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門野 洋介

1)

,榎本 靖士

2)

,鈴木 雄太

1)

芦澤 宏一

1)

,法元 康二

3)

,小山 桂史

4)

1) 筑波大学大学院 2) 京都教育大学 3) 茨城県立医療大学 4) 順天堂大学大学院 Hirosuke KADONO1)Yasushi ENOMOTO2)Yuta SUZUKI1)

Hirokazu ASHIZAWA1) Koji HOGA3) Keiji KOYAMA4)

1) Graduate School of University of Tsukuba 2) Kyoto University of Education 3) Ibaraki Prefectural University of Health Science4) Graduate School of Juntendo University 1� ���に

これまで,日本陸上競技連盟科学委員会は日本 国内の主要競技会における中距離走種目におい て,主に日本人選手の通過タイム,走スピード,

ストライド,ピッチ,さらには走動作などのバイ オメカニクスデータを収集してきた.しかし,

1991 年の第 3回世界陸上競技選手権東京大会,

そして1994年の第12回広島アジア大会以来,外 国の世界一流選手のデータはほとんど得られて いない.したがって,世界一流中距離走者のレー スパターンや走動作に関する資料は少なく,その 特徴についてはあまり知られていない.また,女 子選手に関するデータは,男子に比べて少ないの が現状である.本稿では,第11 回IAAF世界陸 上競技選手権大阪大会(以下,大阪大会)におけ

る女子800mおよび1500m競走における世界一流

選手のレースパターンおよび走動作を分析し,そ の特徴について明らかにすることを目的とした.

2� �法

方法は,レース分析および動作分析ともに前章 の男子中距離走種目と同様の方法を用いた.した がって,方法については前章を参照されたい.

3� ��および��

3.1 記録の特徴

表1は,女子800mおよび女子1500mにおける ラウンド通過者および敗退者の平均記録,シーズ ンベスト記録(以下,SB)に対する達成率(以 下,%SB),最高および最低記録について示した ものである.また,図1は,各種目における記録 の分布について示したものである.ここではこれ らの結果をもとに,記録の観点から各種目の特徴 について検討する.

表 1 女子 800m および 1500m のラウンドにおける記録

平均記録 ± SDn 2:09.13 ± 10.53 *** 2:00.41 ± 00.67 2:00.73 ± 02.03 ** 1:57.92 ± 01.13 1:58.17 ± 01.55

%SB ± SD (%) 98.7 ± 1.5 * 99.4 ± 0.9 99.3 ± 1.7 * 101.0 ± 1.1 99.8 ± 1.0

最高記録 最低記録

n

平均記録 ± SD 4:30.89 ± 33.38 *** 4:10.42 ± 00.69 4:13.90 ± 05.12 * 4:09.17 ± 05.42 4:04.50 ± 05.00

%SB ± SD (%) 94.8 ± 5.6 * 97.8 ± 1.1 97.2 ± 2.1 97.7 ± 2.4 99.5 ± 1.3

最高記録 最低記録

21 24

4:03.84

4:15.43 3:58.75

4:14.00 8

16 8

準決勝 決勝

敗退 通過

4:08.02 4:21.50 予選

敗退 通過

12

4:09.05 4:11.24 4:11.51

5:45.99

2:36.14 2:01.81 2:06.97

24 12 12

13

『通過』と『敗退』に有意差あり *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 決勝

1:59.32

1:56.17 1:56.04

女子1500m

2:00.90

2:01.00 1:58.95 1:58.62

女子800m

予選 準決勝

敗退 通過 敗退 通過

(1) 女子800m

女子800mにおいて,予選,準決勝ともに通過 者の平均記録が有意に優れており(予選:p<0.001, 準決勝:p<0.01),%SBも有意に高かった(p<0.05).

決勝進出者8名のうち,3名が自己最高記録(以 下,PB),3 名がSB を準決勝において出してい た(%SB:101.0±1.1%).しかし,準決勝敗退者 の%SB も99.3±1.7%と決して低くはなく,中に は1分58秒台のPB を出したにもかかわらず敗 退した選手が2名いた.また,記録の分布をみる と(図1),1分56秒~2分01秒の高いレベルで の分布が多く,SB,PB達成者もその範囲に集中 しており,SB,PB 達成者数が延べ 30名と男子 も併せた中距離走種目の中で圧倒的に多かった.

決勝はJ.JEPKOSGEI(KEN)が1分56秒04の PB および大会最高記録で制した.これらのこと から,女子800mは記録的に非常にレベルが高く,

特に決勝進出者においてはベストかそれに限り なく近いパフォーマンスを発揮していたといえ よう.

(2) 女子1500m

女子 1500mにおいて,予選,準決勝ともに通

過者の平均記録が有意に優れており(予選:

p<0.001,決勝:p<0.05),予選においては%SBも 有意に高かった(p<0.05).決勝進出者の12名に はランキング1位から6位(4位は除く)までの 選手が含まれており,決勝の平均記録(4 分 04 秒50±05秒00)および%SB(99.5±1.3%)は全 てのラウンドの中で最も高かった.決勝はランキ ング2位のM.Y.JAMAL(BRN)が3分58秒75

のSBで制し,この記録が大会最高記録であった.

これらのことから,女子 1500mは,ランキング 上位者が予選,準決勝とほぼ順当に勝ち進み,決 勝はその実力が最も発揮されたレースであった といえよう.

3.2 レースパターンの類型化とその特徴

ここでは,レースをいくつかの小区間に分け,

その区間における平均走スピードの変化をみる ことにより,レース中の走スピードの変化すなわ ちレースパターンを定性的に類型化し,その特徴 について検討する.

(1) 女子800m

図2は,女子800mの各ラウンド,各組におけ る先頭走者の 200m毎の通過タイムから各200m 区間の平均走スピードを算出し,その変化を示し たものである.図3は,類型化したパターンの分 布について示したものである.図4は,パターン 別にみたSB,PB達成者の分布について示したも のである.なお,図2中のシンボル(●▲○△)

は類型化されたそれぞれのパターンを表し,図3, 4と対応している.

女子800mにおいては,全てのレースにおいて 0~200m区間(以下,S1)から200~400m区間

(以下,S2)にかけて走スピードが減少していた

(図2).これは,前章の男子800mと同様の結果 であり,女子800mにおいても,S1の走スピード の大きさにかかわらずS2では走スピードが減少 していたことを示している.したがって,女子 800mのレースパターンの類型化は,S1以降,す

1:56-57 1:58-59 2:00-01 2:02-03 2:04-05 2:06-07 2:08- 3:58-59 4:00-02 4:03-05 4:06-08 4:09-11 4:12-14 4:15-

4:15-6 19

31

8

1 4

7 2

5 6

9 26

5 20

女子800m 女子1500m

PB達成者数: 17 SB達成者数: 13

PB達成者数: 4 SB達成者数: 6

数(名)

図 1 女子 800m および 1500m における記録の分布

なわち S2,400~600m 区間(以下,S3)および 600~800m区間(以下,S4)の走スピードの変化 をみることにより行なった.その結果,以下の4 つのパターンに分類することができた.

まず 1つめのパターン(以下,P800-1)は,S2 からS3,そしてS3からS4にかけて加速するパ ターンである(図2中●).このパターンは2レ ース存在した(図3).

2つめのパターン(以下,P800-2)は,S2から S3 にかけて加速し,S3からS4 にかけて減速す るパターンである(図2中▲).これには準決勝 第2組のみ該当し,4つのパターンのうち最も少 なかった(図3).

3つめのパターン(以下,P800-3)は,S2から S3 にかけて減速し,S3からS4 にかけて加速す るパターンである(図2中○).全レースの半数

(5レース)がこのパターンであり,4パターン のうち最も多かった(図 3).また,延べ4 名が シーズン最高記録(以下,SB)を,6名が自己最 高記録(以下,PB)をP800-3のパターンにおいて 出しており(図4),優勝者のJEPKOSGEIも決勝

において1分56秒04のPBおよび大会最高記録 を出している.

4つめのパターン(以下,P800-4)は,S2から S3,そして S3からS4 にかけて減速するパター ンである(図 2中△).2 レースがこのパターン であった(図3).また,2名がSBを,8名がPB を P800-4 の パ タ ー ン に お い て 出 し て お り , JEPKOSGEI も準決勝第3組において1分56 秒 17のPBを出している.

これらをまとめると,女子800mのレースパタ ーンの特徴は以下のようになるであろう.P800-3

(○)が最も多く,SBまたはPB達成者数が10 名と P800-4 と並んで最も多かった.優勝者の JEPKOSGEI は決勝においてP800-3 のパターンに おいてPBを出した.また,P800-4においてもSB またはPB達成者が10名と最も多かった.

(2) 女子1500m

図 5は,女子1500mの各ラウンド,各組にお

ける先頭走者の 400m 毎の通過タイムから各 400m区間(1200~1500m区間については300m)

2

1

5

2

0 1 2 3 4 5

P800-1

P800-2

P800-3

P800-4

レースパターン

4

2

4

2 2

1

6

8

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

SBPB

PB達成者 SB達成者

P800-1

P800-2

P800-3

P800-4

レースパターン

図 3 女子 800m におけるレースパターンの分布 図 4 女子 800m におけるレースパターン別にみた PB,SB 達成者の分布

予選-2 予選-3 予選-4 予選-5 予選-6 予選-1

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4

準決-1 準決-2 準決-3

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4

決勝

1 2 3 4 7.5

8.0

6.0

(m/s)

7.0 6.5

1 2 3 4 区間

図 2 女子 800m における各 200m 区間の平均走スピードの変化

の平均走スピードを算出し,その変化を示したも

のである.図6は,類型化したパターンの分布に ついて示したものである.図7は,パターン別に みたSB,PB達成者の分布について示したもので ある.女子 1500mは以下の3つのパターンに分 類することができた.

1 つめのパターン(以下,P1500-1)は,1 周目

(以下,L1)から 2 周目(以下,L2)にかけて 減速し,3周目(以下,L3),4周目(以下,L4) と加速するパターンである(図5中●).全レー スの半数(3レース)がこのパターンであった(図 6).

2つめのパターン(以下,P1500-2)は,L1から L4 にかけて加速し続けるパターンである(図 5 中▲).2レースがこのパターンであった(図6).

3名がSBを,3名がPBをP1500-2 のパターンに おいて出しており,女子1500m優勝者のJAMAL は決勝においてP1500-2のパターンにおいてSBお よび大会最高記録を出した.

3つめのパターン(以下,P1500-3)は,L1から L2にかけて加速,L2からL3は維持,L3からL4 にかけて加速するパターンである.(図5中○).

予選第2組のみがこのパターンであった.

これらのことをまとめると,女子 1500mのレ ースパターンの特徴は以下のようになるであろ う.P1500-1(●)が最も多く,SBおよびPB達成 者は P1500-2 が最も多かった.また,全てのパタ ーンに共通する特徴は,3周目以降減速すること はなく,フィニッシュにかけて走スピードが漸増 する傾向にあることである.門野と榎本(2007) は,2003年世界選手権パリ大会,2004年オリン ピックアテネ大会および2005年世界選手権ヘル シンキ大会のレース分析を行ない,女子 1500m の予選や準決勝においては後半 700m(3周目以 降)において走スピードが漸増する傾向がみられ たと報告している.大阪大会においても,彼らの 報告と同様の傾向がみられたことから,3周目以 降において走スピードが漸増するというパター ンは,女子 1500mのレースパターンの特徴とい えるだろう.また,これは前章の男子 1500mの レースパターンと特徴と同じである.

3.3 記録からみた走スピード,ストライド,ピッ チの特徴

2

1 3

0 1 2 3

レースパターン P1500-1

P1500-2

P1500-3

3 3

0 1

3

0 0

1 2 3 4 5 6

SBPB

レースパターン P1500-1

P1500-2

P1500-3

図 6 女子 1500m におけるレースパターンの分布 図 7 女子 1500m におけるレースパターン別にみた PB,SB 達成者の分布

予選-2 予選-3 予選-1

6.5 7.0

5.0

(m/s)

6.0 5.5

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 周目

※4周目は1200~1500mの300m区間 準決-1 準決-2

1 2 3 4 1 2 3 4

決勝

1 2 3 4

図 5 女子 1500m における各周の平均走スピードの変化