第 3 章 廃棄物産業連関分析の動学的拡張
3.2 廃棄物産業連関分析の動学的拡張モデル
動脈部門については動脈部門数をNとし、t期における産業部門jに投入される産業部門iの産 出物をXo:t={Xo:ij:t}3)、t期における産業部門jに投入される廃棄物iをXz:t={Xz:ij:t},t期に おける固定資本形成を除く最終需要部門jに投入される産業部門iの産出物をXf:t ={Xf:ij:t}と し、産業部門行和をXt={Xi:t}とする。
静脈部門については廃棄物種類数をM、廃棄物処理部門数をKとし、t 期における産業部門 j で発生する廃棄物 iの純発生量Wo:t={Wo:ij:t}、t期における廃棄物処理部門jで発生する廃棄 物iをWz:t={Wz:ij:t}、t期における最終需要部門jで発生する廃棄物iをWf:t={Wf:ij:t}、廃 棄物処理部門行和をWt={Wi:t}とする。
また産業部門jの生産物を1単位生産するために投入される産業部門iの生産物をAo:t={Ao:ij:t}、 廃棄物処理部門lの1単位の処理活動のために投入される産業部門iの生産物をAz:t = {Az:il:t}と し、産業部門jの生産物を1単位生産するために純排出される廃棄物kをGo:t={Go:kj:t}、廃棄物 処理部門lの1単位の処理活動により純排出される廃棄物kをGz:t={Gz:kl:t}とする。
本モデルでは廃棄物産業連関表において最終需要部門に含まれていた資本形成部門を明示的にし ている。t期に資本ストックとして固定される産業部門iの産出物をKfo:t={Kfo:i:t}とし、t期に
2)資源の採掘、加工、組立、生産、販売といった一連の産業を「動脈」とするならば、使い終わった製品を回収、再 利用、再資源化、あるいは廃棄に関わる産業を「静脈産業」という。
3)以下では太字は{}内を要素とする行列、XˆはXの対角化行列、XはXの転置をそれぞれ表すものとする。
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資本ストックとして固定される再資源化原材料としての廃棄物iをKfz:t={Kfz:i:t}とする。(Table.
3.1, Table. 3.2)
Table. 3.1: 廃棄物産業連関表の動学的拡張
産業 廃棄物処理 最終需要 行和 (N部門) (K部門) 固定資本形成
産業(N 部門) Xo:t Xz:t Kfo:t Xf:t Xt 廃棄物 (M 部門) Wo:t Wz:t Kfz:t Wf:t Wt 付加価値 Vo:t Vz:t Vf:t Vt 環境負荷排出 Eo:t Ez:t Ef:t Et
Table. 3.2: 投入係数表
産業 廃棄物処理 (N部門) (K部門) 産業(N部門) Ao:t Az:t 廃棄物(M 部門) Go:t Gz:t 付加価値 vo:t vz:t
環境負荷排出 eo:t ez:t
3.2.1 拡張固定資本マトリックス
動学レオンチェフモデルにおいては、静脈部門の活動、すなわち資本ストックの除却と廃棄物 の再資源化が考慮されていない。本論では、資本ストックとして固定された耐久財が除却されて 廃棄物となる、動脈部門と静脈部門との間の財と廃棄物の時間差をもった循環について考えたい。
総務省産業連関表付帯表は N ×N の固定資本マトリックスをもつ。これをKt= {Kij:t}とす る4)。産業連関表における国内総固定資本形成は、耐用年数が1年以上で購入者価格の単価が20万 円以上の建設物、機械、装置等の再生産可能な資本財の取引額、ならびに資本用役を提供する家 畜及び果樹等の成長増加をその内容としている。固定資本マトリックスは取引基本表を補完する ものであり、投資主体別に、資本形成部門がどのような資本財をどれだけ資本形成したのかを表 したものである。
4)ここでKtはフローとしての固定資本形成を意味しており、レオンチェフ動学モデルにおけるKtと異なる意味で用 いている。
t−1期に産出された財の一部を資本として蓄積するということは、t−1期におけるj財産出 の際に投入されたi廃棄物もまた蓄積されるということである。そのためt期の固定資本形成中、
再資源化原材料として投入された廃棄物量を考慮しなくてはならない。よってN×N の固定資本 マトリックスを(N +M)×Nの拡張固定資本マトリックス K˜(式(3.4)) を作成する必要がある。
Table.3.3はK˜を表に示したものである。
K˜ =
Ko:t Kz:t
(3.4) Ko:t={Ko:ij:t}はt期における産業部門jへの資本財iの蓄積であり、Kz:t={Kz:ij:t}はt期にお ける産業部門jへの廃棄物iの蓄積とする。
Table. 3.3: 拡張固定資本マトリックス 産業(N 部門) 行和 資本財(N部門) Ko:t Kfo:t 再資源化原材料(M 部門) Kz:t Kfz:t
ここでKoは各要素をKijとする行列であり、通常の固定資本マトリックスを用いるものとする。
Kz(再資源化原材料の蓄積)の部分は各部門への資本財の蓄積に、産業部門の投入係数と廃棄物部 門の投入係数の比を乗じたものとし、Kzは式(3.5)のように定義されるものとする。
Kz =W−o:tXˆ−1t Ko:t (3.5)
W−o:tはt期において産業部門jに投入される再資源化原材料としての廃棄物iであり、M ×N の行列とする。拡張固定資本マトリックスは資本形成される量で表記されているので、分析のため に産出された財がどれだけの割合で固定されるかを示す拡張固定資本係数B˜tを式(3.6)とし、Bz:t
は式(3.7)のように定義する。
B˜t= Bo:t
Bz:t
(3.6)
Bz:t=W−o:t Xˆt−1Ko:tXˆt−1 (3.7) 産業部門iに投入され、固定される産業部門jの産出物の割合をBo:t = {Bo:ij:t}とし、Bz:t =
{Bz:ij:t}を産業部門iに投入され、固定される廃棄物jの割合とする。
例えば、再資源化原材料として鉄屑を用いて生産した建築用金属製品を、建設材として利用し た場合、Kz:tにおける建設部門への鉄屑の蓄積として表されることになる。
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3.2.2 廃棄物化変換行列
次に資本ストックとして固定された最終財が、寿命を終えた後にどのように廃棄物に変換され るのかを示した廃棄物化変換行列Tについて式(3.8)のように定義する。Table. 3.4はTを表で示し たものである。
T = To:t
Tz:t
(3.8) 廃棄物化変換行列は(N+M)×Mの形で示され、To:tは耐久財が廃棄される際に排出される廃 棄物の割合を示し、Tz:tは 耐久財に含まれる再資源化原材料の回収率を示すものとする。この行 列は時間ごとに異なる行列を設定することが可能であり、易分解設計などにより、ある産業の産 出物の廃棄物への変換割合が変わった場合は、To:tが変化する。またTz:tは分離技術に依存するも のとする。
Table. 3.4: 廃棄物化変換行列 T 廃棄物 (M部門) 資本財 (N部門) To:t 再資源化原材料(M 部門) Tz:t
例として再資源化原材料として焼却灰、金属屑を用いる耐久財が廃棄される際に、再資源化原 材料として用いられた焼却灰、金属屑がそのままそっくり回収できる場合、Tz:tはTable. 3.5の例 1のような形で表される。しかしエコセメントが用いられたコンクリートがすべて建設混合廃棄 物として処理される場合、 再資源化原材料としての焼却灰が建築廃棄物に変換される割合は1と なる。また耐久財に用いられた再資源化原料としての金属屑が半分は回収でき、残りは建築廃棄 物として処理される場合は再資源化原材料としての金属屑が廃棄物としての金属屑に変換される 割合が0.5、金属屑から建築廃棄物への変換割合は0.5となり、Tz:tはTable. 3.5の例2のように表 される。
現段階において再資源化原材料の使用は最終処分量を減少させる。しかし再資源化原料を用い たことによって、廃耐久財から排出される廃棄物を再資源化することが困難になることが起こり 得る。この行列はそのような一回限りのリサイクルについての分析を可能にさせるものである。
Table. 3.5: 例:廃棄物化変換行列Tz 廃棄物
例1 : Tz:完全回収 焼却灰 金属屑 建設廃棄物 再資源化原材料 焼却灰 1 0 0
金属屑 0 1 0
建設廃棄物 0 0 1
廃棄物
例 2 : Tz:部分回収 焼却灰 金属屑 建設廃棄物 再資源化原材料 焼却灰 0 0 1
金属屑 0 0.5 0.5
建設廃棄物 0 0 1
3.2.3 需給均等式と環境負荷発生
これらを基にt期の生産と廃棄物処理に関する需給均等式は式(3.9)のように表される。
Xt Zt
=
Ao:t Az:t SGo:t SGz:t
Xt Zt
+
∆Co:t
−S∆Cz:t
(3.9) +
0 n
i=0ST Bδt−i,t∆Xt−i+1
+
Xf:t SWf:t
ただし∆Xt=Xt+1−Xtとし、0はすべての要素がゼロのベクトルとする。またδt−i,tはt−i期に 固定された資本がt期に廃棄される割合を示すN×1の寿命行列とし、t−1期に作られた財はt期
にδt−1,tの割合で、t−2期に作られた財はt期にδt−2,tの割合で廃棄されるものとする。
ここで右辺第一項はt期の生産活動に伴う生産部門からの投入と、これに伴って発生する廃棄物 の処理活動量を表す。Ztは廃棄物処理活動量を表し、Zt=SWtで定義される。Sは廃棄物を廃棄 物処理過程に対応させたK×Mの配分行列であり、処理過程iで処理される廃棄物jの割合Sijを要 素とする。Sの要素は当該時点における技術や制度によって規定されていると考えられる。ここで は廃棄物処理部門の能力が制約条件にならないものとして,Sの各要素は廃棄物処理部門から独立な パラメータと仮定している。右辺第二項はt+1期への資本蓄積を表しCo:t={Co:t:i},Cz:t={Cz:t:i} はそれぞれCo:t:i =jKo:t:ij,Cz:t:i = jKz:t:ijとする。右辺第三項はt期以前の資本ストックが 寿命を迎えて排出される廃棄物に伴う廃棄物処理活動量を表す。最後に右辺第四項は最終需要に 伴う生産活動及び廃棄物処理活動を表す。t期の廃棄物排出について式(3.9)を解くと、以下のよう
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Fig. 3.1: 時間差をもって発生する廃棄物
に示される。ただしここでは技術および資本蓄積比率は時間に対して一定と仮定する5)。
Wo:t=Won:t+Wok:t (3.10)
=βtXˆt−Bz∆ ˆXt+1+TB˜δˆt−1,t∆ ˆXt
+TB˜δˆt−2,t∆ ˆXt−1+TB˜δˆt−3,t∆ ˆXt−2+· · · (3.11) βtはt期の産出に伴って発生する廃棄物の発生比率を示すものとする。
これはFig. 3.1 のように各産業から排出される廃棄物Wo:tは、t期の生産を行うために出力さ
れる廃棄物Won:t と寿命を迎えて排出される資本ストック Wok:tの和であらわしたものである。
産業部門iおよび廃棄物処理活動jの単位あたりの環境負荷因子kの排出係数をeo ={eo:ik},ez = {ez:ik}とし、最終需要からの環境負荷排出量をEf:tとすると式(3.9)をもとに環境負荷排出量Etは 式3.12のように示される。
Et=
eo ez Xt Zt
+Ef:t (3.12)
5)本来は技術や資本蓄積比率は一定ではなく、時点に対して異なるものを想定すべきであるが、ここでは単純化のた めにこのように仮定をおくものとする。