第 9 章 補助動詞 jat-
V- a/-y tur- 310 例
今回の言語資料の結果、補助動詞tur-が副動詞接尾辞-a/-yと組み合わさった場合は、かな り限られた条件のもとであることが分かった。今回のデータから、〔V-a/-y tur-gan〕という 固定した形式、或いは〔V-a/-y tur-IMP〕というふうに命令形で現れる用例がほとんどであ る。
Davletov & Kudaybergenov(1980)は、“Эгерде жардамчы этиш тур,-а//-е//-й формасындагы чакчылдар менен айкашып, ɵзү белгисиз ɵткɵн чак формасында турса, анда кыймыл-аракеттин адаттанган сыяктуу дайыма боло тургандыгын билдирет: (p.147)”「もし補
助動詞turが-а//-е//-й形の副動詞接尾辞と組み合わさって、更に不明過去の形をしていると、
動作が習慣のようにいつも行われることを表わす」と述べている。
今回のデータから、V-a/-y tur-形式の場合に現れる固定した形式は次のとおりである。以 下、それぞれについてみる。
形式 例文
〔V-a/-y tur-gan〕 Alar biliše tur-gan.「彼らは知っていたんだ。」
〔V-a/-y tur-gan N〕 Bara tur-gan jerim jok.「(私は)行く場所がない。」
〔V-a/-y tur-gan bol-〕 Alar kele tur-gan boluštu.「彼らは来ることになった。」
〔V-a/-y tur-IMP〕 Kütö tur.「待っていなさい。」
〔 V-a/-y tur-gan
43〕
言語資料から得られた310例のうち、253例は〔V-a/-y tur-gan〕という形で文末に用い られた用例である。そもそも-ganは、過去形の一種で、belgisiz ötkön čak「不明過去」と言 われるものである。動詞の語幹に-ganという接尾辞が付加される場合、終了時期を明確に させる必要のない一般的な動作の完了、完了した結果の状態、あるいは過去の経験などを表 わすDavletov & Kudaybergenov(1980:174-175)。
43 この節のグロスでは、tur-ganをそのまま表記する。
155
〔V-a/-y tur-gan〕の場合、次のような用例が現れた。
(311) Düyšön-dün munu-su-n šïldïŋda-p PSN-GEN これ-3:POSS-ACC からかう-CVB kül-üš-ö tur-gan. (Birinči mugalim) 笑う-RECIP-CVB tur-PST2
「ディションのことをからかって、笑ったものだ。」
(312) “Jür ket-ti-k Düyšön-dün mekteb-i-ne, INTJ 行く-PST1-1PL PSN-GEN 学校-3:POSS-DAT
terek-ke čïg-a-bïz” - de-y tur-gan-bïz. (Birinči mugalim) 木-DAT 登る-PRES-1PL 言う-CVB tur-PST2-1PL
「「さあ、ディションの学校に行こう、木に登ろう」と言ったものだ。」
(313) Anï kün sistema-sï-nan arkï planeta-lar-dïn それ:ACC 太陽 系-3:POSS-ABL 向こう 惑星-PL-GEN
ěl-der-i da bil-iš-e tur-gan. (On üčünčü tolkun) 人-PL-3:POSS EMPH 知る-RECIP-CVB tur-PST2
「それを太陽系から向こうの惑星の人々も知ったものだ。」
これら用例は、かつて経験したこと、或いは、過去に起こった出来事、それに関係する人 が振り返って思い起こす時に用いられている。つまり、〔V-a/-y tur-gan〕形は、主体の〈過 去の回想〉の意味を表わす。今回のデータからは、〔V-a/-y tur-gan〕の場合、《人の活動動 作を表わす動詞》がくることが殆どである。
〔 V-a/-y tur-gan N 〕
〔V-a/-y tur-gan N〕の形が310例のうち150例だった。これらの場合に出てくる-ganは、
上の類と異なり、形動詞として使われ、名詞を修飾する役割をもつものである。この場合、
Nに来るのは、「人」や「物」や「場所」などのように幅広く使われる。これらの場合に現 れるtur-は、未来における〈動作の持続〉の意味を表わす。
(314) Anday-lar-dïn otun-suu-lar-ï-n
そいつ-PL-GEN 薪 水-PL-3:POSS-ACC
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al-a tur-gan malay-lar-ï bol-gon. (Kaada-salt...) 持つ-CVB tur-gan 奴隷-PL-3:POSS なる-PST2
「そんな人々の薪や水を持ってくる奴隷達がいた。」
(315) Baška-lar-dan ayïrmalan-a tur-gan kiyim kiy-giz-e-t. (Kaada-salt...) 他-PL-ABL 異なる-CVB tur-gan 服 着る-CAUS-PRES-3
「他の人々と異なる服を着せる。」
(316) Bar-a tur-gan jer-im kal-ba-dï. (Selsayak) 行く-CVB tur-gan 場所-1SG:POSS 残る-NEG-PST1
「私が行く場所が残らなかった。」
〔 V-a/-y tur-gan bol- 〕
また、次のように〔V-a/-y tur-gan bol-〕という形で現れる用例がみられる。日本語に訳 すと、「~することになる」に相当する。
(317) Reys jarïm saat-ka kečig-ip kel-e tur-gan bol-uptur. (Ěkinči ömür) 便 半 時間-DAT 遅れる-CVB 来る-CVB tur-gan なる-PST4
「この便は三十分遅れてくることになったそうだ。」
(318) Ayaz öz-ü Telefon čal-dï. Samolyot kon-or menen tüz
PSN 自分-3:POSS 電話 かける-PST1 飛行機 着陸する-AOR と 直ぐ
ěle mïnda kel-e tur-gan bol-uš-tu. (Ěkinči ömür) EMPH ここ 来る-CVB tur-gan なる-RECIP-PST1
「アヤズは自分で電話をくれた。飛行機が着陸し次第、(自分達は)すぐここに来るこ とになった。」
〔 V-a/-y tur-IMP 〕
今回の収集した用例の中から 57 例は、〔V-tur-IMP〕の形、つまり、命令の形で現れる用 例がみられた。
この形について、Davletov & Kudaybergenov(1980)では、次のように記述されている。
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“Эгерде чакчылдардын ушул эле формасы менен айкашып,бирок ɵзү буйрук ыңгай формасында турса, анда кыймыл-аракеттин убактысынча, кыска мɵɵнɵткɵ иштелишин
билдирет: (p.146)”「もし副詞接尾辞のこの形式と組み合わさっていて、命令の形をとってい
たら、動作が一時的に、短い時間の間で行われることを表わす。」
(319) Samoor öč-üp kal-ba-sïn, ot-tu kara-y tur. (Ěkinči ömür) サモワール 消える-CVB 残る-NEG-3:IMP 火-ACC 見る-CVB tur
「サモワール(の火)が消えてしまわないように、火を見ていなさい。」
(320) Küt-ö tur-uŋuz! (Ěkinči ömür) 待つ-CVB tur-2SG:IMP
「待っていてください!」
(321) Koy-o tur-ču, Kadïrbek aba! (Astra gülü)
待つ-CVB tur-REQ PSN 叔父
「ちょっと待ってよ、カデルベクおじさん。」
上の用例では、「しばらく見ていなさい」、「しばらく待っていてください」などのように、
Davletov & Kudaybergenov(1980)が指摘したとおり、主体の動作にあまり時間がかからないこ
と、少しの時間の間で行われることを表わす。このような使い方は、だれかに何かを依頼す る時に使われることが多い。これらの場合に現れる、tur-は、主体の〈一時的な動作の持続〉
という文法的な意味を表わす。
この〈一時的な動作の持続〉という意味は、bir az「少し」、bir aptača「一週間」、bir
kün bolso da「一日でも」などのような時間の短さを規定するような副詞相当句がつくこ
とによって、より明瞭に現れる。
(322) Ber-či tameki-den, čeg-ip bir az otur-a tur-alï? (Čalgïnčïlar)
与える-REQ タバコ-ABL 吸う-CVB 一 少し 座る-CVB tur-1PL:VOL
「一服、くれますか。吸って少し座っていましょう。」
(323) Da bir apta-ča ěs al-a tur-uŋuzdar. (Jaralanbagan jar.) はい 一 週-ぐらい 休む-CVB tur-2PL:IMP
「はい、(あなた方は)一週間ぐらい休んでいてください。」
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(324) Meyli, bir kün bol-so da jaša-y tur-sun. (Astra gülü) 了解 一 日 なる-COND EMPH 生きる-CVB tur-3:IMP
「分かった。一日であっても生きていさせよ。」
なお、今回、収集した用例の中には、-a/-y 副動詞接尾辞ではなく、-(ï)p 副動詞接尾辞と 組み合わさって現れる文がみられた。
(325) Jer-ge tüš-kün da, sen meni küt-üp tur. (Altïn kuš) 土-DAT 降りる-2:IMP EMPH 君 私:ACC 待つ-CVB tur
「君は下に降りなさい、そして、私を待っていなさい。」
ここでは、-a/-y副動詞接尾辞、-(ï)p副動詞接尾辞の場合の違いを考えてみよう。
・ sen meni küt-ö tur 君 私:ACC 待つ-CVB tur
「君は私を(ちょっと)待っていなさい」
・ sen meni küt-üp tur 君 私:ACC 待つ-CVB tur
「君は私を待っていなさい(待ちつづけなさい)」
前者の場合、「少しの時間の間、待っていなさい」という意味が含まれており、主体の〈一 時的な動作の持続〉を表わす。後者の場合、時間の長さに関係なく、「待っていなさい(待 ちつづけなさい)」という意味で使用される。ここでは、主体のある時点における〈動作の 持続〉の意味を表わす。このようにtur-が-a/-y、-(ï)p両方の副動詞接尾辞の場合に表わす文 法的な意味が異なる。
この他、否定副動詞形で表われる文もみられた。この場合、ある時点における〈動作の 持続〉の意味を表わす。
(326) Ket-pe-y tur, söz bar men kayra kel-e-m. (Ěkinči ömür) 帰る-NEG-CVB tur 話 ある 私 再び 来る-PRES-1SG
「帰らないでいなさい。話がある。私はまた来る。」
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10.3. まとめ
本章では、V-(ï)p tur-形式とV-a/-y tur-形式の場合に現れる主動詞の意味的なタイプとそ れらが表わす文法的な意味について述べた。
V-(ï)p tur-形式に現れる「動作動詞」の場合、《主体の活動動作を表わす動詞-ある一定の時
間における〈動作の持続〉》、《主体の長期的な活動動作を表わす動詞-長期にわたる〈動作の持続〉》、《主 体の視覚・聴覚活動を表わす動詞-ある一定の時間における〈動作の持続〉》、《自然現象の動きを表わ す動詞-自然現象の〈うごきの持続〉》、《主体の生理的な動きを表わす動詞-ある時点における〈うごきの 持続〉》、《主体の移動動作を表わす動詞-①ある一定の時間における〈動作の持続〉、②〈動作のくりかえし〉》 のタイプが取り出された。これらの場合、基本的に〈動作の持続〉という文法的な意味を 表わすが、文中での語彙的・文法的な条件により、主体の〈動作のくりかえし〉や〈変化 の結果の状態〉の意味を表わす。
V-(ï)p tur-形式に現れる「変化動詞」の場合、《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞
-〈変化の結果の状態〉》、《主体の表示を表わす動詞-〈変化の結果の状態〉》、《主体の動作が客体の変化 を引き起こす動詞-〈変化の結果の状態〉》、《主体の再帰的な動作を表わす動詞-〈変化の結果の状態〉》、
《主体の漸進的な変化を表わす動詞-〈変化の進展〉》のタイプが取り出された。V-(ï)p tur-形 式の場合に他の補助動詞に現れない《主体の表示を表わす動詞》、《主体の動作が客体の変化 を引き起こす動詞》のタイプが現れたのが特徴的である。V-(ï)p tur-形式に現れる「変化動 詞」の場合、tur-は、基本的に主体の〈変化の結果の状態〉という文法的な意味を表わすが、
主動詞の意味的なタイプや文中での言語的な条件によって、〈動作のくりかえし〉や〈動作 の準備〉を表わす場合がみられた。また、主動詞の意味的なタイプではなく、形式による 特徴ではあるが、〔V-kï+所有接尾辞 kel-形式で現れる場合-〈人の欲求や希望〉〕についても述 べた。この形式もV-(ï)p tur-形式ならではのものである。
V-(ï)p tur-形式に現れる「状態動詞」の場合、《主体の空間的な関係を表わす動詞-〈変化を
起こさず、前から同じ状態の中にあること〉》、《主体の擬態的な動作を表わす動詞-〈恒常的な状態〉》のタ イプが現れたのが特徴的である。
V-(ï)p tur-形式の場合に現れる「内的感情動詞」を《主体の思考活動動作を表わす動詞
-ある一定の時間における〈思考動作の持続〉》、《主体の感情を表わす動詞-〈心理状態〉》、《主体の評価的 な態度を表わす動詞-〈心理状態〉》のタイプがみられた。
V-a/-y tur-形式の場合、形式的な特徴(〔V-a/-y tur-gan〕、〔V-a/-y tur-gan N〕、〔V-a/-y tur-gan bol-〕、〔V-a/-y tur-IMP〕)を取り出して、考察を行った。V-a/-y tur-形式は、V-(ï)p tur-形式と異なり、かなり限られた語彙的・文法的な条件のもとで成り立っていることが分 かった。特に〔V-a/-y tur-gan-〈過去の回想〉、未来における〈動作の持続〉〕という固定した形式と、
〔V-a/-y tur-IMP-〈一時的な動作の持続〉〕の命令形で現れる用例が圧倒的に多かった。なお、
V-a/-y tur-形式の場合、《人の活動動作を表わす動詞》のタイプがほとんどである。
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