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Vaudelin (1713, 1715)

ドキュメント内 of the 18 (ページ 132-141)

第五章 コーパスおよび研究方法

5.1.2. Vaudelin (1713, 1715)

本研究では、18世紀初頭におけるリエゾンの実現を調査するために、Gile Vaudelinの以 下の2つの著作を用いる。

a. Nouvelle manière d’écrire comme on parle en France, 1713, Paris : Chez La Veuve de Jean Cot et Jean-Baptiste Lamesle, Slatkine Reprints, 33p. (以下、NMという略称を使用する)

107 この綴り字は、[ε]を表す場合についても併記されている。例えば、droit, adroit, étroit, froid はそれぞれ、drait, adrait, étrait, fraitと発音するようにという指示がある。Milleran (1694 : 1:

138-139)を参照。

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b. Instructions crétiennes, mises en ortografe naturelle, pour faciliter au peuple la lecture de la Sience du salut, 1715, Paris : Chez Jean-Baptiste Lamesle, Slatkine Reprints, 247p. (以下、

NMという略称を使用する)

この2つの書、Nouvelle manière d’écrire comme on parle en France (以下、NM)は1713年に、

Instructions crétiennes, mises en ortografe naturelle, pour faciliter au peuple la lecture de la Sience

du salut (以下、IC)は 1715 年にそれぞれパリで出版された。Cohen (1946 : vii)によれば、

Vaudelinは改革派オーギュスタン派に属する知識人であった。一方で、Vaudelinの出生年お

よび出生地はこれといって明らかではない。Martinet (1969 : 167)が「Vaudelinは自分のこと ばではないものを観察し、記述することができた (« [...] qu’il saurait observer et décrire un

autre parler que le sien. ») 」と述べているように、Vaudelinの記述したフランス語は当時の規

範から大変かけ離れたものではないと考えられる。Vaudelinは1692年に既に音声表記法を アカデミー・フランセーズに提出していたが、実際に 2 つの著作が出版されたのは、それ ぞれ1713年、1715年である。

5.1.2.1. Vaudelinが記述したフランス語

Vaudelin の目的は、「フランスにおいて話されているようにフランス語を書くための新た

な方法 (NOUVELLE MANIERE D’ECRIRE COMME ON PARLE EN FRANCE)」を考察するこ とであったといえる108。Cohen (1946 : 3) によれば、ルイ14世の時代のことばの記憶を後世 に伝えるために、1712 年の発音を不滅にし、言語の相対的均一化と定着化へたどり着くこ

108 川口(2010 : 121)を参照

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とを Vaudelin は目標に掲げていたようである109。そして、記述対象となるフランス語は、

宮廷やサロンで使用される良き慣用である、とも述べている。例えば、Vaudelinは1713年 の著作で以下のように述べている。

« La prononciation des conversations honnestes et familières est sans contredit la plus naturelle, la plus agreable, la plus usitée à la Cour, & la seule prononciation du beau Sexe ; ainsi elle est par tout la plus estimable ; ainsi en Parlant & en Ecrivant, le meilleur est d’imiter & de peindre la Pononciation de ceux qui parlent naturellement bien notre Langue Françoise. L’Empereur Auguste Ecrivoit comme il Prononçoit ; c’est à dire du mieux qu’il estoit alors possible. C’est aussi l’Orthographe ordinaire des Princes & des Dames ».

(NM, p.28-30)

「率直かつ親しい間柄での会話における発音は、意義の余地なく、最も自 然なもの、最も気持ちの良いもの、宮廷で最も用いられるもの、そして女 性の唯一の発音である。また、そのような発音は最も立派なものである。

よって、話し、書くために最良の方法は、私たちのフランス語を美しく自 然に話す人々の発音を模倣し、記述することである。アウグストゥス皇帝 は話すように書いていた。つまり、そのようなことは過去に可能であった のである。そしてそれは王子や貴婦人達の普通の綴り字である。」

Cohen (1946 : 4)は、記述された慣用に変異を含ませることをVaudelinが考慮に入れていた

と考察している。例えば、Vaudelinは以下のように述べている。

« On a taché de bien peindre la Prononciation qui est la plus usitée dans les conversations des gens de qualité qui parlent naturellement bien la Langue Françoise. Parce que la Prononciation ou le changement ou la supression de certaines Letrtes dedans ou la fin des Mots est arbitraire, pour contenter les diferens gouts, on a marqué tantost l’une & tantost l’autre de ces variations. »

(IC, p.10)

「フランス語を上手く自然に話す優れた人々の会話において最も用いら れる発音を描くことに努めた。つまり、発音、変化、語中もしくは語末で の文字の消去は任意によるものである。そして、それは様々な趣向を満足 させるためであり、それらの変異の中から、ある時はその一つを、またあ

109 Cohen (1946 : 3) を参照 (« Il voulait « éterniser la véritable prononciation » de 1712, en transmettant à la postérité l’image des paroles du siècle de Louis le Grand ; il pensait ainsi parvenir à une relative uniformisation et une quasi-fixation de la langue. »)

134 る時は他のものを記した。」

5.1.2.3. 発音記号

この発音の表記法については以下の3つの原則がある(Vaudelin, NM, p.7)。

1. フランス語は本質的に異なっている29の単音で構成される。

2. 個々の単音は、常に固有かつ単独の文字によって表されなければならない。

3. 旧来のアルファベットにおいて良いものは保持されるほうが合理的である。(...)110

図 5-3:Vaudelin (1713)の新アルファベット (NM, p.4)

まず、上段は13 の母音を表し、中央と下段は 16個の子音を表す。以上の表記は旧来のア ルファベットを改良して新しい8つの文字が作られている(an /ɑ̃/, ai /ɛ/, in /ɛ̃/, e /ə/, on /ɔ̃/ eu

/ø/, un /œ̃/, ou /u/)。Vaudelin自身は2つの母音が1つの音節の中で統合して発音するものを

二重母音と呼ぶ。それは例えば、Di-eu、lui、bi-inなどであるが、これらは現代フランス語 でいう半母音に当たるものであるが、Vaudelinは二重母音と呼んでいる。

次に、綴り字と発音記号の関係について簡略に説明する。例えば、鼻母音[ɑ̃]は、綴り字 an.と表記されている。

図 5-4:母音記号 [ɑ̃]

110 ここでは、川口 (2010 : 121)による和訳を引用する。

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[ɑ̃]という音価を持つこの母音に対して、大文字と小文字それぞれの発音記号が与えられ ている。[ɑ̃]の小文字の発音記号は a のヒゲの部分が長く下に垂れ下がり、大文字の発音記 号ではAの横棒の真ん中に下に垂れ下がる縦線がついていることが特徴的である。

5.1.2.4. Vaudelinによるリエゾンについての記述

川口(2010 : 122)はVaudelinによるリエゾンについての記述について以下のように述べて いる。

Vaudelinによると、母音字は「意味の文字 (lettres de signification)」であり、

語にとって書くことができないもので、母音字を1つでも取り去ると語の意 味は分からなくなる。これに対して、語末の子音字は「発音の文字lettre de

prononciation」であり、単語の意味に役立つことはなく、2 つの母音が接触

することを回避し発音を和らげるために加えられる。[…] 前の語の最後に くる母音と次に来る語の最初の母音が衝突しないように、n, l, t, z, c…などの 子音を発音する。子音と休止の前については言及していないため、このくだ りがフランス語の連声現象全体を説明しているとはいえない。しかし語末子 音が発音され、子音が後続の母音と音節を形成する、すなわちリエゾンが起 きていることは、この説明から明らかである。

(川口, 2010 : 122)

子音の発音に関して「2つの母音が接触することを回避し発音を和らげる」とVaudelin自身 が考察していることは大変興味深い。つまり、彼にとってリエゾンは母音接触 (hiatus)を避 けることが重要であり、MOT1 の語末において安定的に発音される子音があるならば、

MOT1のリエゾン子音が MOT2の母音の前で発音されなくてもよいと解釈できるからであ る。

興味深い特徴の一つとして、Kawaguchi (2011)は間違ったリエゾンと思われる発音を指摘 している。以下にその例を挙げる。

un comairs de priair, ce nou leuz adraison, IC, p.92.

[œ̃ komɛrs də pri(/j)ɛr, kə nu lœz adresɔ̃]

= un commerce de prière, que nous leur adressons,

以上の例で注目すべき点は、人称代名詞leurと動詞adressonsの間に綴り字のsが存在しな いにも関わらず、[z]の音が発音されていることである。これについてKawaguchi (2011)は2 つの可能性を与えている。第一の可能性とは、[z]が複数を表す形態的マーカーだというも のである。第二の可能性は、母音にrzが挟まれて発音された場合に、置換が起こる現象

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である。つまり、cousincourin、MarieMasieと発音される現象である。Thurot (1883 : 2 :

271)によれば、Erasme、Tory、 Palsgrave、Sylviusら16世紀の文法家が、rとzの交替につ

いての記述を残ししている111。一方で、Thurot (1883 : 2 : 273)はこの発音は1620年頃には既 に廃れたものになっていたことについても指摘している112。少し後の時代になると、Chiflet

(1659 : 207)がOn z’a dit, On z’asseure.のように人称代名詞と動詞の間に[z]を挿入する発音を

指摘している。さらに、Hindret (1687 : 234)もまた 1687年に人称代名詞leurleuzと[z]を 伴って発音を指摘し、批判している113。このChiflet (1659)とHindret (1687)の証言から考え られることは以下に述べることである。第一段階として 16 世紀の cousin~courin や

Marie~Masieに見られる、2つの母音の間におけるrzの交替は、人称代名詞leurにも影

響を及ぼし、母音の前で[z]が発音されるにいたる、第二段階として、一方でrzの交替は おそらく1620年頃には古風なものになる、それに対して人称代名詞leurrが[z]で発音さ れることから、おそらくChifletやHindretの時代の頃には複数性を示す形態的マーカーとし ての役割を担い始めていたとも考えられる。

5.1.2.5. Vaudelinが記述したフランス語における音韻体系

Vaudelinによる新アルファベットから推測できる、Vaudelinが記述したフランス語の音素

は以下に挙げる表のようなものである。

母音 口母音 /i, e, ɛ, a, ɔ, u, y, œ, ə/

鼻母音 /ɑ̃, ɛ̃, œ̃, ɔ̃/

子音 破裂音 /p, b, t, d, k, g/

摩擦音 /f, v, s, z, ʃ,ʒ/

鼻音 /m, n/

流音 /l/

/r/

表 5-3:Vaudelinの記述したフランス語の音素目録

111 Kawaguchi (2011)は脚注でAnthony Lodgeとの個人的なやり取りについて言及している。

Lodgeによれば、話し言葉においてrとzの交替が観察されたのは主に16世紀であり、18

世紀までこの特徴が続いたとは考えられないようである。

112 Thurot (1883)はGodard (1620)の説明を引用している。Godard (1620 : 175)は、「パリの住 人は昔、rの代わりにsを、sの代わりにrを発音していた(« Nos Parisiens mettoient autrefois (mais cela ne se fait plus ou c’êt fort rarement et seulmant parmi le menu peuple) une s au lieu d’une r et une r au lieu d’une s »)」という証言を残している。

113 Hindret (1687 : 234) は以下のように述べている。 « [...] Et encore moins, on leur zadonné ordre de &c. Comme prononcent quantité de gens à Paris qui sans consulter ni la raison ni l’usage estropient toute la prononciation de notre Langue. S’il échappe à quelques-uns de prononcer de cette maniere par une mauvaise habitude qu’ils ont retenuë de jeunesse, ils doivent du moins prendre garde à prononcer regulierement l’r de ce pronom personnel, quand ils lisent ou quand ils parlent en public, car assurément c’est faute de ne pas la prononcer. [...] »

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Vaudelinのフランス語と現代フランス語を比較した場合に、母音の数と子音の数には相違

がある。以下では母音と子音の音素目録についてさらに細かく説明する。

5.1.2.5.1. 母音

母音に関しては、現代フランス語の母音音素体系の一部である/ø/, /o/, /ɑ/が含まれていな い。この時代にはおそらく、現代フランス語の/ø/, /o/, /ɑ/に相当するものは長母音/œ:/, /ɔ:/, /a:/

であり、音価の違いではなく長さの違いによって対立していたことがその理由である。

Vaudelinによる長母音についての記述は次に述べるようなものがある。

« Qu’en lisant, il faut élever & prolonger la voyelle un peu plus que les autres voyelles qui n’ont point d’accent [...]. »

(NM. p. 13)

「読むときに、アクセントを持っていない他の母音よりも、その母音を 少し高くかつ長くすること、[...]。」114

母音の長さについては、Vaudelinは記号の上に横線を入れることで、長母音と短母音とを区 別している。

語末における/i, e, ɛ, a, ɔ, u, y, œ/と/i:, e:, ɛ:, a:, ɔ:, u:, y:, œ:/の長短の対立は、主に男性形と女 性形の区別、もしくは単数形と複数形の区別に用いられていた。ただし、これらの母音に 関しての長母音と短母音の対立はVaudellin によって体系的に記述されているわけではない。

例えば、語motの複数形motsには2つの発音が与えられている。長母音を伴った « le mô ([le mo:]) » (IC. p. 146)と短母音を伴った « le mo ([le mo]) » ( IC. p. 148)である。フランス語の母音 体系の通時的変化において、最も長く保持された長母音音素/ε:/は115、Vaudelin のテクスト においても観察される。例えば、語mettre (maitr [mεtr], IC, p.40)と語maître (mâitr [mε:tr] , IC, p.62)のミニマルペアが観察される。

次に、鼻母音については、現代フランス語では/œ̃/が消失しているが、Vaudelin の時代の フランス語では4つの鼻母音/ɑ̃, ɛ̃, œ̃, ɔ̃/が保持されている。

無音の e ([ə])については、単音節以外の語末の[ə]を Vaudelin は表記することはない。

Martinet (1969 : 158)は「Vaudelinは概して[ə]が弁別価値を持たないことを自覚している」と

述べている。語中で[ə]の省略がある一方で、単音節語の語末の[ə]は常に発音されるように 記述されている。

以上の考察から Vaudelin の記述したフランス語の母音体系は以下のようなものであると

114 川口 (2010 : 123)の訳を引用する。

115 近藤 (2013)による19世紀末のフランス語母音体系の調査において、長母音/ε:/の保持が 観察されている。

ドキュメント内 of the 18 (ページ 132-141)