第 9 章 補助動詞 jat-
V- a/-y jat- 異なり語数 4 個 延べ語数 181 例
10.1. V-(ï)p tur- 形式の場合
ここでは、V-(ï)p tur-形式の場合に生じるtur-の文法的な意味について考察する。今回は、
次のような動詞の種類が現れた。
表 13 V-(ï)p tur-形式の場合に現れる動詞の大分類
動詞の種類 用例数
「動作動詞」 633
「変化動詞」 430
「状態動詞」 52
「内的感情動詞」 131
その他(補助動詞として現れる動詞の場合) 2
合計 1248
V-(ï)p tur-形式の場合、全ての動詞の種類が現れた。V-(ï)p tur-形式の場合、「動作動詞」
は多いが、他の補助動詞形式とは異なり、「変化動詞」の数も圧倒的に多く現れた。
以下、上の順にそれぞれの動詞の場合に現れる主動詞の意味的なタイプの種類と文法的 な意味について考える。
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10.1.1. 「動作動詞」
V-(ï)p tur-形式の場合、「動作動詞」が多く現れる。「動作動詞」にtur-が後接すると、基
本的に〈動作の持続〉という文法的な意味を表わす。しかし、V-(ï)p tur-形式の場合に現れ る「動作動詞」をみてみると、主動詞の意味的なタイプによって、偏っている。以下、V-(ï)p tur-形式の場合に現れる主動詞の意味的なタイプとそれらの場合に現れる文法的な意味、そ してその他の特徴について考える。
V-(ï)p tur-形式に現れる「動作動詞」の場合、次のような意味的なタイプが取り出された。
以下、それぞれについてみる。
主動詞の意味的なタイプ 動詞の例
《主体の活動動作を表わす動詞》 oku-「読む」、oyno-「遊ぶ」、jaz-「書く」、など
《主体の長期的な活動動作を表わす動詞》 jaša-「生活する、暮らす」、jaz-「書く」、など
《主体の視覚・聴覚活動を表わす動詞》 kara-「見る」、kör-「見る」、uk-「聞く」、など
《自然現象の動きを表わす動詞》 jaa-「降る」、kuy-「降る」、jür-「吹く」、など
《主体の生理的な動きを表わす動詞》 kaltïra-「震える」、titire-「震える」、など
《主体の移動動作を表わす動詞》 bas-「歩く」、öt-「通る」、kel-「来る」、など
《 主体の活動動作を表わす動詞 》
V-(ï)p tur-形式の場合に現れる《主体の活動動作を表わす動詞》は、ある一定の時間にお
ける〈動作の持続〉という文法的な意味を表わす。
まず、主体の立って行うことができる活動動作を表わす動詞が多く現れる。
(155) Ěne süt-ü-nün kubat-ï kančalïk,
母 乳-3:POSS-GEN 力-3:POSS どんなに
kečkisin tïrp ět-pe-y jïgïl-gan baldar
夕方 動く-NEG-CVB 倒れる-PART 子供達
ěrteŋ menen tak sekir-ip oyno-p tur-du. (Bugu ěne) 朝 真直ぐ ジャンプする-CVB 遊ぶ-CVB tur-PST1
「母乳の力はどんなによい。夕方は動きもしないで倒れた子供達が朝、飛び上がって 遊んでいた。」
(156) Ěšmat menen süylö-š-üp tur-a-t PSN と 話す-RECIP-CVB tur-PRES-3
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de-p biröö maga ayt-tï. (Tarïx ěsteligi) 言う-CVB 一人 私:DAT 言う-PST1
「(誰かが)エシュマトと話し合っているとある人が私に言った。」
次のように、文中に動作が行われている場所を示す位格がついている場合、主体が立っ て動作を行っていることが明瞭に現れる。
(157) Men čay-dï ič-eyin de-p jat-sa-m Anarxan 私 茶-ACC 飲む-1SG:VOL 言う-CVB jat-COND-1SG PSN jaŋda-p tereze-de ïyla-p tur-gan ěken. (Kanïbek) 身ぶりする 窓-LOC 泣く-CVB tur-PST2 MOD
「私はお茶を飲もうとしていたら、アナルハンは身ぶりして窓で泣いていたそうだ。」
(158) Mukanbet čoŋ ata-m-dïn üy-ü-nün jan-ï-nda PSN 大 父-1SG:POSS-GEN 家-3:POSS-GEN 隣-3:POSS-LOC köp ěl toptoš-up tur-uš-kan ěken. (Turmuštan jaralgan čoku) 沢山 人 集まる-CVB tur-RECIP-PST2 MOD
「ムカヌベトお爺ちゃんの家の近くに沢山の人が集まっていたそうです。」
(159) Nemec-ter aylana-nï jarkïrat-ïp tïndïr-ba-y ドイツ人-PL 回り-ACC ピカピカにする-CVB 止める-NEG-CVB raketa at-ïp tur-uš-tu. (Čalgïnčïlar)
ロケット 打つ-CVB tur-RECIP-PST1
「ドイツ人は回りをピカピカさせて止めずに、ロケットを打っていた。」
また、以下の用例の場合、主体はbut「足」であるからtur-が使われている。ここでの tur-を他の補助動詞と置き換えることはできない。
(160) Ošent-ip baš-ïŋ ište-be-se da, そうして 頭-2SG:POSS 働く-NEG-COND EMPH
but-uŋ ište-p tur-sun, - de-ptir. (Kaada-salt...) 足-2SG:POSS 働く-CVB tur-3:IMP 言う-PST3
「そうして頭が働かなければ、足が働きつづけるようにと言ったそうだ。」
上でみてきた用例では、tur-は語彙的な意味をある程度残しつつ、ある一定の時間におけ る〈動作の持続〉という文法的な意味を果たしている。
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V-(ï)p tur-形式の場合、基本的にある一定の時間における〈動作の持続〉という文法的な 意味を表わす。これは、V-(ï)p jat-形式の場合に現れる、〈動作の持続〉という文法的な意 味とは異なるものである。V-(ï)p jat-形式の場合、発話時において主体の動作が持続してい る過程を表わすが、V-(ï)p tur-形式の場合、必ずしも発話時において動作が持続していると は限らない。
たとえば、動詞ič-「飲む」を例にjat-とtur-の文法的な意味について考えてみよう。
(161) Ušu tamak ič-ip at-kan-da この 食事 飲む-CVB jat-PART-LOC
jürög-üm aylan-a-t timele! (Telegey)
心-1SG:POSS 吐き気する-PRES-3 こんなに
「いつも食事を食べている時に、吐き気がするんだよね。」
(162) Aŋgïča mïna bul azïk-tï ič-ip tur. (Kanïbek) それまで この この 食べ物-ACC 飲む-CVB tur
「それまでこの食べ物を飲んでいなさい。」
上のičip at-の場合、発話時において主体の「飲む」という動作がちょうど行なわれてい て、〈動作の持続〉という文法的な意味を表わす。一方、ičip tur-の場合、発話時の「現在」
ではなく、ある一定の時間における〈動作の持続〉の意味を表わしている。tur-の場合、上 の用例ではAŋgïča「それまで」という副詞相当句によって、「ある一定の時間」ということ が明瞭に現れている。
また、動作の頻度を表わす副詞相当句などによって、ある一定の時間における〈動作の 持続〉の意味が、〈動作のくりかえし〉の意味へと移行することがある。次の用例の場合、
「100ソムをあげる」という動作が毎日、繰り返して行われることを表わす。
(163) “Bul jak-ta ïrda-p tur-ba-y-sïŋ-bï, ここ 方-LOC 歌う-CVB tur-NEG-PRES-2SG-Q
kününö jüz som-don ber-ip tur-a-bïz”. (Zamandaš・№4) 毎日 百 ソム-ABL 与える-CVB tur-PRES-1PL
「ここで歌っていないか。毎日100ソムずつ(から)あげます。」
また、ar juma sayïn「毎週」、ay sayïn「毎月」或いは tez-tez「しょっちゅう」など のように動作の頻度を表わす副詞相当句が使われることによって、〈動作のくりかえし〉の 意味が現れる。
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(164) Ar juma sayïn ar kimi-si kezek menen 各 週 ごと 各 誰-3:POSS 順番 に čakïr-ïp tur-uš-a-t. (Turmuštan jaralgan čoku.) 招待する-CVB tur-RECIP-PRES-3
「毎週、皆が順番に招待しあっている。」
(165) Ušint-ip boor-uŋ-du dayïma こうして 肝臓-2SG:POSS-ACC いつも
ěz-ip ber-ip tur-a-m. (Ašïmbaev) つぶす-CVB 与える-CVB tur-PRES-1SG
「このようにしていつも、(肝臓をつぶす)笑わせてあげるよ。」
次の用例では、経験や習慣を表わす接尾辞-čuがつくことによって、過去における〈動作 のくりかえし〉の意味が現れている。
(166) Ošol učur-da ay sayïn 300 rubl-den その 時-LOC 月 ごと 300 ルーブル-ABL stipendiya al-ïp tur-ču-mun. (Ěrkin Too) 奨学金 取る-CVB tur-PST4-1SG
「その時、毎月300ルーブル奨学金を受け取っていた。」
(167) Tez-tez kuran oku-p tur-ču-buz. (Selsayak) 早 早 コーラン 読む-CVB tur-PST4-1PL
「(私達は)しょっちゅうコーランを読んでいた。」
《主体の活動動作を表わす動詞》であっても必ずしもある一定の時間における〈動作の 持続〉の意味を表わすとはいえない。たとえば、jaz-「書く」、ïyla-「泣く」はこのタイプで はあるが、以下の用例では物主語の場合に使われており、この場合は、tur-は、主体の〈変 化の結果の状態〉の意味を表わす。
(168) Termograf aba-nïn temperatura-sï-n サーモグラフィー 空気-GEN 温度-3:POSS-ACC
tïnïm-sïz jaz-ïp tur-uu-ču aspap. (Fizikalïk geografiya)
休み-NEG 書く-CVB tur-VN-NMLZ 機械
「サーモグラフィーは空気の温度を連続で書いている機械だ。」
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(169) Bardïk buuday orok tile-p ïyla-p tur-a-t. (Tarïx ěsteligi) 全て 麦 鎌 願う-CVB 泣く-CVB tur-PRES-3
「すべての麦は、鎌を願って、泣いている。」
上の用例では、「麦」は伸びてしまって、切って欲しい時、比ゆ的に使われている文であ る。
なお、V-(ï)p tur-形式の場合、tur-の語彙的な意味が読み取れない用例も存在する。たと
えば、次のjaz-「書く」、juu-「洗う」、dayarda-「準備する」などの動詞の場合、必ずしも立 って行っている動作とはいえない。しかし、これらの動詞の場合、tur-は、主体の〈動作の 準備〉の意味を表わす。
(170) Mïndan arï öz-üm jönündö bol-gon
これ:ABL から 自分-1SG:POSS について なる-PART
jaŋïlïk-tar-dï bil-dir-ip kat jaz-ïp tur-a-m. (Astra gülü) ニュース-PL-ACC 知る-CAUS-CVB 手紙 書く-CVB tur-PRES-1SG
「これから自分につてい起きたニュースを知らせる手紙を書くようにします。」
(171) Kara samïn-dï, taštek-ti, suu-nu dayarda-p tur-a-m. (Jaralanbagan jar.) 黒い 石鹸-ACC 水桶-ACC 水-ACC 準備する-CVB tur-PRES-1SG
「黒い石鹸、水桶を準備しておきます。」
(172) Tiš-iŋ-di ar dayïm juu-p tur. (Meken taanuu) 歯-2SG:POSS-ACC いつも 洗う-CVB tur
「(あなたは)歯をいつも磨き続けなさい。」
・ küt- 「待つ」の場合
動詞küt-「待つ」は、全ての補助動詞の場合に現れる。特にtur-の場合、圧倒的に多く現 れる。
küt-üp jat- 4例
küt-üp tur- 26例
küt-üp otur- 9例
küt-üp jür- 9例
tur-の場合、人主語に限らず、物主語や事主語の場合にも現れる。
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まず、人主語の場合、現在における〈動作の持続〉の意味を表わす。
(173) Joldoš-tor-um tigil jak-ta meni küt-üp tur-uš-a-t. (Ěkinči ömür) 友-PL-1SG:POSS あそこ 方-LOC 私:ACC 待つ-CVB tur-RECIP-PRES-3
「友達はあそこで私を待っているんだ。」
次に、mašina kütüp turuptur「車が待っているそうだ」のように、主語に「車」、つまり、
移動物がくる。この場合は、〈動作の持続〉の意味を表わすとは考えられなく、主体の〈変 化の結果の状態〉の意味を表わすといえる。
(174) Sulayman biz-di jetkir-üü üčün atayïn čakïr-t-kan-bï, aytor, PSN 私達-ACC 送る-VN 為 わざわざ 呼ぶ-CAUS-PST2-Q とにかく oorukana-nïn ald-ï-nda mašina küt-üp tur-uptur. (Astra gülü)
病院-GEN 前-3:POSS-LOC 車 待つ-CVB tur-PST3
「スライマンが私達を送る為に、わざわざ呼ばせたか分からないが、とにかく、病院 の前で車が待っていたそうだ。」
次の用例では、ěmneler「何」、kedeylik – kembagaldïk「貧困」などのように抽象的な事が 主語にくる場合である。これらの場合も、主体の〈変化の結果の状態〉の意味を表わすと いえる。
(175) Dagï ald-ï-da biz-di ěmne-ler また 未来-3:POSS-LOC 私達-ACC 何-PL
küt-üp tur-gan-ï-n kim bil-sin. (Astra gülü) 待つ-CVB tur-VN-3:POSS-ACC 誰 知る-3:IMP
「また未来に、私達を何が待っているかを誰が知るか。」
(176) “Kayda bar-sa-ŋ jokčuluk, kedeylik – kembagaldïk どこ 行く-COND-2SG 金欠 貧困 貧困
seni küt-üp tur-a-t”. (Kaada-salt...) 君:ACC 待つ-CVB tur-PRES-3
「どこにいても、金欠、貧困が君を待っている。」
なお、本論文の1.2.「本研究の対象」のところであげた例文は、動詞küt-「待つ」の例で ある。各補助動詞の形式に現れる場合、いったいどのような違いがあるのかと論文執筆開 始の時、疑問に思っていたことである。まず、今回のデータから出てきた動詞küt-「待つ」
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の実際の用例をみてみよう。
(177) Bil-e-siz-bi, tigi-nde biz-di 知る-PRES-2SG-Q あそこ- LOC 私達-ACC kanča kiši küt-üp jat-a-t? (Astra gülü) 何人 人 待つ-CVB jat-PRES-3
「知っていますか。あそこで私達を何人が待っているか。」
(178) Joldoš-tor-um tigil jak-ta meni küt-üp tur-uš-a-t. (Ěkinči ömür) 友-PL-1SG:POSS あそこ 方-LOC 私:ACC 待つ-CVB tur-RECIP-PRES-3
「友達はあそこで私を待っているんだ。」
(179) Seni, Karasart ěköö-ŋ-dü küt-üp otur-a-bïz. (Jaralangan jürök) 君:ACC PSN 二人-2SG:POSS-ACC 待つ-CVB otur-PRES-1PL
「君とカラサルトの二人を待っている。」
(180) A ěne-si čač-ï agar-ïp tokson-don aš-kan-ča
一方 母-3:POSS 髪-3:POSS 白くなる-CVB 九十-ABL 超える-PART-まで uul-um kel-e-t de-p küt-üp jür-ö-t. (On üčünčü tolkun) 息子-1SG:POSS 来る-PRES-3 言う-CVB 待つ-CVB jür-PRES-3
「一方、お母さんは白髪になって90歳を超えても、息子が帰ってくると待っている。」
これらの用例からいえることは、次のことである。
まず、動詞küt-「待つ」は、確かにすべての補助動詞と組み合わさることができるといえ る。
次に、動詞küt-「待つ」に各補助動詞が後接する場合、主体の〈動作の持続〉の意味を表 わすことが確認できる。そして、上の 4 つの用例の場合に限っていえば、いずれもある時 点における〈動作の持続〉の意味を表わしている。以下、それぞれの違いを考えてみる。
まず、kütüp jat-の場合、文中に位格が現れている。これは、9.1.1.で述べたが、「文中に
動作が行われている場所を示す位格と属格がついている場合」であり、現在における〈動 作の持続〉という意味が補強される。また、kütüp jat-の場合、主体はどのような姿勢で待 っているのかが重要ではなく、「発話時において待っている」ことが重要である。つまり、
kütüp jat-を「横になって待っている」という意味で解釈できない。
次に、kütüp tur-の場合であるが、この場合も文中に位格が現れている。つまり、現在に
おける〈動作の持続〉という意味を表わすといえる。しかし、jat-と異なって、tur-の場合、
主体が立った状態で待っているという意味が読み取れる。
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