6CTIGV Time
Eye Position Signal Eye movement
䇭図 知覚上の眼球位置情報
誤定位される.サッカードの開始,終了時刻付近で定位誤りの絶対値が最大となる.この現象は一般 に眼球運動位置情報と網膜情報の相殺説によって以下のように説明される0 1 0 101.定位対象の 知覚上の位置と実際の物理位置を式で表すと
> = >=
と表せる. は対象の位置,は眼球位置情報,は網膜からの相対位置情報を表し,添え字は知 覚上の情報,は実際の物理的な情報とする.上述の脳内での眼球位置情報は である.このとき,
網膜からの情報は知覚上と物理的な情報は等しい, > とすると,知覚上の定位誤り は となる.つまり,知覚上の眼球位置情報 が物理的な眼球位置情報と異なることか ら知覚上の定位誤りが形成されると考えられる.定位誤りから予測される知覚上の眼球位置情報は,
図 のように,実際のサッカードに先立ち,サッカード開始の 〜"程度前からサッカー ド方向に変化し始め,その変化は実際のサッカードと比べて緩やかであり,サッカード開始時付近で はその差が最大となり,サッカード後"ほど遅れて追いつくことになる.
これまで,フラッシュ刺激を利用し,位置の恒常性のメカニズムについて調べられてきたが,フ ラッシュ刺激自体はそのメカニズムを調べるには適した刺激とは必ずしもいえない.フラッシュ刺激 はサッカード時でなくても,網膜上の他の運動情報によって位置情報が修飾を受けることが知られて
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図 フラッシュの定位誤りから予測されるフリッカー刺激の知覚軌跡(再褐)
いる0 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 1.そのため,図 のような定位誤 りも,サッカード時の位置の恒常性のメカニズムを表したわけではなく,フラッシュ刺激自体の特性 を含んでいるように考えられる.実際,いくつかの先行研究ではフラッシュ刺激と連続点滅刺激の定 位の特性が異なるという報告がなされている0 10 1010 10 1.例えば,.$らはサッカード前 に連続点灯する刺激を提示しても,定位誤りが起きず,一点に知覚されるという報告をしている0 1.
らによる,サッカード前に連続点灯刺激の消灯とともにフラッシュ刺激を提示し,フラッシュ刺 激のみ,実際に提示された位置と異なる位置に知覚されるという報告も存在する0 1.また,.!!ら は二点のフラッシュ刺激をある4.4(4# ."4#()で提示したとき,二点間の距離は4.4 が "以下であると網膜上の距離に一致し,それ以上長いと二点をそれぞれ個別のフラッシュと して定位したときの距離に一致する.このように,普段我々が目にするような連続点滅,連続点灯す る刺激の定位に関しては,単純にフラッシュ刺激の定位誤りから予測できるものではない.
サッカード時の連続点滅刺激に対する定位
これまで,サッカード中に提示される時間幅を持った光点刺激に関する研究は少ない.*' は,サッカード中に つの光点を *5で連続点滅させた場合,サッカードと逆方向に順に光るサッ カード振幅の半分程度の大きさを持った点列が知覚されると報告している 010 10 101.しかし,
この知覚される点列の眼球運動との時間関係やその定位位置についてはこれまで研究がなされていな い.ある時間幅を持って提示される光点刺激の知覚に関して,これまでの研究からつの仮説が考え られる.
時間幅を持った光点刺激をフラッシュ刺激の集まりと捉え,光点刺激のそれぞれを独立に定位 したと考えると,連続点滅する光点の知覚軌跡は図のような瞬間提示される光点の知覚軌 跡の時間変化を結んだ逆.字状の像が知覚される
時間幅を持った光点刺激をフラッシュ刺激を一つのまとまった像として捉え,サッカードによっ て広がった網膜上の像と同様の像が知覚される
前者の仮説では,時間幅を持った光点刺激をフラッシュ刺激の集合として捉え,それぞれの光点を 独立に定位していると考える.そこから予測される知覚像の時間軌跡はフラッシュ刺激の定位の時間 軌跡に沿ったものになる.例えば,図 のようにサッカード前後を含めて光点が提示されたとす ると,予測される知覚軌跡は逆.字型の軌跡になる.サッカードの前後の時間帯では,サッカードと 同方向に,サッカード中ではサッカードと同方向に移動しているはずである.この場合,知覚される 長さはサッカード振幅の約半分であり,これまでの報告と一致するが,サッカード前後の移動に関し てはそのような主観的知覚は報告されていない0 10 1010 1.一方で,後者の仮説ではサッカード 中のみ光点刺激は網膜上で点列として広がり,サッカードと逆方向の像が知覚されることが予測され る.このことは,主観的報告と一致するが,知覚される形態に関しては大きな食い違いがある.もし,
網膜上の長さがそのまま知覚されいるとするならば,サッカード振幅と同じ長さの点列が知覚される はずであるが,実際にはサッカード振幅の約半分の長さが知覚されている.また,この仮説における 定位メカニズムについてはこれまでの研究から予測することができない.
サッカード時の連続点滅刺激による次元像の提示
前述のように,サッカード中に一点の光点を連続点滅させると,点列に広がることが知られている.
この現象を芸術に応用した例として,光源を縦一列に並べ,次元イメージを横からスキャンする形 で高速点灯させると,その光点列の前でサッカードを行うと次元イメージが知覚されるという作品 がある.サンフランシスコの)B+!!" やボストンサイエンスミュージアム に展示されてい る.図 はボストンサイエンスミュージアムに設置されているものであり,図 はサッカード によって知覚される像である.
図 ボストンサイエンスミュージアムの展示6左3原理の説明 右3作品7
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図 作品によって知覚されるイメージ
サッカード時の空間圧縮
これまで,サッカード時に暗闇の中で光点を提示した際,ある傾向を持って定位誤りが生じることが知 られている.また,ある程度明るい状況下,構造化された背景の中でフラッシュ刺激を定位すると,視野 内の提示位置によって異なる時間変化をし,あたかも視野全体がサッカードターゲットに向かって圧縮す る(.$$$!"+!#)ように知覚されることが報告されている01010 10 1010 1010 10 1 0 101.サッカードターゲットより向こう側に配置された刺激に対しては,サッカード直前約"
の時間を最大に,サッカードターゲット側(サッカード方向とは逆の方向)に定位される.そして,
サッカードターゲットより注視点に近い側に配置された刺激に対しても,サッカードターゲット側
(サッカード方向と同方向)に定位される.この現象は,特にサッカード後に視覚参照刺激が存在す ることが重要であるといわれている0 1.!!#らは,サッカード時に生じる視覚像をシミュレー ションした画像を生成し,それらを注視している被験者に呈示したところ,このようなサッカディッ ク・コンプレッションのような定位誤りは生じなかった0 1.この結果から,サッカディック・コン プレッションはサッカード時に生じる情報処理によって引き起こされることが示唆される.このサッ カディック・コンプレッションは6; 4#+,;47のニューロンとの関係が示唆さ れている0 10 1.;4の一部のニューロンは,サッカード前にその受容野がサッカードターゲッ ト付近に移動し,その移動の受容野位置による時間差によってコンプレッションが生じているという 説もある0 1.
付録
運動情報とその属性情報の統合に関する概説
本章では,運動知覚メカニズム及び運動情報と形態・色等の運動物体の属性情報の統合に関して概説 する.
運動刺激の分類
物理学的に運動は,物体の位置変化を時間で割ることにより算出可能であり,時間と位置という基 本属性から派生した次的情報である.しかし,人間の知覚システムでは,運動情報は初期視覚情報 処理において直接抽出されるより属性の一つであることがわかっている0 1
運動刺激は大きく分けて,輝度の変調を伴う 次運動( ! !!#)と輝度の変調を伴わ ない次運動(.$!# ! !!#)に分けられ,それぞれ異なるメカニズムによって検出されて いると考えられている0 10 10 1(ただし,刺激の分類と検出メカニズムの分類は厳密には一致 するものではない). 次運動は輝度情報自体が変化するので,時空間プロット上で方位をもった直 線として直接表現される量である.また,その運動速度は直線の傾きとして表現される.!#K
#はこれに基づいて時空間上で傾きをもったフィルタとして運動検出器をモデリングした0 1
次運動は,コントラスト変調や時空間周波数等によって定義される運動であり,時空間プロットで は単純に検出することはできない.このような次運動は,注意による特徴点追跡によって検出され ているということが示唆されている0 1
運動検出メカニズム
運動検出モデル
運動検出器の研究の中で最も初期のものは,:$0 1による蠅の運動検出器モデルの研究で ある.このモデルは,運動は時空間プロット上で傾きとして表現されるため(図 676'7),運動検 出は時空間上で傾きを検出するような受容野が実現できれば可能である(図 6$7),という考えに 基づいている.具体的には,図67のように, つのレセプターからの信号に時間的遅れÆを生 じさせ,もう一方からの出力と掛け合わされることで実現される.すなわち, つのレセプター間の 距離Æを移動するのにかかる時間がÆの運動に対しては,つのレセプターからの出力は全く同一 となり,出力は最も大きくなる.そして,図6'7のように, 度異なる運動方向選択性を持った
ユニットの出力の差を計算し,最も大きな出力の運動検出器から運動信号を検出する.このモデル が現在あるいくつかのモデルの原型であるといえる.現在,初期の運動検出器のモデルは数種類のも のが提案されているが0 10 10 10 10 10 1,それぞれ,数学的にはほぼ同等であると言われ ている0 1 図に代表的なモデルの概略図を示す.