイルとその波動関数 [発光; 準位 3 (赤線)⇒ 2 (緑線),電子輸送; 準位 2⇒ 1 (青線), LO フォ ノン散乱引き抜き (電子注入); 準位 1⇒ 3’ (1’ ⇒ 3)]Fig. 2 Designed and fabricated conduction band pro-file and associated square wave functions for a 2QW-type GaN-based QC structure with a pure three-level system biased under an ex-ternal electric field of 100 kV/cm. [Emission; level 3 (red line)⇒ 2 (green line), Electron
transportation; level 2 ⇒ 1 (blue line), LO
phonon depopulation (Injection); 1⇒ 3’ (1’
⇒ 3)]
波動関数は包絡関数近似でシュレディンガー
–
ポワソ
ン方程式を解くことによって求めた.内部電場は周期
的境界条件を用いた.図
2
に設計した純粋
3
準位系
QC
構造の伝導帯バンドプロファイルとその波動関数
を示す.結晶方位は
c
軸とした.量子井戸に
GaN
,障
壁層に
Al
0.2Ga
0.8N
を用いた.層厚は図中点線枠左
から右に向かって
AlGaN
,
GaN
の順に
15 /60 /15
/40 ˚
A
とした.基本的な物性値は文献
[16]
の値を用い
た.発光準位は準位
3–2
間とし,期待される周波数は
5.37THz
であった.発光を介して準位
2
に来た電子は
電子
–
電子散乱過程を通じて準位
1
に輸送される.準
位
1
に来た電子は電子
–LO
フォノン散乱過程を通じて
共鳴的に準位
3’
に引き抜かれる機構とした.ここで,
準位
1–3’ (1’–3)
間の遷移は発光上位準位
3 (3’)
への
電子注入の役割も担っており,間接注入機構となって
いる.電子の
LO
フォノン散乱相互作用を発現させる
ために,準位
1–3’ (1’–3)
間の
ISBT
エネルギーは材
料の
LO
フォノンエネルギー
(
∼
90meV)
より大きな
値になるようにした
(
∼
120 meV)
.また,
LO
フォノ
ンによる電子の散乱速度は材料の
LO
フォノンエネル
ギー値で最大値をとる
(
共鳴フォノン散乱効果
)
ため,
電子をより高速で引く抜く
(
注入する
)
ために,材料
なりを極力小さくした対角遷移発光機構になるよう設
計している.
図
2
の量子構造において,レーザ発振に必要な反転
分布が形成されるかどうかを調べるためにレート方程
式
(
下記式
(1)
参照
)
を解き,各準位における電子密
度を求めた.ここで,
J
は電流密度,
τ
ab(a
,
b
は数
字
)
は準位
a
から
b
への電子の緩和時間を示している.
電子の散乱には,電子
–LO
フォノン散乱,電子
–
電子
散乱及び合金散乱,不純物散乱,界面ラフネス散乱
等,様々な散乱過程が考えられるが,先行する
GaAs
系
QCL
研究において,電子
–LO
フォノン散乱及び電
子
–
電子散乱が支配的であるという報告があり,また
レーザ発振を実現していることから,本研究において
も簡単のためにその二つの散乱のみを考慮して計算し
た
[7], [17], [18]
.
dn
3/dt = n
1/τ
13− n
3/τ
32(1-1)
dn
2/dt = n
3/τ
32+ n
1/τ
12− J/e
(1-2)
dn
1/dt = J/e − n
1/τ
13− n
1/τ
12(1-3)
表にレート方程式の解析結果を示す.準位
3
の電子密
度が準位
2
のそれより大きくなっていることから,本
量子設計で反転分布が形成されることを示した.
表 1 各サブバンド準位の電子密度解析結果 (温度 20 K, Ns = 6.4 x 1010cm−2)Table 1 Populations of the individual levels in the QC structure design shown in Fig. 1, calcu-lated frome-e and e-LO scattering with T
= 20 K and Ns= 6.4 x 1010cm−2.
成長したデバイス構造について述べる.基板にはサ
ファイア
(0001)
面上に
MOCVD
法によって成膜した
AlN/AlGaN
テンプレートを用いた.その上に,図
2
で示した
QC
構造を,
n+GaN
,
n+AlGaN
コンタク
ト層
(
∼
3 × 10
18cm
−3)
で挟んだ構造を
RF-MBE
法
で作製した.
QC
構造の周期数は
100
とした.
QC
構
造中の
60˚
A
厚の
GaN
量子井戸層に
1 × 10
18cm
−3の
Si
をドープした.
QC
構造成長の際には「熱処理によ
図 3 GaN系 THz-QCL 素子概略図 (上) とデバイス 像 (下)Fig. 3 Schematic of the overall GaN-based THz-QCL device structure (upper side) and a photo-graph of a sample mounted on a heat sink (lower side).
図 4 QC構造の x 線回折 (0002) 面 2θ–ω スキャンとシ
ミュレーションスペクトル
Fig. 4 HR-XRD 2θ-ω scan of the (0002) plane for the fabricated QC structure with the pure three-level system grown by RF-MBE and the sim-ulated spectrum.
る液滴除去
(DETA)
法」を用いた
[19]
.これは平衡蒸
気圧が
Ga (Al) > GaN (AlN)
である
[20]
ことを利
用し,熱のみによって余分な金属液滴をのみを蒸発さ
せる方法である.この方法を用いることで,従来の方
法
(
窒素照射法
)
に比べ,超格子の精確な膜厚制御や
多周期化,低転位化ができることが実証されている.
図
4
に作製した
QC
構造の
x
線回折
(XRD)(0002)
面
2θ-ω
測定とそのシミュレーション結果を示す.図に
示すように,良好な周期性をもつ層構造が成膜できて
いることを示す明瞭で鋭いサテライトピークを観察
した.また,シミュレーションスペクトルとの比較か
ら,
1
周期当たりの膜厚誤差が
1
原子層未満
(
膜厚誤
差
< 1%)
であることが分かり,ほぼ設計通りの構造
が作製できていることを確認した.その後,
Cl
系
ICP
ドライエッチングとフォトリソグラフィを用いて幅∼
120μm
のリッジストライプ構造を作製した.電極とし
て
Ti/Al/Ti/Au
を蒸着した.導波路構造は表面金属
プラズモン導波路型とした.サファイア基板を
150μm
厚まで薄膜化し,
1.14mm
の共振長で劈開した.
QCL
サンプルをヒートシンクに取り付け,金線でワイヤー
ボンディングしデバイスを完成させた
(
図
3
デバイス
像参照
)
.
3. 2 GaN
系
THz-QCL
からの初めてのレーザ
発振
上記
GaN
系
THz-QCL
サンプルを
4K
まで冷却可
能な
He
クライオスタットに取り付けパルス電流注入
を行った.サンプルからの放射をツルピカレンズで集
図 5 GaN系 THz-QCL 素子の各電流値における周波数 スペクトル (繰返し周波数: 528Hz,パルス: 200ns, 測定温度: 5.8K)Fig. 5 Frequency spectra at different values of cur-rent and voltage, measured using 200 ns-wide pulses with a repetition rate of 528 Hz at a temperature of 5.8 K, obtained from a QCL device with 60 ˚A thick GaN wells with Si dop-ing of 1 x 1018cm−3.
光し,フーリエ変換赤外分光光度計
(FT-IR)
を通して
4K-He Si
ボロメータで検出した.パルス電流条件は,
繰り返し周波数
528Hz
,パルス幅
200ns
とした.測定
温度は
5.8K
とした.図
5
に
GaN
系
THz-QCL
素子
の各電流ごとの周波数スペクトルを示す.
2.1A
以上
の電流値で測定分解能
(7.5GHz)
に近い半値幅をもつ
鋭い発振スペクトルを観察した.その発振ピーク周波
数は電流によってシフトし,
5.34THz
から
5.47THz
であった.発振周波数は設計の周波数
(5.37THz)
と
ほぼ同じ値であった.図
6
に電流密度
–
電圧,光出力
(I-VL)
特性を示す.しきい値電流密度は
1.75kA/cm
2であった.最高ピーク出力は∼
4μW
であった.我々の
研究室で作製している
GaAs
系
THz-QCL
における
光出力
(
おおむね
mW
オーダ
)
と比較すると,
1/1000
程度の出力に留まっているが,発光準位間の振動子強
度,周期数,デバイスサイズ等を考慮すると数
μW
オーダの出力は妥当な値である.また,発振が始まっ
図 6 GaN系 THz-QCL 素子の電流密度–電圧,光出力 特性 (繰返し周波数: 528Hz,パルス: 200ns,測定 温度: 5.8K)
Fig. 6 Current-voltage-light intensity (I-VL) charac-teristics, measured using 200 ns-wide pulses with a repetition rate of 528 Hz at a temper-ature of 5.8 K, obtained from a QCL device with 60 ˚A thick GaN wells with Si doping of 1 x 1018cm−3.
た電圧は
14.5V
とほぼ設計の電界
(100kV/cm)
と近
い値を示していることから,設計通りの動作がおこな
われた.
4. MOCVD
法による
THz-QCL
の作
製
上述した
MBE
法は超薄膜の膜厚制御が得意で急
しゅんな界面が得られやすい成長法である反面,成長
温度が低いことから点欠陥や転位が発生しやすく高
品質な結晶成長が難しいという問題点がある.一方,
MOCVD
法は一般に超薄膜の膜厚制御が困難である
が,
c
軸方向の成長速度を他の結晶面に比べ遅くする
ことができるため転位が曲がりやすい成長方法である.
そのため,
MOCVD
法による窒化物半導体成長は転
位の低減が期待でき高品質な素子作製に適している.
そこで今回我々は
MOCVD
法による
THz-QCL
構造
の作製にも取り組み,そのデバイス特性を評価した.
結晶成長には減圧横型
MOCVD
装置を用いた.成
長圧力は
76Torr
とした.材料には
V
族材料としてア
ンモニア
(NH
3)
,
III
族材料としてトリメチルアルミニ
ウム
(TMAl)
,トリメチルガリウム
(TMGa)
,ドーパ
ントとしてテトラエチルシラン
(TESi)
を用いた.図
7
に
MOCVD
成長時に用いた純粋
3
準位系
QC
構造の
伝導帯バンドプロファイルとその波動関数
(
設計図
)
を
示す.設計構造は膜厚,材料ともに
MBE
法で成長した
ときに用いたもの
(
図
2)
と同じであるが,
AlGaN
障壁
図 7 MOCVD成長時に用いた純粋 3 準位レーザ構造を 有する QC 構造のバンドプロファイルと波動関数 (設計図)Fig. 7 Designed conduction band profile and asso-ciated square wave functions for a 2QW-type GaN/Al0.15Ga0.85N QC structure with a pure three-level system used at the MOCVD growth.
図 8 MOCVD法を用いて成長した QC 構造の XRD
(0002)面 2θ–ω スキャンとシミュレーションスペク
トル
Fig. 8 HR-XRD 2θ-ω scan of the (0002) plane for the fabricated QC structure with the pure three-level system grown by MOCVD and the sim-ulated spectrum.
層の
Al
組成が
0.15
となっている
(MBE
時では
0.2)
.
その結果,適合する外部電圧は
90kV/cm
となり,期待
される発振周波数は
6.88THz
であった.
MOCVD
法
による
QC
構造の成長では周期数を
200
とした.
QC
構造中の
60˚
A
厚の
GaN
井戸層に
0.009sccm
の流量
の
TESi
で
Si
ドープした.図
8
に成長パラメータを制
御して得られた
QC
構造の
XRD(0002)
面
2θ-ω
測定
とシミュレーションスペクトルを示す.
MBE
法で作
製したサンプルで観察されたスペクトル
(
図
4
参照
)
ほ
ど鋭くないものの,高次のサテライトピークが観察で
図 9 MOCVD法を用いて成長した QC 構造の断面 TEM 像 (左図) [参考] MBE 成長 QC 構造の断面 TEM 像 (右図)
Fig. 9 Cross-sectional TEM image for the QC struc-ture fabricated by the MOCVD (left side). We also show the cross-sectional TEM image for the QC structure fabricated by the RF-MBE as a reference (right side).
きたことから,比較的良好な周期構造が形成されてい
ることを示唆した.また,シミュレーションスペクト
ルとの比較から設計との膜厚誤差は約
3%
で各層当た
りの誤差が
1
原子層程度であることが分かった.図
9
に
MOCVD
法で作製した
QCL
構造の断面
TEM
像
(図
7
とは異なる設計)を示す.参考として
MBE
法で
作製した断面
TEM
像も示す.界面急しゅん性は現在
のところ
MBE
の方が優れているが,
MOCVD
法を用
いて成長した
QCL
構造においても
GaN
と
AlGaN
の
界面を確認することができた.そして
MOCVD
法で
作製した
QCL
構造中の全転位密度は約
2 × 10
9cm
−2であり,テンプレートとして用いた
AlN
膜の全転位
密度
2.6 × 10
9cm
−2よりも低転位化していることが
分かった.また,
MBE
法で成長した
QCL
構造の全
転位密度
10
10−11cm
−2と比較して,大きく減少し
ていることが分かった.図
10
に
MOCVD
法と
MBE
法で作製した
QCL
構造の
XRD(10-15)
面逆格子空間
マッピングをそれぞれ示す.
MOCVD
法で作製した
QCL
構造の
0
次サテライトピークの
ω
方向半値幅は
約
250arcsec
であり,
MBE
成長の約
1000arcsec
と比
較して
4
分の
1
となっている.これは
MOCVD
法で
作製した
QCL
構造はそのモザイク性と格子緩和が小
さくなっていることを示しており,
GaN
系
THz-QCL
の結晶,構造の高品質化において
MOCVD
法の利用
が有望であることを示している.
上記
MOCVD
法で作製した
THz-QCL
素子の電流
注入測定を試みた.図
11
に周波数スペクトル及びそ
の
I-VL
特性を示す.パルス電流条件は繰り返し周波
図 10 MOCVD法(上)と MBE 法(下)で作製した QCL構造の XRD(10-15) 面逆格子空間マッピング Fig. 10 XRD (10-15) plane reciprocal lattice space mappings for the QC structures fabricated by the MOCVD (upper side) and by the MBE (lower side).図 11 MOCVD法で成長した GaN 系 THz-QCL 素子の I-VL特性と 6.97THz 発振スペクトル (繰返し周 波数: 122Hz,パルス幅: 200ns,測定温度: 5.2K) Fig. 11 Current density-Voltage, light output char-acteristics and 6.97 THz lasing spectrum (inset) for the MOCVD growth GaN-based THz-QCL, measured using 200 ns-wide pulses with a repetition rate of 122 Hz at a temperature of 5.2 K.
数
122Hz
,パルス幅
200ns
とした.測定温度は
5.2K
とした.挿入図に示すように,
MOCVD
法を用いて作
製した
THz-QCL
構造から
6.97THz
にピークをもつ
る膜厚制御の精確性が
MBE
法に比べまだ欠けてい
ること,量子井戸
/
障壁層界面の急しゅん性が劣り波
動関数がぼけてしまったことで反転分布密度が減少し
てしまったことが原因であると考えられる.今後界面
急しゅん性を改善する成長パラメータを見出すことに
よって高出力化していくと期待される.
5.
む す び
THz-QCL
における未踏周波数領域
5–12 THz
帯の
開拓を目指して,狙ったサブバンド準位間からの発振
が期待できる純粋
3
準位レーザ構造を用いた窒化物半
導体系
THz-QCL
構造の設計,作製を行った.その結
果,設計周波数とほぼ同じ
5.5 THz
及び
7.0 THz
で
のレーザ発振動作を観察することに成功した.また観
察されたこれら周波数はこれまでの未踏周波数領域に
属しており,新しい周波数領域の開拓に成功した結果
となる.これまでに
GaN
系
QCL
構造からの電流注
入によるレーザ発振の報告例は無く,本結果は窒化物
半導体系
QCL
の実用化の可能性を示すものである.
今後,更なる量子構造の波動関数制御の向上,素子構
造の改善,結晶・構造の高品質化を行うことにより,
12THz
帯までの高周波数発振,及び高温動作化,高出
力化を実現したいと考えている.
文
献
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