第五章 コーパスおよび研究方法
5.3. 二つのコーパスを比較する意義
6.1.4. 代名詞
6.1.4.6. 代名詞 eux, les, un(e)s, leur
175 6.1.4.5. 指示代名詞cellesおよびceux
指示代名詞cellesについては、子音の前において語末子音字-sは発音されないが、母音の 前では発音されることが観察された。
子音の前 母音の前 休止の前 celles [sɛlz]
celles [sɛl]
- 12
1 3
- (+1) 表6-39 : 指示代名詞celles
ただし、休止の前で語末子音字-sが発音されると考えられる表示法で表れたが、これはエラ ーであることが推測される。
指示代名詞ceuxについては、語末子音字-xは子音の前では発音されないが、母音の前で は発音される。
子音の前 母音の前 休止の前 ceux [søz]
ceux [sø]
- 59
11 2
- - 表6-40 : 指示代名詞ceux
母音の前において語末子音字が発音される場合には常に « ceux où … »という連辞において であった。以下に例を挙げる。
Il en est aussi de même de ceux où l’on n’ajoûte une s. que pour en faire mieux aussi la diference. (2 : 33-34)
parce que j’en ai aussi bien fait un recueil entier, que de ceux où elle ne se prononce point ; (2 : 105)
休止の前における発音は不明であるが、おそらく子音の前と同様に発音されないと考えら れる。
176
子音の前 母音の前 休止の前 eux [øz]
eux [ø]
- 3
- -
- 11 表6-41 : 代名詞eux
また、Milleran (1694 : 2 : 64)はeuxの発音とoeufs (oeufの複数形)と都市名Euの発音は同じ であると認めていることが以下の引用からも明白である。
Oeufs à la Huguenote, [...].
Eux, Pronom personel s’exprime de la même maniere, et aussi.
Eu, ville et comté de Normandie, [...].
(2 : 64)
「ユグノー風卵、
代名詞Euxは同様に発音される。
また、ノルマンディーの都市、および郡名Euも同様である。」
人称代名詞lesについては、子音および休止の前において語末子音字は発音されない122。母 音の前において語末子音字は発音されることが観察された。
子音の前 母音の前 休止の前 les [lɛz]
les [lɛ]
- 38 (+1)
20 2
- 1 表6-42 : 代名詞les
代名詞un(e)sの語末子音字-sは子音の前では発音されないが、母音の前では発音される。
また休止の前における例は本コーパスにおいて観察されなかった。
子音の前 母音の前 休止の前 un(e)s [œ̃z], [ynz]
un(e)s [œ̃], [yn]
- 18
5 1
- - 表6-43 : 代名詞un(e)s
終わりに、leurについては子音、母音、休止の前で常に発音される。
122エラーと思われるものが1例観察された。エラーであると判断できる理由は、冠詞lesの 観察からも語末子音字が子音の前で発音されることはないためである。
177
子音の前 母音の前 休止の前
leur [lœ:r] 15 5 1
表6-44 : 代名詞leur
6.1.5. 前置詞
6.1.5.1. 語末子音字 -r ([r])を持つ前置詞
語末子音字-rが含まれる前置詞にはpar, pour, surである。これらの前置詞は語末が常に 立体表記であった。
子音の前 母音の前 休止の前
par [pɑ:r] 167 99 5
pour [pu:r] 239 42 2
sur [sy:r] 115 5 1
表6-45 : 語末子音字 –r [r]を持つ前置詞
よって、前置詞par, pour, surは常に語末で語末子音字-r [r]が発音される。
6.1.5.2. 語末子音字 -f ([f])を持つ前置詞
語末子音字-fが含まれる前置詞はsaufのみである。
子音の前 母音の前 休止の前
sauf [so:f] 1 - -
表6-46 : 語末子音字 -f [f]を持つ前置詞sauf
saufは1例のみ子音の前で観察され、語末子音字-fは発音される。母音で始まる語、休止の 前の例は本コーパスには含まれないが、おそらくこの前置詞では語末子音字fが安定的に[f]
と発音されることが期待される。
6.1.5.3. 語末子音字 -c ([k])を持つ前置詞
語末子音字-c [k]の前置詞はavecのみである。
子音の前 母音の前 休止の前 avec [avɛk]
avec [avɛ]
3 95
60 3
4 - 表6-47 : 語末子音字-c [k]を持つ前置詞sauf
178
この前置詞は、子音の前で語末子音字-c が脱落し、母音の前および休止の前では語末子 音字-c が発音される傾向が観察された。子音の前で語末子音字-c が発音される例が合計 3 例観察され.る。以下に例を挙げる。
en faveur des Alemans qui la confondent tellement avec g. (2 :50) IL faut remarquer qu’on le pouroit encore écrire avec Que, (2 :24) elle obligeoit d’y faire une silabe de trop avec l’e. (1 :138)
Milleran (1694 : 2 : 23-24) は前置詞avecについて以下のような説明を与えている。
« LE C. de la preposition avec, se prononce com̃e K. ou com̃e Qu, devant un mot qui com̃ence par une voyelle, et jamais devant la consone, quoi que plusieurs l’y prononcent aussi [...]
Dites donc ave K-elle.
Qu’-elle.
Mais avé lui &c. »
(2 : 23-24)
「前置詞avecのCは、母音で始まる語の前において、KもしくはQuのよう に発音される。そして、多くの人が発音するにもかかわらず、子音の前では 発音されない。aveK-elle. aveQu’-elle ([avεkεlə])のように発音しなさい。しか し、(子音の前では)avé lui ([avεlɥi])と発音しなさい。」
Milleran の説明に従えば、子音の前で発音されるこの 3 例はエラーとなるだろう。ただし、
Thurot (1883 : 2 : 127-128)によると、語末子音字-cが子音の前で発音されるか否かについて
は、文法家によって意見が異なる。子音の前において常に語末子音字-c を発音するのが正 しいとするもの123、子音の前における発音を禁止するもの124、子音の前における発音の揺 れに対してある程度寛容な意見がある125。
一方、休止の前に位置するavecは4例ある。そのうちの2例は引用形であった。
Avec, Cum. (1 : 85)
LE C. de la preposition avec, se prononce com̃e K. ou com̃e Qu, (2 : 23)
123 Thurotはこの意見を持つ文法家としてSaint-liens (1580 : 48), Delamothe (1592 : 67), Oudin (1633), Vaugelas (1647), Chiflet (1659), D’Aisy (1674), Th. Corneille (1687 : 428), Hindret (1687), De la Touche (1696), De Wailly (1763), Domergue (1805)を挙げている。
124 Thurotはこの意見を持つ文法家としてPillot (1550: 26), Lartigaut (1669), Villecompte (1751 : 460), Antonini (1753)を挙げている。
125 Duez (1639 : 49)がその一例である。
179
また残りの2例は、avecの後にコンマとqu(e)が入るものである、またこれらの例文はいず れも特定の綴り字の使用(queおよびqu)を勧める説明であった。
De plus vous remarquerez que Republique étant du feminin genre, ne s’écrit avec, Que, (2 : 24) savoir, choquer & troquer, s’écrivent avec, qu. (2 : 97)
以上の例において、もしコンマが入らない場合には « avec Que »と « avec qu. » は [avεkə]
と発音されるのだろうか。その場合に「綴り字 qu(e)が書かれる」という説明は、[avεkə]の 発音では聞き手には大変わかりにくいといえる。コンマを入れることによって « avec Que » と « avec qu. » [avεk k]と発音するというMilleranの配慮であるとも考えられる。
6.1.5.4. 語末子音字 -t ([t])を持つ前置詞
語末子音字に-t [t]を持つ前置詞はdevant, quant, avant, pendantの4つの前置詞が観察され る。まず、devantに関しては、子音および休止の前で語末子音字が発音されることはないが、
母音の前では発音が可能である。
子音の前 母音の前 休止の前 devant [dvɑ̃t]
devant [dvɑ̃]
- 111 (+5)
106 38
- 17
表6-48 : 語末子音字-t [t]を持つ前置詞devant
よって、子音[t]は子音および休止の前で既に脱落した状況にあるといえる。次に、quantは 1例のみ観察されたが、« quant aux »という連辞で1例観察され、語末子音字は発音される。
子音の前 母音の前 休止の前
quant [kɑ̃t] - 1 -
表6-49 : 語末子音字-t [t]を持つ前置詞quant
以下に例を挙げる。
Je dirai pourant quant aux mots où il senble qu’on la pouroit soufrir en quelque façon à cause de leur étimologie, (2 : 105)
終わりに、2つの副詞avant, pendantは、子音の前でのみ観察された。
180
子音の前 母音の前 休止の前
avant [avɑ̃] 3 - -
pendant [pɑ̃dɑ̃] 1 - -
表6-50 : 語末子音字-t [t]を持つ前置詞avant, pendant
母音および休止の前での語末子音字の発音は明らかではないが、おそらく休止の前では[t]
が脱落した形で発音される。devantの発音に類似するのであれば、母音の前において語末子 音字-t [t]が発音されることも予想できる。
6.1.5.5. 語末子音字 -s, -z, -x ([z])を持つ前置詞
語末子音字-s, -z, -x [z]の前置詞は複数観察される。これらの前置詞については、2つのグ ループに分けて説明する。まず、第一のグループは、語末子音字-s, -z, -xが母音の前で発音 されるもの(aux, chez, après, dans, sans)、子音および休止の前では発音されないものである。
第二のグループは本コーパスでは語末子音字-s, -z, -xの発音が、子音、母音および休止の前 で確認されないものである(auprès, depuis, dès, envers, hors, sous, envers)。
まず、第一のグループの語末子音字の発音有無の分布を表にまとめたものを以下に挙げ る。
子音の前 母音の前 休止の前 aux [oz]
aux [o]
- 24 (+4)
27 -
- 4 (+1) chez [ʃɛz]
chez [ʃɛ]
- 1
1 1
- - après [aprɛz]
après [aprɛ]
- 61
20 12
- 9 dans [dɑ̃z]
dans [dɑ̃]
- 599 (+1)
6 10
2 2 sans [sɑ̃z]
sans [sɑ̃]
- 58
31 6
- 1
表6-51 : 語末子音字-s, -z, -x [z]が母音の前で発音される前置詞
第二のグループは本コーパスでは子音[z]の発音が、子音、母音および休止の前で確認さ れなかったものである。
181
子音の前 母音の前 休止の前
auprés, auprez [oprɛ] 2 3 3
hors [ɔ:r] 1 1 -
vers [vɛ:r] - 1 1
depuis [dəpɥi] 11 - 1
dés [dɛ] 11 - 1
envers [ɑ̃vɛ:r] 3 - 2
sous [su] 8 - 2
表6-52 : 語末子音字-s, -z, -x [z]が発音されない前置詞
前置詞auprés (auprez), hors, versは以上の表からも明らかなように、母音の前に位置する場
合でも語末子音字は発音されない。その他の前置詞depuis, dés, envers, sousについては母音 の前に位置する例が本コーパスには含まれないため、母音の前における語末子音字の発音 の有無は定かではない。
6.1.6. 接続詞
本コーパスに含まれる接続詞はcar, or, et, puis, donc, mais, quandの7つの接続詞である。
ただし、これらの6つの接続詞における語末子音字はそれぞれ異なる特徴を持つ。まず、car, orは語末子音字が子音、母音および休止の前で安定的に発音される。
子音の前 母音の前 休止の前
car [ka:r] 11 10 1
or [ɔ:r] 2 1 1
表6-53 : 接続詞car, or
次に、etの語末子音字は全く発音されない。
子音の前 母音の前 休止の前
et [e] 872 (+ 16) 266( +11) 3
表6-54 : 接続詞et
Milleranのコーパスにおいて、子音、母音、休止の前で子音字tがイタリックで表示されな
い例が27例観察されたが、Crevier (1994)も指摘しているようにこれは全体の3パーセント に過ぎずエラーであると考えられる。
次に、puisは子音の前で語末子音字が立体で表示される例は皆無であった。
182
子音の前 母音の前 休止の前
puis [pɥi] 11 - -
表6-55 : 接続詞puis
また、puisが含まれる語puisqueは、« puî que ([pɥikə])»というアクサンシルコンフレックス が付いた綴り字も観察された。母音の前に puis が表れる例が本コーパスにはないため母音 の前における発音は不明である。
終わりに、donc, mais, quandは語末子音字の発音は、後続する要素によって変化する。
子音の前 母音の前 休止の前 donc [dɔ̃k]
donc [dɔ̃]
- 66 (+1)
10 18
- 96 (+1) mais [mɛz]
mais [mɛ]
- 90 (+2)
46 35
- 7 (+5) quand [kɑ̃t]
quand [kɑ̃]
- 21
57 5
- 3 表6-56 : 接続詞donc, mais, quand
まずdoncとmaisについては、例は少数であるが、子音および休止の前でも語末子音字が発 音される例が観察された。donc については子音で始まる語もしくは休止で始まる語の前で 語末子音字が立体で表示される場合が、それぞれ 1,4%と 1,05%である。このため、この立 体表示がエラーである可能性が高いと考えられる。mais に関しては、子音で始まる語の前 で立体で表示された2例は全体の2,1%だが、休止の前では12例中5例で41,6%の確率で立 体で表示される。このことからMilleranの記述したフランス語においてmaisの語末子音字 が休止の前において発音される可能性は否定できない。
6.1.7. 数詞
語末子音字の発音の違いの特徴によって、数詞を 2 つのグループに分類して説明する。
第一のグループは、休止の前で語末子音字が発音されない数詞deux, trois, cinq, six, centを含 むものである。第二のグループは、休止の前で語末子音字が発音される数詞 sept, huit, neuf,
dix, vingtを含むものである。
以下に本コーパスで観察された語末子音字の発音の分布を表にまとめたものを挙げる。