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Vaudelin (1713, 1715)に関する先行研究

ドキュメント内 of the 18 (ページ 145-173)

第五章 コーパスおよび研究方法

5.3. 二つのコーパスを比較する意義

5.3.1.2. Vaudelin (1713, 1715)に関する先行研究

Vaudelin (1713, 1715)の主な先行研究は複数ある。まず、最初に20世紀に行われた三つ

の研究について説明する。

- Cohen, M. (1946). Le français en 1700 d’après le témoignage de Gile Vaudelin, Paris : Librairie ancienne Honoré Champion.

- Martinet, A. (1969). Le français sans fard. Paris : Presses universitaires de France.

- Krier, F. (1993). Gile Vaudelin und die französische Orthographie, Schmidt-Radefeldt, Andreas Harder (hrsg.), Sprachwandel und Sprachgeschichte, Festschrift für Helmut Lüdtke, Tübingen : Narr, p.117-122.

川口 (2010 : 121)はGile Vaudelinの二つの著作を言語学的に分析した最も詳細な研究とし てCohen (1946)を挙げている。Cohen (1946)によれば、Ambroise-Firmin Didot (« Observations sur l’orthographe ou orthografie française, 2ème édition, 1868)、F.Brunot (« Histoire de la langue

française 10me VI, p.948 »)、そして19世紀末のフランス語学者Thurot (1883)は、その著作の

なかで、Vaudelinの2つの著作について触れているが、丹念に読んだというわけではないよ

うである。よって、Cohen (1946)の研究がVaudelin文献についての最初の研究書であると考 えられる。ただし、「60年前という時代的制約もあり、Vaudelinの著作をデータベース化し、

徹底的な分析を行ったというわけではない。どちらかといえば、規則的な部分よりも、綴 り字の特異な部分、言語学的に注目すべき点に力点が置かれているといえる」と川口 (2010) は指摘している。

Vaudelinの著作は、「17世紀・18世紀フランス語の音声研究にとって、欠くことができな

い書である」と川口 (2010 : 121)が述べているように、Martinet (1969)は当時のフランス語の 音声体系をVaudelinの著作を基に提示している。

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また、21世紀以降の研究については、以下の2つの論文が挙げられる。

- 川口裕司 (2010). 「18世紀フランス語におけるリエゾン Gile Vaudelin文献の予備的調 査から 」, 『コーパスに基づく言語学教育研究報告5』, 東京外国語大学大学院総合国 際学研究科, p.119-153.

- Kawaguchi, Y. (2011). French Liaison in the 18th Century -Analysis of Gile Vaudelin’s textes -, Corpus-based Analysis in Diachronic Linguistics, Y. Kawaguchi, M. Minegishi, W. Viereck (eds.), John Benjamins, pp.133-151.

これら 2 つの論文は1 人の研究者によって、ほとんど同一の内容がそれぞれ日本語および 英語で書かれたものである。川口 (2010)および Kawaguchi (2011)の目的は Vaudelin (1713,

1715)のコーパスで用いられている綴り字を分析することによって、18世紀初頭のフランス

語におけるリエゾンの現象を記述し、その特徴を共時的および通時的に位置づけることで ある(川口, 2010 : 119) 。川口 (2010)およびKawaguchi (2011)の研究はページ数が限定される 論文という形で発表されているが、限られた語のリエゾンの実現の様子については把握で きる。ただし、Vaudelinの文献における語末子音字が、母音、子音および休止の前でどのよ うに発音されるかについては調査されず、またリエゾンについても統語的要因などに対す る分析が行われているわけではない。

5.3.2. 本研究の位置付けとその狙い

以上で挙げた先行文献と本研究の違いは、まず本研究が Milleranおよび Vaudelin のフラ ンス語におけるリエゾンの実現がどのように違うのかということに重点を置き、これらの コーパスの比較を行うことである。この時代の実際の言語使用におけるリエゾンの実現を 観察することは、大変難しく、本研究で用いるコーパスにおいては綴り字および発音記号 を分析することによって、そして文法書の中で見つけることができるリエゾンに関する説 明書きを参考することによってしか、事実に近づくことはできない。しかし、これらの文 献を分析することで、当時のフランス語においてリエゾンがどのように実現されていたの か、また二つのコーパスに類似する点および異なる点を明らかにすることで、見えてくる ものがあるはずである。特に、二つのコーパスにおいて異なる特徴があるならば、なぜこ の二つのコーパスにおいてリエゾンの実現が異なるのか、その理由を考えることも非常に 重要なことである。

Milleran (1694)の文献は17世紀末に、そしてVaudelin (1713, 1715)の文献は18世紀初頭に

出版されているため、通時的変化が観察されることを期待できるとも考えられる。ただし、

20 年という短期間で大きな通時的変化を観察できるかどうかは定かではない。また、

Vaudelin の発音記号は既に17世紀末にアカデミー・フランセーズに提出されており117、実

117 Vaudelin (1713, NM, p.30)は以下のように述べている。 « En 1692, ce sistême (moins touché) fut envoyé à l’Académie Françoise, qui deux ans après donna des marques publiques de l’estime

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際にはこれら 2 人の著者は同時代に生きた人々であるとする方が適格であると考える118。 よって本研究ではむしろ、これらの 2 つの文献に用いられているスタイルが決定的に異な るという仮説を設定する。スタイルの違いによる差異というのは現代フランス語において は、主観的に語られ、客観的にも証明されている。まず主観的な意見の例として、Martinon (1913 : 356)が「会話においてよりも読む際にリエゾンをより実現するのは明らかである。な ぜなら読む時には、言語の正しさを追求するからである。一方で、話す際には、より少な い努力で理解し合うことしか求められない」と述べている。また、客観的には、特にMallet (2008 : 189)の研究において、会話とテクストの朗読というスタイルの間でリエゾンの実現率 に大きな違いが観察されている。

それでは、MilleranとVaudelinの文献の間にはどのようなスタイルの違いが観察されるの だろうか。これら2つの文献の目的には、「良き発音」を教えることであるという共通点が あるが、本の趣旨は異なる。まずMilleranの書は文法書であり、発音に対する説明書きが多 い。それに対して、Vaudelinの書は特にICの方では祈りと教理問答が発音記号で記してあ る。この違いからMilleran (1694)のフランス語はより文語的であり、そしてVaudelin (1713, 1715)のフランス語はより口語的であるということが考えられる。

まず、Milleran (1694)の文献がより文語的であると考える理由は、そもそもMilleranの書 は文法書であり、主にアルファベットの発音を説明する文章がほとんどである。よって、

疑問文のようなものは例文としては含まれるものの、会話文のようなものは全く含まれる ことはない。それに対して、Vaudelin (1713, 1715)の文献がより口語的であると解釈する理由 として、例えば Vaudelin のテクストには対話と捉えることができる疑問文とそれに対する 返答文とが交互に続くことも多い。例えば、「子供のための教理問答 (Catéchisme pour les jeunes enfants, p.31-35)」というセクションでは、以下に挙げるような対話が含まれる。

(...) » (1692年にこの方法はアカデミー・フランセーズに送られ、2年後に評価の公印を与え

られた。)

118 残念ながら、Vaudelinの出自および生年を示すような文献は見つかっていない。

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アルファベット フランス語綴り字 日本語訳

C’âi-se* ce* Di-eu? Qu’est-ce que Dieu ? 神とは何か?

S’âi le* Createur du Siail e de*

la Tâir,e le* souvrin Sainie*-eur de* tout hôz.

C’est le Créateur du Ciel et de la Terre, et le souverain Seigneur de toute chose.

神は天と地の創造者であり.

全てのものの至上の主であ る。

I at-i pluzieur Di-eu? Y a-t-il plusieurs Dieux ? 神は複数あるのか?

Non, i n’i ann a c’un, e in’i an peut avo-air pluzieur.

Non, il n’y en a qu’un, et il n’y en peut avoir plusieurs.

いいえ、一人だけであり、複 数存在することはない。

Ou âi Di-eu? Où est Dieu ? 神はどこにいるのか?

Il âit o Siail e an la Tâir, e an tou li-eu.

Il est au Ciel et en la Terre, et en tous lieux.

天と地にあり、そしてどこに でもいる。

Di-eu at-i toujour ete? Dieu a-t-il toujours été ? 神は常にいたのか?

Oui, i n’a poin u de*

comansman, e i n’ora jamâi de*

fi.

Oui, il n’a point eu de commencement, et il n’aura jamais de fils.

はい、始まりはなく、息子も ない。

Pourco-ai Di-eu nouz at-i cree? Pourquoi Dieu nous a-t-il créé ? なぜ神は我々を創造したの か?

Pour le* conâitr, l’aime, le*

sairvi, e par se* mo-aii-in obtni la vî etairnail.

Pour le connaître, l’aimer, le servir, et par ce moyen obtenir la vie eternelle.

知るため、愛するため、仕え るため、そして永遠の命を得 るために。

5-8 : Vaudelinコーパスにおける対話の例

また興味深いのは、MilleranとVaudelinの文献に表れる疑問符の数が明らかに違うことであ る。

Milleran Vaudelin

疑問符の数 126個 381個

コーパスの語数 66663語 20889語

表 5-9 : MilleranコーパスおよびVaudelinコーパスにおける疑問符の数の比較

以上の表から明らかなのは、VaudelinコーパスはMilleranコーパスの約3分の1の語数だが、

約3倍の疑問符の数を含むということである。

ところで、Vaudelinが記述したフランス語がより口語的であるとしても、そのスタイルは ぞんざいな話し方、俗的な民衆の話し方というわけではないだろう。例えば、Cohen (1946 :

4)はVaudelinのフランス語について次のような考察を行っている。

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« Vaudelin n’enseigne rien sur une prononciation solennelle, du moins en prose. Il parle seulement du français de la « conversation » des gens cultivés. Son texte est en général écrit sur ce ton non solennel ; les catéchismes en particulier fournissent de vrais fragments de dialogues. Mais il semble probable qu’il faut tenir compte de certaines différences de registre ; les Réflexions de la Nouvelle manière ..., et certaines prières fondamentales portent sans doute la trace d’une allure plus soutenue. »

Cohen (1946 : 4)

「Vaudelinは厳粛な発音について、少なくとも散文において、何か教示を与え ているわけではない。教養ある人々の会話で話されるフランス語だけに限定 して語っているのである。彼のテクストには、概して厳粛ではない語調につ いて書かれている。特に教理問答というのは、会話に存在する真の断片を提 供している。しかし、レジスターの違い、つまり新しい方法についての考察 について考慮しなければならないのは確実である。そして、基本的な祈りの いくつかはおそらく、最も丁寧な話し方についての輪郭を提示している。」

それに対して、Kawaguchi (2011)は「Vaudelinの記述はそのスタイルにおいて日常的なも のからはかけ離れているようにみえる。彼のテクストは発音されるために書かれたのでは なく、声をだして、もしくは静かに読まれるために書かれたと考えられる」と異なる見解 を示している。確かに、NM では発音記号やフランス語の発音について、IC ではキリスト 教の祈りや教理問答といった内容を記述しているため、Vaudelin自身の言葉を借りれば「親 しい間で用いられる」かつ「率直」な会話が記述されているわけではない。むしろ、この ように判断するべきではないだろうか。Vaudelinによって既述されたフランス語は丁寧なス タイルではあるが、必ずしも演説や韻文が読まれるときに期待されるような書き言葉的な スタイルであるわけではない。

以上のことから、Milleranの文献は演説や韻文が読まれる際に期待される書き言葉的なス タイルが観察され、Vaudelinではそこまで書き言葉的ではないが、より口語的で丁寧なスタ イルが観察されることが期待できるだろう。そして、MilleranとVaudelinのコーパスにおけ るリエゾンの実現の仕方を比較することで、2つのコーパスにおけるスタイルの違い、そし て2つのスタイルにおけるリエゾンの実現の違いを観察することも本研究の目的となる。

5.4. 分析方法

本研究では、分析対象の文献を電子化した後に、研究対象であるリエゾンの実現を観察 するためのメタデータの作成を行う。このメタデータはExcelを使用して作成する。

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