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3ステロイド療法および免疫抑制療法の副作用とその対策
特に 2000 年以降,IgA 腎症に対する副腎皮質ステ ロイド薬や免疫抑制薬の治療効果を検討した研究報 告が,ランダム化比較試験等の質の高い研究デザイ ンで相次いで報告されるようになってきた.その一 方で,これらの薬剤による副作用の発現や副作用対 策の内容など,治療の安全性については十分検討さ れているとは言い難い.本項では,成人および小児 のIgA腎症に対するステロイド療法および免疫抑制 療法の副作用に焦点をあててその安全性を検証し,
今後の検討課題を明らかにすることを目的とする.
また近年,特に日本において,ステロイドパルス療 法との併用で積極的に施行されるようになってきた 口蓋扁桃摘出術についても,手術の安全性や術中・
術後の合併症などを検証する.
1. 成人の IgA 腎症に実施されたステロイド療法 の副作用
IgA 腎症に対するステロイド療法の副作用や安全 性を主要評価項目としてデザインされた臨床研究 は,検索できる範囲ではみられなかった.このため,
今回はIgA腎症に対するステロイド療法の治療効果 を検討した臨床研究のうち,ステロイド療法群と非 ステロイド療法群それぞれの治療プロトコールが明 確で,かつ副作用発現について記載のある系統的レ ビューあるいはランダム化比較試験のみを検討対象 とした.
系統的レビューについては,中国から 3 つの報 告1~3)があり,そのうち 2 つではステロイド療法の 副作用について検討されている.Cheng ら1)はステ ロイド療法のランダム化比較試験 7 編について,Lv ら2)は同療法のランダム化比較試験 9 編について,
それぞれメタ解析を行っている.両者のうち 6 編は これまでの報告からは,成人 IgA 腎症患者に対するステロイド療法が重篤な副作用を引き起こす頻度 は多くないが,十分な情報開示に基づいた副作用報告かどうかは定かでないため,ステロイド療法開始 時には各副作用発現リスク因子の把握と事前対策が必須である.一方,免疫抑制療法では一部に重篤な 副作用がみられており,治療の有益性と副作用のリスクを十分勘案したうえで,治療適応を慎重に決定 する必要がある.小児 IgA 腎症患者に対しては,副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬によるカクテル療 法が治療効果を示しているが,副作用による治療中断例もみられるため,さらなる安全性の検証が必要 である.IgA 腎症患者に対する扁桃摘出術では,重篤な合併症の発現率は非常に低いが,腎移植後の免 疫抑制療法例における合併症予防や遺残扁桃例のピックアップには,耳鼻咽喉科医と腎臓内科医の連携 が特に重要である.
要 約
背景・目的 解説
同一のランダム化比較試験を解析対象としていなが ら,副作用に対する評価に違いがみられる.前者で は,ステロイド療法からの離脱例が非常に少なく,
副腎皮質ステロイド薬への忍容性も高く,2 型糖尿 病や高血圧の発現率も低く,消化器症状を除いては ステロイド治療群と対照群に副作用発現率の有意な 差はなかったとしている.一方,後者では,ステロ イド療法による重篤な感染症や骨折,心血管イベン トは報告されていないものの,ステロイド療法群は 対照群と比較して副作用の発現率を 55%増加させ た〔RR,1.55(95% CI,1.09—2.21);p=0.02〕とし ている.
上記のような系統的レビュー間での副作用発現率 の解釈に違いが生じている原因として,ステロイド 療法の副作用を表 1のような重症度の観点で分けて 考えた場合,後者のレビューでは,副作用の重症度 の区別なく同列の発生数としてカウントした解析結 果であるためと考えられる.事実,後者のレビュー において,個々の副作用別の検討では,2 型糖尿病 や血圧上昇,消化性潰瘍の発現率に有意差はなく,
唯一クッシング症状の発現率に有意差が生じたのみ となっている.
ランダム化比較試験については,8 つの研究でス テロイド療法による副作用の記載があり,ステロイ ド療法群と対照群の副作用を表 1 の重症度で分けて まとめたものを表 2に示す.8 研究のステロイド治 療群計 245 例において,重症に分類される消化性潰 瘍/出血,高血糖,血圧上昇はそれぞれ 1 例,4 例,
4 例の報告となっている.特に 2000 年以降の研究で は,重症副作用の発生が非常に少なく,感染症や骨 粗鬆症,無菌性骨壊死の発現の有無については記載 自体がみられない.この理由として,ステロイド療
法開始前の消化管病変スクリーニング,眼科的診 察,耐糖能異常等の検査が十分行われていた可能性 や,副作用対策として抗消化性潰瘍療法や ST 合剤 などの抗菌薬,骨粗鬆症治療薬がステロイド療法開 始時より予防的に投与されていた可能性も考えられ るが,この点について十分言及された研究はみられ ず,詳細は不明である.
Zhou ら3)は,彼らの系統的レビューのなかで副作 用の検討を実施しなかった理由として,解析対象と した 15 の研究でステロイド療法による副作用の報 告がほとんどないのは,実際に副作用発現率が少な かったのか,適切な記載がされていないのか,ある いは意図的に報告していないのかを判断できなかっ たためとしている.KDIGO のガイドラインにおい ても,IgA 腎症に対するステロイド療法の副作用の 報告数は,他疾患に対する同様のステロイド療法で みられる副作用発生率と比較して有意に少ない点を 指摘している.しかし,この点については,ステロ イド療法の対象となる IgA 腎症患者は 10~30 歳代 の若年者の割合が比較的多く,腎臓病以外の基礎疾 患を有する割合が非常に少ないといった患者背景の 特性や,副腎皮質ステロイド薬投与期間が比較的短 期間で限定されており,ほかの自己免疫性疾患で必 要となるような病勢に応じた長期の維持療法を必要 としないといったステロイド投与方法の特徴が関与 している可能性がある.
以上より,文献検索されたランダム化比較試験の 副作用報告に基づく限りでは,IgA 腎症患者に対す るステロイド療法が重篤な副作用を引き起こす頻度 は決して多くはないが,十分な情報が提供されたう えでの報告かどうかは定かでないため,その解釈に は注意を要する.したがって,ステロイド療法開始
エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014
表 1 ステロイドの副作用 1 .副作用
軽症: 痤瘡様発疹,多毛症,満月様顔貌,食欲亢進・体重増加,月経異常,皮下出血・紫斑,多尿,発汗,不眠,白血球 増多,脱毛,浮腫,低カリウム血症
重症: 感染症,消化性潰瘍,高血糖,精神症状,骨粗鬆症,血圧上昇,動脈硬化,血栓症,副腎不全,白内障,緑内障,
無菌性骨壊死,筋力低下・筋萎縮 2 .離脱症候群
食思不振,発熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,全身倦怠感,情動不安,下痢など
*ネフローゼ症候群診療指針(日腎会誌 2011;53(2):78—122)の表 6 を転載.
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3ステロイド療法および免疫抑制療法の副作用とその対策
時には,各副作用の発現に対するリスク因子の事前 把握と十分な副作用対策が必須である.今後の検討 課題として,ステロイド療法開始前の副作用対策の 内容や主な副作用の発現の有無と治療開始からの期 間などを明記したチェックリストを作成し,それに 基づくデータ収集と解析を行うなど,十分な情報が 漏れなく正確に得られる仕組みが必要と考えられ る.また,ステロイド療法時に比較的よくみられる 不眠やときに遭遇する躁うつ病といった精神症状な ど,患者の QOL にも大きくかかわる副作用につい ては,その発現率のみならず,QOL への影響にも焦
点をあてた調査が重要と思われる.加えて,特に 2000 年以降は,ステロイド初期治療としてステロイ ドパルス療法が選択される割合が増加してきてい る.経口ステロイド療法と比較して短期間・大量投 与となるステロイドパルス療法で特に注意すべき副 作用として,無菌性骨壊死の発生リスク増加4,5)やカ リウムの急激な細胞外シフトによる心室性不整脈の 誘発6)などが指摘されており,ステロイド薬の投与 経路や投与量,投与期間による詳細な検討も念頭に 置く必要がある.
Ⅳ.治 療
表 2 IgA 腎症のステロイド療法(ほかの免疫抑制療法を除く)の RCT で報告された副作用とその対策 著者
(国,年) 割付 対象
(例) 初期治療(投与期間) 副作用 治療群の副
作用対策 Lai
(China, 1996)
介入群 17 PSN/PSL 40~60 mg/日(4 カ月) 【重症】消化管出血 1 例,血圧上昇 3 例
【軽症】クッシング症状 3 例 記載なし
対照群 17 ステロイド薬なし 血圧上昇 6 例
Julian
(USA, 1993)
介入群 17 PSN 60 mg/日隔日(24 カ月)
【重症】糖尿病 2 例
【軽症】不眠 2 例,痤瘡 3 例,体重増加(治
療前より 16%増加) 記載なし
対照群 18 ステロイド薬なし 糖尿病 1 例,体重増加(治療前より 5%増 加)
Pozzi
(Italy, 1999)
介入群 43 mPSL 1 g×3 日(計 3 コース)+PSL 0.5 mg/kg 隔日(6 カ月)
【重症】糖尿病 1 例
【軽症】なし 記載なし
対照群 43 ステロイド薬なし なし
Shoji
(Japan, 2000)
介入群 11 PSL 0.8 mg/kg/日(12 カ月) 【重症】なし
【軽症】なし ―
対照群 8 ジピリダモール 300 mg/日(12 カ月) 頭痛 2 例(抗血小板薬による)
Katafuchi
(Japan, 2003)
介入群 43 PSL 20 mg/日(24 カ月)
【重症】なし
【軽症】動悸 2 例,不眠 1 例,発汗 1 例,
顔面紅潮 1 例 記載なし
対照群 47 ジピリダモール 300 mg/日(24 カ月) なし
Hogg
(USA, 2006)
介入群 33 PSN 60 mg/日隔日(24 カ月)
【重症】なし
【軽症】胸焼け 48%,体重増加 67%,食
欲増加 73% 記載なし
対照群 31 ステロイド薬なし 胸焼け 16%,体重増加 42%,食欲増加 32%
Lv
(China, 2009)
介入群 33 PSN 0.8~1.0 mg/kg/日+シラゼプ リル 5 mg/日(6~8 カ月)
【重症】血圧上昇 1 例
【軽症】動悸 2 例,不眠 1 例,関節痛 1 例 β遮断薬投 与,PSL 中 対照群 30 シラゼプリル 5 mg/日(6~8 カ月) 咳嗽 1 例(ACE 阻害薬による) 止
Manno
(Italy, 2009)
介入群 48 PSN 1.0 mg/kg/日+ラミプリル(6 カ月)
【重症】耐糖能障害 1 例
【軽症】皮膚線条 3 例 経口糖尿病
対照群 49 ラミプリル(6 カ月) 咳嗽 2 例(ACE 阻害薬による) 薬投与 PSL:prednisolone, PSN:prednisone, mPSL:methylprednisolone