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1)IgA 腎症の組織所見

3 病 理

Ⅱ 診 断

3病  理

 上記の病変は炎症の活動期ないし急性期に出現す るが,一方,線維性半月体(図 6),分節性硬化(図 7),癒着,基底膜の二重化などは炎症が進展した慢 性期に認めることが多い.これらの病変の多くは,

炎症の活動期に生じた管外病変や管内病変の修復不 全の像であり,治療後や生検までの経過の長い症例 にしばしば出現する.また,炎症後の瘢痕や動脈硬 化を背景として糸球体には全節性硬化や虚脱ないし

Ⅱ.診 断

図 1 メサンギウム細胞増多(軽度)(文献 7)より引用) 図 2 管内細胞増多(文献 7)より引用)

図 3 係蹄壊死(文献 7)より引用) 図 4 細胞性半月体(文献 7)より引用)

図 5 線維細胞性半月体(文献 7)より引用) 図 6 線維性半月体(文献 7)より引用)

虚血性病変も出現する.

B. 尿細管・間質病変

 尿細管・間質には,リンパ球を主体とする炎症細 胞浸潤を認めるほか,間質の線維化や尿細管の萎縮

(図 8)をしばしば認める.間質の線維化・尿細管の 萎縮は糸球体障害の進展に続発するほか,尿細管・

間質自体の炎症,動脈硬化に基づく血管病変に伴う 場合がある.

C. 血管病変

 腎生検検体に腎動脈や葉間動脈が含まれることは なく,通常では標本に認める血管は弓状動脈より末 梢である.IgA 腎症に出現する血管病変に疾患特異 的な変化はない.最も頻度が高い血管病変は動脈硬 化病変である.動脈硬化病変は主に成人にみられ,

高血圧や加齢と関連することが多く,組織学的には

糸球体の全節性硬化や尿細管萎縮・間質線維化をし ばしば随伴する.弓状動脈ないし小葉間動脈には弾 性線維の増加を伴う内膜の線維性肥厚(fibroelasto-sis)がみられ,病変が進展した症例では中膜の萎縮 を伴う(図 9).細動脈には,内膜を主体に硝子化物 が沈着する硝子様肥厚を認める(図 10).小葉間動 脈末梢や細動脈への IgA 沈着は約 5%の症例に認め るが,動脈病変や糸球体硬化との関連は指摘されて いない3).IgA 腎症では動脈炎をみることはなく,

蛍光抗体法で糸球体に IgA 優位の沈着を呈し,かつ 動脈ないし細動脈に炎症を認める症例では,IgA 血 管炎(Henoch—Schönlein 紫斑病性腎炎)やブドウ球 菌などの感染後ないし感染性糸球体腎炎を考慮する 必要がある.

エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014

図 7 分節性硬化(文献 7)より引用) 図 8 間質線維化・尿細管萎縮(文献 7)より引用)

図 9 動脈硬化(文献 7)より引用) 図 10 細動脈硝子化(文献 7)より引用)

3病  理 2. 病変の定義

 IgA 腎症では上記のようにさまざまな病変が出現 する.多彩な病変に対して病理学的ないし臨床病理 学的な検討を加えた論文は過去に多数報告されてい る.しかし,取り扱う組織病変の解釈や定義につい て,不明瞭であったり,論文ごとに異なっている点 が問題であった.2009 年に Working Group of the International IgA Nephropathy Network と Renal Pathology Societyより発表されたOxford分類では,

糸球体病変のみならず,尿細管・間質病変,血管病 変に対して,明確な定義(表 1)を提示している4,5). 世界中の多数の病理医,臨床医によりコンセンサス が得られた定義であり,有用性は高いと考えられる.

 わが国より発表された「IgA 腎症診療指針第 3 版」

においても,病変の定義は Oxford 分類の定義に 従っている6).補追としてアトラスも追加され,病 変の定義に詳細な解説が加えられている7).Oxford 分類において観察者間の一致率が高い病変として,

メサンギウム細胞増多,全節性硬化,尿細管萎縮,

間質線維化などの病変があげられる一方,一致率の 低い病変として,癒着,分節性管内細胞増多,係蹄 壊死,線維性半月体,細動脈硝子化などの病変が指 摘されている4,5).Oxford 分類の定義は現時点では 病理診断において実用に耐え得る明解な定義と考え られるが,個々の病変の判定に妥当かどうかに関し ては今後のさらなる検証が必要である.

3. 光顕診断と糸球体数

 IgA 腎症における光顕所見の特徴は,糸球体ごと に,また同じ糸球体でも係蹄により病変の種類や程 度が異なることである.したがって,IgA 腎症にお いて適切な光顕診断を行うためには,光顕標本に含 まれる糸球体の数が重要となる.標本内の糸球体が 少ない場合には病変を過少または過大評価し,臨床 所見と病理所見との乖離などを招く可能性がある.

特に巣状に分布する病変の評価は要注意であり,管 内細胞増多(分節性・全節性)や管外性病変(細胞性 半月体・線維細胞性半月体)の検出は,標本に含まれ る糸球体数に依存する傾向があることが指摘されて いる4,5).Oxford 分類では含まれている糸球体が 8 個 未満の症例を不適切検体として解析から除外してい るほか,わが国の「IgA 腎症診療指針第 3 版」にお

いては,組織学的重症度判定にあっては,標本中に 10 個以上の糸球体が含まれることが望ましいとし ている6).ただし,得られた検体に含まれる糸球体 の数が10個未満の場合でも,直ちに検体不適切とす るのではなく,検体の深切りの追加や多数の切片の 作製を行うなど,より多くの糸球体を観察できるよ う工夫することが重要である.

4. 免疫染色所見

 IgA 腎症は疾患の定義からも明らかなように,蛍 光抗体法などによる免疫染色の所見が診断にあたっ ては必須となる.IgA はメサンギウムにほかの免疫 グロブリンに比し優位に沈着するが,そのほかに C3 の沈着を認めることが多い.C3 は 9 割以上の症 例に陽性となり,IgG ないし IgM は半数ほどの症例 で陽性となる.C1q が陽性となる頻度は低く,強く 陽性となった場合はループス腎炎を鑑別として考慮 することになる8)

 通常,IgA はメサンギウム領域に沈着するが,と きに糸球体の係蹄壁に陽性となる.増殖性変化が強 い場合や,メサンギウム間入によりメサンギウム基 質が係蹄壁にも蓄積した場合などに認めるほか,内 皮下沈着や上皮下沈着を反映している場合もある.

IgA はほかの免疫グロブリンに比し強く陽性となる ものの,IgA の染色強度(intensity)は症例ごとに異 なり一定していない.糸球体の炎症がきわめて強い 場合には IgA の沈着が少なくなるなど,IgA の沈着 量と組織障害度とは必ずしも相関しない.免疫染色 の強度により,IgA 腎症の疾患の活動性を判定する ことは妥当ではない.

 また,IgA の糸球体への沈着が尿所見異常と結び つかない場合も存在する.Suzuki ら9)は,腎移植の ドナー腎について検討したところ,約 16%の症例に IgA の沈着を糸球体に認めたと報告している.これ らの症例の多くは尿所見に異常はなく,組織学的に も糸球体に著変を認めていない.剖検例を用いた検 討でもほぼ同様の結論が報告されている.尿所見に 異常がない健常者においてもある一定の割合で IgA 沈着を認めることは,IgA 腎症の診断において念頭 に置いておく必要がある.

5. 電顕所見

 IgA 腎症の診断には,電顕は必ずしも必要ではな

Ⅱ.診 断

エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン 2014

表 1 病変の定義

◆糸球体病変

 ◦びまん性(diffuse):50%以上の糸球体に病変が分布.

 ◦巣状(focal):50%未満の糸球体に病変が分布.

 ◦全節性(global):糸球体係蹄の 50%以上の病変(分節性と全節性硬化の定義は下記参照).

 ◦分節性(segmental):糸球体係蹄の 50%に満たない病変(少なくとも糸球体毛細血管係蹄の半分が保持されている)(分節 性と全節性硬化の定義は下記参照).

 ◦管内細胞増多(endocapillaryhypercellularity):糸球体毛細血管腔内の細胞数の増加による細胞増多で,管腔の狭小化 を伴う.

 ◦核崩壊(karyorrhexis):アポトーシスや濃縮,断片化した核が存在.

 ◦壊死(necrosis):フィブリンの滲出や核崩壊を伴った糸球体基底膜の断裂.壊死の基準を満たすには,これらの 3 つの病 変のうち少なくとも 2 つの病変が必要(フィブリンの管外への滲出は最低限必要).

 ◦糸球体基底膜二重化(GBMduplication):糸球体基底膜が二重の輪郭を示す.管内細胞増多を伴っていてもいなくてもよ い.

 ◦メサンギウム基質増加(increasedmesangialmatrix):メサンギウムの細胞外基質の増加で,少なくとも 2 つの分葉に おいてメサンギウム領域の幅がメサンギウム細胞の核 2 個分を越える.

 ◦硬化(sclerosis):細胞外基質の増加により毛細血管腔が閉塞した病変.硝子化や泡沫化を伴っていてもいなくてもよい.

 ◦癒着(adhesion):糸球体毛細血管係蹄とボウマン囊の間の連続した領域.管外性病変や分節性硬化とは区別する.

 ◦分節性硬化(segmentalsclerosis):すべての係蹄に及ばない糸球体係蹄の硬化.

 ◦全節性硬化(globalsclerosis):糸球体のすべての係蹄が硬化.

 ◦虚脱/虚血糸球体(collapsed/ischemicglomerulus):毛細血管係蹄の虚脱を示す糸球体.ボウマン囊壁の肥厚やボウマ ン囊腔の線維化を伴う場合がある.

 ◦管外病変(extracapillarylesions)は以下の亜型に分かれる.

  ・管外性細胞増殖または細胞性半月体(extracapillarycellularproliferationorcellularcrescent):2 層を越える管 外性細胞増殖があり,その成分として細胞が 50%を超える病変.さらに病変が糸球体円周に占める割合によりさらに 層別される(<10%,10~25%,26~50%,>50%).

  ・管外性線維細胞増殖または線維細胞性半月体(extracapillaryfibrocellularproliferationorfibrocellularcres-cent):細胞が 50%未満で細胞外基質が 90%未満の組合せからなる管外病変.さらに病変が糸球体円周に占める割合 によりさらに層別される(<10%,10~25%,26~50%,>50%).

  ・管外性線維化または線維性半月体(extracapillaryfibrosisorfibrouscrescent):90%以上の細胞外基質からなる ボウマン囊円周の 10%を超える病変.さらに病変が糸球体円周に占める割合によりさらに層別される(10~25%,

26~50%,>50%).虚血,荒廃糸球体は除く.

  ・半月体はボウマン囊円周の 10%を超える管外性病変.

 ◦メサンギウム細胞増多(mesangialhypercellularity)は以下の亜型に分類.

  ・正常(normal):メサンギウム領域に 4 個未満のメサンギウム細胞.

  ・軽度(mild):メサンギウム領域に 4~5 個のメサンギウム細胞.

  ・中等度(moderate):メサンギウム領域に 6~7 個のメサンギウム細胞.

  ・高度(severe):メサンギウム領域に 8 個以上のメサンギウム細胞.

  注意:最も細胞に富む領域を観察しおのおのの糸球体を評価する.

◆尿細管・間質病変

 ◦尿細管萎縮(tubularatrophy):尿細管基底膜の肥厚とともに尿細管の直径が減少.皮質において障害尿細管を%で評価

(5%ごとに切り上げて表記).

 ◦間質線維化(interstitialfibrosis):尿細管を除く皮質において,細胞外基質が増加.病変の皮質に占める割合にて評価

(5%ごとに切り上げて表記).

 ◦間質炎症(interstitialinflammation):皮質の間質における炎症細胞浸潤.病変の皮質に占める割合にて評価(5%ごとに 切り上げて表記).炎症が間質の線維化領域に限局しているかどうかを記載する.

 ◦赤血球円柱:尿細管管腔内に赤血球により完全に充満.20%以上の尿細管に認める場合に記載する.

 ◦急性尿細管傷害(acutetubularinjury):基底膜の肥厚を伴わずに近位尿細管上皮が扁平化.

◆血管病変

 ◦動脈病変(arteriallesion):最も高度の病変にて評価.小葉間動脈と弓状動脈と分けて評価する.小葉間動脈は皮質内,

弓状動脈は皮髄境界に位置する動脈をいう.内膜肥厚(intimalthickening)は内膜の厚さを中膜の厚さと比較し,内膜肥 厚なし,内膜肥厚あり(中膜厚より薄い),内膜肥厚あり(中膜厚を越える)の 3 段階にて評価.

 ◦細動脈硝子化(arteriolarhyaline):硝子化を示す細動脈の割合を 0,1~25%,26~50%,>50%の 4 段階にて評価.

(文献 5)より引用,改変)