3)補助,支持療法(成人 )
CQ 9 n—3 系脂肪酸(魚油)は IgA 腎症に推奨されるか?
Ⅳ.治 療
魚油に豊富に含まれるエイコサペンタエン酸
(eicosapentaenoic acid:EPA)とドコサヘキサエン 酸(docosahexaenoic acid:DHA)等の n‒3 系脂肪酸 の摂取量は,心血管性疾患の発症予測因子である.
一部の大規模無作為化並行群間比較試験は,n‒3 系 脂肪酸による治療介入が心血管系疾患の発症率を抑 制させることを報告しており,n‒3 系脂肪酸による 脂質代謝改善作用,抗炎症作用,内皮機能改善作用 等が重要な役割を果たしていると考えられている.
一方,IgA 腎症等を含む慢性腎臓病に対する魚油の 腎保護効果を評価した無作為化並行群間比較試験は 少数の小規模試験に限定されており,その有効性に 関して一定の見解は得られていない.本稿では,
IgA 腎症患者における n‒3 系脂肪酸の腎保護効果と 尿蛋白減少効果を評価した無作為化並行群間試験と システマティックレビューに基づき,IgA 腎症患者 に対する n‒3 系脂肪酸の有効性とその適応について 検証した.
1. n—3 系脂肪酸の腎保護効果と尿蛋白減少効果 を評価したシステマティックレビュー
米国の Johns Hopkins Medical Institutions の研究 班は,n‒3 系脂肪酸の尿蛋白減少効果を評価した無 作為および非無作為化比較試験17研究626例を研究 対象としたシステマティックレビューを報告してい る1).IgA 腎症を対象とした無作為化比較試験 4 研 究 203 例2~5)と非無作為化比較試験 1 研究 25 例a)の メタ解析では,尿蛋白と GFR の standardized mean
difference(SMD)は-0.05(95%CI,-0.31,0.21)と 0.16(-0.10,0.42)であり,腎機能障害の進行抑制効 果と尿蛋白減少効果は認められなかった.中国の研 究班によるシステマティックレビューは,上記研究 の無作為化比較試験 4 研究 203 例に無作為化比較試 験 1 研究 30 例6)を加え,同様のメタ解析を行い,同 様の結果を報告している7).Cochrane Renal Group によるシステマティックレビューは,n‒3 系脂肪酸 の腎機能障害の進行抑制効果を評価した無作為化比 較試験 1 研究 63 例8)を追加したメタ解析を行った9). しかしながら,比較群とアウトカムの種類によって 研究を細かく分類したため,それぞれのメタ解析の 対象研究はわずか1~2研究になり,メタ解析として はほとんど成立していない.
以上より,n‒3 系脂肪酸の腎保護効果および尿蛋 白減少効果を目的とした無作為化並行群間比較試験 わずか 6 試験 7 報告2~6,8,10)を対象としたシステマ ティックレビュー 3 報1,7,9)において,n‒3 系脂肪酸の 明らかな腎保護効果と尿蛋白減少効果は認められて いない.しかしながら,後述の通り,その研究対象 となった無作為化並行群間比較試験の多くは,研究 の質が低い小規模試験である.したがって,上記の システマティックレビュー 3 報に基づいて,n‒3 系 脂肪酸の腎保護効果および尿蛋白減少効果を判断す るのは時期尚早であると考えられる.
2. n—3 系脂肪酸の腎保護効果と尿蛋白減少効果 を評価した無作為化並行群化比較試験
IgA 腎症に対する n‒3 系脂肪酸の腎保護効果と尿 蛋白減少効果を評価した無作為化並行群化比較試験 は主に CKD ステージ 1~3,尿蛋白 2 g/日前後の IgA 腎症患者を研究対象としていた.n‒3 系脂肪酸 の腎機能障害の進行抑制を報告していたのは,無作 IgA 腎症に対する n—3 系脂肪酸(魚油)の有効性を検討したランダム化比較試験はわずか 6 試験であ り,現時点では一定の結論を導き出すことは困難である.IgA 腎症患者 106 例を対象とした最大最長の 試験において魚油による末期腎不全への進行抑制効果が報告された一方,そのほかの小規模な短期間の 試験では魚油の有効性が確認されておらず,今後さらなる検討が必要である.
要 約
背景・目的
解説
エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014
Ⅳ
2 治療に関するCQ 為化二重盲検比較試験 1 研究10)と無作為化非盲検比
較試験 1 研究5)である.両研究は,ほかの研究と比 較して,追跡期間が長いことが特徴である.
Mayo Nephrology Collaborative Group による無 作為化二重盲検比較試験は,主に多量の尿蛋白(尿 蛋白 2.8±2.5 g/日)を認める IgA 腎症患者 106 例を 対象にして,2 年間の n‒3 系脂肪酸(EPA 1.7~1.9 g,
DHA 1.0~1.4 g)による腎機能障害の進行効果を評 価した最大規模の無作為化並行群間比較試験であ る10).2 年間の介入期間における血清クレアチニン の 1.5 倍 化 の 発 症 数 は,n‒3 系 脂 肪 酸 群 で 3 例
(5.5%),プラセボ群で 14 例(27.5%)であり,n‒3 系 脂肪酸群による腎予後改善効果が観察された〔rela-tive risk 0.18(0.05‒0.63)〕.その後追跡期間を延長し た観察研究(平均追跡期間 6.4 年)において,n‒3 系脂 肪酸による末期腎不全の発症率の抑制が確認された
〔8 年累積発症率 15% vs. 44%(p=0.009),絶対リス ク減少 29%,number needed to treat(NTT)3.4〕4). 本研究では,n‒3 系脂肪酸の腎機能障害の進行抑制 効果が観察された一方で,尿蛋白減少効果が観察さ れていない点も興味深い.n‒3 系脂肪酸の腎機能障 害の進行抑制効果を検討した無作為化並行群間比較 試験のなかでは最も尿蛋白量が多いIgA腎症患者を 対象にした研究であるため,比較的尿蛋白が少ない 時点で診断されるわが国の大多数のIgA腎症患者に 対 す る 外 的 妥 当 性 は 不 明 で あ る. な お,Mayo Nephrology Collaborative Group は,本試験の結果 を踏まえて,高用量 n‒3 系脂肪酸(EPA 3.8 g/DHA 2.9 g)と低用量 n‒3 系脂肪酸(EPA 1.9 g/DHA 1.5 g)
の腎機能障害の進行抑制効果を評価したが,両群間 で明らかな差は認められず,用量依存的な効果は認 められなかった11).
主に CKD ステージ G3 の IgA 腎症患者 28 例を対 象にして n‒3 系脂肪酸の腎保護効果を評価した無作 為化非盲検並行群間試験においても,魚油群におけ る血清クレアチニンの 1.5 倍化の発症率の低下が報 告されている5).しかしながら,n‒3 系脂肪酸群と非 n‒3 系脂肪酸群の RA 系阻害薬の併用率が大きく異 なっており(79% vs. 36%),研究結果に大きな影響 を与えた可能性がある.
n‒3 系脂肪酸による腎機能障害の進行抑制効果と
尿蛋白減少効果が観察されなかった 3 研究3,4,6)は,
両群間で介入開始前の所見が大きく異なる,あるい は観察期間が短い等の問題を有する小規模研究であ り,n‒3 系脂肪酸の腎機能障害の進行抑制効果と尿 蛋白減少効果を評価するには適切とはいえない.
3. RA 系阻害薬併用時の n—3 系脂肪酸の尿蛋白 減少効果を評価した無作為化並行群間比較試 験
上述の試験は,IgA 腎症に対する主要な治療薬で ある RA 系阻害薬の併用率が 50%程度であり,RA 系阻害薬併用時の腎保護効果および尿蛋白減少効果 は不明瞭である.Ferraro らは,RA 系阻害薬併用時 の n‒3 系脂肪酸の尿蛋白減少効果を評価した無作為 化非盲検並行群間比較試験を報告している6).ラミ プリル 10 mg+イルベサルタン 300 mg による降圧 療法に魚油を併用した介入群(15 例)と併用しない 比較群(15 例)の 6 カ月後の尿蛋白量を比較した結 果,比較群では尿蛋白の減少がほとんど認められな かった一方で,介入群では尿蛋白減少が認められた
(介入群:1.307±1.203→0.367±0.520 g/日,比較群:
1.447±1.080→1.353±1.304 g/日).本研究は,本研 究以前の無作為化並行群間比較試験ではほとんど示 されなかった n‒3 系脂肪酸による尿蛋白減少効果を 明らかにしている点が興味深い.
4. まとめ
IgA 腎症に対する n‒3 系脂肪酸の腎保護効果,尿 蛋白減少効果を検討した無作為化並行群間比較試験 は,現時点ではわずか 7 試験 8 報告2~6,8,10,11)にすぎ ない.そのうち対象症例が 100 例以上の試験はわず か 1 試験(106 例)7,9)のみであり,多くは研究の質が 低い小規模試験である.①これらの小規模試験を研 究対象としたシステマティックレビュー1,5,6)と②比 較的規模が大きく,研究の質が高い試験7,9)の研究結 果は異なっており,現時点ではどちらのエビデンス のレベルが高いかを判断するのは困難であり,本ガ イドラインでは推奨グレード C1 と判断した.現在 IgA 腎症の主要な治療法である RA 系阻害薬および ステロイドを併用した場合,n‒3 系脂肪酸が腎機能 障害の進行抑制効果を有するかどうかは不明であ り,今後より大規模な無作為化並行群間試験で確認 する必要がある.特に,n‒3 系脂肪酸の主要な薬効
Ⅳ.治 療
成分である EPA の高純度製剤が医薬品として認可 されているわが国において,比較的尿蛋白が少ない 時点で診断されるわが国の IgA 腎症に対する EPA の有効性を評価する必要があるだろう.
文献検索
PubMed( キ ー ワ ー ド:IgA nephropathy or immunoglobulin A nephropathy,randomized or meta‒analysis,fish oil or eicosapentaenoic acid or EPA or docosahexaenoic acid or DHA or fatty acid)で,~2012 年 7 月の期間で検索した.
参考にした二次資料
a. Branten AJ, et al. Clin Nephrol 2002;58:267‒74.(レベル 4)
引用文献
1. Miller ER Ⅲ, et al. Am J Clin Nutr 2009;89:1937‒45.(レベ
ル 1)
2. Bennett WM, et al. Clin Nephrol 1989;31:128‒31.(レベル 2)
3. Pettersson EE, et al. Clin Nephrol 1994;41:183‒90.(レベル 2)
4. Donadio JV, Jr., et al. J Am Soc Nephrol 1999;10:1772‒
7.(レベル 2)
5. Alexopoulos E, et al. Ren Fail 2004;26:453‒9.(レベル 2)
6. Ferraro PM, et al. Nephrol Dial Transplant 2009;24:156‒
60.(レベル 2)
7. Liu LL, et al. Clin Nephrol 2012;77:119‒25.(レベル 1)
8. Hogg RJ, et al. Clin J Am Soc Nephrol 2006;1:467‒74.(レ ベル 2)
9. Reid S, et al. Cochrane Database Syst Rev 2011;3:
CD003962.(レベル 1)
10. Donadio JV, Jr., et al. N Engl J Med 1994;331:1194‒9.(レ ベル 2)
11. Donadio JV Jr., et al. J Am Soc Nephrol 2001;12:791‒9.(レ ベル 2)