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Biomechanical Analysis of Men’s High Jump Winners in IAAF World Championships in Athletics Osaka 2007

1) University of Tsukuba , 2) Graduate School of University of Tsukuba, 3) Physical Education Center of University of Tsukuba, 4) Osaka University of Health and Sport Sciences

1.���に

1968 年のメキシコオリンピックでアメリカン のフォスベリー選手が2m24で優勝して以来,背 面跳は一気に世界中に広まり,現在の世界記録は 男女とも背面跳によって樹立されたものである

(男子2m45,女子2m09).その特徴は背面での バークリアランスバーおよび曲線助走である.

走高跳の技術は助走,踏切準備,踏切,クリア ランスなどの局面に分けて論じられるが,最も重 要な局面は踏切である.曲線助走を用いる背面跳 はベリーロールに比べて,3次元的動作の要素が 強く,踏切準備,踏切,クリアランスのいずれも 非常に複雑であり,一流選手の動作に関する研究 はまだ少ない.

1 11回大阪大会における男子走高跳の結果

第11回大会の男子走高跳は,表1に示すよう に上位入賞者が2m35をクリアーするなど,最近 の大会では非常にレベルの高いものであった.さ らに,バハマのトーマス選手はバスケットボール 選手から走高跳選手に転向してわずか 2 年とい う経験の浅い選手が優勝したことは特筆すべき ことであろう.彼のフォームは,まるでバスケッ トボールのランニングショットのようで,比較的 短い助走と前傾の大きな踏切準備姿勢に特徴が

あった.また空中で脚をばたつかせる独特のフォ ームもマスコミやファンの話題となった.一方,

同じく2m35をクリアーして2位になったロシア のリバコフ選手は,踏切足接地時の大きな身体の 後傾,両腕振込みなど典型的な美しいフォームを 示した.本報告では,第11 回大会の男子走高跳 の上位入賞者の踏切準備および踏切動作を中心 にバイオメカニクス的分析の結果を報告する.

2.��

2.1 対象者およびデータ収集

男子走高跳決勝進出者15名の踏切準備および 踏切動作を,左踏切選手では 2台の高速度 VTR カメラ(HSV-500,ナック,250コマ/秒,1/1000 秒)により,右足踏切選手では 2 台のデジタル VTR カメラ(VX-1000,ソニー,60 フィールド

/秒,1/1000秒)により撮影した.これらのカ メラは長居陸上競技場スタンドの最上段に設置 した.カメラ設置位置などの制約により,通常の カメラ同期装置が使えなかったので,踏切1歩前 および踏切の足接地の瞬間を同期信号として用 いて2台のカメラからの画像を,同期した(イベ ント法).

2.2 データ処理

競技会における各選手の最高記録跳躍の試技 について少なくとも踏切2歩前接地の5コマ前か ら踏切足離地後の10コマ後までの身体計測点23 点をデジタイズし,これらの3次元座標値をDL T法により算出したのち,これらをバッターワー スデジタルフィルターにより平滑化した(最適遮 断周波数は 5~7.5Hz).なお,計測誤差の平均 は,x軸(バーに平行)方向で0.01m,y軸(バ ーに垂直)方向で0.02m,z軸(鉛直)方向で0.01m

であった.

阿江の身体部分慣性係数を用いて身体各部お よび全身の重心位置を推定し,下記の身体重心高 を求めるとともに,数値微分することにより助走 や踏切局面における身体重心の速度などを算出 した.

H1:踏切足が離れる瞬間の身体重心高

H2:空中で身体重心が上昇した高さ(本報告で は,離地時の身体重心の鉛直速度からV22gの式により算出した.g =-9.8m/s2) H3:身体重心の最大値(H1+H2)とバー高との

また様々な下肢の関節角度,身体部分角度を算 出したが,本報告では膝関節角度(大腿と下腿の なす角度)のみを報告する.踏切足接地時の姿勢 の指標として,身体の内傾角および後傾角(図1), 体幹の傾斜角(両肩および両股関節の中点を結ぶ 線分と鉛直線とのなす角度)などを求めた.

Z’

Y’

Z’

X’

内傾角 後傾角

1 身体の後傾角および内傾角の定義 3.�����

3.1 踏切準備および踏切のフォーム

図2から9は,踏切2歩前接地から踏切足離地 までの入賞者8名のスティックピクチャー(上段 は側方から,下段は後方から)を示したものであ る.なお,左の上肢と下肢および体幹は実線で,

右側は破線で示した.

ここでは,上位入賞者3名のフォームを詳細に見 てみることにする.

トーマス選手(図2,2m35)

リバコフとイオアノフとは大きく異なり,踏切 2歩前においても身体,特に体幹を大きく前傾し ている.このフォームは,バスケットボールのラ ンニングショットあるいは短助走跳躍と非常に よく似ている.また,図2の3,11,12のように,

膝を深く屈曲していることも彼の大きな特徴の1 つである.彼のフォームについてはこれまでのも のと非常に異なっており,新しいタイプであると の指摘が多くあるようであるが,踏切に入るまで には身体を起こしている.踏切足接地時には,体 幹の起こしは他の選手に比べてやや小さいが,身 体や踏切脚の後傾は大きい.また,両腕をしっか りと振り込み,踏切足離地時には身体を垂直に保 ち,振上脚の大腿も高く上げている.

後方から見た場合の特徴は,踏切2歩前から大 きく身体を内傾しており,この大きな内傾が踏切

足接地にも保たれていることである(踏切時:8.1 度).

リバコフ選手(図3,2m35)

リバコフは,すでに述べたように,多くの陸上 競技の指導者に見られるような,両腕振込み,大 きな後傾姿勢などの典型的で美しい走高跳のフ ォームを示している.側方からみると,踏切2歩 前では前傾しているが,その後体幹を起こして重 心を下げ,両腕振込みの準備をして踏切に移って いる.しかし,1歩前の膝関節の屈曲はトーマス よりも小さい.このことは,逆に言うと,トーマ スが大きく膝を屈曲して重心を下げているを示 す.踏切局面では,身体および踏切脚を大きく後 傾し,両腕と振上脚を大きく振り込んでいる.

後方からみると,踏切2歩前の身体の内傾はト ーマスと同様に大きいが,支持局面(8~10)で 進行方向を大きく変えていることがわかる.踏切 足接地時の内傾は保たれていることもわかる.

イオアノフ選手(図4,2m35)

イオアノフは,いわゆる完全な両腕振込みとい うよりも,半両腕振込み(セミダブルアーム)型 と呼ばれる腕の振込みを用いているが,リバコフ と同様に綺麗なフォームである.しかし,踏切2 歩目(6~8)をみると,身体,あるいは身体重心 の動きがやや上向きである(浮いている).最後 の1歩でもこの傾向がみられ,さらに踏切足を地 面にたたきつけるようにしていることもあり,踏 切足の接地がやや遅れている.

後方からみると,踏切2歩前では大きく内傾し ているが,踏切足接地時には内傾が小さくなって いる.

3.2 身体重心の高さおよび速度

表 2 は選手のパフォーマンスを規定する要因 および踏切時間を,表3は最後の1歩および踏切 局面の身体重心の速度を示したものである.

トーマス選手の特徴は,著しく大きなH2(1.10m) およびあまり有効でないH3にある.また,リバ コフ選手は身長が大きいこともあり,H1 が大き い.踏切時間は,1991年と大きな違いはない.

予想とは大きく異なり,トーマス選手の助走速 度は踏切1歩前(7.73m/s),踏切足接地時(7.87m/s) ともに3名中で最も大きく,わずかに加速して踏 切に入っている.彼の踏切足接地時の速度は,東 京大会(踏切7.52±0.25m/s,1991),ヘルシンキ 大会(踏切 7.78±0.34m/s,2005)の平均値より もやや大きい.この加速して踏切に入る傾向はリ バコフ選手にも見られるが,イオアノフ選手には 見られない.しかし,それでも踏切足接地時の速 度は東京大会の平均値よりも大きい.トーマス選 手とリバコフ選手の踏切足接地時の鉛直下向き 速度は東京大会(-0.12±0.53m/s),ヘルシンキ大 会(-0.33±0.16m/s)よりも小さく,イオアノフ

2 トーマス選手のスティックピクチャー(2m35,上段:側方,下段:後方)

3 リバコフ選手のスティックピクチャー(2m35,上段:側方,下段:後方)

4 イオアノフ選手のスティックピクチャー(2m35,上段:側方,下段:後方)

5 ホルム選手のスティックピクチャー(2m33,上段:側方,下段:後方)

6 ジャンク選手のスティックピクチャー(2m30,上段:側方,下段:後方)

7 モヤ選手のスティックピクチャー(2m30,上段:側方,下段:後方)

9 ババ選手のスティックピクチャー(2m26,上段:側方,下段:後方)

8 オンネン選手のスティックピクチャー(2m26,上段:側方,下段:後方)

選手では上向きである.3選手の跳躍角は,ヘル シンキ大会(51.1±2.3 度)と同様で,東京大会

(47.8±3.5度)よりも大きい.

3.3 身体の傾き角および膝関節角度

表4は身体および体幹の傾き角を,表5は踏切 1歩前および踏切局面の膝関節角度を示したもの である.また図10は8選手の踏切局面における 膝関節角度と身体重心の鉛直速度の変化の関係 を示したものである.3選手の体幹の傾き角には 差がないが,身体の後傾はイオアノフ選手の 40 度が最も小さく,トーマス選手の 43.5 度が最も 大きく,東京大会(37.7±3.4 度)よりも大きか った.踏切足接地時の身体の内傾角は多くの選手 で東京大会(3.2±3.1 度)に比べて大きかった.

特にトーマス,モヤ,オンネンの3選手の内傾角 は非常に大きく,彼らの大きな特徴の1つである と考えられる.

図2~4および表3に示したように,3選手と も踏切1歩前では膝関節を屈曲しているが,その パターンには相違が見られる.トーマス選手とイ オアノフ選手は1歩前接地後,膝関節をさらに屈 曲するか,ほぼその屈曲を維持したままで,あま り伸展せずに離地している.リバコフ選手は膝を あまり曲げずに支持脚を前傾させることによっ て身体重心を下げている.しかし,図2~4を観 察すると,最後の1歩では膝屈曲の大きさに関係 なく,いずれの選手も下腿を大きく前傾している ことがわかる.スプリントでは,支持期前半にお ける下腿のすばやい前傾がブレーキを少なくす るために重要であると言われている.ここに示さ れた下腿の前傾は3選手ともに1歩目における助 走速度の減速が小さかったことの一要因であろ う.

図10に示したように,踏切接地時の膝関節は リバコフ選手で最も大きく(伸展している),イ オワノフ選手が最も小さい(屈曲している).踏 切局面ではトーマス選手の膝が最も深く屈曲し ており(133 度),この膝関節角度はヘルシンキ 大会の最小値127.9度,東京大会の132.9度とほ ぼ同様で,トーマス選手の膝屈曲は大きいと言え る.踏切前半では膝関節は屈曲するが,身体重心 は上昇を続けるが,これは大きく後傾した身体が 踏切足を中心に起こし回転するためである.身体 重心の離地時の鉛直速度に対する膝関節伸展開 始時の鉛直速度の比は東京大会では 78.7±6.1%

2 パフォーマンス決定要因および踏切時間

3 身体重心速度および跳躍角

4 踏切足接地時における身体の傾き角

10 踏切局面における膝関節角度および身体重心 の鉛直速度の変化

5 踏切 1 歩前および踏切局面における膝関節角