図 3 固視時に知覚されるパフォーマーと;)() 眼球運動時のに知覚される像(')(この画 像はビデオカメラを高速回転させることによって撮影した)
あった.そして,公演後,隣に座っていた観客同士が見えたものについて話をしても,それぞれが異 なるイメージを知覚しており(次元イメージが見えずに 列の;)が光っているだけだと思った観 客も存在した),同じ公演を見たにも関わらず異なる舞台が知覚されることが面白いというコメント も多かった.また,次元イメージが見える原理について考え,首を振っている観客も存在した(情 報提示の原理的には首を動かす必要は無い).
考察
これまでの多くのパフォーマンスは,舞台側から一方的にシーンを観客に提供するものであった.
一方,本公演は観客の眼球運動自体をもシーンの構成要素とし,観客と舞台との間にインタラクティ ブ性を構築した新たな特徴を持ったパフォーマンスである.一般的には,観客がステージから受ける 心的印象は異なることがあっても,舞台を見ることによる知覚は殆ど変わることはない.しかし,本 公演は舞台から生じる印象だけでなく,見えているもの自体,知覚レベルで異なるものが提示されて いる.
本手法を使用した舞台において,観客は自身の眼球運動という普段は意識しない主体的な働きかけ を再認識する.何かを見るという行為は,周りの環境を脳内に写し取る受動的な過程ではなく,環境 の中から自分の興味の対象を自分自身の運動によって選び取り,解釈する過程である.普段は環境か ら選び取られた結果しか意識に上ることはないが,本公演ではその「見るという行為」自体が,自ら
図 パフォーマーの背後の;)による知覚像が身体の上に重なる
図 パフォーマーの位置による知覚像の大きさの違い
の知覚像として具現化されている.本演出は,古くは 年代モホイ・ナジ0 1が行ったように,人 間がどのように環境を解釈しているかというコンセプトから,視覚的演出を行ったものである.今後 は,視覚的要素だけでなく,音など聴覚的な要素を含めて演出手法を考えていきたい.
また,近年,;)は高輝度化によりスポットライトや舞台全体を照らすフラッドライトとして使 用されるようになった01.;)は他の照明機材と比べて,高速に点滅が可能であり,寿命も長く,
発光による発熱も少ない等利点が多い.本公演では,"程度の眼球運動中に像を提示するために,
秒間に 回以上の点滅を行う必要があったが,;)であればこそ実現可能であった.これまで,
新技術が新たな芸術表現手段として使用されてきたように01,;)も,その明るさ,時間特性か ら,今後ますます舞台演出に使用されていくと考えられる.
観客とのインタラクションを実現した舞台演出のまとめ
本論文では,非再現性・個人性を併せ持った美を舞台芸術において実現するひとつの手法として,
観客の眼球運動を利用し,それぞれの観客に異なる像を提示する演出手法を提案した.本手法を使用 したステージでは,物理的存在( 列の;))以上のイメージを観客は自身の眼球運動から知覚する とともに,観客と舞台演出の間にインタラクティブ性を導入している.そして,そのインタラクティ ブ性は非常に個人的な営みである 眼球運動の大きさや方向,タイミングといった個人差がそのまま 観客の知覚として現れるが ある観客の眼球運動が隣の観客の知覚に影響を与えることはない 本作 品は;)とともにそれを見る観客の眼球運動があって初めて成立する作品であり,本演出によって 観客と作品を一体化する一方で 一人一人の観客にとって舞台をオリジナルなものにしている.
本章のまとめ
本論においては,8:技術の舞台芸術への応用に関して述べてきたが,残念ながら,まだ日本にお いて舞台芸術は日常生活の中に浸透していないように感じられる.欧米において舞台芸術は,より 生活に根付いた公共的な意味を持ち,老人から子供までが日常生活のなかで舞台芸術に触れている
01.日本においても,公共空間をも舞台に変化させることが可能な8:技術によって,多くの人が 舞台芸術を初めとする芸術作品に触れる機会が増えることになれば幸いである.
また,本作品を芸術作品という視点から見ると,身体性と先端技術を舞台芸術に対し,いかに有機 的に融合させていくかを問う実験的な作品といえる.そして,技術の日常生活への応用ということを 考えると,舞台という場は技術を社会に応用する前段階としての,ある目的のために技術を適応させ た応用例とも捉えることができる.そして,技術の応用としての芸術作品が成立していくためには,
その評価手法を確立していくことが重要となる.
付録
視触覚の関係性とメディアアート
" 本章の目的と位置づけ
これまで,視触覚それぞれの知覚特性について調べ,その情報提示への応用について述べた.し かし,人間は日常生活においてその両方,さらには聴覚など様々な感覚を同時に働かせて環境を認識 している.物体が存在すれば,それを見て,手を伸ばして触り,叩けば音を聞くことができる.この ように人間は つの物体を様々な感覚から知覚することが可能であり,それらを合わせることによっ てひとつの物体イメージを作り上げている.そして,この感覚を統合してひとつのイメージを創り出 すという作業は,日常生活においては無意識にのうちに行われるため,我々がこの過程に気付くこと はほとんどない.本章では,この感覚統合によるイメージ創出の過程に注目し,体験者に普段の生活 ではありえない感覚の組み合わせを体感してもらうことによって,何かがQ存在するQということの 意味を問いかけることをねらいとしたメディアアート作品 $!#!# 01, # *+$
,!- ,."/!! 01について述べる.
近年,体験者の運動に合わせて映像や音楽が変化するインタラクティブアートやメディアアートと 呼ばれる作品が多く制作されるようになったが0 10 1,その多くは,体験者が何かを触る,動か すことによって,それに合わせて映像や音楽が生じるというものである.しかし,これまで,体験者 の働きかけに対して力覚,つまりは反力を返すという形のインタラクションを行う作品は近年,散見 されるようになったものの01,その数は少ない.一方,アートではなくバーチャルリアリティの分 野においては,様々なタイプの力覚提示装置が提案されている.*A/!のような外部に装置を 固定して力覚を提示する外部固定型01,支点を人間に固定する身体固定型01,回転モーメント を利用した非固定型0 101の方式が提案されている.これらの方式の中で,本作品では触るとい うメタファに近い外部固定型の力覚提示装置である."/!!010101(図) )を使用した.
図) 力覚提示装置 ." /!!
$!#!# は,年月東京都写真美術館にて行われた「インフォメーションアートの想 像力展」 にて展示された.この作品は舘研究室で開発された."/!! を使って見えない物体を 触るというコンセプトで作られ,図)67のような見えない状態の物体を触るとその物体の形に合っ た反力が返ってくるとともに,音が聞こえてくるという作品である(図)6'7は物体が見えている 状態である).
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図) 67物体が見えていない状態 6'7物体が見えている状態(I:波多野健介)
作品コンセプト
人間は,自分の環境への働きかけとそこからの反応によって環境情報を自分の中に構成していく 人が環境から感覚器を通じて読み取っているものが情報なのではなく 自分の行為に対する反応の関 係性こそが情報であり,その情報をもとに環境を認識している.人間は環境との相互作用の中で情報 処理系を作り替えており常にそのシステムは変化し続けている その一方,一度関係性を作ってし まったものに関しては,なかなかそれを捨てることはできない
普段我々は,見えているものに何気なく手を伸ばし,触っている.我々にとって物体があるという ことは,それが見えると同時に触れるということを意味する.しかし,本作品において,物体は見え る形で存在しない.一方,その影は見え,形には触れることはできる.普段最も頼っている,物体を 見るという行為ができなくなったとき,我々はどのように環境を認識するであろうか.本作品の体験 者は,照らす・触る等の様々な働きかけによって,視覚と触覚の新たな関係性を体験する.
作品概要
体験者は."/!!の銀色のグリップを握って,影だけが見える物体を触ろうとする(図)67).
物体に接触すると反力が帰ってくると共に音が鳴り,視覚ではなく,触覚と聴覚のみでその物体の存 在を知る. 程度の形が用意され,それぞれが秒程度で切り替わる.触る形自体は円柱という単 純な形であるが,その数,大きさは図)のように様々であり,触ったときに聞こえる音もピアノや ベル,電子音等様々であった.
本作品の力覚提示部には."/!!を利用したいる.."/!!は人が握るスタイラスの位置を 計測するとともに,スタイラス部に軸の力覚を提示することが可能である.作品においては,."
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