第 3 章 廃棄物産業連関分析の動学的拡張
3.4 WIO と正値条件
本節では廃棄物産業連関モデルとそのシナリオ分析解が経済学的に意味をもつために必要な正 値条件について論ずる。
3.4.1 ソローの列和条件
一般の産業連関表を用いた場合、その解の正値性を簡単にチェックする条件として、ソローの列 和条件がある。ソローの列和条件は、どの産業の投入係数の列の合計も決して1より大きくなく、
少なくとも一つの産業の投入係数の列和が1より小でありさえすれば解の正値性が保障されるとい うものである(新飯田(1978))。
それぞれTable.3.6-1,Table.3.6-2において産業連関表と廃棄物産業連関表を示す。 Table.3.6-1,Table.3.6-Table. 3.6: 産業連関表と廃棄物産業連関表
Table.3.6-1 産業連関表 Table.3.6-2 廃棄物産業連関表
産業 最終 生産 産業 廃棄物処理 最終 生産
部門 需要 部門 部門 需要
産業部門 Xs11 Fs Xs 産業部門 Xw11 Xw12 Fw1 Xw1 廃棄物処理部門 Xw21 Xw22 Fw2 Xw2
2を基にした需給均等式は式(3.13)(3.14)のように示される。式(3.14)に示されるように、廃棄物産 業連関モデルは投入係数行列がAw11,Aw12,Aw21,Aw22の4つのブロックに分けられる。
[I−As]−1Fs=Xs (3.13)
I−
Aw11 Aw12 Aw21 Aw22
−1 Fw1 Fw2
= Xw1
Xw2
(3.14) 式(3.14)において、Aw11,Aw12は実際の産業連関表をベースとした投入係数であり、この列和はソ ローの列和条件を満たすものである。しかし廃棄物産業連関表は下に廃棄物の排出と再資源化の 物量ベースの投入係数を有し、正方化した廃棄物産業連関モデルはこれに配分行列Sを乗じた係数 Aw21,Aw22をもつ。そのためその列の合計が1以下になるとは限らない。
よって廃棄物産業連関モデルにおいてソローの列和条件は満たされず、これを基に正値解の存 在は論ずることができない。
3.4.2 ホーキンス・サイモン条件
ソローの条件は正値解の存在の十分条件であっても、必要条件ではない。一般的なn部門モデ ルの正値性に関わる定理としてホーキンス・サイモン条件(Hawkins and Simon (1949))がある。
ソローの条件を満たさなくてもホーキンス・サイモン条件を満たせば正値解は存在する。二階堂
(1960)により産業連関モデルにおいて、実際の産業連関表から得られる投入係数行列を用いる限
りにおいて、HS条件は満たされており、いかなる非負の最終需要行列を与えても、求められた生 産量ベクトルは非負であることが保障されている。
しかし廃棄物産業連関モデルはその性質上、二階堂(1960)で示される条件を満たさない。廃棄 物産業連関モデルにおけるA21、A22は産業部門及び廃棄物処理部門における廃棄物の純排出率に 配分行列を乗じたものである。産業部門及び廃棄物処理部門における廃棄物の純排出は、各部門 の再資源化活動により負値をとりうる。配分行列はその定義より正値であるため、A21,A22の投入 係数の要素が非負ではない。
これは廃棄物産業連関表における副産物・廃棄物の取り扱いによって起こるものである。従来 の産業連関表における副産物処理にはストーン方式、トランスファー方式、一括方式が挙げられ る。ストーン方式は副産物を発生した部門が、それを主たる生産物とする部門に対し、マイナス で副産物価額を計上する方法であり、マイナス投入方式と呼ばれる。またトランスファー方式に おいて、副産物を生産した部門Aがこれを主たる生産物とする部門Bに投入し、生産部門BはBの 生産する財を需要する部門に計上された副産物価額を配分する形で記述される。最後に一括方式 は主たる生産物と副産物の取り扱いを別とせず、ともにこれを発生した部門から、それぞれの需 要部門に配分される形で記述される。
いずれの方式においても副産物の取り扱いを前提としたものであり、廃棄物を扱ったものでは ない。副産物は、別の産業部門の生産物と定義されている生産物が、その産業の主たる生産物と 結合して生産されることにより発生する。ある産業においては主たる生産物ではなくても、それ を主たる生産物として生産する部門があるのが副産物である。それに対して廃棄物はそれを主た る生産物として生産する部門は存在しない。しかしながら生産を行うにあたり必ず主たる生産物 に伴い発生するものであり、再資源化を行う場合においても、価格ゼロあるいはゼロに近い値で 取引がなされる場合も多い。このような副産物とは異なる財である廃棄物の取り扱いは従来の産 業連関表では行うことが難しい。廃棄物産業連関表ではこれを廃棄物処理部門を導入し、廃棄物 処理サービスを主たる生産物として生産を行う産業が、投入物として廃棄物を需要するという方 式をとることにより現実に近づけた。
このため、正値解の存在条件は従来の産業連関モデルにおけるシナリオ分析が経済学的に意味
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を持つ条件とは異なり、任意の最終需要を満たすための生産が正値で存在するかという従来の正 値解の意味に加え、任意の最終需要を満たすための廃棄物(再資源化原材料)が正値で存在するかと いう意味をもつ。
これを踏まえて廃棄物産業連関モデルにおけるシナリオ分析が正値解を有するための条件につ いて議論を行う。この問題はすでに中村(1999)で資源散逸条件に関わる問題として議論が行われ ているが、ここでは代数的にこの問題を論じてみる。
説明の簡単化のために産業部門が第1、第2の2産業の内生部門と最終需要部門からなるオープン・
モデルについて考える。すなわち以下のように定式化されているものとする。
a11X1+a12X2+f1=X1 (3.15) a21X1+a22X2+f2=X2 (3.16) WIO連立方程式体系において、X1は産業活動を示し、X2は廃棄物処理活動を示すものとする。
(1−a11)X1 −a12X2 =f1 (3.17)
−a21X1+ (1−a22)X2 =f2 (3.18) 式(3.17)(3.18)よりX2を被説明変数とした以下の2式を得る。
X2 =−f1
a12 +1−a11
a12 X1 (3.19)
X2 = 1
1−a22f2+ a21
1−a22X1 (3.20)
ここでa11,a12は金額ベースの投入係数であり、0< a11, a12 <1である。よってa21,a22について各係 数の符号条件ごとに4つのケースに分類する(Table.3.7)。それぞれのケースについて式(3.19)(3.20)
Table. 3.7: a21、a22の符号条件別の場合分け
a22:正値 a22:負値
0< a22<1 1< a22 −1< a22<0 a22<−1
a21:正値 ケース1 ケース 1 ケース 3 ケース 3
パターン1 パターン3 パターン1 パターン1
a21:負値 ケース2 ケース 2 ケース 4 ケース 4
パターン2 パターン3 パターン2 パターン2
を縦軸にX2、横軸にX1をとった図(Fig.3.3)との対応を以下に示す。Fig.3.3で示す各パターンにお いて、最終需要F1, F2が正値の場合、これを満たす産業活動および廃棄物処理活動水準はA点で示 される。また最終需要F1 = 0かつF2 >0の場合はB点で、F1 >0かつF2 = 0の場合はC点でそれ
ぞれ示される。例えばパターン2において、最終需要F1, F2が正値の場合、これを満たす産業活動 および廃棄物処理活動水準はX1, X2で示される。
a21、a22ともに正値の場合、a22が0< a22<1であるならば、パターン1のように常にいかなる最 終需要をも満たす正値解が存在する。しかし1< a22の場合、正値解は存在しない。しかし1< a22
は現実には起こりえない。
廃棄物産業連関表において、a21が1以上の値をとりうるのは産業部門100万円あたり、廃棄物処 理活動(重量トン)がどれだけ投入されるかを表しているためである。a22は廃棄物処理活動(重量ト ン)あたりどれだけの廃棄物処理活動(重量トン)が投入されるかをあらわしたものである。重量対 重量の比率において、1以上の値は、ある廃棄物処理活動を行うと、その活動によって発生する廃 棄物によってそれ以上の廃棄物処理活動を必要となることを意味し、そのような活動は現実には 起こりえない6)。
またa21が正値で、a22が負値の場合、−1< a22<0、a22<−1いずれにおいてもパターン1のよ うになり、いかなる最終需要に対しても正値解は存在する。
問題となるのは、a21が負値で、a22が正値かつ0< a22<1である場合7)(ケース2)、a21、a22と もに負値である場合(ケース4)である。これらのケースはパターン2で図示され、任意の最終需要 に対して必ずしも正値解は存在しない。ケース2、ケース4に共通するのは、a21が負値をとるとい う点である。ここでa21が負値をとる理由について考察をする。
Table. 3.8: 廃棄物産業連関表における産業活動と再資源化活動
産業部門 廃棄物処理 最終 生産 産業活動 再資源化活動 部門 需要 産業部門 a11:1 a11:2 a12 f1 X1 廃棄物処理部門 a21:1 a21:2 a22 f2 X2
繰り返しになるが、a21は産業部門における廃棄物排出と再資源化による廃棄物投入の差分に配 分行列を乗じたものである。産業部門はその生産活動と同時に再資源化活動を行っており、これ を一つのアクティビティとみなしたのがTable.3.6であるが、仮にこれを生産活動と再資源化活動 を分割したとすると、Table.3.8のようにあらわせる。a11:1は産業活動のうち生産活動に投入され る資源・エネルギー投入を意味し、a21:1は産業活動に伴い発生する廃棄物排出を表す。またa12:1
は産業活動に伴う再資源化活動に投入される資源・エネルギー投入を意味し、a21:1は再資源化活 動に伴い受け入れられる廃棄物量をあらわす。ここでa21:1は負値をとり、a11:1、a11:2、a21:1は正 値をとる。
6)負値をとる場合は、その廃棄物処理活動を行うことにより、再資源化活動が活発化し、結果として当該廃棄物処理 活動を抑制することを意味し、これは実際に起こりうる。
7)a21が負値で、a22が正値かつ1< a22の場合は前述の理由により起こり得ないためここでは考えないものとする。
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A B
A B
C
C
C
Fig. 3.3: HS条件:パターン
ここで表をTable.3.9のように書き換え、産業活動における再資源化活動を廃棄物処理部門にお ける廃棄物受け入れと同様に扱うことにより式(3.21)(3.22)で示されるように新たなa12a22を作成 する。その結果、ケース2、ケース4はケース3になりうる。
a12=a11:2+a12 (3.21)
a22=a21:2+a22 (3.22)
ただし部門分割が変化したことにより、最終需要、生産ともに新たなf1, f2、X1, X2とする。
このことから、廃棄物産業連関モデルと正値解の存在は産業部門における再資源化活動の扱い に依拠する問題と考えることができ、アクティビティを細分化し産業部門における再資源化活動 を廃棄物処理と同様のアクティビティとみなせば、「任意の非負の最終需要をも満たす正値の生産 水準は存在する」という正値条件をもつものと考えられる。