学校検尿の普及に伴い,小児における IgA 腎症は 早期発見,早期治療が可能となった.血尿,蛋白尿 にて無症候性に発症するが,自然にあるいは治療に より尿所見が正常化するものから,蛋白尿の悪化,
腎機能の低下をきたして小児期に末期腎不全に至る ものまでさまざまである.かつては予後良好の疾患 と認識されていたが長期の観察結果が報告されるよ うになり小児IgA腎症患者の腎機能予後は決して良
好ではなく,日本人小児 241 例の検討でも,15 年間 で 11%が慢性腎不全に進行していた1).そのため,
予後不良が予想されるIgA腎症重症例に対する治療 方法の確立が急務である.そこで,小児 IgA 腎症に 対する,とりわけ予後不良が予想される重症例に免 疫抑制療法の適応があるのかを検証した.
日本小児腎臓病学会では小児IgA腎症患者に対す 推奨グレード B 小児 IgA 腎症重症例に対しての免疫抑制療法は蛋白尿減少,糸球体硬化の進行阻止,
腎予後の改善に効果があり推奨される.
CQ 5 小児症例に対して免疫抑制療法は推奨されるか?
小児 IgA 腎症患者を臨床的あるいは組織的な重症度に基づき大きく 2 つに分類して,軽度蛋白尿(早 朝尿蛋白/クレアチニン比が 1.0 未満),巣状メサンギウム増殖を示し,かつ半月体形成を認める糸球体 が 30%未満である「軽症例」では,アンジオテンシン変換酵素阻害薬や柴苓湯などの非免疫抑制療法 が推奨される.一方,高度蛋白尿(早朝尿蛋白/クレアチニン比が 1.0 以上),中等度以上のメサンギウ ム増殖,半月体形成,癒着,硬化病変のいずれかの所見を有する糸球体が全糸球体の 80%以上に認め る,または半月体形成を 30%以上の糸球体に認める「重症例」に対しては,副腎皮質ステロイド薬と 免疫抑制薬,抗凝固薬,抗血小板薬による多剤併用療法が有効である.
要 約
背景・目的
解説
Ⅳ.治 療
る薬物治療に関して適切な判断を支援し,よりよい 医療の提供に役立つことを目的に,治療ガイドライ ンを作成した.ガイドラインの対象となるのは,小 児 IgA 腎症患者(18 歳以下)で,小児期に多く認めら れる急性期患者である.小児 IgA 腎症の診断は腎生 検によって行われるものとし,類似の腎生検組織所 見を呈し得る紫斑病性腎炎,ループス腎炎,肝硬変 症などとは各疾患に特有の全身症状の有無や検査所 見によって鑑別を行う.小児 IgA 腎症患者の多くは 学校検尿で発見されており,組織上慢性病変を主体 とするものは症例が少なく,エビデンスの集積もな いため本ガイドラインの対象からは除外されてい る.また臨床的に急速進行性腎炎症候群を呈する患 者も対象とはしていない.ガイドラインでは,IgA 腎症患者を臨床的,あるいは組織的な重症度に基づ き大きく 2 つに分類して治療指針を示している.
「軽症例」は軽度蛋白尿(早朝尿蛋白/クレアチニン 比が 1.0 未満),巣状メサンギウム増殖を示し,かつ 半月体形成を認める糸球体が 30%未満であるもの とした.一方,「重症例」は高度蛋白尿(早朝尿蛋白/
クレアチニン比が 1.0 以上),中等度以上のメサンギ ウム増殖,半月体形成,癒着,硬化病変のいずれか の所見を有する糸球体を全糸球体の 80%以上に認 める,または半月体形成を 30%以上の糸球体に認め るものとした.
軽症例では,非免疫抑制療法が推奨される.小児 のIgA腎症では非免疫抑制療法のランダム化比較試 験はないが,アンジオテンシン変換酵素阻害薬のメ サンギウム増殖を示すIgA腎症に対する有効性と安 全性がオープン試験で示されている.一方,柴苓湯 は小児の巣状メサンギウム増殖を示すIgA腎症への ランダム化比較試験でその有効性と安全性が証明さ れている2).
一方,重症例に対する治療は,腎機能の保持を目 的にさまざまな治療が試みられているが,長期間経 過観察した大規模な比較試験は少ない.日本小児
IgA 腎症治療研究会は,びまん性メサンギウム増殖 性を示す重症 IgA 腎症患者 78 例を対象にランダム 化比較試験を行い,抗凝固薬+抗血小板薬に比べて 2 年間の副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬,抗凝 固薬,抗血小板薬による多剤併用療法のほうが蛋白 尿減少と糸球体硬化の進行阻止に有効であることを 報告した3).また,Yata らは 1976~2004 年に診断さ れた日本人小児 IgA 腎症患者 500 例を対象としたコ ホート研究により,小児 IgA 腎症組織学的重症例の 腎予後が,ステロイドを含む多剤併用療法の導入に よ り 改 善 し て い る こ と を 報 告 し た4). さ ら に,
Kamei らはびまん性メサンギウム増殖を示す日本 人小児 IgA 腎症 78 例を対象としたランダム化比較 試験により抗凝固薬+抗血小板薬に比べて副腎皮質 ステロイド薬と免疫抑制薬,抗凝固薬,抗血小板薬 による多剤併用療法の腎予後がよいことを報告し た5).
以上より,小児 IgA 腎症の重症例には免疫抑制療 法は推奨されると考えられた.
文献検索
PubMed で IgA nephropathy,immunosuppres-sive therapy,childhood,pediatric,prednisolone,
azathioprine,mizoribine のキーワードを用いて,~
2012 年 7 月の期間で検索した.
参考にした二次資料
a. 日本小児腎臓病学会「小児 IgA 腎症治療ガイドライン作成委 員会」編.小児 IgA 腎症治療ガイドライン 1.0 版 2007.7.14
引用文献
1. Yoshikawa N, et al. Pediatr Nephrol 2001;16:446‒57.
2. 吉川徳茂,他.日腎会誌 1997;39:503‒6.
3. Yoshikawa N, et al. J Am Soc Nephrol 1999;10:101‒9.(レ ベル 1b)
4. Yata N, et al. Pediatr Nephrol 2008;23:905‒12.(レベル 4)
5. Kamei K, et al. Clin J Am Soc Nephrol 2011;6:1301‒7.(レ ベル 1b)
エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014
Ⅳ
2 治療に関するCQ
小児のIgA腎症に対する治療結果の質の高い報告 は少ないうえ,成人では評価の基準となるエンドポ イントが腎機能の低下(血清クレアチニンの上昇)や 末期腎不全への進行であるのに対し,小児では腎機 能の低下がみられる症例は少なく,蛋白尿の消失・
軽減や病理学的所見により治療効果を判定してい る.日本小児腎臓病学会は,予後不良が予想される IgA 腎症重症例に対する治療として免疫抑制療法 を,そのなかでも副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制 薬,抗凝固薬,抗血小板薬の 4 剤を用いた多剤併用 療法(以下,カクテル療法)を採用している.そこで,
重症小児IgA腎症患者に対するカクテル療法の効果 を検証した.
日本小児 IgA 腎症研究会から,びまん性メサンギ ウム増殖を示す重症小児 IgA 腎症患者 78 例を対象 にランダム化比較試験を行い,抗凝固薬+抗血小板 薬療法に比べて 2 年間の副腎皮質ステロイド薬(プ レドニゾロン内服)と免疫抑制薬(アザチオプリン),
抗凝固薬,抗血小板薬の 4 剤によるカクテル療法の ほうが蛋白尿減少と糸球体硬化の進行阻止に有効で あることが報告されている1).さらに,びまん性メ サンギウム増殖を示す小児 IgA 腎症患者 80 例を対 象とした,副腎皮質ステロイド薬単独療法とカクテ ル療法(プレドニゾロン内服とアザチオプリンを含 む)のランダム化比較試験では,蛋白尿消失率は,副 腎皮質ステロイド単独療法群(39 例)74.4%に対し て,カクテル療法群(39 例)92.3%であり有意に効果 が高かった(p=0.007).また,カクテル療法群(32 例)では糸球体硬化の阻止(5.0%→4.6%)が確認され たのに対し,ステロイド単独療法群(30 例)では糸球 体硬化を阻止し得なかった(3.1%→14.6%)2).さら に,アザチオプリンを使用したカクテル療法と抗凝 固薬+抗血小板薬療法のランダム化比較試験に参加 した小児IgA腎症患者の長期予後を評価したコホー ト研究により,カクテル療法は長期予後を改善させ ることが示されている3).その結果,10 年腎生存率 はカクテル療法群で 97.1%(95% CI,81.4‒99.6)で あったのに対して,抗凝固薬+抗血小板薬療法群は 84.8%(95% CI,55.4‒95.5)であった.
一方,アザチオプリンの代わりにミゾリビンを使 用したカクテル療法は,日本人小児 IgA 腎症 23 名
背景・目的
解説
推奨グレード B 予後不良が予想される重症小児 IgA 腎症例に対して副腎皮質ステロイド薬と免疫抑 制薬,抗凝固薬,抗血小板薬を用いた多剤併用療法は,蛋白尿減少と糸球体硬化の進行阻止,腎機能予 後の改善に効果があり推奨される.
CQ 6 小児症例に対してカクテル療法は推奨されるか?
びまん性メサンギウム増殖を示す重症小児 IgA 腎症においては,2 年間の副腎皮質ステロイド薬と免 疫抑制薬(アザチオプリン),抗凝固薬,抗血小板薬の 4 剤によるカクテル療法が副腎皮質ステロイド単 独療法に対して蛋白尿減少と糸球体硬化の進行阻止に有効であった.さらに,アザチオプリンを使用し たカクテル療法は,抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法より 10 年腎生存率が有意に高かった.そしてミ ゾリビンを使用したカクテル療法は,アザチオプリンを使用したカクテル療法と同等の治療効果が認め られた.
要 約
Ⅳ.治 療