long-distance runners in the long-distance races
1) Kyoto University of Education , 2) Graduate School of University of Tsukuba 3) Ibaraki Prefectural University of Health Science , 4) Graduate School of Juntendo University
5) Primary Teacher of Osaka Prefecture
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これまで長距離走におけるバイオメカニクス 的研究は少なく,世界一流選手の走動作の特徴に 関する報告は少ない.1991 年東京世界陸上大会 においてもバイオメカニクス研究は走スピード とストライド,ピッチのみの分析であった.一方,
短距離走では東京大会のバイオメカニクス的分 析からキック動作を中心にキネマティクス的特 徴が明らかにされ,日本人選手の疾走技術の改善 に役立つ示唆を提供している.長距離走では走速 度が短距離ほど高くないため,選手の個々の特徴 が大きく,共通性のある走技術を明らかにするこ とは困難であると考えられるが(Williams and Cavanagh,1987),一流選手の走動作の特徴をバ イオメカニクス的に記述し,蓄積していくことは,
長距離走の走動作の改善法やジュニア期に習得 すべき走動作のモデルを構築していくために役 立つであろう.本稿では,大阪世界陸上大会の男
女 5000mおよび 10000m レースにおける上位 3
選手および日本人選手の走動作をバイオメカニ クス的手法を用いて分析し,世界一流選手の走動 作の特徴を明らかにするとともに日本人選手の 走動作の課題を検討するものである.
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長距離レースにおける走動作を分析するため バックストレートのスタンド上段に1台のデジ タルビデオカメラで固定撮影した.撮影スピード は60 fields/s,シャッタースピードは明るさによ り500~1000であった.レースの撮影に先立ちコ ースに距離が既知のマークを固定したキャリブ レーションポールを 5 か所に垂直に立てて撮影 した.カメラの画角は1サイクルが撮影できるよ
うに 7mとした.また,200m ごとの通過タイム を読み取るように 1 台のデジタルビデオカメラ で先頭集団を追従撮影した.
分析対象者は決勝レースにおける上位 3 選手 と決勝もしくは予選レースにおける日本人選手
とした.5000mでは日本人選手が予選を通過した
場合は決勝レースを,通過しなかった場合は予選 レースを分析した.撮影した映像をパソコンにキ ャプチャし,動作分析システム Frame-DIAS�を 用いて分析対象者の身体分析点23点を右足接地 から次の右足接地,あるいは左足接地から次の左 足接地までの 1 サイクルにわたってデジタイズ した.
デジタイズで得られた座標は,キャリブレーシ ョンポイントから算出された DLT パラメータを 用いて2次元座標に変換した.2次元座標は4次 のバターワースフィルタを用いて,座標点の水平 および垂直成分(X 座標と Y 座標)ごとに決定 した遮断周波数で平滑化した.阿江(1996)の身 体部分係数を用いて部分および全身の重心位置 を算出した.
得られた座標データをもとに,以下の項目を算 出した.
1) ストライド・ピッチ
① ストライド:1サイクルに身体重心が進んだ 距離の1/2
② ピッチ:左右1歩の平均時間をコマ数から算 出し,その逆数
③ 支持時間:左右の足の接地から離地までの平 均時間
④ 非支持時間:左右の足の離地から接地までの 平均時間
⑤ 滞空時間比:非支持時間を支持時間で除した
もの
2) キネマティクス
大腿および下腿角度・角速度
大腿および下腿の角度の定義を図1に示した.
角速度はそれらを数値微分したもので,正は反時 計回り,負は時計回りを示す.
⑥ 足および膝関節角度・角速度
足および膝関節角度の定義を図 1に示した.
角速度はそれらを数値微分したもので,正は 伸展,負は屈曲を示す.
3) エナジェティクス
⑦ 平均パワー
⑧ 1 サイクルの力学的仕事を身体部分の力学 的エネルギーの変化を部分間および1サイク ル に わ た っ て 合 計 し て 算 出 し (Wwb; Pierrynowskiら,1980),それを1サイクルの 時間で除したもの.
⑨ 力学的エネルギー利用の有効性指数(EI) 身体重心の1サイクル平均の並進運動エネル ギーを力学的仕事で除したもの(榎本ら,
1999).
⑩ 力学的エネルギーの伝達量
1コマの身体部分の力学的エネルギーの増大 量と減少量の同量を伝達が生じた量とみな し,1サイクルで合計したもの.有効鉛直ス ティフネス(Kv)
接地時の鉛直下向きの身体重心の運動量を
支持期前半時間で除して平均力を求め,支持 期前半の身体重心の鉛直変位で除したもの.
3� 男子 5000m
1) 走速度,ストライド,およびピッチ
表1は,決勝レース上位3選手および予選レー スにおける日本人選手の 1000mごとの通過タイ ムを示したものである.優勝したラガト(アメリ カ)のタイムは,13分45秒81と平凡であった.
2位のキプチョゲ(ケニア),3位のキプシロ(ケ ニア)は,ラガトとの差はそれぞれ0.13秒,0.90 秒と僅かであった.ラガトの最初の 1000m は 3 分01秒01と非常に遅く,その後は2分40秒台 で推移し,ラスト1000mは2分22秒99と非常 に速かった.
図2は,決勝レース上位3選手および予選レー スにおける日本人選手の200mごとのスピードの 変化を示したものである.上位3選手はスタート 後,スピードが大きく低下したが,1800m から
2600mまで一度大きくスピードを増大していた.
その後,スピードが低下し,4000mまで徐々に増 大しながら推移し,4000m以降で大きく増大して いた.上位3選手のラスト200mでのスピードは それぞれ7.72,7.57,7.41m/sと,ラスト200mで 勝敗がついていた.日本人選手は予選ということ もあるが,三津谷と松宮ともにスピードの変化が 小さく,平均的なスピードで走っていた.
表 2は,上位3選手と日本人選手の4周目と 12周目の分析区間における走速度,ストライド,
ピッチ,支持時間,非支持時間,および滞空時間 比を示したものである.ラガトの走速度は4周目 で5.57m/s,12周目で7.93m/sと大きくスピード を増大していた.このとき,ストライドは1.86m から2.18m,ピッチは3.00steps/sから3.64steps/s と,ストライドとピッチの両方が大きく増大して いた.この傾向は,キプチョゲとキプシロにも同 様に見られた.一方,ラガトの支持時間は,4周 目で0.175秒から12周目で0.125秒と大きく低下 し,非支持時間は0.158秒から0.150秒とあまり 変化していなかった.キプシロは,支持時間が
- +
大腿角度
下腿角度 膝関節角度
足関節角度
図 1 大腿および下腿角度,足および 膝関節角度の定義
表 1 男子 5000m 決勝レースにおける上位 3 選手および予選レースにおける日本人選手の 通過タイムとラップタイム
1000m 3 : 01.01 3 : 00.80 3 : 01.72 2 : 47.40 2 : 51.12
2000m 5 : 47.71 2 : 46.70 5 : 47.53 2 : 46.73 5 : 48.33 2 : 46.62 5 : 38.41 2 : 51.00 5 : 36.67 2 : 45.55 3000m 8 : 37.22 2 : 49.50 8 : 37.00 2 : 49.47 8 : 37.08 2 : 48.75 8 : 32.50 2 : 54.10 8 : 22.97 2 : 46.30 4000m 11 : 22.82 2 : 45.60 11 : 22.72 2 : 45.72 11 : 22.43 2 : 45.35 11 : 17.43 2 : 44.93 11 : 06.67 2 : 43.70 5000m 13 : 45.81 2 : 22.99 13 : 45.94 2 : 23.23 13 : 46.71 2 : 24.28 14 : 06.55 2 : 49.11 13 : 54.83 2 : 48.17 1. Lagat (USA) 2. Kipchoge (KEN) 3. Kipsiro (KEN) H1-15. Mitsuya (JPN) H2-15. Matsumiya (JPN)
0.183秒から0.158秒,非支持時間が0.150秒から
0.125 秒と両方が減少していた.そして滞空時間
比は,ラガトが0.90から1.20と大きく増大して いたのに対し,キプシロは0.82から0.79と減少 していた.
一方,日本人選手は4周目では上位3選手と走 速度に大きな差はなかったが,12 周目では三津 谷が走速度をわずかに増大,松宮が減少していた.
両者ともストライドの減少と支持時間の増大が 見られた.身長に対するストライドは,上位 3 選手が12周目で1.2以上になっているのに対し,
三津谷と松宮は4周目で1.12と1.10,12周目で 1.09 と 1.07 と小さかった.さらに,滞空時間比 は,ラガトが12周目で1.20で最も高かったのに 対し,三津谷と松宮は,4周目で0.90と0.80,12 周目でともに 0.76 と小さかった.日本人選手は ストライドとピッチともに高めることができず に,レース終盤で走速度を大きく増大できなかっ たと言える.
以上のことから,ラガトは短い接地時間で大き なストライドを獲得できたためラストスパート で大きな走速度の増大が達成できたと考えられ
る.また,長距離走において,とくにラストスパ ートにおける急激なスピードアップにはストラ イドとピッチの両方を増大させることが必要で あることが示唆される.
2) エナジェティクス
表3は,4周目と12周目における上位3選手 と日本人選手の力学的エネルギー利用の有効性 指数(EI),平均パワー(MP),有効鉛直スティ フネス(Kv),力学的エネルギーの伝達量(Tb) を示したものである.
4周目でのEIは,三津谷が2.60で最も大きく,
松宮が 2.04で最も小さかった.上位3選手では 12周目でEIが増大していたのに対し,日本人選 手は減少していた.4周目での平均パワーは松宮 が14.7W/kgで最も大きく,ラガトが9.6W/kgで 最も小さかった.12 周目では 4名が増大してお り,ラガトは18.5W/kgと大きく増大していた.4 周目におけるKvは外国人選手で小さく,日本人 選手で大きかったが,12 周目では日本人選手が 減少しているのに対し,外国人選手は大きく増大 していた.Tbは4周目では上位3選手と日本人 Distance (m)
5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0
B.Lagat E.Kipchoge M. Kipsiro Mitsuya Matsumiya
Running speed (m/s)
図 2 男子 5000m 決勝における上位 3 選手および予選における日本人選手の走スピードの変化 表 2 男子 5000m における走速度、ストライド、ピッチ、支持時間、非支持時間および滞空時間比
rap Running Velocity (m/s)
Step length (m)
Step length /
Height
Step frequency
(steps/s)
Support time (s)
Non-support time (s)
Flight ratio
4 5.57 1.86 1.06 3.00 0.175 0.158 0.90
12 7.93 2.18 1.25 3.64 0.125 0.150 1.20
4 5.55 1.81 1.06 3.08 0.175 0.150 0.86
12 7.79 2.14 1.26 3.64 0.133 0.142 1.06
4 5.93 1.98 1.14 3.00 0.183 0.150 0.82
12 7.83 2.22 1.28 3.53 0.158 0.125 0.79
4 5.79 1.83 1.12 3.16 0.167 0.150 0.90
12 5.81 1.79 1.09 3.24 0.175 0.133 0.76
4 6.00 1.80 1.10 3.33 0.167 0.133 0.80
12 5.68 1.75 1.07 3.24 0.175 0.133 0.76
Lagat
Kipchoge
Kipsiro
Mitsuya
Matsumiya
選手の間に大きな差はないが,12周目では上位3 選手が大きく増大していたが日本人選手はほと んど変化がなかった.4周目と 12 周目ともにキ プシロが最も大きく,24.6J/kgと50.8J/kgであっ た.
以上のことから,レース終盤において上位 3 選手は EI,MP,Kv,Tb を増大していたが,日 本人選手は MP 以外は増大していなかったこと がわかった.またその増大の違いから,レース終 盤でのスピードの増大に,ラガトはパワーと Kv 増大タイプ,キプチョゲはEIとKv増大タイプ,
表 3 男子 5000m における力学的エネルギー利用の有効性指数(EI),平均パワー(MP)
および有効鉛直スティフネス(Kv)、力学的エネルギーの伝達量(Tb)
rap
4 2.41 9.6 213.6 21.3
12 3.09 18.5 1681.2 43.4
4 2.31 10.3 319.7 21.3
12 6.02 9.2 1468.6 47.8
4 2.44 10.8 285.9 24.6
12 4.22 12.8 940.3 50.8
4 2.60 10.2 509.6 23.2
12 1.92 14.2 449.8 23.1
4 2.04 14.7 801.5 21.8
12 1.74 15.0 551.1 20.8
Matsumiya
EI KV
(N/m)
Tb (J/kg) MP
(W/kg) Lagat
Kipchoge
Kipsiro
Mitsuya
Lagat
Kipchoge
Kipsiro
Mitsuya
Matsumiya
図 3 男子 5000m における上位 3 選手と日本人選手の 12 周目における 1 サイクルの走動作のスティックピクチャ