胸膜悪性中皮腫の37歳男性例 山梨医科大学第二内科 西川圭一 池田フミ 内川謙治郎 佐々木勝弥 小沢克良 田村康二 概要:症例は37歳男性。右背部痛を初発症状とし、胸部レントゲン写真上右肺に 異常陰影を認め、肺生検にて胸膜悪性中皮腫と診断した。治療は通常の化学療法 に加え、温熱療法、放射線療法、免疫療法を併用したが、効果は明らかでなく、 初発症状以来約lIケ月で死亡した。症例には2年間の石綿暴露歴があるが、剖検 では石綿小体は見出せなかった。 表1.人院時一般検査成績 はじめに 悪性中皮腫(malignant mesothelioma)は、 主に胸膜に発生する中皮細胞由来の腫瘍と定 義され、その発生と石綿暴露との因果関係が 注目され、近年社会問題にもなっている。今 回我々は、石綿暴露歴を有する37歳という比 較的若年発症の一男性例を経験したので報告 する。 症例 患者:37歳、男性。 職業訓練学校教師。 主訴:右背部痛。 家族歴:特記すべき事なし。 既往歴:34歳、肺炎。 現病歴:1986年11月より右背部痛が出現し、 症状が次第に増強するため某医を受診した。 胸部レントゲン写真上右肺に異常陰影を認め た為、1987年2月14日当科入院となった。 喫煙歴は30本/日、i7年間。5年前に約2 年間の石綿暴露歴がある。 入院時現症:体格中等度、栄養良好。発熱 なし。血圧120/SOmmHg、脈拍62/分、整。表 在リンパ節角蜘せず。胸部は打聴診ともに異 常なく、腹部は肝脾角蜘せず。神経学的に異 常を認めず。 一般検査所見(表D:白血球の核の左方 移動を認め、CRP 4(+)、赤沈促進等、炎症所 見を強く認めた。腫瘍マーカーではCA日一9が 高値を示した。血液ガス分析、呼吸機能とも にiE常。 胸部レントゲン検査(図1):右肺背側に 多発性の腫瘤陰影を認める。 胸部CT検査(図2):右胸壁に沿った多 発性の腫瘤を認め、一部は肺内にも存在し、 縦郭リンパ節の腫脹を認める。 Ur|nalys}S Pnetejn (一} Suger (一) Peripherat bjood LYm、 Fec8S 目lood 声 40N 450xlo「/mm° 83.9menH. 41.1凧mHg 25.9mE4te Serobg」cal data 4〔+) (一) oG 2520 m・/d‘ IgA 338 m・/dl ‘gM 116mロ/d‘ 111㎜/hi T−Markg「 4.64叩/ml 3ρ109/ml 400u/耐 23m‘U O.73△FH322mdV 7,了o/61 34・/dl 旧7㎎/d‘ 62m./dl llmg/dl o.5mロ/d| 13了mSq/‘ 4.4m醐 100mtq/‘ 90m/dI 36㎎/dl 96mOfdi Spirogram VCPR 3950耐 3090倒 %VC 78.2% FEVハ、O% 829% 図1.胸部X線像(入院時) 一19一
図2.胸部CT像
図3.ガリウムシンチグラム (上,全身像 下,右肺拡大像) 図4.胸膜針生検標本 (上皮様に増殖した部分)ご遷ぽ㌧㌫ 一㌧ぷ∵
:/ 1㌦,、 パ、 ’・・一・tぷ 、di図5.臨床経過
(治療及び胸部X線像)S’12 3 、 5 6 ,
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↑ SVC SW㏄“ ガリゥムシンチグラム(図3):右肺に多 数の強い集積を認める。 画像所見から胸膜中皮腫を疑い、胸膜針生 検を行った。(図4) 異型性の強い細胞が 上皮様に増殖し、一部には線維性の増殖も伴 い、胸膜悪性中皮腫(mixed type)と診断し た。 治療及び経過 画像所見よりButchart’)のびまん性胸膜中 皮腫の臨床病期分類の1期に当たり、治療は Cisplatin(IDOng)Vindesine(10.5㎎)によ 図6.胸部X線像(入院後6カ月) る化学療法に加え、蕊熱療法の併用を行った。 (合計13回)しかし効果は見られず、その後Ad− riamycin(75㎎)、 Mitomycin C(10㎎)も使用した が腫瘍は増大を続け、上大静脈症候群を合併し 19S7年9月18日呼吸不全の為死亡した。初発症 一20一状以来約11ケ月であった。 剖検では、右肺は胸膜に沿ってほぼ全域に 腫瘍を認め、腫瘍の一部は壊死に陥っていた。 (図7) また肝臓への直接の浸潤も認めら れた。組織所見では針生検と同様の上皮様と 線維性の増殖の混在する所見を認め、mixed typeの胸膜悪性中皮腫であることが確認され た。(図8) なお、石綿小体を見出すこと はできなかった。 図7.右肺切除標本 図8.右肺尖部の組織所見
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胸膜悪性中皮腫は、矢野ら2)による我が国 の集計では男女比は約2:1と男性に多く、 年齢別では50歳∼70歳台に多くみられている。 また、近年石綿暴露との因果関係が問題と なっているが、Brennerら3エの報告では約13 %に石綿暴露歴を認めている。 治療は主に化学療法が行われているが、満 足すべき成績はいまだ得られていない。和田 ら”)の報告でも1年生存率はわずか25%にす ぎない。しかしながらChailleux5)は治療例 と非治療例とでは平均生存期間に有意な差を 認めており、各々12ケ月、7ケ月だったとし ている。 本症例は37歳という若年での発症であり、 2年間の石綿暴露歴を有する。治療はCispl・ atin等の通常の化学療法に加え、新たな試み として温熱療法を併用した。結果は必ずしも 有効であったとは言い難いが、胸膜悪性中皮 腫では腫瘍が比較的浅在性であることを考え れば、温熱療法はその特性からもある程度の 有効性は十分に期待出来るものと思われ、特 に化学療法との併用において試みるべき価値 のあるものと考える。 経過中の画像所見に関しては、次の2っの 点が注目される。即ち、 ①ガリウムシンチグラムでの腫瘍への非常に 強い集積。 ②右肺が腫瘍及び胸水で占められるにもかか わらず、胸部X線上、縦郭はむしろ患側に偏 位している。 これらは、いずれも本疾患に特徴的な所見 と考えられる。 表2.当科及び当院第二外科での 胸膜中皮腫4例 症例 年令/性別 胸耶レ線 病 理 治 療 予後 1 49/男 fibrous輔
生存 2 62/男 fibrous 手術 生存 3 37/男 ホ綿暴宮(+) mix6d CODP ADM uDS MMC nK−432 gyp6rth●rmi∂ 1|月 4 50/男 ホ綿品田(一) mixgd 手術 bDDP nK−432 1年 一21一最後に当科及び当院第二外科での1983年開 設以来の胸膜中皮腫4例を示した。(表2) 症例1,2はいずれも限局性の良性中皮腫 で、手術療法で治癒している。症例3は本症 例であり、症例4はびまん性の胸膜悪性中皮 腫で、手術療法後化学療法、免疫療法を行っ ているが、約12ケ月で死亡した。