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Championship in Athletics in Osaka

広川龍太郎 1) 松尾彰文 2) 柳谷登志雄 3) 土江寛裕 4) 杉田正明 5)

4) Mie University, 5)University of Tsukuba 1 .���に

400m ハードル走(以下 400mH)に関しては,

1980 年代後半から現在に至るまで,主にハード ル区間の疾走速度変化を中心とするレースパタ ーン分析について多数報告されており,個々の選 手の特徴や記録に影響する要因などが検討され ている(Ditroilo et al.,2001;森丘ら,2005;森 丘ら,2008;森田ら,1992;Susanka et al.,1987).

また,選手のレースパターンは,大会の環境条件 やラウンド通過条件などに直接的または間接的 に影響を受けるものと考えられる.

本稿では,大阪大会の試合条件,フィニッシュ 記録(以下記録)およびレースパターンについて 俯瞰的に検討することにより,その特徴について 明らかにすることを目的とした.

2.��

2.1 分析対象

記録分析の対象は,世界陸上競技選手権大阪大 会(以下,大阪大会)の全出場選手(男子35名 および女子37名)であった.また,レースパタ ーン分析の対象は,VTR 画像の関係で分析がで きなかった女子1名を除く男子35名および女子 36 名とした.なお,各選手の特徴ができるだけ 反映されるように,最も記録の良かったラウンド を分析対象とした.

2.2 測定方法

複数台のVTRカメラを用いてスタートピスト ルの閃光を撮影した後,インターバルの歩数と 10台のハードリング直後の着地(タッチダウン)

が確認できるように選手を追従撮影した.撮影し たVTR画像から,ピストルの閃光および各選手 のタッチダウンタイムを読みとり,各測定区間の 疾走に要した時間を求めた.

400mHレースにおける測定区間定義は,Start

から第1ハードル(H1)までの区間をS-H1とし,

以下ハードル間をH1-2,H2-3,H3-4,H4-5,H5-6, H6-7,H7-8,H8-9,H9-10,最終ハードル(H10) からFinishをH10-Fとした.また,スタートから 最高区間速度が出現するH2 までを区間 1(S1) とし,H2からH5を区間2(S2),H5からH8 を 区間3(S3),H8からFinishを区間4(S4)と定義 し,それぞれの区間時間(TS1,TS2,TS3,TS4) を算出した.

各区間の平均疾走速度は,それぞれの区間距離 を区間時間で除すことにより求めた.

疾走速度低下率(DS2/S1,DS3/S2,DS4/S3)は,次 式にて算出した.

疾走速度低下率(D)

=[1-(後の区間速度/前の区間速度)]×100 また,ペース配分の指標として,S1からS4の各 区間時間がフィニッシュ時間(記録)に占める割 合(区間時間比:%S1,%S2,%S3,%S4)を求め た.これは,相対的なペース配分の指標として用 いられているものである(森丘ら,2005;2008). ハードル区間歩数(Steps)は,ハードルクリ アランス直後の先行(リード)脚の着地から次の ハードリングにおける踏切足の接地までの歩数 とし,H1からH5までの積算をSH1-5,H5からH8

までをSH5-8,H8 からH10 までをSH8-10,H1 から

H10までの総歩数をSH1-10とした.

相関分析にはピアソンの積率相関分析を用い,

有意性の判定には危険率5%未満を採用した.

3.����に����

パフォーマンスについて検討する前に,大阪大 会の試合条件(日程,環境およびラウンド通過条 件)について整理しておきたい.

・ レース日程:男子は 8 月 25 日に予選,同 26 日に準決勝,1日おいて同28日に決勝.女子は

8月27日に予選,同28日に準決勝,1日おいて 同30日に決勝.

・ 環境条件:男子のレース時間帯は20時半〜22 時半,気温は30〜31℃,湿度は62〜65%.女子 のレース時間帯は予選が午前11時前後,準決勝 および決勝が21時半〜22時半,気温は29〜33℃,

湿度は61〜71%.

・ ラウンド通過条件:男女ともに予選通過(予通)

が5組4着+4(計24名),準決勝通過(準通)

が3組2着+2(計8名).

4.記録������

表1は,記録レベル別の分布を示したものであ る.また,表2は,大会平均およびラウンド通過

(落選)記録を示したものである.予選の通過平 均記録(予通記録)は,男子が49.38秒,女子が

55.70秒であった.標準偏差は,男子が±0.34秒,

女子が±0.71秒と幅があるが,確実に準決勝に進

出することを考えれば,平均値よりも良い記録が 必須となる.

準決勝の通過平均記録(準通記録)は,男子が

48.41秒,女子が53.95秒であった.準通記録は,

予選に比べて標準偏差も小さいことから(男子±

0.16秒,女子±0.19秒),決勝進出のためにはや はり平均値よりも良い記録を出すことが求めら れるだろう.

また,決勝進出者のうち,準決勝よりも記録の 良かった選手は,男子は3名(1〜3位),女子は 2名(1〜2位)と,いずれも表彰台に登った選手 に限られている.決勝は,準決勝から1日あけて のレースであったが,先に示したような厳しい気 象条件や,近年上位選手のレベルが均衡しており 準決勝の通過レベルが高まっていること(森丘,

2008)などが影響していると推察される.

表1.記録レベル別度数分布

範囲(秒) ~47.99 48.00~48.49 48.50~48.99 49.00~49.49 49.50~49.99 50.00以上

人数(人) 1 6 3 8 9

割合(%) 3 17 9 23 26 23

範囲(秒) ~53.99 54.00~54.49 54.50~54.99 55.00~55.99 56.00~56.99 57.00以上

人数(人) 4 5 3 7 7 1

割合(%) 11 14 9 20 20 31

男子

女子

8

1

表2.大会平均記録およびラウンド通過(落選)記録

大会平均記録 予落記録 予通記録 準落記録 準通記録 決勝記録

人数(人) 35 11 24 16 8 7

平均±SD(秒) 49.56±1.23 50.93±1.14 49.38±0.34 49.49±0.63 48.41±0.16 48.99±1.83 最高値(秒) 47.61 49.67 48.70 48.44 48.18 47.61 最低値(秒) 52.66 52.66 49.94 51.24 48.66 52.97

人数(人) 37 13 24 16 8 8

平均±SD(秒) 56.05±2.07 58.03±2.13 55.70±0.71 55.91±1.35 53.95±0.19 54.13±0.56 最高値(秒) 53.31 56.44 54.77 54.38 53.57 53.31 最低値(秒) 64.76 64.76 56.77 60.07 54.15 54.63 男子

女子

5.�������の������

5.1 区間時間と記録との関係

図1および図2は,区間時間(TS1,TS2,TS3, TS4)と記録との関係を示したものである.男女 ともに全ての区間時間と記録との間に有意な正 の相関が認められ,相関係数は男子がTS2,TS3, TS1,TS4,女子はTS3,TS2,TS4,TS1の順に高かっ た.TS2およびTS3は,他の区間に比べて記録との 相関係数が高いことが示されており(森丘ら,

2005),大阪大会においても同様の結果が認めら れた.しかしながら,このことは,S2とS3がS1 やS4 に比べて重要度が高いという意味ではない ことに留意すべきである.

森田ら(1994)は,最高区間速度が出現する H1-2 の区間時間(速度)と記録との間に有意な 相関関係が認められたことから,H2 までの疾走 速度を高めることが記録向上のために必要な要 因であるとしている.また,森丘ら(2005)は,

S1 が記録的には最も差がつきにくい区間である としたうえで,この区間で一定以上の疾走速度を 獲得することの重要性を示唆している.TS1は,

男女とも上位から下位までの差がほぼ 1 秒程度 であり(それ以外の区間は約1.5〜4.0秒),記録 的に「差がつきにくい」区間ではあるが,静止状 態から走速度を獲得するために費やしたエネル ギーや努力感といった「数値に表れない差」が,

後の区間の疾走速度に影響することは想像に難 くない.

5.2 速度低下率と記録との関係

図3および図4は,速度低下率(DS2/S1,DS3/S2

DS4/S3)と記録との関係を示したものである. ま

た,図5および図6は,区間時間比(%S1,%S2,%

S3,%S4)と記録との関係について示したもので ある.男子は,DS2/S1および%S2と記録との間に正 の相関が認められた。すなわち,男子は速い選手 ほどS2 での速度低下が抑えられており,相対的 なペース配分も「速い」傾向にあるということが できる.女子は,DS2/S1および%S3と記録との間に 正の相関がみられ,%S1との間には負の相関が認 められた.すなわち,女子も男子同様,速い選手 ほどS2での速度低下が抑えられており,S3の相 対的なペースが「速い」傾向にあると考えられる.

また,女子にみられた%S1と記録との間の負の相 関は,パフォーマンスの高い選手ほど,スタート から最高区間速度が出現するまでの時間が相対 的に長く,相対的ペースとしては「遅い」傾向に あるととらえることもできる.これは,男子の一 流選手にもみられる傾向(森丘ら,2005)である が,先の区間時間のデータを勘案すれば,相対的 なペース配分が遅いにもかかわらず速いペース を獲得している,すなわち走効率が良いという評 価が可能であるかも知れない.実際,S2,S3 に おいて高い速度を維持するためには,S1 で効率 よく速度を高めておく必要があることは自明で あり,相関関係に現れない部分の質的な分析も含 めて,全体の傾向を捉えていく必要があるだろう.

図1.区間時間と記録との関係(男子)

図2. 区間時間と記録との関係(女子)

図3. 速度低下率と記録との関係(男子) 図4. 速度低下率と記録との関係(女子)

図5. 区間時間比と記録との関係(男子)

図6. 区間時間比と記録との関係(女子)

なお,男子のDS3/S2と記録との間に負の相関が認 められるなど,一部先行研究との相違がみられる 結果も得られている.森丘ら(2005)の研究は,

国内外の主要大会の決勝レースにおいて50秒以 内の記録を達成した選手の自己ベスト記録(PB),

すなわち選手固有のベストパフォーマンス(PB に対する達成率は99.5%以上)を分析対象として いるのに対して,本報告では大阪大会の全出場選 手(47〜52 秒台)を対象としているため,PBに 対する達成率も,男子が98.4%,女子が98.0%程 度に留まっている.したがって,データに含まれ るバイアスの質が異なっている可能性があり,こ の点については詳細な検討が必要であるといえ るだろう.

5.3 区間歩数と記録との関係

図7および図8は,ハードル区間歩数(SH1-10

SH1-5,SH5-8,SH8-10)と記録との関係を示したもの

である.男子はSH1-10,SH1-5,SH5-8と記録との間に 正の相関が,女子はすべての指標と記録との間に 正の相関が認められたことから,男女ともに速い 選手ほどインターバル歩数が少ない傾向にある といえる.一般に,400mHの記録を高めるために は,できるだけ少ない歩数で走ることが有効であ るといわれており(宮下,1991;森田ら,1994),

大阪大会の結果も先行研究の結果を支持するも のであったといえる.しかしながら,世界トップ レベルの男子選手は,身長が 180cm以下から

190cm以上の選手まで多岐にわたるが,最少区間

歩数は概ね13歩であることから,パフォーマン

スレベルが高まるほど歩数の差がつきにくくな ることが予想される.実際,大阪大会での記録が 50秒以内の男子選手(26名)に対象を絞ると,

SH1-10と記録との相関関係は認められなかった.

一方,女子については,57秒以内の選手(27名)

に絞った分析においても,SH1-10と記録との間に 相関関係が認められた.女子の最小区間歩数は概 ね15歩であるが,女子の記録の延長線上に男子 の記録があると考えれば,この男女間の相違はさ ほど違和感のない結果であると考えられる.また,

SH1-5とT S-H5,SH5-8とT H5-8との関係については,男 女ともに歩数が少ない方が記録がよい傾向にあ るが,男子のSH8-10は記録レベルによらず大半の 選手が 30 歩(15歩×2)で走破しているなど,

レース局面による相違もみられる.以上のことは,

歩数増減の記録に及ぼす影響(貢献度)が,選手 のパフォーマンスレベルやレースの局面によっ て異なることを示唆しているといえる.換言すれ ば,インターバルの歩数については,選手固有の 走動作,ハードリングの踏切脚,著しい加減速の 有無といった客観的要因と,レース局面毎の疲労 状態といった主観的要因とを十分に勘案しつつ 最適化することが求められるといえるだろう.

6.�����の記録�������������

6.1 世界および日本10傑の比較

表3は,2007年の世界と日本の10傑平均記録 および日本代表選手の大会終了時点でのPBを比 較したものである.

図7. 区間歩数と記録との関係(男子)