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of the world elite male middle-distance runners

1) Graduate School of University of Tsukuba , 2) Kyoto University of Education 3) Ibaraki Prefectural University of Health Science , 4) Graduate School of Juntendo University

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これまで,日本陸上競技連盟科学委員会は日本 国内の主要競技会における中距離走種目におい て,主に日本一流選手の通過タイム,走スピード,

ストライド,ピッチ,さらには走動作などのバイ オメカニクスデータを収集してきた.しかし,

1991 年の第3回世界陸上競技選手権東京大会,

そして1994年の第12回広島アジア大会以来,外 国の世界一流選手のデータはほとんど得られて

いない.したがって,世界一流男子中距離走者の レースパターンや走動作に関する資料は少なく,

彼らの特徴についてはあまり知られていない.本 稿では,第11回IAAF世界陸上競技選手権大阪 大会(以下,大阪大会)における男子800mおよ

び1500m 競走における世界一流選手のレースパ

ターンおよび走動作を分析し,その特徴について 明らかにすることを目的とした.

動作分析用固定カメラ(60Hz

動作分析用固定カメラ(60Hz レース分析用カメラ(60Hz レース分析用カメラ(60Hz

動作分析撮影範囲

図 1 カメラの設置位置および撮影範囲

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2.1 レース分析のデータ収集と処理

図1は,カメラの設置位置および撮影範囲につ いて示したものである.スタンドから2台のビデ オカメラ(60Hz)を用いてレースを撮影した.

スタートピストルの閃光を撮影した後,選手を追 従撮影した.露出時間はスタートピストルの閃光 撮影時が1/60s,それ以降は1/350~1/1000sとし た.撮影したVTR画像から,選手の胸部が100m 毎の地点を通過した時間(通過タイム)を1/100s 単位で読み取った.なお,800m走の最初の地点 については,120m地点(ブレイクライン)で読 み取った.次に,通過タイムから各100m区間(た だし,800m 走の最初の区間は 120m,第2区間 は80m)に要した時間(区間タイム)を求め,区 間距離を区間タイムで除すことにより区間平均 走スピード(以下,走スピード)を算出した.ま た,各区間において10歩に要した時間を読み取 り,1 歩の平均時間の逆数を平均ピッチ(以下,

ピッチ)とし,各区間の走スピードをピッチで除 すことにより平均ストライド(以下,ストライド)

を算出した.

2.2 動作分析のデータ収集と処理

スタンドの最上段に設置した 4 台のビデオカ

メラ(60 Hz)を用いて選手を撮影した(図 1).

撮影範囲はY方向(走者の進行方向)7m×X方 向(トラックの縁石から第3,第4レーン間のラ

インに向かって)3.65 m×Z方向(鉛直方向)2.5 mとし,ホームストレートとバックストレートの やや第2曲走路寄りの位置に設けた.

撮影したVTR画像から,走者の1サイクル動 作(2歩)をビデオ動作解析システムを用いてデ ジタイズし,身体分析点23点の2次元座標を得 た後,3次元DLT法を用いて3次元座標へと変 換し,Butterworth low-pass digital filterを用いて平 滑化した(最適遮断周波数は3.6~7.8 Hz).さら に,平滑化した3次元座標をY-Z平面に投影し,

2次元座標を得た.

阿江(1996)の身体部分慣性係数を用いて身体 部分および全身の重心位置および慣性モーメン トを算出した.1サイクル中の身体重心の水平移 動距離をそれに要した時間(1サイクル時間)で 除すことにより走速度を算出した.1サイクル時 間の半分をステップ時間とし,ステップ時間の逆 数をピッチとした.走速度をピッチで除すことに よりストライドを算出した.身体分析点の2次元 座標から関節角度および部分角度を算出し,図2 のように定義した.身体分析点および重心位置,

関節および部分角度を時間微分することにより 速度および角速度を算出した.右脚の下肢セグメ ントを剛体リンクセグメントにモデル化し,逆動 力学的手法により関節トルク算出し,関節トルク と関節角速度を乗じることにより関節トルクパ ワーを算出した.また,1サイクルにおいて,図 3のような時点を定義した.

統計処理は,ラウンド通過者と敗退者の記録の 大腿角度

下腿角度 - +

- +

股関節角度

足関節角度 膝関節角度

図 2 関節角度および部分角度の定義

FS:接地時

MS:支持期中間

CFS:逆足接地時

CMS:逆脚支持期中間 TO:離地時

FT:フォロースルー終了時

CTO:逆足離地時

SW:フォワードスウィング終了時

FS MS TO FT CFS CMS CTO SW FS

図 3 時点の定義

差,記録の上位群と下位群の走スピード,ストラ イドおよびピッチの差を明らかにするため,対応 のないt検定を行なった.有意水準は5%以下と した.

�� ��および��

3.1 記録の特徴

表1は,男子800mおよび男子1500mにおけ るラウンド通過者および敗退者の平均記録,シー ズンベスト記録(以下,SB)に対する達成率(以 下,%SB),最高および最低記録について示した ものである.また,図4は,各種目における記録 の分布について示したものである.ここではこれ

らの結果をもとに,記録の観点から各種目の特徴 について検討する.

(1) 男子800m

男子800mにおいて,予選,準決勝ともに通過 者 と 敗 退 者 の 平 均 記 録 に 有 意 差 が み ら れ た

(p<0.01).また,予選の%SBは有意ではないも のの敗退者の方が大きく,準決勝においては反対 に通過者の方が有意に大きかった(p<0.05).こ のことから,予選においては,通過者は敗退者に 比べて力の発揮をいくらか抑えて予選を通過し ており,反対に準決勝においては,通過者すなわ ち決勝進出者は,自らの力を十分に発揮していた 0

4 8 12 16 20 24 28 32

1:44 1:45 1:46 1:47 1:48 1:49 1:50- 3:34-35 3:36-37 3:38-39 3:40-41 3:42-43 3:44-45 3:46-

3:46-4

26 26

14

3 1

4 9

3 8

27

17

5 9

男子800m 男子1500m

人数(名)

PB達成者数: 4 SB達成者数: 7

PB達成者数: 2 SB達成者数: 3

図 4 男子 800m および 1500m における記録の分布 表 1 男子 800m および 1500m におけるラウンドの記録

平均記録 ± SDn 1:47.85 ± 02.93 ** 1:45.85 ± 00.26 1:46.91 ± 01.74 ** 1:44.96 ± 00.25 1:47.37 ± 00.18

%SB ± SD (%) 99.5 ± 1.2 99.0 ± 0.7 98.2 ± 1.5 * 99.5 ± 0.7 97.1 ± 0.4

最高記録 最低記録

平均記録 ± SDn 3:50.97 ± 11.76 *** 3:40.78 ± 00.98 3:45.50 ± 06.72 3:44.40 ± 09.24 3:36.05 ± 01.25

%SB ± SD (%) 97.3 ± 1.6 97.1 ± 1.3 96.0 ± 3.4 95.3 ± 3.8 98.8 ± 1.3

最高記録 最低記録

男子800m

予選 準決勝

敗退 通過 敗退 通過

8

『通過』と『敗退』に有意差あり *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 決勝

男子1500m

通過

1:51.31 1:45.25

8

14

3:41.17 4:02.95

9 14

準決勝 決勝

敗退 通過

1:45.31

22 24 16

1:46.24 1:44.54

1:45.23

3:40.53 4:16.23

1:47.09 1:47.58

3:34.77 3:38.78 4:19.80

1:46.34

3:38.65 3:41.96 1:56.55

3:42.08

17 24

予選 敗退

と考えられる.決勝は A.K.YEGO(KEN)が 1 分47秒09で制したが,1着の記録としては全て のラウンドの中で最も遅く,記録よりも勝負を強 く意識したレースであったと推察される.

(2) 男子1500m

男子 1500mの通過者と敗退者の平均記録およ

び%SBを比較すると,予選の平均記録(p<0.001) 以外に通過者と敗退者に有意差はみられなかっ た.また,SB,PB達成者数はあわせて5名と中 距離走種目の中で最も少なかった.これらのこと

は,男子1500mの記録的なレベルは高くはなく,

またその差は小さく,僅差の中で着順争いが行わ れたことを示すと考えられる.決勝はB.LAGAT

(USA)が3分34秒77で制し,この記録が大会 最高記録であった.なお,準決勝通過の最低記録

(4分16秒23)については,選手間の妨害行為 による救済措置が取られたため,この記録が最低 通過記録となっている.

3.2 レースパターンの類型化とその特徴

ここでは,レースをいくつかの小区間に分け,

その区間における平均走スピードの変化をみる ことにより,レース中の走スピードの変化すなわ

ちレースパターンを定性的に類型化し,その特徴 について検討する.

(1) 男子800m

図5は,男子800m競走の各ラウンド,各組に おける先頭走者の 200m 毎の通過タイムから各 200m区間の平均走スピードを算出し,その変化 を示したものである.図6は,類型化したパター ンの分布について示したものである.図7は,パ ターン別にみたSB,PB達成者の分布について示 したものである.なお,図5中のシンボル(●▲

○△)は類型化されたそれぞれのパターンを表し,

図6,7と対応している.

男子800mにおいては,全てのレースにおいて 0~200m区間(以下,S1)から200~400m区間

(以下,S2)にかけて走スピードが減少してい た(図 5).このことは,800m においては,S1 の走スピードの大きさにかかわらずS2では走ス ピードが減少していたことを示している.したが って,男子800m のレースパターンの類型化は,

S1以降,すなわち S2,400~600m 区間(以下,

S3)および600~800m区間(以下,S4)の走ス ピードの変化をみることにより行なった.その結 果,以下の4つのパターンに分類することができ

2 2

1

5

0 1 2 3 4 5

P800-1

P800-2

P800-3

P800-4

レースパターン

図 6 男子 800m におけるレースパターンの分布

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 予選-2 予選-3 予選-4 予選-5 予選-6 予選-1

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 準決-1 準決-2 準決-3

1 2 3 4 決勝

7.0 7.5 8.0 8.5

6.5

(m/s)

区間

図 5 男子 800m における各 200m 区間の平均走スピードの変化

2

3 3

1

1

1

1

0 1 2 3 4

P800-1

P800-2

P800-3

P800-4

レースパターン

PB達成者 SB達成者

SBPB

図 7 男子 800m におけるレースパターン別に みた PB,SB 達成者の分布

た.

まず1つめのパターン(以下,P800-1)は,S2 からS3,そしてS3からS4にかけて加速するパ ターンである(図5中●).これには決勝などが 該当し,合計で2レース存在した(図6).

2つめのパターン(以下,P800-2)は,S2から S3にかけて加速し,S3からS4にかけて減速する パターンである(図 5中▲).このパターンは2 レース存在した(図6).

3つめのパターン(以下,P800-3)は,S2から S3にかけて減速し,S3からS4にかけて加速する パターンである(図5中○).このパターンは予 選第2組のみの1レースしか存在せず,4パター ンのうち最も少なかった(図6).

4つめのパターン(以下,P800-4)は,S2から S3,そしてS3からS4にかけて減速するパターン である(図 5中△).全レースの半数にあたる5 レースがこのパターンに該当し,4つのパターン のうち最も多かった(図6).また,P800-4のパタ ーンにおいて 3名がSBを,1名がPBを出してお り(図7),優勝者のA.K.YEGO(KEN)も準決勝 第1組において1分44秒54のSBおよび大会最 高記録を出している.

(2) 男子1500m

図8は,男子1500mの各ラウンド,各組にお

ける先頭走者の 400m 毎の通過タイムから各 400m区間(1200~1500m区間については300m) の平均走スピードを算出し,その変化を示したも のである.全てのレースにおいて,1周目(以下,

L1)から2周目(以下,L2)にかけて減速し,3 周目(以下,L3),4周目(以下,L4)と加速す るパターンを示し,男子1500m のレースパター ンはこの1つのみであった.門野と榎本(2007) は,2003年世界選手権パリ大会,2004年オリン ピックアテネ大会および2005年世界選手権ヘル シンキ大会のレース分析を行ない,男子 1500m の予選や準決勝においては後半700m(3 周目以 降)において走スピードが漸増する傾向がみられ たと報告している.大阪大会においても,彼らの 報告と同様の傾向がみられたことから,3周目以 降において走スピードが漸増するというパター ンは,男子1500m のレースパターンの特徴とい えるだろう.

3.3 記録からみた走スピード,ストライド,ピッ チの特徴

ここでは,記録によって上位群(以下,Top) と下位群(以下,Low)に分け,記録からみた走 スピード,ストライド,ピッチの特徴について検 討する.なお,大会最高記録を出した選手も加え,

その特徴についても検討する.

(1) 男子800m

男子800mは,1分44秒~45秒台の選手17名 をTop(1分45秒50±0秒37),1分46秒~47 秒台の選手17名をLow(1分46秒60±0秒45) とした.図9は,Top(図中●),Low(図中○)

および大会最高記録(1 分 44 秒 54)を出した YEGO(図中▲)の走スピード,ストライド,ピ

7.5 8.0

6.0 7.0 6.5

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 周目

予選-2 予選-3 予選-1

(m/s)

4周目は1200~1500m300m区間

1 2 3 4 1 2 3 4

準決-1 準決-2

1 2 3 4

決勝

図 8 男子 1500m における各周の平均走スピードの変化

6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 (m/s)

1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 (m)

3.0 3.2 3.4 3.6 3.8 4.0

走スピード ストライド (Hz) ピッチ

120 200 300 400 500 600 700 800 120 200 300 400 500 600 700 800

120 200 300 400 500 600 700 800 (m)

Top (1:45.50±0.37,n=17) Low (1:46.60±0.45,n=17)

* *

*

YEGO (1:44.54)

TopLowに有意差あり*p<0.05**p<0.01***p<0.001

図 9 男子 800m における記録水準別および大会最高記録者の 走スピード,ストライドおよびピッチの変化