・材料表面:電解質水膜形成せず
RH ≦ 20 %⇒腐食認めず
・材料表面:電解質水膜形成せず : SS400
試験片
・毛管凝縮⇒塩の吸水が進行(重量増加)
・材料表面:全面に濃厚NH4Cl溶液水膜
RH : 60 % ⇒ 腐食激しい
臨界相対湿度・毛管凝縮⇒塩の吸水が進行(重量増加)
・材料表面:全面に濃厚NH4Cl溶液水膜
RH : 60 % ⇒ 腐食激しい
臨界相対湿度・毛管凝縮⇒塩の吸水が進行(重量増加)
・材料表面:全面に濃厚NH4Cl溶液水膜
RH : 60 % ⇒ 腐食激しい
臨界相対湿度図3‐10 NH4Cl塩の吸水・腐食機構の概念図
3.3 濃厚NH4Cl溶液での耐食材料評価と腐食機構解明 3.3.1 実験方法
3.3.1.1 浸漬試験
(1)沸騰NH4Cl溶液での重量減少量測定
NH4Cl の腐食に及ぼす耐食材料の評価を行うために,苛酷な腐食環境の条件として 20 wt%と40 wt%の沸騰NH4Cl溶液における浸漬試験を行った.試験溶液は市販のNH4Cl試 薬に蒸留水を加えて作製した.浸漬時間は72 時間とした.沸騰試験溶液の温度は20 wt%
で103 ℃,40 wt%で111 ℃となった.試験前後の試験片の重量を測定し,重量減少量よ り腐食速度を算出した.
本試験で使用した材料は,石油精製プラントで汎用的に使用される14種類の材料とし て炭素鋼(UNS K02702),炭素鋼+溶融アルミめっき,アルミニウム黄銅(UNS C68700), SUS410(UNS S41000),SUS405(UNS S40500),SUS321(UNS S32100),SUS304L(UNS S30403),SUS316L(UNS S31603),Alloy 800(UNS N08800),二相ステンレス鋼(UNS S39274,
DP-3W),二相ステンレス鋼(UNS S32750,Alloy 2507),254SMO(UNS S31254),Alloy 625
(UNS N06625),Alloy C-276(UNS N10726)を使用し,2種類の開発合金としてSUS317L 改良品,Alloy 825改良品(UNS N06845)を使用した.開発合金のうち,SUS317L改良品 はSUS317Lに銅を添加し耐硫酸露点腐食性を向上させたもので,UNS N06845はAlloy 825 に銅,モリブデン,タングステン,クロム,ニッケル,窒素含有量を増加させ,耐酸腐食 性を向上させたものである.表3‐1に各材料の化学成分を示す.
材料 C Cu Ni Cr Mo W N Ti その他
SS400 0.069 0.02 0.02
溶融Alめっき鋼 0.069 0.02 0.02 溶融Alめっき
アルミニウム黄銅 77.3 Al=2.06Zn=20.5
SUS410 0.06 0.01 0.15 12.5 0.02
SUS405 0.04 0.01 0.12 12.7 0.02 Al=0.22
SUS321 0.04 0.07 9.3 17.3 0.07 0.02 0.43
SUS304L 0.02 0.31 8.1 18.1 0.49 0.05
SUS316L 0.014 0.32 14.1 17.4 2.6 Alloy 800 0.05 0.31 30.5 19.5 0.13
DSS(DP-3W) 0.018 0.56 6.7 25.8 3.1 2.1 0.27 DSS(Alloy 2507) 0.02 0.11 6.5 25.4 4.0 0.29
254SMO 0.012 0.8 18.3 19.9 6.1 0.2
Alloy 825改良品 0.009 3.06 45.7 22.7 5.9 3.9 0.08
Alloy 625 0.019 0.07 60.7 21.6 8.3 Nb=3.4
Alloy C276 0.002 0.13 58.0 15.4 15.7 3.4 SUS317L改良品 0.018 4.1 15.7 18.1 3.5
材料 C Cu Ni Cr Mo W N Ti その他
SS400 0.069 0.02 0.02
溶融Alめっき鋼 0.069 0.02 0.02 溶融Alめっき
アルミニウム黄銅 77.3 Al=2.06Zn=20.5
SUS410 0.06 0.01 0.15 12.5 0.02
SUS405 0.04 0.01 0.12 12.7 0.02 Al=0.22
SUS321 0.04 0.07 9.3 17.3 0.07 0.02 0.43
SUS304L 0.02 0.31 8.1 18.1 0.49 0.05
SUS316L 0.014 0.32 14.1 17.4 2.6 Alloy 800 0.05 0.31 30.5 19.5 0.13
DSS(DP-3W) 0.018 0.56 6.7 25.8 3.1 2.1 0.27 DSS(Alloy 2507) 0.02 0.11 6.5 25.4 4.0 0.29
254SMO 0.012 0.8 18.3 19.9 6.1 0.2
Alloy 825改良品 0.009 3.06 45.7 22.7 5.9 3.9 0.08
Alloy 625 0.019 0.07 60.7 21.6 8.3 Nb=3.4
Alloy C276 0.002 0.13 58.0 15.4 15.7 3.4 SUS317L改良品 0.018 4.1 15.7 18.1 3.5
表3‐1 濃厚NH4Cl溶液の腐食試験に使用した各種材料の化学成分 [wt%]
炭素鋼,炭素鋼+溶融アルミめっき,二相ステンレス鋼(Alloy 2507)は平板型の試験 片,その他の材料は管状の試験片を使用した.試験片表面はSiC研磨紙で600番まで研磨 した後に,アセトンにより脱脂した.試験片は溶液に浸漬する前に重量と表面積を測定し,
浸漬後に腐食生成物を除去した後に再度重量測定を行い,重量減少量から腐食速度を算出 した.最大孔食深さは,デジタル顕微鏡(株式会社キーエンス製 VHX-1000)にて測定 した.
(2)NH4Cl溶液で温度と濃度を変化させた際の炭素鋼の重量減少量測定
NH4Clの腐食に及ぼす環境側の評価を行うために,炭素鋼で温度と濃度を変化させた際 の腐食速度を算出した.温度の影響評価にはNH4Cl濃度20 wt%で25 ℃,50 ℃,80 ℃の 条件で行い,濃度の影響評価には80 ℃でNH4Cl濃度5 wt%,20 wt%,40 wt%の条件で行 った.試験溶液はN2により脱気を行った.
試験片は平板型の炭素鋼(UNS K02702)を使用し,試験片表面はSiC研磨紙で600番 まで研磨した後に,アセトンにより脱脂した.本試験片はエポキシ樹脂に埋め込み,試験 溶液への接触面積は2 cm2とした.試験時間は72 時間とした.
3.3.1.2 電気化学測定
(1)アノード分極測定
平板型炭素鋼製の試験極,白金製の対極,飽和カロメル製(SCE:Saturated Calomel
Electrode)の比較電極から構成されるセルを用いた.炭素鋼の試験極表面はSiC研磨紙で
600番まで研磨した後に,アセトンにより脱脂した.本試験片はエポキシ樹脂に埋め込み,
試験溶液への接触面積は1 cm2とした.
NH4Cl溶液は,市販のNH4Cl試薬を蒸留水で希釈し所定の濃度となるように調整した.
3.3.1.1(2)の浸漬試験条件に揃えるために,NH4Cl溶液濃度による影響評価は,
80 ℃で5 wt%,20 wt%,40 wt%の条件で試験を行い,温度による影響評価は,20 wt%で
25 ℃,50 ℃,80 ℃の条件で試験を実施した.試験溶液はN2により脱気を行った.
アノード分極測定はポテンショスタット(北斗電工株式会社製 HZ-3000)を用いて自 然浸漬電位から貴側に電位を掃引させ,その際に変化する電流密度を測定した.電位の掃 引速度は20 mV/minとした.
(2)カソード分極測定
白金製の試験極と対極,飽和カロメル製(SCE:Saturated Calomel Electrode)の比較電 極から構成されるセルを用いた.溶液に晒される試験極の表面積は2 cm2とした.溶液濃 度と試験温度は(1)アノード分極測定の条件と同様とした.カソード分極測定はポテン ショスタット(北斗電工株式会社製 HZ-3000)を用いて自然浸漬電位から卑側に電位を 掃引させ,その際に変化する電流密度を測定した.電位の掃引速度は20 mV/minとした.
アノード分極測定では,鉄の溶解反応を評価するために試験極に炭素鋼を使用したが,カ ソード分極測定では,環境側の変化を評価するために試験極に白金を使用した.
3.3.2 実験結果と考察 3.3.2.1 材料の耐食性評価結果
20 wt%および40 wt%の沸騰NH4Cl水溶液での浸漬試験による各種材料の腐食速度を
図3‐11に示す.最も激しい腐食は炭素鋼において確認され,20 wt%,40 wt%での腐食 速度はそれぞれ25.4 mm/y,60.4 mm/yに達した.その次に腐食が激しかったのは炭素鋼+
溶融アルミめっきであり,20 wt%,40 wt%での腐食速度はそれぞれ0.92 mm/y,5.9 mm/y となった.炭素鋼,炭素鋼+溶融アルミめっき,アルミニウム黄銅は全面腐食を呈したが,
SUS405,SUS410,SUS321,SUS304L,SUS316L,Alloy 800,SUS317L改良品には孔食を 認めた.二相ステンレス鋼(DP-3W,Alloy 2507),254SMO,Alloy 825改良品,Alloy 625,
Alloy C-276には全面腐食も孔食も認めなかった.いずれの材料においても割れは認めなか
った.
孔食を認めた材料における最大孔食深さを孔食指数(PREN:Pitting Resistance Equivalent Number)で整理した結果を図3‐12,図3‐13に示す.PRENの定義としてはAPI Technical Report 938-C14)に提案されている次の2ケースで評価した.
PREN 1:Cr + 3.3 Mo + 16 N / wt%
PREN 2:Cr + 3.3 (Mo + 0.5 W) + 16 N / wt%
Corrosion rate on all the materials
0.01 0.1 1 10 100
20%NH4Cl 40%NH4Cl
腐食速度 溶融めっき鋼 アルミニウム黄銅 改良品 改良品
材料
図3‐11 20 wt%及び40 wt%の沸騰NH4Cl水溶液での浸漬試験結果(72 時間)
いずれのグラフにおいても,PRENが40以上であれば孔食は発生せず,炭素鋼が数十 mm/yで腐食するような厳しい腐食環境である濃厚NH4Cl溶液においても,著しく耐食性 が向上することを示した.PRENが30未満の環境においては,PRENの増加とともに最大 孔食深さが減少する関係が得られ,本環境ではPRENが孔食進展評価にも適用できる可能 性を見出した.本試験による各材料の腐食速度と最大孔食深さを表3‐2にまとめた.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
0 10 20 30 40 50 60 70 80
PREN 1, Cr+3.3Mo+16N (wt%)
20%NH4Cl 40%NH4Cl
最大孔食深さ
PREN 1,Cr+3.3Mo+16N / wt%
図3‐12 20 wt%及び40 wt%の沸騰NH4Cl水溶液での浸漬試験(72 時間)
における最大孔食深さと孔食指数(PREN 1)の関係
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
0 10 20 30 40 50 60 70 80
PREN 2, Cr+3.3([Mo]+0.5[W])+16N (wt%)
20%NH4Cl 40%NH4Cl
最大孔食深さ
PREN 2,Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N / wt%
NH4Clによる腐食が発生する環境において,腐食速度が高く炭素鋼が許容できない場合,
これまでは経験的にAlloy 625やAlloy C-276が選定されてきた.これは300系ステンレス 鋼や二相ステンレス鋼では,過酷な NH4Cl 腐食環境において孔食や塩化物 SCC(応力腐 食割れ)が懸念されるためである.本研究では,濃厚NH4Cl溶液において300系ステンレ ス鋼で孔食を認めたが,高コストのAlloy 625やAlloy C-276などのNi基合金だけでなく,
PRENが40以上の二相ステンレス鋼や254SMOやAlloy 825改良品といった低コストのFe 基合金でも,孔食も割れも認めず十分耐食性を有することを明らかにした.
3.3.2.2 濃厚NH4Cl溶液における炭素鋼の腐食に及ぼす温度の影響
図3‐14に20 wt% NH4Cl水溶液における炭素鋼の腐食速度に及ぼす温度の影響を示し
た.腐食速度は温度上昇とともに増加し,その増加率は高温になるほど顕著となることが 判明した.一方,常温では濃厚NH4Cl溶液であっても腐食は軽微であることが確認された.
これらの結果は,実装置で発生する NH4Clによる腐食は露点やNH4Cl塩析出温度付近の 高温部で顕著となる事象と一致することを示した.この結果のアレニウスプロットを図3
‐15に示す.直線関係が得られ,アレニウスの式に従うことが確認された.この直線の傾 きから活性化エネルギーを求めると,60 kJ/molとなった.金属上の電荷移動過程の活性化 エネルギーは30‐70 kJ/mol,水中のイオンの拡散によるそれは5‐20 kJ/molであることか ら15),本環境での反応は電荷移動過程にあると推定される.
材料 PREN 12)PREN 22)最大孔食深さ(mm) 腐食速度(mm/y)
腐食形態
20 % 40 % 20 % 40 %
SS400 - - 25.4 60.4
溶融Alめっき鋼 - - 0.92 5.9 全面腐食
アルミニウム黄銅 - - 0.047 0.22
SUS410 12.6 12.6 0.282 0.324 0.20 0.58
孔食進展
SUS405 12.7 12.7 0.341 0.411 0.88 2.0
SUS321 17.6 17.6 0 0.307 0.071 0.081
SUS304 19.7 19.8 0.118 0.678 0.001 0.73
Alloy 800 19.9 19.9 0.148 0.370 0.21 0.13
SUS316L 26.1 26.1 0.103 0.232 0.002 0.58
SUS317L改良品 29.7 29.7 0 0.010 0.003 0.015
DSS1)(DP-3W) 40.4 44.0 0 0 0.001 0.028
腐食なし
DSS1)(Alloy 2507) 43.1 43.1 0 0 0.002 0.023
254SMO 43.2 43.2 0 0 0.001 0.001
Alloy 825改良品 43.5 49.8 0 0 0.001 0.004
Alloy 625 49.1 49.1 0 0 0.001 0.006
Alloy C276 67.0 67.0 0 0 0 0.027
材料 PREN 12)PREN 22)最大孔食深さ(mm) 腐食速度(mm/y)
腐食形態
20 % 40 % 20 % 40 %
SS400 - - 25.4 60.4
溶融Alめっき鋼 - - 0.92 5.9 全面腐食
アルミニウム黄銅 - - 0.047 0.22
SUS410 12.6 12.6 0.282 0.324 0.20 0.58
孔食進展
SUS405 12.7 12.7 0.341 0.411 0.88 2.0
SUS321 17.6 17.6 0 0.307 0.071 0.081
SUS304 19.7 19.8 0.118 0.678 0.001 0.73
Alloy 800 19.9 19.9 0.148 0.370 0.21 0.13
SUS316L 26.1 26.1 0.103 0.232 0.002 0.58
SUS317L改良品 29.7 29.7 0 0.010 0.003 0.015
DSS1)(DP-3W) 40.4 44.0 0 0 0.001 0.028
腐食なし
DSS1)(Alloy 2507) 43.1 43.1 0 0 0.002 0.023
254SMO 43.2 43.2 0 0 0.001 0.001
Alloy 825改良品 43.5 49.8 0 0 0.001 0.004
Alloy 625 49.1 49.1 0 0 0.001 0.006
Alloy C276 67.0 67.0 0 0 0 0.027
1)DSS :二相ステンレス鋼 2)PREN(孔食指数):
PREN 1 : Cr+3.3Mo+16N/wt%,PREN 2:Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N/wt%
表3‐2 濃厚NH4Cl溶液における各種材料の腐食試験結果のまとめ