学 位 論 文 内 容 の 要 約
氏名 若菜 弘幸
論文題目
Medium-chain triglycerides inhibit incidence of chemically induced hep atic carcinogenesis in mice
( ジ エ チ ル ニ ト ロ ア ミ ン 誘 発 化 学 肝 発 癌 モ デ ル マ ウ ス を 用 い た 中 鎖 脂 肪 酸 の 発 癌 抑 制 効果 の 検討 ) 学位論文内容の要約 【研究の目的】 ウイルス感染、アルコール性・非アルコール性脂肪肝炎などに伴う炎症の遷延、ならびに その炎症を起因とする酸化ストレスが、肝細胞癌の発生機序と強く関与するとされてい る。これまで、われわれは、肝マクロファージ由来の酸化ストレスがヒト肝発癌に関与す る事実を報告してきた。一方、これまでの、われわれの検討結果より、中鎖脂肪酸(MCT) は、マクロファージを中心とした炎症性細胞への抗炎症作用、消化管における IgA 発現増 加による腸管免疫増強効果を有する。そこで今回、ジエチルニトロサミン(DEN)腹腔内 投与による炎症性肝発癌化学肝発癌動物モデルにおける、MCT による肝発癌抑制効果を検 討した。また、中鎖脂肪酸投与がもたらす炎症性サイトカイン等の抑制作用、腹腔内脂肪 減少とそれに伴う adipocytokine の発現増強作用を検討した。さらに、MCT の代謝物質の 1つであるケトン体 β-Hydroxybutyrate(β-HB)がもたらす直接的な抗腫瘍効果について も検討した。 【方法】 雄性 C3H/HeN 種マウスを用いて、生後 14 日目にジエチルニトロアミン(DEN)を腹腔内投 与(20mg/kg)することで化学肝発癌モデルを作製し、MCT(C = 8、octanate)を添加し た食餌、あるいは通常餌[脂肪成分はコーン油(ω = 6;リノール酸を主成分とする]を自 由摂取させ、DEN 投与後 28 週目に犠牲死とし、肝発癌率、腫瘍数、腫瘍最大径について2 群間で比較検討した。採取した肝を用いて免疫組織染色を行い病理組織学的に比較検討し た。また肝組織における炎症性サイトカインならびにケモカインの発現を ELISA 法により 検討した。中鎖脂肪酸投与による腹腔内脂肪への影響を検討する目的で、採取した腹腔内 脂肪組織を病理組織学的に形態評価した。また ELISA 法を用いて、脂肪抽出液中の adipocytokine の発現程度を比較検討した。MCT の代謝産物であるケトン体の腫瘍細胞の 増殖抑制効果を検討するため、マウス血漿中のケトン体 β- HB 濃度を測定した。また、 マウス肝細胞癌株 MH134 細胞に β-HB を種々の濃度(0,200,2000μg/ml)で添加して共培 養し、Day3 ならびに Day7 で細胞数を計測した。 【結果】 Control群(通常餌)と比較し、MCT群で肝における腫瘍数、腫瘍最大径は低値を示した。 病理組織学的所見においても、肝最大割面組織像で腫瘍数は低値を示し、肝腫瘍の増大も 抑制されていた。また4-hydroxynonenal免疫組織染色では、MCT群における染色陽性率は 減少し、脂質過酸化反応が抑制されていることが示唆された。
学 位 論 文 内 容 の 要 約 ( 続 紙 ) 氏名 若菜 弘幸 肝組織における TNF-α、IL-6、IFN-γ、MCP-1 の発現は MCT 群において Control 群と比し て減少を認めた。MCT 群では Control 群に比して、有意に体重増加の抑制が認められた。 腹腔内脂肪組織の病理組織学所見では、脂肪細胞の肥大化が抑制され、一視野あたりの細 胞数増加を認めた。また脂肪組織における adiponectin、leptin 発現は、MCT 群において 増加を認めた。血漿中ケトン体(β-HB)濃度は MCT 群で増加を認めた。β-HB を添加した MH134 細胞の共培養では、β-HB 添加群において Day3、Day7 ともに細胞数の増加抑制が認 められた。 【考察】 DEN 投与による化学肝発癌モデルにおいて、MCT 投与群では腫瘍の発生数、腫瘍サイズが 有意に減少した結果より、MCT 投与が発癌ならびに腫瘍増殖・進展に抑制に関与している ことが示唆された。その機序として MCT 投与群において、種々の炎症性サイトカイン発現 抑制結果ならびにマクロファージの活性化関連ケモカインの発現抑制結果より、MCT のマ クロファージを介した抗炎症作用が長期的に肝組織の慢性炎症を改善し、腫瘍増殖抑制に 繋がったと考えられた。また脂質過酸化反応も有意に抑制されており、肝慢性炎症を起因 とする酸化ストレスの軽減も集学的に腫瘍増殖を抑制したと考えられた。腹腔内脂肪組織 の減少に伴い脂肪細胞の増殖が適正化されることで、有意な adipocytokine 発現の増加が 認められ、これが前述の抗炎症作用の補助的な働きに繋がったことも考えられた。また一 方で、MCT 代謝産物であるケトン体 β-HB は MCT 投与群において、血漿中で有意な増加を 認め、さらも、マウス肝細胞癌株 MH134 細胞と β-HB の共培養で、その増殖を有意に抑制 したことから、MCT の代謝産物であるケトン体が直接的に癌細胞のエネルギー代謝を抑制 し腫瘍増殖抑制作用を有することが示唆された。 【結論】 マウス化学物質肝発癌モデルにおける MCT 投与は、肝臓での抗炎症ならびに抗酸化ストレ ス作用、脂肪組織での adipocytokine の発現増加、また MCT 代謝産物であるケトン体によ るの抗腫瘍効果により肝癌の増殖過程を強く抑制することが示唆された。本検討をもとに して、肝細胞癌や他の消化器癌の担癌状態に対する MCT 付加による栄養免疫効果を考慮し た治療への臨床応用を検討したいと考えている。