4
0.0E+00 1.0E-04 2.0E-04 3.0E-04 4.0E-04 5.0E-04
3
NH4Cl solid HCl - Vap NH3 - Vap
NH4Cl析出量 気相中HCl濃度
気相中NH3l濃度
気相中量,4析出量
温度 / ℃
気相中3量
図7‐4 気相中のHCl濃度が変化した際のNH4Cl析出量及び析出温度の変化
0.0E+00 1.0E-07 2.0E-07 3.0E-07 4.0E-07 5.0E-07
100 120 140 160 180 200
Temperature / ºC
4
HCl 3.5E-7 mol HCl 2.5E-7 mol HCl 1.5E-7 mol HCl 5.0E-8 mol HCl 3.5E-8 mol HCl 2.5E-8 mol HCl 4.5E-8 mol HCl 1.5E-8 mol HCl 5.0E-9 mol
析出量低下
析出温度 低下 気相中HCl
量低下
4析出量
温度 / ℃
7.2.2 最適水注入方法
第4章で NH4Cl 塩析出による腐食対策として,最適洗浄水注入システム構築のため の解析を実施した.水素化脱硫装置における NH4Cl 塩析出防止のために,気相中の水 分圧を増加させ,相対湿度を100 %以上とすることにより,空冷式熱交換器伝熱管入口 部で気相から凝縮水を生成させ,NH4Cl塩の残存を防止することを実装置において成功
させた8),9).
NH4Cl 塩析出環境において洗浄水を導入しても,フローパターンが波状流(Wavy)
るいは層状流(Stratified)のように伝熱管の上部と下部で気液が分離した状態の場合は,
洗浄水は伝熱管の下部を流れ上部には塩が残存した状態となる.そこで,伝熱管上部 の気相部から凝縮水を生成させるために以下の条件を成立させることが有効であるこ とを見出した.
相対湿度 ≧ 100 %
これを満足させるためには伝熱管表面温度を低下あるいは露点温度を上昇させる必 要がある.空冷式熱交換器内では伝熱管によって内部流体は冷却されるため,伝熱管 のある位置で露点に達しその位置より下流では凝縮水が発生する.すなわち,伝熱管 入口部の最上段に位置する最も温度が高い伝熱管の気相部において,NH4Cl塩が残存す る可能性が高いため,この部位で確実に凝縮水を発生させる必要がある.
7.2.3 NH4Cl塩による腐食評価における相対湿度の概念の導入
第3章で述べたように,固体のNH4Cl塩を用いた80 ℃での炭素鋼による腐食試験で は,相対湿度が20 %を超えると腐食環境となり,60 %で腐食速度のピークを認める結 果を示し,析出した NH4Cl 塩における炭素鋼の腐食に及ぼす相対湿度の影響及び塩の 吸水機構を明らかとした1).これより,API RP 932Bで提唱されているNH4Cl塩は吸湿 性が高く相対湿度が100 %未満でも湿潤状態となることを定量的に裏付けた.
従来は相対湿度が100 %未満では,NH4Cl塩析出環境においても腐食環境にはないと 考えられ,防食設計には考慮されなかったが,本研究により相対湿度が100 %未満でも 腐食環境となることを見出した.80 ℃では相対湿度20 %を超えると腐食環境となるこ とを示したが,臨界相対湿度が温度により変化することを明らかとしたように,吸水 する相対湿度も温度により影響する可能性が高い.したがって,実装置の防食設計に は80 ℃よりも高温での腐食環境も考慮し,腐食領域に入る相対湿度としてはAPI RP 932Bで提唱されている10 %を実装置の防食設計に採用することを提案した.
7.2.4 加熱過程でのNH4Cl塩濃縮防止
このタイプの腐食は,水素化脱硫装置の精留塔入口で油が加熱される熱交換器の伝 熱管において発生するものである.当該流体は,低温低圧分離槽で水と分離された油 であり,本来であれば水が同伴することはないが,設計を超えた処理を行ったり,分
離槽のレベル変動が発生した場合には,油に水が同伴することがある.この水は H2S,
NH3,HClを含んでおり腐食性は高い.油に同伴するこの水は熱交換器伝熱管表面で加 熱されることによって蒸発し NH4Cl が濃縮するためオーステナイト系ステンレス鋼製 の伝熱管においても激しい腐食を引き起こす.
腐食を防止させるためには,油への水の同伴を防止することが必要となる.
7.2.5 耐食材料評価
7.2.1から7.2.4の防食方案で述べたように環境側の防食対策を施すこと が望ましいが,それが不可能な場合には耐食材料の採用も検討する必要がある.第3 章に述べたように,濃厚 NH4Cl溶液における材料の耐食性評価において,炭素鋼の代 替材料としてはAlloy 625やAlloy C-276を選定するのが業界の経験的な対応方法とし て知られてきたが,本研究により孔食指数(PREN:Pitting Resistance Equivalent Number)
が40以上であれば,十分耐食性を有することを明らかとした10),11).このため,本環境 では二相ステンレス鋼(DP-3W,Alloy 2507),254SMO,改良型Alloy 825でも採用可 能であることを見出した.
7.2.6 NH4Cl腐食環境での新防食設計方案の提案
7.2.1から7.2.5で述べたNH4Cl腐食における防食モデルを防食設計に反映 させるために,環境側からと材料側からのアプローチに分けて以下にまとめた.
(1)環境側
ア.NH4Cl塩析出防止対策
(ア)洗浄水注入箇所はNH4Cl塩析出点よりも上流に設置する.
(イ)気相部でのNH4Cl塩の残存を防止するためには,伝熱管入口部で相対湿度 ≧ 100 %となるようにしに,気相部にて凝縮水が生成する条件とする.
(ウ)露点を上昇させるためには,洗浄水注入ノズルをスプレーノズルとし,スプ レーの径を小さくし,スプレーの角度を小さくすることが有効である.
イ.NH4Cl塩析出環境での相対湿度の影響
(ア)NH4Cl塩析出領域となる部位では,相対湿度が10 %未満となるようにする.
(イ)NH4Cl塩析出領域で相対湿度が10 %以上となる箇所には,洗浄水を注入し塩 の希釈対策を施す.
ウ.NH4Cl濃縮防止対策
(ア)低温低圧分離層で確実に油水分離を行うために,滞留時間を確保する.特に 能力増強改造時に流体の流量のみが増加し,機器の改造が行われない場合は 滞留時間が不足し,油への水の同伴が懸念されるため,滞留時間については 十分な配慮が必要となる.
(イ)流量の急激な変動などが発生する場合,低温低圧分離層内でのレベル変動が
発生し,制御不能となる可能性がある.レベルは常時監視,制御できるシス テムとし,変動時には早急に対応できるシステムの導入が必要となる.
(2)材料側
NH4Clによる局所的な腐食は,析出したNH4Cl塩が湿潤状態となることおよび加 熱によりNH4Clが濃縮し,濃厚NH4Cl溶液環境が形成されることにより発生する.
これを防止するための方策を(1)で述べた.ここでは,(1)での対策が不可能であり,
耐食材料による対応を余儀なくされた場合に,候補となる材質についてまとめた.
第3章の表3‐210)に沸騰条件での20 wt%,40 wt%NH4Cl水溶液での各種材料での 浸漬試験の結果を示す.これより,炭素鋼で25 mm/y,60 mm/yといった激しい腐 食環境であっても,PRENが40以上の合金であれば孔食も全面腐食も認められなか った.従って,腐食環境が苛酷となる濃厚NH4Cl溶液での材質対応としては,必ず しもAlloy 625やAlloy C276までグレードアップする必要は無く,二相ステンレス 鋼(DP-3W,Alloy 2507),254SMO,改良型Alloy 825などの材料も選定可能である ことを見出した.
7.3 NH4HS腐食における防食方案
7.3.1 空冷式熱交換器伝熱管での局所濃縮
(1)実装置の腐食状況
気相中にH2S,NH3,H2Oが存在する環境において水が凝縮しNH4HS水溶液が生成 する場合,空冷式熱交換器伝熱管では,伝熱管表面の著しい冷却により気相凝縮部で 高濃度のNH4HS水溶液が形成されることを第6章で明らかにした.ここでは,局所的 なNH4HS濃縮を防止する方案についてまとめた.
腐食が発生したのは,廃水ストリッパー塔頂系の空冷式熱交換器伝熱管である.第 6章と同じ事例である.空冷式熱交換器のヘッダータイプは1パス,4段,伝熱管材質
はSUS316L である.第6章の図6‐16)に示すように,当該熱交換器では最下段伝熱管
(4段目伝熱管)の下側に設置されているファンによって,空気が熱交換器の下部から 送り込まれ上部から排出される構造となっている.
激しい腐食は,4段目伝熱管の出口部に集中していた.流体は熱交換器伝熱管内では 冷却されながら流れていくため,チューブ出口部の方が入口側よりも流体温度は低く なる.また,空冷式熱交換器の下部から冷媒である空気が入るため,最下段の伝熱管 は表面温度が最も低く内部流体温度も最も低くなっている.すなわち,腐食は温度の 低い箇所で,顕著となった.
また,腐食した伝熱管では,伝熱管の気相部となる上部で減肉が激しく金属光沢を 認めたが,液相となる下部は黒色スケールに覆われており,減肉は軽微であった.液
相部で認められた黒色スケールの成分は,硫化鉄であることが確認された.なお,気 相部の最大腐食速度は0.4 mm/yとなった.
当該部はH2S,NH3が高濃度で存在する環境であり,塩化物,シアンなどの他の腐食 性物質は検出下限界以下であること,また,全面腐食の形態を呈していることから,
腐食原因はNH4HSによるものであると推定した.更に,伝熱管内流速は腐食が発生し た出口側で2.1 m/sと低く,高せん断応力によるエロージョン・コロージョンが要因と なる可能性は低い.したがって,当該部の腐食は,高濃度のNH4HS水溶液が局所的に 生成したことによる腐食と推定した.
(2)気相凝縮部と液相でのNH4HS濃度の比較
第6章で述べた NH4HS濃縮モデルを用いて,気相凝縮部と液相での NH4HS濃度を 比較した.図7‐5に気相凝縮部と液相での温度変化によるNH4HS濃度の変化を示す.
この条件は,実運転に近い条件として,外気温40 ℃の運転風量でNH4HSの析出を考 慮したモデルとした.図6‐15,図6‐16より温度とNH4HSの関係を示したものであ る.気相凝縮部,液相ともに温度の低下により濃度は上昇する傾向にあるが,気相凝 縮部は液相と比較して温度低下により著しく濃度が上昇することが明らかとなった.
これより,伝熱管が著しく冷却され温度が低下すると,気相凝縮部では液相部より も著しくNH4HS濃度が上昇し,過酷な腐食環境となることが示された.