4.2 析出したNH4Cl塩による実装置での腐食状況 4.2.1 装置の概要
本装置の概略図を図4‐1に示す.反応塔(リアクター)は6.7 MPa,380 ℃で運転 されている.リアクターエフルエント流体は熱交換器で冷却され,高温高圧分離槽に 送られる.高温高圧分離槽の底部の液相の油は低温高圧分離槽からの液相の油と合流 し,ストリッパーに送られる.高温高圧分離槽上部から出る 235 ℃のガスは,リサイ クル水素ガス及び洗浄水の注入により 160 ℃まで冷却され,空冷式熱交換器で 40 ℃ まで冷却され低温高圧分離槽に送られる.
高温高圧分離槽からのガスには2.5 mol%のH2Sと0.05 mol%のNH3を含むため,Kp
(Piehl)値([H2S]x[NH3](mol%)2)としては 0.1(mol%)2 となる.ガスには洗浄水として 廃水処理装置で処理した水が注入され,REACで冷却された後の低温高圧分離槽の廃水 には1.4 wt%のNH4HSと1.0 wt ppmの塩化物(最大5.4 wt ppm)が含まれる.なお,廃 水中のNH4HSが2 wt%未満であれば,NH4HSによる腐食環境は炭素鋼で問題とならな い環境9)であること,またKp値が0.2未満であり過酷なNH4HS腐食環境とはならな い8)ことから,当該装置においてNH4HSにより激しい腐食が発生する可能性は低い.
腐食が発生したREACの仕様は以下のとおりであり,図4‐2に図示する.
伝熱管材料:ASME SA179(炭素鋼)
ヘッダータイプ:4パス(1パス目 3段,2~4パス目 2段)
: 腐食箇所
反応塔
(リアクター)
洗浄水
高温高圧分離槽
ガス洗浄装置
ナフサ
製品軽油 廃水
H2
空冷式熱交換器
油, NH3, HCl, H2S
ガス
液体 160 ºC
40 ºC
pH:7Cl-:1.0 ppm (max 6.8 ppm) NH4HS:1.4 % NH3,
HCl, H2S, 軽質油 6.1 MPa
ストリッパー 原料油
S,N,Cl含む 加熱炉
分離槽
図4‐1 軽油深度水素化脱硫装置の概略図
4.2.2 腐食状況
激しい腐食は REAC 伝熱管で認められ,局部的に発生していることが確認された.
サンプル採取直後の伝熱管上面には黒色の軟質スケールが付着していたが,スケール を除去すると局部腐食が認められた.スケール除去後の伝熱管の腐食状況を図4‐3に 示す.典型的なデポジット下の腐食形態を呈していることが確認された.
腐食位置は,1パス目の伝熱管の入口端部から3 mまでの上面に限定されていた.腐 食した伝熱管を上面下面で切断すると,図2‐5,図4‐3に示されたように,上面のみ に局部腐食を認め,下面には減肉を認めなかった.
入口
出口
激しい腐食箇所
3 m 9 m
1パス目 1パス目 2パス目 2パス目 3パス目 3パス目 4パス目 4パス目 空気の流れ
ファン
• 4パスタイプ 1パス目 :3段 2~4パス目:2段
• 伝熱管材質: ASTM A179 (炭素鋼)
図4‐2 空冷式熱交換器のタイプと腐食発生位置
伝熱管腐食部の
断面観察結果 伝熱管上下面で切断した上面の腐食状況 上面
下面
局部腐食
図4‐3 空冷式熱交換器伝熱管の腐食状況
4.2.3 腐食原因
腐食した伝熱管を採取し,腐食原因調査を実施した.減肉部表面に付着していた腐 食生成物のX線回折(株式会社リガク製 ガイガーフレックス RAD-IIA 型)を行っ た.その結果,NH4Cl,FeS1-x(Mackinawite),Fe1-xS(Pyrrhotite),Fe3O4(Magnetite)
が同定された.また,減肉部の断面方向の元素分布を EPMA (Electron Probe Micro
Analysis)(株式会社島津製作所製 EPMA-1600)にて測定した.図4‐4に腐食部断面
方向の腐食生成物中の元素分布を示す.腐食生成物を構成する主要元素はClであるこ とが確認された.Cl は腐食生成物と材料減肉部の界面に位置しており,腐食の進行に 直接関与した可能性が示唆された.また,各元素の分布よりこの部位には塩化鉄や酸 化鉄が存在している可能性も示唆された.また,腐食生成物の表層部にはSとFeが存 在していることから,腐食により形成された腐食生成物としての塩化鉄は流体中のH2S と反応し硫化鉄となるため,表層部には硫化鉄が存在すると推定された.X線回折の結 果からFeS1-x(Mackinawite)やFe1-xS(Pyrrhotite)が同定されたことからも,これらの 推定を裏付けることができた.以上の分析結果と腐食形態から,腐食原因は NH4Cl 塩 析出下の腐食であることが明らかとなった.
(1/13)
O Fe
S Cl
Scale
Scale
図4‐4 EPMAによる伝熱管腐食部表面の腐食生成物の断面方向の元素分布
4.3 NH4Cl塩析出防止方法の概念 4.3.1 従来のREACの設計
当該REACは,表4‐1に示すPiehl ら8)が提案した防食設計のガイドラインを満足
する設備で運転を実施してきた.しかしながら,NH4Cl塩による伝熱管の激しい腐食を 引き起こしたことから,従来の防食設計では腐食を防止できなかったことになる.
4.3.2 NH4Cl塩析出防止の考え方
NH4Cl塩の析出は,第2章の2.3.1で述べたとおり,気相中のNH3(気)とHCl
(気)の分圧によりその析出温度は決まる.実装置では流体が冷却される過程で析出 温度に到達し固体のNH4Cl塩が生成する.気相中のNH3分圧,HCl分圧が高いほど,
析出温度は高くなるため,より高温部すなわち上流部に析出領域が存在することにな る.また,流体中の NH3は原料油中の窒化物が反応塔で分解され生成するため,原料 油中の窒化物の量により影響し,HClは原料油中の塩化物や反応塔に注入する水素中の 塩化物量により影響する.
当該部には,塩の残存防止および腐食性物質の希釈のために洗浄水注入設備が導入 されている.洗浄に必要な水量として注入した水の20 %以上は液相として残存する量 が必要であり,分散性を良好とし腐食性ガスとの接触効果を向上させるために,クイ ルタイプ(短管の先を斜めに切断し中央部に切り欠きを入れ分散性を良くしたもの)
のノズルを採用することが,Piehl らが提案したガイドラインに明記されている.当外 装置に採用された洗浄水量は注入した水の80 %が液相として残存する十分な量が注入 されており,分散性を考慮したスプレータイプのノズルを採用することにより従来の ガイドラインは満足した洗浄水注入設備となっていた.
クイルタイプ(短管の先を斜めに切断し中央部に切り欠きを 入れ分散性を良くしたもの)のノズルを採用する.
スプレーノズルで分 散性を向上させた.
洗浄水注入点
注入点で少なくとも20 %が液相として残存する必要がある
. 80 %の水が液相と して残存
洗浄水注入量
Uタイプの伝熱管は使用してはならない.
REACのバンクの数は2の倍数とし,配管レイアウトが左右 バランスするように配慮する.
バンク数は2,配管 レイアウトは左右バ ランス
REACタイプ
左右バランスしたトーナメント形式の配管レイアウトとする.
低Kp値および低NH4HS濃度の場合REAC出口配管はバラ ンスしていないレイアウトも許容されるが入口配管はバラン スする必要がある.
高Kp値および高NH4HS濃度の場合はREACの入口および 出口ともにバランスさせたレイアウトとする必要がある.
左右バランスしたト ーナメント形式 配管レイアウト
高い場合は高合金の採用を検討 Kp<0.2では腐食は問題とならない 0.1
Kp値
上限8 wt%
1.4 wt%
NH4HS濃度
炭素鋼の場合:上限6.1 m/s 4.5~6.1 m/s
伝熱管内流速
防食設計ガイドライン 実績
項目
クイルタイプ(短管の先を斜めに切断し中央部に切り欠きを 入れ分散性を良くしたもの)のノズルを採用する.
スプレーノズルで分 散性を向上させた.
洗浄水注入点
注入点で少なくとも20 %が液相として残存する必要がある
. 80 %の水が液相と して残存
洗浄水注入量
Uタイプの伝熱管は使用してはならない.
REACのバンクの数は2の倍数とし,配管レイアウトが左右 バランスするように配慮する.
バンク数は2,配管 レイアウトは左右バ ランス
REACタイプ
左右バランスしたトーナメント形式の配管レイアウトとする.
低Kp値および低NH4HS濃度の場合REAC出口配管はバラ ンスしていないレイアウトも許容されるが入口配管はバラン スする必要がある.
高Kp値および高NH4HS濃度の場合はREACの入口および 出口ともにバランスさせたレイアウトとする必要がある.
左右バランスしたト ーナメント形式 配管レイアウト
高い場合は高合金の採用を検討 Kp<0.2では腐食は問題とならない 0.1
Kp値
上限8 wt%
1.4 wt%
NH4HS濃度
炭素鋼の場合:上限6.1 m/s 4.5~6.1 m/s
伝熱管内流速
防食設計ガイドライン 実績
項目
表4‐1 当該REACの実績値と防食設計ガイドライン
4.2.2,4.2.3で述べた当該部の腐食状況から,NH4Cl塩デポジット下の腐 食が原因となっていることが示された.伝熱管の下部は洗浄水が流れているため固体 の塩は洗浄されているが,腐食した伝熱管の入口から 3 mの範囲の伝熱管上部には塩 を洗浄するために必要な水分が供給されなかったと推定される.一方,入口から 3 m の箇所から下流域では,冷却によって伝熱管表面温度が十分低下しているため伝熱管 の気相部から凝縮水が生成し,伝熱管内表面は塩を洗浄するために十分な水が存在し ていたと推定される.この事象を模式化した図を図4‐5に示す.これより,防食方法 としては,熱交換器入口部から3 mまでに生じた固体のNH4Cl塩を洗浄することであ る.そのためには,入口部から 3 m の位置での条件を入口部で成立させ,気相から塩 を洗浄させるために必要な凝縮水を生成させることが必要となる.これを達成するた めにはREACの伝熱管入口部で以下の関係を成立させる必要がある.
相対湿度 ≧ 100 % (露点 ≧ 伝熱管表面温度)
この関係を成立させるための方策として,露点を上昇させ,伝熱管表面温度を低下 させる必要がある.露点を上昇させるためには,気相中の水分圧を上昇させる,すな わち水蒸発量を上昇させることが有効である.そこで,水蒸発量を上昇させるための 最適な洗浄水のスプレーノズルのタイプを検討した.スプレーノズルはスプレーの角 度とスプレーの液滴径により噴霧状態が異なる.これらの水蒸発量上昇効果について,
流動解析を適用した検討を実施した.一方,伝熱管表面温度低下については,流体温 度を低下する必要があり,当該部上流に熱交換器を設置することによる流体温度の低 下を検討した.伝熱管気相部における塩の残存の有無と露点と伝熱管表面温度の関係 についての概念図を図4‐6に示す.本図では,横軸が伝熱管入口部からの距離,縦軸 が温度を示す.青色の直線は伝熱管表面温度を示しており,黒色の水平の直線は露点 を示す.伝熱管入口部では表面温度は露点より温度が高いため気相部では凝縮水が生 成せず塩は残存している.下流に向かうにしたがって伝熱管表面温度は低下し,ある 地点で露点に達する.伝熱管表面温度と露点の交点より下流では気相部から凝縮水が 生成し,気相部の管内壁に塩は残存しないと考えられる.伝熱管入口部において,露 点を伝熱管表面温度以上としすることにより,相対湿度を100 %以上とすることができ,
図4‐7に示した模式図のように入口部の気相部から凝縮水を生成させ塩の残存を防止 することができる.この防食の概念より,最適な条件を探索すべく解析を行った.