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Championship in Athletics in Osaka

広川龍太郎 1) 松尾彰文 2) 柳谷登志雄 3) 土江寛裕 4) 杉田正明 5)

1) University of Tsukuba, 2) Graduate School of University of Tsukuba 1 .����

Satoru Tanigawa1), Kazuhito Shibayama2)

1) University of Tsukuba, 2) Graduate School of University of Tsukuba 1.����

男子110mHの世界記録(当時)は本大会出場,

優勝の劉翔がもつ12秒88,それに対して日本記 録は13秒39とおよそ0秒5の差がある.本大会 でも12秒台の記録が2名と高いレベルでの接戦 の試合であった.しかし,日本人選手も,初めて 3名が A 標準記録を突破し出場,準決勝に 2名 が進出するというレベルアップが図られてきて いる.また,女子100mHも世界記録には及ばな いものの,優勝記録は12秒台中盤のハイレベル で0秒2以内に8位までがゴールになだれ込む激 戦となった.日本人選手 1名がB標準記録を突 破して出場した.動作分析のための撮影の範囲は,

第7ハードルを中心に前方および後方から2台の HSVによって撮影した.スプリントハードルに

おいては,スプリント能力が重要であることは今 回の時間分析においても明らかであり,またこれ までも多くの研究および指導書で指摘されてい る.一方で,スプリントハードルはハードリング での速度減速をいかに抑え,インターバル間でい かに加速するかが重要になってくる.したがって,

ハードリング技術の減速局面である踏切,インタ ーバルの加速の始まりである着地動作に注目し て動作分析を行った.そして,各選手ともレース 中盤以降,速度低下することからハードリング技 術の違いが大きく現れると考えられる 7 台目に 撮影範囲を設定し撮影をした.また,動作分析は 男女ともに優勝者と 2 位さらに日本人選手の 3 名を対象とした(図1および図2).

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図1.男子3選手のハードリング

2.分析レース記録�身体�特徴

表1には優勝した劉翔と3位のペインさらに内 藤の身体的特徴と記録を示した.ペイン(13 秒 02)は大阪世界陸上決勝のレース,内藤は予選の レース(13秒54)より算出したが,劉は大阪大 会決勝では 9 レーンで走っており撮影範囲外で あり,同年の大阪グランプリのレース(13秒12) を対象にデータを算出した.ともに自己ベスト記 録達成率は,劉が 98.2%,ペインが 100.8%,内 藤が99.2%であった.

表2には優勝したペリーと2位のフェリシエン さらに石野の身体的特徴と記録を示した.ペリー

(12秒46)とフェリシエン(12秒49)は決勝レ ース,そして石野は予選レース(13 秒 54)の7 台目のハードリング技術を検討した.ともに自己 ベスト記録達成率は,ペリーおよびフェリシエン が99.8%,石野が96.6%であった.

ペリー

石野 フェリシエン

図2.女子3選手のハードリング 表1.男子110mHの3選手の特徴

身長(cm) 体重(kg) 自己最高記録(s) 分析レース記録(s) 達成率(%)

188 82 12.88 13.12 98.2

デイビッド・ペイン 179 76 13.12 13.02 100.8

内藤真人 185 75 13.43 13.54 99.2

表2.女子100mHの3選手の特徴

身長(cm) 体重(kg) 自己最高記録(s) 分析レース記録(s) 達成率(%) ミッシェル・ペリー 172 58 12.43 12.46 99.8 ベルディタ・フェリシエン 163 63 12.46 12.49 99.8

石野真美 169 52 13.08 13.54 96.6

3.��分析

【男子110mH】

接地瞬時の身体重心速度は劉,ペイン,内藤の 順に高かったが,接地後離地時にはペイン,劉,

内藤の順であり,ペインが高い技術であったと推 察される(図3).図4は,男子のハードリング における身体重心の軌跡,踏切距離,着地距離,

接地時および離地時の身体重心角度(支持脚の 足先と身体重心を結ぶ線分と垂線のなす角度)

および踏込み角度,離地角度,身体重心最高点 とハードルからの距離などを示したものであ る.さらに踏切時間,着地時間およびハードリ ング時間を示した.

ペインは身長が 179cm であり,身体重心を大 きく引き上げなくてはならないにもかかわらず,

ブレーキ局面(身体重心角度)が小さく,加速局 面が大きいことからハードルへの踏切角度が

踏切

(s) 8.2

8.4 8.6 8.8 9.0 9.2 9.4 9.6

0.12

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��ン

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

(m/s) (m/s)

8.2 8.4 8.6 8.8 9.0 9.2 9.4

9.6 着地

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��ン

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

(s)

図3.踏切および着地における身体重心の水平速度

53.4% 46.6%

0.20 0.40.6 0.81.0 1.21.4 1.6

3.82m

2.04m 1.78m

1.31m

13.0° -9.3°

1.06m 1.20m 1.21m 1.13m

-5.4°

-2.1°

0.12s 0.37s 0.08s

(m) 25.2° 24.1° 24.4°

0.11m 8.0°

0.20 0.40.6 0.81.0 1.21.4 1.6

3.71m

2.05m 1.66m

1.31m

11.0° -7.9°

55.3% 44.7%

1.04m 1.18m 1.20m 1.13m

-0.4° -4.6°

0.11s 0.33s 0.08s

(m)

21.1° 29.0° 28.4°

0.02m 7.0°

54.2% 45.8%

(m)

3.95m

2.14m 1.81m

0.20 0.40.6 0.81.0 1.21.4 1.6

1.41m

13.8° 9.9°

1.07m 1.22m 1.28m 1.18m

0.11s 0.36s 0.08s

-7.9°

-1.9°

25.1° 28.0° 25.4°

0.05m 8.0°

��ン

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図4.男子3選手のハードリングにおける身体重心の軌跡 11.0 度と最も低くハードルに向かっており,7.9

度と最も小さい角度で着地していた.さらに身体 重心角度についてみると,踏切および着地でとも にブレーキ局面が最も小さく加速局面が最も大 きく,全身を使ったスムースなハードリングであ ったと考えられる.一方で,内藤は踏切および着 地における加速局面が小さく,十分に速度を高め ることができなかったと推察される.

ハードリング距離についてみると,劉はベスト 記録達成率が 98.2%とある程度余裕があるから か,ハードリングタイムが 0.34 秒と競技力を反 映していなかったが,ハードリング距離も3.95m と3選手の中では一番大きいものとなっている.

その分,インターバルラン距離が小さくなるため,

長身ながら非常に高いピッチでインターバルラ ンタイムを短くする技術に優れていると推察さ

(s) 7.4

7.6 7.8 8.0 8.2 8.4 8.6 8.8 9.0 9.2 9.4

0.06 0.10 0.12

0.02 0.04 0.08

(m/s)

�リー

��リ��ン

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踏切 (m/s)

7.4 7.6 7.8 8.0 8.2 8.4 8.6 8.8 9.0 9.2 9.4

0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

(s)

�リー

��リ��ン

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着地

図5.踏切および着地における身体重心の水平速度

(m)

0 0.2 0.40.6 0.8 1.0 1.2 1.4

3.22m

1.91m 1.31m

1.16m 10.4°

-8.2°

59.4% 40.6%

1.07m

1.05m 1.05m 1.00m

-1.7° -4.8°

0.11s 0.28s 0.10s

0.12m

31.1°

16.3°

22.7° 28.8°

(m)

0.20 0.40.6 0.8 1.01.2 1.4

3.13m

2.08m 1.05m

1.16m 13.7°

-8.6°

66.4% 33.6%

0.93m 1.04m 1.08m 0.99m

-4.9°

-2.2°

0.13s 0.31s 0.10s

0.16m

31.4°

8.1°

27.8° 28.4°

66.4% 33.6%

(m)

0.20 0.40.6 0.81.0 1.2 1.4

3.17m

2.10m 1.07m

1.16m 8.8°

-8.2°

0.95m 1.07m 1.07m 1.00m

-1.3°

0.2°

0.11s 0.27s 0.10s

23.1° 28.3° 15.9° 31.4°

0.40m

�リー

��リ��ン

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図6.女子3選手のハードリングにおける身体重心の軌跡 れる.また,ハードリング距離の踏切および着地

距離の比率は,選手それぞれ異なっていたが,お およそ55:45であった.理想的には東京大会で のフォスターの60:40の比率といわれている(森 田ら,1994).したがって,身体重心最高点を東 京大会でフォスターが 22cm,ピアースが 28cm もハードルの手前で迎えていたのに対し(森田ら,

1994),本大会ではともにハードルを越えた劉は 5cm,ペインは2cmで,内藤は11cmの時点で 迎えていた.これらのことから,速度を低下させ

ずにクリアできる技術であれば,ハードリングの 踏切と着地の比率はそれほど問題ではないと推 察される.

【女子100mH】

接地瞬時の身体重心速度はペリーとフェリシ エンはほぼ同じであったが,石野は接地時に速度 を落としており技術の差があったと推察される

(図 5).図 6は,女子のハードリングにおける 身体重心の軌跡,踏切距離,着地距離,接地時お

よび離地時の身体重心角度および踏込み角度離 地角度,身体重心最高点とハードルからの距離な どを示したものである.さらに踏切時間,着地時 間およびハードリング時間も示した.

ハードリング距離は 3m13~22cm と男子より小 さく,特に着地距離がペリーおよび石野は1m程 度になっていた.身体重心最高点はともに1.16m であったものの,ペリーは 40cm,フェリシエン が 12cm,石野が 16cm ハードル手前のところで 迎えていた.ペリーは高い速度を維持するために 遠くから踏み切り,ハードルを越えてからすぐに 接地する動作が行えていたと考えられる.一方,

フェリシエンは速度は高いもののその速度にハ ードリングが対応できず,近くから踏み切らざる を得なくなってしまって,次のインターバル区間 の減速(0秒97から1秒00へ:時間分析参照)

を招いたのではないかと推察される.ハードリン グ距離に関しては,着地側距離を短縮させながら ハードリングタイムを短くし,インターバルラン 区間の距離を伸ばし水平速度が高まるという報 告や(宮下,2006),空中時間が短くなることで ハードリング距離が小さくなり,インターバルの 3歩がオーバーストライドになることから,ハー ドル高が低い女子では過度に低く跳ぶべきでは なく,ハードリング距離も小さくするべきではな いという報告もある(Mcdonald and Dapena,1991).

しかし,ペリーと石野はほぼ同じハードリング距

離(3.17m/3.13m)で,ハードル上の最高身体重

心高(1.16m)も同じであった.速度の低い13,14

秒台の選手の場合は,オーバーストライドになる という示唆(Mcdonald and Dapena,1991)があて はまる可能性はあるが,高いスプリント能力を有 する 12秒台の選手(ペリーは5.13歩/秒)は,

非常に高いピッチを獲得しており,インターバル ラン区間においてオーバーストライドになると いうのは考えにくく,競技レベルが高くなるほど,

むしろ通常の走法さらにはピッチ走法に近い形 でインターバルを走っていると考えられる.

また,ペリーは,長身であるものの踏切に最も 低い姿勢で入り,踏切中に身体重心をほぼ下げる ことなくハードルへ向い8.8度で踏み切っていた.

さらに着地後も-1.3°とほぼ鉛直速度をなくし ながら並進方向に身体を進めていた.踏切で石野 はブレーキ局面(身体重心角度27.8°)が大きい ため踏み切りに時間を要し,踏切角度が 13.7 度 であることから,鉛直方向への速度成分が大きか ったと考えられる.しかし,着地ではブレーキ局 面が最も小さく,着地距離も小さいことからハー ドリングで減速したものの着地中に上手く加速 が行えていると推察される.またハードル間距離

は男子9.14mと女子8.50mと大きな差があるが,

インターバル距離は男女とも 5m30~40cm 前後 とほぼ変わらない距離を走っていることが示さ れた.インターバルランニングのピッチは,劉が 5.84 歩/秒,内藤が5.38歩/秒,ペリーは5.13 歩/秒,石野は 4.81 歩/秒である.スプリント 走と比較して,男子はかなりピッチ型の走りを強 いられているのに対し,女子はスプリント走に近 いものになると考えられる.すなわち,これまで 言われているように,ハードルが男子と比較して 相対的に低いだけでなくインターバル距離が占 める割合が大きいことから,女子のパフォーマン スにはスプリント走能力が男子より大きく左右 すると考えられる.

4.踏切��

【男子110mH】

各選手とも踏切中にやや減速後,離地時にかけ てやや加速する動作をおこなっていた(図 3).

支持脚の膝関節および足関節角度はともに屈曲,

伸展動作していたが,劉およびペインは各変位が 小さかった(表 3).劉は特に膝関節の変位がな く,脚を棒のようにして接地から全身を倒しこむ ようにして踏切をおこなっていたが,これは身体 重心が高く,ハードルに対して大きく身体を引き 上げなくてもハードルを越えられる長身選手が 行える技術と考えられる(谷川,2006).図7に 両脚の挟み込みのシザース動作の指標として,踏 切脚のスウィング速度(大転子とくるぶしを結ぶ 線分の角速度)とリード脚膝関節並進速度(膝関 節の並進方向のみの速度)を示した.さらに図8 には,踏切の接地瞬時,くるぶし通過時,離地瞬

表3.男子3選手の踏切時の膝および足関節の屈曲および伸展角度

劉 ペイン 内藤

屈曲 2.5 8.2 13.0

伸展 5.1 13.5 7.4

合計 7.7 21.7 20.4

屈曲 20.0 21.3 31.4

伸展 44.0 44.6 45.9

合計 63.9 68.9 77.3

膝関節 (deg)

足関節 (deg)