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本研究で扱う「副動詞」

ドキュメント内 キルギス語の〈持続〉を表わす補助動詞 (ページ 58-67)

第 6 章 本研究で扱う「副動詞」と「補助動詞」

6.1. 本研究で扱う「副動詞」

キルギス語にčakčïldar「副動詞」という品詞が存在する。čakčïldar「副動詞」には人称の 接尾辞や時制(過去形、現在形、未来形)などはつかない。文中で動詞は主要な動作を表

わすが、čakčïldar「副動詞」は第二義的な動作を表わす。

・ Al katkïr-ïp kül-dü.

彼 大声で笑う-CVB 笑う-PST1

「彼は大声で(大声を出して)笑った。」

(Davletov & Kudaybergenov 1980:187)

Davletov & Kudaybergenov(1980:188-192)によると、キルギス語のčakčïldar「副動詞」には、

次のような副動詞形が存在する。

-a//-e//-y27 -ïp//-ip -ganča//-genče -gïča//-giče -ganï//-geni -galï//-geli

-mayïn(ča)//-meyin(če)

これらの副動詞形は、2つに分類される。

① jönököy čakčïldar「単純副動詞形」:-a//-e//-y、-ïp//-ip

② tataal čakčïldar「複合副動詞形」:-ganča//-genče、-gïča//-giče、-ganï//-geni、-galï//-geli、 -mayïn(ča)//-meyin(če)

27 原文のまま表記している。

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②のタイプは、いくつかの接尾辞から成るので、tataal čakčïldar「複合副動詞形」と言 われる。たとえば、副動詞形の-gančaは、-ganと-čaという2つの接尾辞から構成される。

本研究では、上の①の jönököy čakčïldar「単純副動詞形」、つまり、-a//-e//-y、-ïp//-ip が用いられた補助動詞構造を本研究の対象とする(本研究では、-a/-y、-(ï)pと表記する)。 それは、これらの副動詞接尾辞の場合、本研究の対象である各補助動詞が〈持続〉という アスペクト的な意味を表わすためである。次節では、これらの副動詞形の意味について Davletov & Kudaybergenov(1980)を参考にして、概説する。

6.1.1. -a/-y 副動詞

子音で終わる動詞には-a(-e、-o-、-ö)接尾辞、母音で終わる動詞には-y 接尾辞がつく。

基本的に次のような意味を表わす(Davletov & Kudaybergenov(1980:188))。

① Негизги кыймыл-аракет менен кошумча кыймыл аракет мезгилдеш, бир убакта болгонун билдирет: (pp.188-189)「主要な動作と副次的な動作が同じ時間において行わ れることを表わす。」

・ Čoŋ bürküt eken, kanat-ï-n jay-a otur-up kal-dï.

大きい 鷹 MOD 羽-3:POSS-ACC 広げる-CVB 座る-CVB 残る-PST1

「大きな鷹みたい、羽を広げ、座ってしまった。」

・ Kol-u-nda-gï sumka-sï-n al-a čurka-dï.

手-3:POSS-LOC-kï 鞄-3:POSS-ACC 持つ-CVB 逃げる-PST1 「手に持っている鞄を持って走った。」

② Кээде удаалаш кыймыл-аракетти да билдирет;мындай учурда чакчылдар формасындагы кыймыл негизгиге караганда мурда иштелген болот: (pp.188-189) 「時々、同時の動作を 表わす。このような時、副動詞は主動詞より先に行われるようになる。副詞的な用法 である。」

・ Ěkzamen-der-ge aldïn al-a dayarda-n-gan bol-ču.

試験-PL-DAT 前 持つ-CVB 準備する-REFL-CVB なる-PST4

「(彼は)試験に前もって準備したんだ。」

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・ Kabar-dï ug-a jol-go čïk-tï-k.

知らせ-ACC 聞く-CVB 道-DAT 出る-PST1-1PL 「(私たちは)知らせを聞き、外に出た。」

③ Негизги кыймылдын иштелиш ыгын билдирет: (pp.188-189) 「主要な動作を修飾する。」

・ Bak-čarbag-ï-n aylandïr-a kurča-dï.

木 庭-3:POSS-ACC 回る-CVB 囲む-PST1 「(彼は)庭を回って、囲んだ。」

・ Kalpakbay aga ormoy-o kara-dï.

PSN 彼:DAT にらむ-CVB 見つめる-PST1

「カルパクバイは、彼ににらみ(ながら)見つめた。」

④ Кыймыл-аракеттин күч менен иштелгенин билдирүү үчүн колдонулат: (pp.188-189)「動作 が強勢的に行われたことを表わす。」

katkïr-a kül-dü.

大声で笑う-CVB 笑う-PST1

「(彼は)大声で(大声を出して)笑った。」

・ Kïmïz-dan ayak-ka toltur-atoltur-a kuy-du.

馬乳酒-ABL 茶碗-DAT いっぱい いっぱいにする-CVB 注ぐ-PST1 「馬乳酒から茶碗にいっぱいいっぱいにして注いだ。」

⑤ Негизги кыймылдын иштелишин чегин кɵрсɵтɵт.Мындай учурда чакчылдар да, негизги этиш да терс формада колдонулат.Ушул мааниси боюнча чакчылдардын -а//-е//-й формасы грамматикалык синоним боло алышат: (pp.188-189)「主要な動作の制限を表わ す。このような場合、副動詞も、主動詞も否定形で用いられる。この意味で-а//-е//-й 形は文法的な同意語になることができる。」

・ Ěl kel-be-y, jïynalïš baštal-ba-y-t.

国民 来る-NEG-CVB 会議 始まる-NEG-PRES-3

「国民が来ない(と)、会議が始まらない。」

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6.1.2. -(ï)p 副動詞

子音で終わる動詞に-(ï)p(この接尾辞は、母音調和により、-ïp、-ip、-up、-üpという異形 態をもつ)接尾辞がつき、母音で終わる動詞に-p 接尾辞がつく。主に次のような意味を表 わす(Davletov & Kudaybergenov(1980:189-190))。

① Негизги этиштин кыймылынан мурун болгон кошумча кыймыл аракетти билгизет:

(pp.189-190)「主要な動作より先に行われた副次的な動作を表わす。」

・ Kel-e jat-kan-dar-dï kör-ö koy-up, 来る-CVB jat-PART-PL-ACC 見る-CVB 置く-CVB ayal üy ič-i-n jïynaštïr-a bašta-dï.

女 家 中-3:POSS-ACC 片づける-CVB 始める-PST1

「やってくる人々を見ておいて、女は家の中を片付け始めた。」

② Удаалаш кыймыл-аракетти билгизүү үчүн колдонулат.Мындай учурда кыймыл-аракеттер бири-бири менен убакыт боюнча тыгыз байланышта болушат, биринин артынан бири болгону кɵрсɵтүлɵт: (pp.189-190)「同時に行われた動作を表わすために、用いられる。

このような動作は、時間的な過程において密接な関係をもち、同時に行われることを表 わす。」

・ ...kuyruk-tar-ï menen öz-dör-ü-n čapkïla-p, jer tepkile-p, 尻尾-PL-3:POSS で 自分-PL-3:POSS-ACC 叩く-CVB 土 蹴る-CVB tuš-tuš-ka kač-ïp jönö-š-tü.

他方-DAT 逃げる-CVB 行く-RECIP-PST1

「...(彼らは)しっぽで自分達を叩いたり、土をけったりして、他方に逃げていった。」

③ Негизги кыймылдын иштелишин ыгын, амалын билдирет: (pp.189-190)「主要な動作の実 行された方法や、やり方を表わす。」

・ Okuuču-lar kitepkana-da oltur-gan 生徒-PL 図書館-LOC 座る-PART

mugalim agay-ï menen iyil-ip salamdaš-tï.

教師 先生-3:POSS と お辞儀する-CVB 挨拶する-PST1

「生徒たちは図書館にいる男性の先生とお辞儀して挨拶した。」

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・ Kitep-te-gi jomok-tu šarïldat-ïp oku-y bašta-dï.

本-LOC-kï 昔話-ACC すらすらと 読む-CVB 始める-PST1

「本の昔話をすらすらと読み始めた。」

④ Негизги кыймыл-аракеттин максатын же себебин к

ɵ

рс

ɵ

т

ɵ

т: (pp.189-190)「主要な動作の 目的や原因を表わす。」

・ Sarï-Jaz-dïn baš-ï-na ěčki - teke izde-p bar-ïp kal-dï-m.

PLN-GEN 頭-3:POSS-DAT 山羊 鹿 探す-CVB 行く-CVB 残る-PST1-1SG

「サルージャズの方に鹿などを探しに行ったんです。」

・ Siz-ge učuraš-a ket-eyin あなた-DAT 挨拶する-CVB 帰る-1SG:VOL de-p kayrïl-a kal-dï-m.

言う-CVB 寄る-CVB 残る-PST1-1SG

「あなたに挨拶して帰ろうと思って、寄りました。」

以上のように jönököy čakčïldar「単純副動詞形」の-a/-y と-(ï)p には、様々な用法が存 在する。また、-a/-y、-(ï)pの否定形は、-bayである。

本研究で取り上げる4つの補助動詞の中、jat-、tur、jür-補助動詞は-a/-yと-(ï)pの両方と も組み合わさることができるが、otur-は、-(ï)pとしか組み合わさらない(今回の言語資料 から得られた結果(7.2.を参照))。

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6.2 .本研究で扱う「補助動詞」の捉え方

ここでは、本研究で扱う「補助動詞」の定義と特徴を記す。

6.2.1. 「補助動詞」の定義

キルギス語には、日本語の「補助動詞」にあたる術語が存在する。キルギス語研究者に よって、 jardamčï ětišter「補助動詞」、kömökčü ětišter「補助動詞」、tataal ětišter「複合 動詞」28などのように様々な名づけが使われている。これらのうち、学校国語教育や現代キ ルギス語の研究Davletov & Kudaybergenov(1980)などで用いられているjardamčï ětišter「補 助動詞」という術語が広く知られている。本研究でもこの用語を取り入れる。

Davletov & Kudaybergenov(1980)は、jardamčï ětišter「補助動詞」を次のように規定してい る。

“Татаал этиштин составында туруп, негизги этиш аркылуу(туруп) берилген түшүнүктү грамматикалык маани жагынан толуктоо катарында айтылуучу этиштер жардамчы этиштер деп аталат(p.143)...(中略)Кыргыз тилинде этиштин баары эле жардамчы этиш боло бербейт.

-а//-е//-й жана ып формаларындагы чакчылдар менен бириккенде баштапкы лексикалык маанисинин ордуна мезгил менен мейкиндикте кыймыл-аракеттин

ɵ

түшүнүн объективдүү мүн

ɵ

зд

ɵ

м

ɵ

сүн билдирүүг

ɵ

ж

ɵ

нд

ɵ

мдүү болгон гана этиштер жардамчы этиш боло алат.

( p.145)”「複合動詞の形であって、主動詞によって表される意味を文法的な面から補助する

形で言われる動詞群は、補助動詞と呼ばれる。(中略)キルギス語では動詞がすべて補助動 詞になれる訳ではない。-a//-e//-y と-(ï)p 形の副動詞と組み合わさった時に、元の語彙的な 意味の代わりに時と空間で動作が行われていることを客観的に描写することができる動詞 だけが補助動詞になることができる。」

また、Davletov & Kudaybergenov(1980)は、jardamčï ětišter「補助動詞」にどのような動詞 がなれるかについて次のように言及している。

“Кыймыл-аракеттин убакыт боюнча ɵтүшүн мүнɵздɵɵ үчүн чакчылдар формасындагы негизги компонентке кошулуп колдонулуучу жардамчы этиштер тɵмɵнкүлɵр:тур, отур,жүр,жат,сал,ташта,кой,жибер,түш,кел,кет,ал,бер ж.б. ( p.145)”「動作が時によって行 われることを表わす為に、主動詞の副動詞形に後接する補助動詞は以下のとおりである:tur

28 jardamčïkömökčüという単語は、日本語に訳すと、両方とも「補助的な」という意味を表わすが、tataal

という単語は「複合的な」という意味を表わす。

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「立つ」29otur「座る」、jür「動く」、jat「横たわる」、sal「入れる」、tašta「捨てる」、koy

「置く」、jiber「送る」、tüš「降りる」、kel「来る」、ket「行く」、al「もらう」、ber「与える」

など。」

このようにキルギス語には、jardamčï ětišter「補助動詞」とみなされているものは多数存 在する。その中から、本研究では、次の 4 つ補助動詞を研究対象とする。これらの補助動 詞は、主動詞によって表わされる動作・状態の〈持続〉を表わす。

jat-/at- 、 tur- 、 otur-/oltur- 、 jür-

jat-

/

at-otur-

/

oltur-はそれぞれ異形態である。本論文では、それぞれを jat-と otur-で代表 させて表記する。

6.2.2. 「補助動詞」の形式的な特徴

本研究の対象であるjat-、tur、otur-、jür-の補助動詞としての意味を考察する前に、形式的 特徴を整理しておく。

・ 補助動詞の場合、主動詞の-a/-yまたは-(ï)p副動詞形に後接して表われる。

・ 主動詞に後接して表われ、文法的な意味を補助する。

・ テンス・アスペクト、モダリティによる語形変化は、主動詞ではなく、補助動詞 が受ける。

例)oku-p jat-tï 「彼は読んでいた」

読む-CVB jat-PST1

oku-p jat-a-m 「私は読んでいる」

読む-CVB jat-PRES-1SG

oku-p jat-sa 「彼が読んでいたら」

読む-CVB jat-COND

29 括弧内は単純で本動詞として使われている場合の語彙的な意味である。筆者による補足である。

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6.3. 「本動詞」と「補助動詞」の違い

動詞の副動詞形にjat-、tur、otur-、jür-が連続して用いられていても、そのjat-、tur、otur-、 jür-が本動詞として用いられている場合がある。このような場合、基本的に次の2種類の場 合がある。

・ 副動詞と動詞の表わす動きが継起的である場合(6.3.1.)

・ 副動詞の表わす動きが動詞にとって付帯状況的である場合(6.3.2.)

以下、それぞれについてotur-を例にして、実例をあげながら、概説する。

6.3.1. 副動詞と動詞の表わす動きが継起的である場合

ここでは、otur-を例に説明する。副動詞が表わす動作と otur-が表わす動作が継起的であ る。

・ Kanïbek üy-gö kir-ip otur-du. (Kanïbek)30 PSN 家-DAT 入る-CVB otur-PST1

「カヌベクは家に入って、座った。」

この用例では、副動詞kiripとotur-の結びつきが弱く、それぞれが「入る」、「座る」とい う動作を別々に表わしている。2つの動作が別々なので、上の例の副動詞とotur-の間にstolgo

「椅子に」、或いは kečke「ずっと」などのように位格場所名詞や副詞などを挿入すること ができ31、こうしたことによっても、それぞれのotur-の意味に変化は生じない。

・ Kanïbek üy-gö kir-ip stol-go otur-du.

PSN 家-DAT 入る-CVB 椅子-DAT otur-PST1

「カヌベクは家に入って、椅子に座った。」

・ Kanïbek üy-gö kir-ip kečke otur-du.

PSN 家-DAT 入る-CVB ずっと otur-PST1

「カヌベクは家に入って、ずっと座っ(てい)た。」

30 用例を示した後、括弧内に作品名を記す。作品の詳細については、本稿末の「用例出典」を参照された い。

31 筆者の母語話者としての内省である。

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これらの用例では、otur-が「座る」という語彙的な意味を表わし、本動詞としてのふるま いをしている。このような現象は、他の3つの補助動詞jat-、tur、jür-の場合も同様である。

6.3.2. 副動詞の表わす動きが動詞にとって付帯状況的である場合

ここでは、otur-を例に説明する。

・ Xan makul bol-up, kiyim-i-n čeč-ip ber-di da, ハン 承諾 なる-CVB 服-3:POSS-ACC 脱ぐ-CVB 与える-PST1 EMPH öz-ü ayïp-tuu kiši bol-up tizele-p otur-du. (Akïlduu dïykan) 自分-3:POSS 害-ある 者 なる-CVB 跪く-CVB otur-PST1

「ハンは承諾し、服を脱いで(あげて)、自分が罪を犯したように(床に)ひざまずいて 座った。」

・ Biz-di köz-ü-nö il-be-y Kanïbek-ke jalïn-ïp, 私達-ACC 目-3:POSS-DAT する-NEG-CVB PSN-DAT 懇願する-CVB bet-i-nen öö-p kučakta-p otur-du. (Kanïbek)

頬-3:POSS-ABL キスする-CVB 抱く-CVB otur-PST1

「私達をものともせずに、カヌベクに懇願し、彼の頬にキスして、抱いて座った。」

これらの用例では、otur-は「座る」ことを表わしており、副動詞の表わす動き(「ひざま ずいて」、「抱いて」)はotur-にとって付帯状況的である。すなわち、これらの用例では、膝 をついた状態のまま、抱いた状態のままで「座る」動作を行ったことを表わす。

これらの用例では、otur-は本動詞である、あるいは補助動詞であることが明確に規定でき ない。同じようなことが他の補助動詞の場合もいえる。

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ドキュメント内 キルギス語の〈持続〉を表わす補助動詞 (ページ 58-67)