第 9 章 補助動詞 jat-
③ 移動そのものを表わす動詞
V-(ï)p jat-形式の場合にみられた移動そのものを表わす動詞は、次のとおりである。
V-(ï)p jat-形式の場合、最も多く現れたのは、移動そのものを表わす動詞である。全部で
35例現れたが、これらを次の2つのグループに分けることができる。
・〔移動動詞-(ï)p jat-〕形式で現れる場合
・〔V-(ï)p 移動動詞-(ï)p jat-〕形式で現れる場合 以下、それぞれについて用例をあげながら、述べる。
ket-「行く」、kel-「来る」、bar-「行く」、kir-「入る」、kayt-「戻る」、jet-「着く」
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A. 〔移動動詞 -(ï)p jat- 〕形式で現れる場合
移動動詞が本動詞として現れる場合、主体の具体的な移動動作と抽象的な移動動作を表 わす用例がみられた。
まず、主体の具体的な移動動作を表わす場合、次のような用例が現れた。これらの用例 の場合、いずれも複数主体による移動動作である。この場合、jat-は、〈動作のくりかえし〉
という文法的な意味を表わす。
(71) Azïrïnča akïrïndïk menen abiturient-ter 今の所 少しずつ と 受験生-PL kel-ip jat-ïš-a-t. (Kutbilim・№26) 来る-CVB jat-RECIP-PRES-3
「今のところ少しずつ受験生が来ている。」
(72) Temir jol vokzal-ï asker-den kayt-ïp jat-ïš-kan 鉄 道 駅-3:POSS 軍隊-ABL 帰る-CVB jat-RECIP-PART soldat-tar menen uzatuuču-lar-ga jïk tol-gon. (Čalgïnčïlar)
軍人-PL と 見送る人-PL-DAT いっぱい あふれる-PST2
「鉄道駅は、軍隊から帰ってくる軍人と、見送る人々であふれた。」
また、移動動詞自体が反復して現れる用例がみられた。この場合も、動作が繰り返して 行われていることから、〈動作のくりかえし〉の意味を表わす。このような場合、以下のよ うに同一主体によるものと、別々の主体によるものがみられる。
同一主体によるもの(単数の主体):
(73) Jumalï kel-ip - ket-ip jat-tï. (Kïčan) PSN 来る-CVB 行く-CVB jat-PST1
「ジュマルは、来たり行ったりしていた。」
別々の主体によるもの(複数の主体):
(74) Adattagïday ěle maga učuraš-uu-ga いつも通り EMPH 私:DAT 挨拶する-VN-DAT
kel-ip - ket-ip jat-kan košuna-koloŋ... (Astra gülü) 来る-CVB 行く-CVB jat-PART 隣人 隣人
「いつも通り、私への挨拶に来たり行ったりしていた隣人たちは、...」
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次に、主体の抽象的な移動動作を表わす場合、次のような用例が現れた。
この類の場合、文中にkadamga「道に」、bütümgö「結論に」、pensiyaga「年金に」などの ように抽象名詞の与格をとるのが特徴的である。これらの場合に現れる移動動詞は具体的 な移動そのものを表わすというより、抽象的な移動動作を表わすといえる。そして、いず れの用例の場合、複数主体によるものである。この場合のjat-は、主体の〈動作のくりかえ し〉という文法的な意味を表わす。
(75) Baldar-dïn mïnday kadam-ga 子供達-GEN このような 一歩-DAT
bar-ïp jat-ïš-ï-nïn dagï bir sebeb-i –...(Kutbilim・№5) 行く-CVB jat-VN-3:POSS-GEN もう 一 原因-3:POSS
「子供達のこのような道に向かっていることのもう一つの原因は...。」
(76) Bardïk jer-de ušunday bütüm-gö kel-ip jat-ïš-a-t. (Čalgïnčïlar) 全て 場所-LOC このような 結論-DAT 来る-CVB jat-RECIP-PRES-3
「全てのところでこのような結論にきている。」
(77) Öt-kön kïlïm-dïn jetimiš-inči jïl-dar-ï 過ぎる-PART 世紀-GEN 七十-序数 年-PL-3:POSS
JOJ39-dor-du büt-kön mugalim-der-din jaš-ï jet-ip, 大学-PL-ACC 卒業する-PART 教師-PL-GEN 年齢-3:POSS 着く-CVB pensiya-ga ket-ip jat-ïš-a-t. (Kïrgïz Tuusu・№58)
年金-DAT 行く-CVB jat-RECIP-PRES-3
「前世紀の70年代に大学を卒業した教師の定年がきて、年金(受給)に至っている。」
次に、物主語の用例であるが、この場合も、jat-は、〈動作のくりかえし〉の意味を表わす。
(78) Al ěmi Kïtay mamleket-i-nen kel-ip jat-kan そして 今 PLN 政府-3:POSS-ABL 来る-CVB jat-PART jük-tör tokto-bo-gon-u menen
荷物-PL 絶える-NEG-PART-3:POSS と
ötö ěle az kölöm-dö bol-gon. (Kïrgïz Tuusu・№57)
とても EMPH 少ない 量-LOC なる-PST2
「そして、今、中国政府からきている荷物は絶えないが、量はとても少なかった。」
39 JOJ:Jogorku Okuu Jaylarï「最高学府(大学)」の頭字語である。
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B. 〔 V-(ï)p 移動動詞 -(ï)p jat- 〕形式で現れる場合
この類は、A 類と異なって、
〔
V-(ï)p 移動動詞-(ï)p jat-〕形式で現れている
場合であ る。この類の場合も、複数主体による用例がほとんどである。これらの用例でも、jat-は、主体の〈動作のくりかえし〉の意味を表わす。
(79) Dagï bir masele, azïr Kïrgïzstan-da-gï jaštar-dïn もう 一 問題 今 PLN-LOC-kï 若者-GEN köpčülüg-ü mektep-ti büt-ör-ü menen
多く-3:POSS 学校-ACC 卒業する-AOR-3:POSS と
čet ölkö-lör-gö čïg-ïp ket-ip jat-ïš-a-t. (Zamandaš・№4) 外 国-PL-DAT 出る-CVB 行く-CVB jat-RECIP-PRES-3
「もう一つの問題は、今、キルギスタンの若者の多くが学校を卒業すると同時に、外 国へ出ていっていることだ。」
(80) Front-ton kayt-ïp kel-ip jat-ïš-kan jigit-ter 戦場-ABL 帰る-CVB 来る-CVB jat-RECIP-PART 男性-PL mïnday imiš-ti kulak-tar-ï čal-ïp,... (Čalgïnčïlar) このような 噂-ACC 耳-PL-3:POSS 聞く-CVB
「戦場から帰ってきている男性たちは、このような噂を耳にして、...」
(81) Al ěmi Rossiya-dan kuruluš material-ï katarï そして EMPH PLN-ABL 建築 材料-3:POSS 代わりに
taš-ïl-ïp kel-ip jat-kan jïgač-tar... (Kïrgïz Tuusu・№52) 運ぶ-PASS-CVB 来る-CVB jat-PART 木材-PL
「そして、ロシアから建築材料のために運ばれてきている木材は、...」
上でV-(ï)p jat-形式の場合に現れた移動そのものを表わす動詞の用例をみてきた。この場
合、複数主体による移動動作であることが特徴的である。このような場合、jat-は、〈動作の くりかえし〉という文法的な意味を表わす。
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9.1.2. 「変化動詞」
V-(ï)p jat-形式に現れる「変化動詞」の場合、次のような意味的なタイプが取り出された。
以下、それぞれについてみる。
主動詞の意味的なタイプ 動詞の例
《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞》
öl-「死ぬ」、tokto-「止まる」、tol-「あふれ
る」、tünör-「暗くなる」、ěri-「溶ける」、
ura-「倒れる」、など
《人の社会的な変化を表わす動詞》 baš koš-「結婚する」、ajïraš-「離婚する」
《主体の漸進的な変化を表わす動詞》 kötörül-「上がる」、küčö-「増える」、ös-「伸
びる」、ulant-「続ける」、など
《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞》
《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞》の場合、基本的に主体の〈変化の結果の状 態〉の意味を表わす。つまり、動作が終わった後、主体の変化した状態が持続することに なる。主語は、人だけではなく、物事もとる。
まず、人主語の用例をみてみよう。
(82) Ěmne bol-gon-u-n kör-bö-y tur-a-sïz-bï! – 何 なる-VN-3:POSS-ACC 見る-NEG-CVB tur-PRES-2SG-Q
de-p Nazira öl-üp jat-kan soldat-tar-dï körsöt-tü. (Čalgïnčïlar) 言う-CVB PSN 死ぬ-CVB jat-PART 軍人-PL-ACC 見せる-PST1
「何が起こったか分からないのか!とナジラは死んでいる軍人たちを見せた。」
(83) Bekturgan öl-üp jat-kan ayal-ga jet-ip bar-ïp, PSN 死ぬ-CVB jat-PART 女性-DAT 着く-CVB 行く-CVB üŋül-üp kara-p al-dï da,
下を確かめる-CVB 見る-CVB 取る-PTS1 EMPH ěŋkey-ip kol-u-nan tart-tï. (Jaralangan jürök) うつむく-CVB 手-3:POSS-ABL 引く-PST1
「ベクテルガンは死んでいる女性に近づいて行って、確かめるように見つめてから、
うつむいて手から引っ張った。」
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これらの文では、軍人や女性が「死ぬ」途中(或いは「死にかけている」)のではなく、
もうすでに「死んだ」後の変化した結果の状態を表わしている。このように主体の〈変化 の結果の状態〉の意味を表わす場合、補助動詞jat-が使われるのが特徴的である。他の補助
動詞(tur-、otur-、jür-)を使うことができない。これは jat-の語彙的な意味に深くかかわっ
ている。jat-は第8 章で述べたように、本動詞として「体を横にする」、或いは「横たわる」
という意味を表わす。「死ぬ」という動詞も、最終的に「横になった状態」を指すので、 jat-が使われる。
jat-は本動詞として使われる場合、物主語をとることができる(第 8 章を参照)。jat-は補 助動詞として使われる場合も、物主語をとることができる用例がみられた。この場合は、
物事の〈変化の結果の状態〉の意味を表わす。
(84) Stol-dun üst-ü-ndö top - top
机-GEN 上-3:POSS-LOC いっぱい いっぱい
bol-up jat-kan kitep‚ jurnal-dar. (Ěkinči ömür) なる-CVB jat-PART 本 雑誌-PL
「机の上で山ずみになっているのは本や雑誌である。」
(85) Köčö-dö bak de-gen tol-up jat-a-t,... (Birinči mugalim) 外-LOC 木 言う-PART あふれる-CVB jat-PRES-3
「外には木というものがあふれている。」
上の用例は、〔場所-LOC 物 V-(ï)p jat-〕の構造で現われており、「ある場所に物が(横 になって)存在している」という意味を表わす。つまり、これらの用例において、jat-は本 来の語彙的な意味が関係している。したがって、これらの用例の場合のjat-を補助動詞tur-、
otur-、jür-と置き換えようとしても、置き換えることはできない。
しかし、次の用例のように必ずしもjat-の語彙的な意味とかかわっているとはいえないも のもある。
(86) Keleček jönündö söz bol-up jat-a-t. (Tarïx ěsteligi) 未来 について 話 なる-CVB jat-PRES-3
「未来について話題になっている。」
(87) Oy, sen tïn-ba-y-sïŋ, makala, INTJ 君 休む-NEG-PRES-2SG 記事
kitep-ter-iŋ čïg-ïp jat-a-t. (Kaada-salt...) 本-PL-2SG:POSS 出る-CVB jat-PRES-3
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「一体君は休まないね。君の記事や本などが出ている。」
(88) Mugalim-der baldar-ga tarbiya ber-gen-din ord-u-na 教師-PL 子供達-DAT 教育 与える-PART-GEN 席-3:POSS-DAT alar-dï buz-up jat-kan-ï ökünüčt-üü. (Kutbilim・№8) 彼ら-ACC 破壊する-CVB jat-PART-3:POSS 悲しむ-VN
「教師達は、子供たちに教育を与える代わりに、彼らを破壊しているのが残念なこと である。」
(89) Alar-dïn kïl-gan šermendelik-ter-i tol-up jat-a-t. (Kanïbek) 彼ら-GEN やる-PART 劣等さ-PL-3:POSS あふれる-CVB jat-PRES-3
「彼らのやった劣等さがあふれている。」
これらの場合、jat-の本来の語彙的な意味、つまり、「横たわる」という意味を表わしてい ると考えられない。このような場合、jat-は、主体の〈変化の結果の状態〉の意味を表わし ているといえる。
なお、《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞》の場合、必ずしも主体の〈変化の結果 の状態〉の意味を表わすとはかぎらない。
まず、次の用例では、ura-「倒れる」、kïyra-「割れる、壊れる」、kulan-「落ちる」などの 動詞は、《主体の無意志的な状態変化を表わす動詞》のタイプにはいるが、kürs-tars
ět-「ばたばたと」、karsa-kurs ět-「ガチャガチャと」、möltürögön「ポロポロと」などといっ た変化をもたらす動きを規定する副詞相当句が文中に現れることによって、文法的な意味 はある時点における〈動作の持続〉の意味へ移行する。つまり、これらの用例では、主体 の動きが行われている最中である。
(90) Kürs-tars ět-ip üy ura-p jat-a-bï. (Teŋir menen süylöšüü) ばたばたと 家 倒れる-CVB jat-PRES-Q
「ばたばたと家が倒れているのか?」
(91) Karsa-kurs ět-ip idiš-ayak kïyra-p jat-a-bï? (Teŋir menen süylöšüü) ガチャガチャと 食器 食器 割れる-CVB jat-PRES-Q
「ガチャガチャと食器が割れているの?」
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