• 検索結果がありません。

Biomechanical Analysis of Elite Male Javelin Throwing Technique

1) Graduate School of Osaka University of Health and Sport Sciences, 2) Osaka University of Health and Sport Sciences, 3) Ehime Women’s College, 4) Waseda

University, 5) Osaka Sangyo University, 6) Ibaraki Prefectural University of Health Sciences, 7) Waseda University Graduate School of Sport Sciences

1.����

1991 年に東京で世界陸上競技選手権大会が開 催されて以来,日本では16年ぶり2度目となる 世界陸上競技選手権大会が2007年大阪の地で開 催された.円盤投げ種目には男子22ヵ国29人、

女子19ヵ国28人がエントリーし,日本からは日 本陸上競技選手権大会(2007,大阪)で優勝した 畑山茂雄選手と室伏由香選手が出場した.未だに 世界と日本の円盤投げ競技レベルに差は見られ るものの,2007年に男子では畑山選手が1979年 に川崎清貴選手が樹立した日本記録の 60.22mに 大きく迫る 60.11mの投てきを見せ,室伏由香選

手も 58.62mの日本記録を樹立し日本の円盤投げ

の競技レベルは高まりの兆しを見せてきている.

そこで,本研究では今回の世界陸上競技選手権大 会の円盤投げにおける男・女上位8名の投てき動 作の特徴をバイオメカニクス的観点から明らか にし,畑山選手および室伏選手との比較を試みな がら,現場での指導やトレーニングの検討材料,

あるいは今後の研究のデーターベースとなるよ うな資料を得ることを目的とした.

2.����

2.1 測定対象

世界陸上競技選手権大会(大阪,2007)におけ る,男女円盤投げの上位8名と,日本代表として 出場した畑山茂雄選手と室伏由香選手の計18名

(表 1・2)の円盤の動き,および男女上位 3名 と日本代表選手2名の8名の動作について解析を 実施した.測定対象者は全員右手投げであった.

2.2 撮影方法

図1は,本研究における撮影設定を示している.

陸上競技場の観客席上段に設置した2台のDVカ

メラ(60fps)で,各選手の全ての投てき動作を

サークルの側方と後方より撮影した.また,投て き方向4m×横4m×高さ2.5mの画角を設定し,あ らかじめ較正点間の距離が分かっているキャリ

図1 撮影設定 ブレーション用のポール(各ポールに5ヶ所のマ

ーク)を9ヶ所に垂直に立て、合計45個のマー クを撮影した.なお本研究における撮影は,日本 陸上競技連盟科学委員会の活動の一環である.

2.3 分析方法

撮影した映像から,各選手の最も記録の良かっ た試技の円盤および身体24点を動作解析システ ム(Frame-DIASⅡ,DKH)を用いて毎秒60コマ で デ ジ タ イ ズ し ,DLT 法 (Direct Linear Transformation method)を用いて3次元座標値を 算出した.その後,残差分析法によって身体各部 と円盤の最適遮断周波数(5.05-7.54Hz)を決定し,

4次のButterworth digital filterによりデータの平 滑を行った.男女決勝と男女予選における較正点 の実測値と計算値との平均誤差範囲は,投てき方 向に対して左右方向(静止座標系におけるX軸)

が 3-15mm,投てき方向(Y軸)が 4-19mm,鉛

直方向(Z軸)が5-12mmであった.分析を行な

うにあたり,円盤投げ動作を以下のように分けた.

すなわち,バックスイング終了時のターン動作開 始(T-st),右足離地(R-off),左足離地(L-off),

右足接地(R-on),左足接地(L-on),円盤のリリ ース(Rel)の時点を設定し,T-stからR-offまで を両脚支持局面(DS),R-offからL-offまでを左 脚支持局面(SS1),L-offからR-onまでを非支持 局面(NS1),R-onからL-onまでを右脚支持局面

(SS2),L-onからRelまでを投げ出し局面(DV) と時系列に沿った6つの時点と5つの局面とした

(図2). 2.4 算出項目

男女円盤投げ種目における男女上位 8 名と日 本代表として出場した畑山茂雄選手と室伏由香 選手を合わせた計 18 名の1)投てき記録と身体 的特徴,2)初期条件,3)動作時間を算出した.

男女上位3名と日本代表選手2名の計8名につい ては,4)円盤および身体重心(円盤+身体の合 成重心)の軌跡と速度変化,5)腕のスイング速 度,6)体幹の捻転角,7)両肩を結んだ線(以降

「肩」と略す)と両腰を結んだ線(以降「腰」と 略す)の回旋速度について算出した.なお腕のス

イング速度と体幹の捻転角および肩と腰の回旋 速度は,体幹の長軸を Z 軸とする運動座標系に おけるX-Y平面で求めた.腕のスイング速度は,

右肩と左肩を結ぶ線と,右肩と第三中手指節関節 を結ぶ線とのなす角から求めた右肩の水平内外 転角度の変化を時間で微分して求めた.また,水 平内転方向のスイング速度を+とした.体幹の捻 転角は,肩と腰のなす角度として求め,肩と腰が 正対した状態を 0°とし、腰に対して右肩が後方 にある状態の捻りを+とした.また,肩と腰の回 旋速度は,肩と腰の角度変化を時間で微分して求 め,反時計回りの回旋速度を+とした.なお,本 研究において,世界トップレベルの選手が各局面 でどのような動作を行なっているのかを知るた めに,各局面の動作時間を男女上位8名それぞれ の平均動作時間で標準化し,円盤速度と身体重心 速度と腕のスイング速度,体幹の捻転角および肩 と腰の回旋速度についてそれぞれ平均変化曲線 を示した.それらの図における破線はそれぞれ男 女上3名の平均値,グレーの範囲は標準偏差を示 している.畑山選手と室伏選手については,それ ぞれ太い実線で示した.

�������

3.1 男女上位 8 名と日本選手の結果と身体的特 徴

表1は,男子円盤投げ決勝での上位8名と畑山 茂雄選手の身長と体重,試技結果と自己最高記録 を示している.上位8名の身長と体重の平均は,

それぞれ 1.98±0.02mと116.5±11.2kg であった.

体格面において,畑山選手は上位8名に比べると 身長と体重ともに小柄であるといえる.本大会の 決勝では,86 年に東ドイツのJシュルト選手が

樹立した74.08mの世界記録に次ぐ,歴代2位と

なる 73.88mの自己最高記録を持つ前回大会覇者

のアレクナ選手(00年)と歴代3位となる73.38 mの自己最高記録を持つカンテル選手(06 年)

の2強が揃うハイレベルな戦いとなった.上位8 名の記録が 65.68±1.59mという混戦を制したの

は 68.94mを投げたカンテルであった.もう一人

の優勝候補であったアレクナ選手は4位で,自己 最高記録から-8.64mと,8名中結果と自己最高記

表1 男子円盤投げ上位8名と畑山選手の身体的特徴と試合結果および自己最高記録

Rank Bib Name Country BH (m) BW (kg) 1st 2nd 3rd 4th 5th 6th Result Personal Gerd Kanter

ゲルド・カンテル Robert Harting ローベルト・ハルティンク Rutger Smith ルトガー・スミス Virgilijus Alekna ウィルギリウス・アレクナ Gábor Máté ガーボル・マーテー Omar Ahmed El Ghazaly オマル・アハメド・ガザリ Ehsan Hadadi エフサン・ハダディ Aleksander Tammert アレクサンデル・タッメルト 畑山 茂雄

ハタケヤマ シゲオ

63.44 63.91 62.16

52.51 55.71 54.23 / /

64.29 62.79 64.33 64.33

55.71 /

67.95

70.82

60.11

64.21 64.53 × 64.53

×

63.29 64.10 ×

64.11 63.45 64.58

62.34 63.08 64.58 66.58

65.24 73.88

66.54 64.71

× ×

× 63.75

65.24 64.86

63.09 64.71 64.32

63.68

64.26 62.82

×

× 65.08 66.42

65.98 65.69 66.42 66.60

66.68 62.00 66.68 66.93

64.62 65.59 65.59 ×

EST 1.96

106 117

JPN 1.84

EGY 1.99 120

98 1.96

IRI

LTU 2.00 130

104 1.99

HUN

GER 2.01 112

125 1.97

NED

5

6 4 3

732 ()

8 7

669

495

679

529

2 635

852

805

68.94 73.38

1 525 EST 1.96 126 64.89 65.37 68.94 × 65.22 68.84

表2 女子円盤投げ上位8名と室伏選手の身体的特徴と試合結果および自己最高記録

Rank Bib Name Country BH (m) BW (kg) 1st 2nd 3rd 4th 5th 6th Result Personal Franka Dietzsch

フランカ・ディーチュ Darya Pishchalnikova ダリヤ・ピシチャルニコワ Yarelis Barrios ヤレリス・バリオス Nicoleta Grasu ニコレタ・グラス Taifeng Sun 孫太鳳 Olena Antonova オレーナ・アントノワ Joanna Wisniewska ヨアンア・ビスニエフスカ Natalya Fokina-Semenova ナタリヤ・フォキナセミョノワ 室伏 由香

ムロフシ ユカ 58.62

63.11

/ / / 52.76

(予) 619 JPN 1.70 64 50.76 51.79 52.76

59.94 × 58.37 61.17

63.97

8 915 UKR 1.78 85 61.17 60.36 60.11

59.64 62.41

× 60.64 61.35

62.17 61.81 62.41

88 61.35 59.96 60.95

7 758 POL 1.78

64.98

6 911 UKR 1.82 90 59.61 60.86 59.96 67.30

61.57 × × 63.22

90 61.21 60.39 63.22

5 333 CHN 1.87

63.02 63.40 63.40 68.80

63.44

4 770 ROM 1.76 88 59.51 59.79 63.14 61.44

62.44 × 57.60 63.90

76 63.90 61.75

3 351 CUB 1.74

65.78 65.55 65.78 65.55

69.51

2 830 RUS 1.89 95 59.91 63.10 65.14 60.83

63.81 65.29 × 66.61

81 66.61 66.48 63.92

1 485 GER 1.83

R-on L-on Rel

SS2

NS1 DV 投てき方向

DS SS1

T-st R-off L-off

身体前面 身体背面

Z Y

図2 時点と局面の定義

初速度(m/s)

水平速度(m/s) 鉛直速度(m/s)

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

0 5 10 15 20 25

30 初速度 (m/s)

男子:r = 0.919, p<0.001 女子:r = 0.848, p<0.01

0 5 10 15 20 25

30 鉛直速度(m/s)

男子:r = 0.790, p<0.05

女子:r = 0.779, p<0.05 男子:r = 0.695, p<0.05 0

5 10 15 20 25

30 水平速度(m/s)

男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手

初速度(m/s)

水平速度(m/s)

鉛直速度(m/s) 初速度(m/s)

水平速度(m/s) 鉛直速度(m/s)

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

0 5 10 15 20 25

30 初速度 (m/s)

男子:r = 0.919, p<0.001 女子:r = 0.848, p<0.01

0 5 10 15 20 25

30 鉛直速度(m/s)

男子:r = 0.790, p<0.05

女子:r = 0.779, p<0.05 男子:r = 0.695, p<0.05 0

5 10 15 20 25

30 水平速度(m/s)

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

0 5 10 15 20 25

30 初速度 (m/s)

男子:r = 0.919, p<0.001 女子:r = 0.848, p<0.01 0

5 10 15 20 25

30 初速度 (m/s)

0 5 10 15 20 25 30

0 5 10 15 20 25

30 初速度 (m/s)

男子:r = 0.919, p<0.001 女子:r = 0.848, p<0.01

0 5 10 15 20 25

30 鉛直速度(m/s)

男子:r = 0.790, p<0.05

女子:r = 0.779, p<0.05 0

5 10 15 20 25

30 鉛直速度(m/s)

0 5 10 15 20 25

30 鉛直速度(m/s)

男子:r = 0.790, p<0.05

女子:r = 0.779, p<0.05 男子:r = 0.695, p<0.05 0

5 10 15 20 25

30 水平速度(m/s)

男子:r = 0.695, p<0.05 0

5 10 15 20 25

30 水平速度(m/s)

0 5 10 15 20 25

30 水平速度(m/s)

男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手 男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

20 30 40

50 投射角(deg)

0.0 1.0 2.0

3.0 投射高(m)

60 70 80 90 100 110

120 投射高身長比 (%)

投射高(m) 投射角(deg)

身長比(%)

女子:r = 0.672, p<0.05

男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手

投てき記録(m)

50 55 60 65 70 75

20 30 40

50 投射角(deg)

0.0 1.0 2.0

3.0 投射高(m)

60 70 80 90 100 110 120

60 70 80 90 100 110

120 投射高身長比 (%)

投射高(m) 投射角(deg)

身長比(%) 投射高(m)

投射角(deg)

身長比(%)

女子:r = 0.672, p<0.05

男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手 男子上位8 女子上位8 畑山茂雄 選手 室伏由香 選手

図 3 Rel時の水平速度と鉛直速度および初速度 と投てき記録との関係

図 4 投射角と投射高および投射高の身長比と 投てき記録との関係

録との差が最も大きかった.表2は,女子円盤投 げ決勝での上位 8 名と室伏由香選手の身長と体 重,試技結果と自己最高記録を示している.上位 8 名の身長と体重の平均は,それぞれ 1.81±0.06

mと86.6±5.9kgであった.室伏選手も畑山選手と

同様に,上位8名に比べると体格面において小柄 であるといえる.また,上位8名の結果の平均は

63.48±1.94mであり,本大会では 39 歳のベテラ

ン・ディーチュ選手が1投目に66.61mを投げ,

そのまま逃げ切り優勝した.1991 年の世界選手 権東京大会から出場し,99年セビリア大会と05 年ヘルシンキ大会に続く 3 回目の優勝を果たし た.

アンゼルス・オリンピックにおける男女上位3 名の平均初速度(男子;24.8m/s,女子;25.0m/s: Gregor, et al., 1985)や他のトップレベルの選手を 対象とした先行研究(McCoy, et al., 1985;Leigh

and Yu, 2007)と類似した値を示した.畑山選手

と 室 伏 選 手 の 初 速 度 は そ れ ぞ れ 21.35m/s と

20.79m/sであり,世界上位8名の平均初速度と比

べて約2.7m/s低かった.

上位8名と日本選手を加えると,男子選手は投 射角と投射高および投射高の身長比は投てき記 録との間に有意な相関関係は認められなかった

(図 4).女子選手では,投射高においてのみ投 てき記録との間に有意な正の相関関係(r=0.672,

p<0.05)が認められたが,投射角と投射高の身長

比は投てき記録との間に有意な相関関係は認め られなかった(図 4).しかし,男女上位 8名の 投射角の平均は,それぞれ男子が 34.7°と女子が

35.2°,投射高とその身長比の平均は,それぞれ

男子が1.89mで95%と女子が1.63mで90%であ った.初速度と同様に,これらの値はロサンゼル ス・オリンピックにおける男女上位3名の平均投 射角(男子;35.6°,女子;34.7°),投射高とその 身長比の平均(男子:1.73m,90%,女子:1.48m, 84%)や他のトップレベルの選手を対象とした先 行研究(Gregor, et al., 1985;McCoy, et al., 1985; Leigh and Yu, 2007)と類似した値を示した.男子 日本一流選手(山本ら,2008)の投射高とその身

長比(1.66m,90.7%)と比較すると,世界トッ

プレベルの選手は 0.23m,5%程度高い結果であ った.畑山選手と室伏選手の投射角はそれぞれ

35.5°と31.3°であり,投射高とその身長比は,そ

れぞれ1.65mで90%と1.33mで78%であった.

3.2 初期条件

投てき種目における技術の最終ゴールは,Rel 時の最大限の速度と最適な高さと投射角であり,

どれも投てき記録に影響する要因である.この最 適な初期条件については,様々な競技レベルを対 象に研究が行なわれ,さらにはこれらの最大・最 適な初期条件を達成するために必要とされる技 術の解明へ向けて様々な視点から研究がなされ てきている(Gregor, et al., 1985;McCoy, et al., 1985;Dapena, 1993;宮西ら,1998;Yu, et al., 2002; 松尾と湯浅,2005;Leigh and Yu, 2007;田内ら,

2007;山本ら,2008).

上位8名と日本選手を加えると,男子において 円盤の初速度とその水平速度成分と鉛直速度成 分は,投てき記録との間にそれぞれ有意な正の相 関関係(r=0.919, p<0.001;r=0.695, p<0.05;r=0.790, p<0.05)が認められた(図3).また,女子におい ても円盤の初速度とその鉛直速度成分は,投てき 記 録 と の 間 に そ れ ぞ れ 有 意 な 正 の 相 関 関 係

(r=0.848, p<0.01;r=0.779, p<0.05)が認められた

(図 3).そして,上位8 名の初速度の平均は,

男子が24.11m/sで女子が23.36m/sであり,ロス

3.3 動作時間

図5に男女上位8名と畑山選手と室伏選手にお ける各局面の動作時間を示した.