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阿江 通良

1)

永原 隆

2)

大島 雄治

2)

小山 宏之

3)

高本 恵美

4)

柴山 一仁

2)

1) 筑波大学 2)筑波大学大学院 3)筑波大学体育センター 4)大阪体育大学 Michiyoshi Ae 1), Ryu Nagahara2), Yuji Oshima2),

Hiroyuki Koyama3), Megumi Takamoto 4), Kazuhito Shibayama2)

1) University of Tsukuba , 2) Graduate School of University of Tsukuba, 3) Physical Education Center of University of Tsukuba, 4) Osaka University of Health and Sport Sciences

1.���に

1968 年のメキシコオリンピックでアメリカン のフォスベリー選手が2m24で優勝して以来,背 面跳は一気に世界中に広まり,現在の世界記録は 男女とも背面跳によって樹立されたものである

(男子2m45,女子2m09).

1 11回大阪大会における女子走高跳の結果

第11回大会の女子走高跳は,表1に示すよう に5位までが2m00に成功し,そして1m94をク リアーした5名の選手が7位という男子以上の非 常に高いレベルの激戦であった.また,優勝した ブラシッチ選手(2m05)の身長は1m92と男子なみ の長身であったが,3位のディマルチノ選手の場 合は1m69 と短身にもかかわらず 2m03 をクリ アーするなど様々なタイプの選手が競い合った.

本報告では,第11 回大会の女子走高跳の上位入 賞者の踏切準備および踏切動作を中心にバイオ メカニクス的分析の結果を報告する.

2.��

2.1 対象者およびデータ収集

女子走高跳決勝進出者16名の踏切準備および 踏切動作を,左踏切選手では2台の高速度VTR

カメラ(HSV-500,ナック,250コマ/秒,1/1000 秒)により,右足踏切選手では 2 台のデジタル VTR カメラ(VX-1000,ソニー,60 フィールド

/秒,1/1000秒)により撮影した.これらのカ メラは長居陸上競技場スタンドの最上段に設置 した.カメラ設置位置などの制約により,通常の カメラ同期装置が使えなかったので,踏切1歩前 および踏切の足接地の瞬間を同期信号として用 いて2台のカメラからの画像を同期した(イベン ト法).

2.2 データ処理

競技会における各選手の最高記録跳躍の試技 について少なくとも踏切2歩前接地の5コマ前か ら踏切足離地後の10コマ後までの身体計測点23 点をデジタイズし,これらの3次元座標値をDLT 法により算出したのち,バッターワースデジタル フィルターにより平滑化した(最適遮断周波数は

5~7.5Hz),なお,座標軸はバーに平行方向を x

軸,バーに垂直方向をy軸,鉛直方向をz軸とし た.

阿江(1996)の身体部分慣性係数を用いて身体

各部および全身の重心位置を推定し,下記の身体 重心高を求めるとともに,数値微分することによ り助走や踏切局面における身体重心の速度など を算出した.

H1:踏切足が離れる瞬間の身体重心高

H2:空中で身体重心が上昇した高さ(本報告で は,離地時の身体重心の鉛直速度からV22gの式により算出した.g=-9.81m/s2) H3:身体重心の最大値(H1+H2)とバー高との

また様々な下肢の関節角度,身体部分角度を算 出したが,本報告では膝関節角度(大腿と下腿の

なす角度)のみを報告する.踏切足接地時の姿勢 の指標として,身体の内傾角および後傾角(図1), 体幹の傾斜角(両肩および両股関節の中点を結ぶ 線分と鉛直線とのなす角度)などを求めた.

Z’

Y’

Z’

X’

内傾角 後傾角

1 身体の後傾角および内傾角の定義 3.�����

3.1 踏切準備および踏切のフォーム

図2から7は,踏切2歩前接地から踏切足離地 までの入賞者6名のスティックピクチャー(上段 は側方から,下段は後方から)を示したものであ る.なお,左の上肢と下肢および体幹は実線で,

右側は破線で示した.

上位入賞者のフォームを見比べると,ブラシッチ 選手とチチェノワ選手は両腕(ダブルアーム)型 の振込みを,ディマルチノ選手は右腕でリードす るシングルア-ム型の振込みをしていることが わかる.特に,チチェノワ選手は男子顔負けの見 事なダブルアーム型の振り込みである.ここでは,

これらのうち,先述した身長が著しく異なる2名,

すなわち長身のブラシッチ選手と短身のディマ ルチノ選手のフォームを詳細にみることにし,他 の選手のフォームについてはスティックピクチ ャーを示すにとどめる.

ブラシッチ選手(図2,2m05)

身体を大きく内傾しながら2歩前(図2の1~ 5)で下腿を前に倒して膝を曲げ身体重心を低く し,離地時では身体をしっかりと前方に押し出し ている.2 歩前で十分な準備ができているため,

1 歩前の接地時(9)にはすでに支持脚の膝はよ く曲がり,支持期における膝関節角度の変化は小 さい(表5,後出).また,1歩前で素早く両腕振 込みの準備を完了していることも注目すべきこ とである.助走速度が大きく踏切に加速して入っ ている(表 3,後出).このことが,他の選手よ りも後傾角はやや小さいものの踏切で長身を起 こす(起こし回転により鉛直速度を生み出す)原 動力となっていると考えられる.離地時の重心高 は1m37と非常に高く,すでに他の選手を5cm以 上,ディマルチノ選手を 18cm も上回っている.

さらに,最大重心高が2m19であり,H3(クリア ランスの利得)がマイナス14cmもあることを考 えると,世界記録(2m09)を破る可能性は非常に高 いと考えられる.

ディマルチノ選手(図4,2m03)

踏切 2 歩前では身体を大きく内傾しているが

(1,5),助走速度が大きいこともあり(表 3),

支持脚の膝関節角度の屈曲は小さく,リラックス したコーナー走のようなフォームである.そして,

1歩前に向けて下腿を振り出して膝関節を比較的 伸展した状態で接地している(9).1歩前の支持 期では,膝関節を他の選手よりも大きく屈曲して いるが(表5,156.2度から135.0度まで,約21 度の屈曲),スティックピクチャー(9~12)から わかるように,離地時に向かって下腿を倒しなが ら膝を屈曲しており(支持時間が長い),1 歩前 の助走速度の低下は小さい.

ディマルチノ選手の大きな特徴は,接地時には 身体はやや外傾しているが,大きく後傾した身体 を大きな助走スピードを利用して素早く起こし ていることである.また最後の1歩の空中時間が 短く,素早く踏切に入っている.踏切は,右腕で リードするシングルアーム型であるが(14~18), 他の選手に比べて振上脚の振込みのタイミング が早いことも(14)優れた点と言えるであろう.

ディマルチノ選手のフォームの特徴,すなわち,

大きな身体の内傾を保ったスピード豊かな,コー ナー走のような助走,1歩前で抜くように膝を曲 げる踏切準備,大きな後傾,素早い振上脚などは 日本選手が見習うべき点であろう.

3.2 身体重心の高さおよび速度

表 2 は選手のパフォーマンスを規定する要因 および踏切時間を,表3は踏切1歩前および踏切 局面の身体重心の速度を示したものである.

2 パフォーマンス決定要因および踏切時間

3 身体重心速度および跳躍角

ブラシッチ選手とチチェノワ選手の最大重心高 は非常に大きいが,これはH1が大きいことに加 えて,H2も大きいためである.従来の長身女子 選手ではH2は小さいことが多いが,この両選手

2 ブラシッチ選手のスティックピクチャー(2m05,上段:側方,下段:後方)

4 ディマルチノ選手のスティックピクチャー(2m03,上段:側方,下段:後方)

5 スレサレンコ選手のスティックピクチャー(2m00,上段:側方,下段:後方)

6 サブチェンコ選手のスティックピクチャー(2m00,上段:側方,下段:後方)

7 ベイティア選手のスティックピクチャー(1m97,上段:側方,下段:後方)

3 チチェノワ選手のスティックピクチャー(2m03,上段:側方,下段:後方)

は例外的であり,今後の女子走高跳の記録がさら に向上すると予想される.先述したように,ディ マルチノ選手の成功の要因は H2 が大きいこと,

H3に優れていることである.

上位3選手の1歩前および踏切足接地時の重心 速度はいずれも大きい.踏切足接地時の鉛直速度 はブラシッチおよびチチェノワ選手ではやや大 きいがディマルチノ選手以下の 4 選手はいずれ も小さい.

跳躍角は,ブラシッチ選手が最も小さく,スレサ レンコ選手が最も大きいが,これは助走速度の大 小ともほぼ一致する.

3.3 身体の傾き角および膝関節角度

表4は身体および体幹の傾き角を,表5は踏切 1歩前および踏切局面の膝関節角度を示したもの である.

男子選手に比べると,女子選手では踏切接地時 に外傾する場合が多いが,今回の分析対象とした 6選手も全員が外傾していた.しかし,ブラシッ チ,ディマルチノ,サブチェンコ選手は小さく,

チチェノワ,スレサレンコ,ベイティア選手は外 傾が10度以上になる選手とに大別された.特に,

ディマルチノ選手では外傾が小さく,後傾は大き いという特徴を示したが,これは短身選手がこの 種目で成功するための条件になると考えられる.

体幹角については,明確な関係があるとは言え ないが,表3に示した踏切足接地時の鉛直下向き 速度が大きい選手(ブラシッチ,チチェノワ)で は体幹の傾きが大きく,鉛直下向き速度が小さか った選手(スレサレンコ,サブチェンコなど)で は傾きが小さいという傾向があるようである.こ

のことは,後傾,特に体幹の後傾を大きくした場 合には踏切に跳び込んで入る動きを伴う可能性 があることを示唆すると考えられる.

膝関節角度については,踏切1歩前の支持期に おいて屈曲が大きい選手(ディマルチノ,スレサ レンコ,サブチェンコ)と小さい選手(ブラシッ チ,チチェノワ,ベイティア)に大別される.明 確な関係ではないが,表3の助走速度と1歩前の 膝関節角度をあわせて考えると,1歩前の支持期 で膝関節屈曲の大きい選手は助走速度の減少が やや大きく,屈曲が小さい選手では踏切足接地時 の速度が 1 歩前よりも大きい傾向にあるようで ある.したがって,1歩前の支持期において踏切 準備として膝関節の屈曲を大きくした場合には,

助走速度の減速が大きくなることを理解してお く必要がある.踏切局面における膝関節屈曲はい ずれの選手も約20度で大きな相違はない.しか し,最大屈曲時の膝関節角度には大きな相違がみ られ,チチェノワ,ディマルチノ,スレサレンコ の3選手は膝関節角度が非常に小さい.アイソメ トリックな筋収縮で発揮される膝伸展力は膝関 節角度が135度以下になると,急激に小さくなる とされているが,これらの選手の示した膝関節角 度は135度の限界に近いものと言えるであろう.

また,これらの選手では離地時の膝関節角度も他 の選手よりも小さいが,このことはH1を小さく する原因ともなる.これらのことを考えると,踏 切足接地時の膝関節角度が小さい場合には,最大 屈曲時および離地時の膝関節角度も小さくなる 可能性が高いので,接地時の膝関節角度はなるべ く大きい方が望ましいと考えられる.

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3位となったディマルチノ選手は短身であるが,

2m30 をクリアーしており,彼女の跳躍は日本女 子選手のモデルの1つになると考えられる.すな わち,大きな助走速度,踏切1歩前における下腿 を前傾して膝を屈曲する踏切準備,大きな身体の 後傾,素早いタイミングでの振上脚の振り込みな どである.しかし,踏切接地時の膝関節角度が小 さく,そのため離地時の膝伸展が小さくなり H1 も小さいという欠点もみられた.このようなこと から,ディマルチノ選手の動きを参考にしながら,

接地時に膝関節角度が大きくできる(踏切脚を伸 展して踏切に入れる)動きが日本女子選手の身に 付けるべきものと示唆される.なお,ディマルチ ノ選手の 1 歩前離地時に踏切脚の大腿が高く上 がっているが(図4の12),このことが接地時の 膝関節を小さくした原因と考えられるので,踏切 足を素早く低く出すことが役立つと考えられる.

4 踏切足接地時における身体の傾き角

5 踏切1歩前および踏切局面における膝関節角度