たNH4Cl塩は吸水性が高く遊離水が存在しなくても湿潤状態となり腐食環境が形成される ことを示した.相対湿度が60 %で腐食速度のピークを認める理由としては,試験を実施し た80 ℃では臨界相対湿度が約60 %となり,この条件で吸水量が増加し始めるため試験片 表面全体に濃厚NH4Cl溶液の水膜が形成されたためであることを明らかにした.臨界相対 湿度と温度の関係を明確にしただけでなく,各相対湿度と腐食速度の関係から吸水挙動と 腐食速度の関係を明らかにした.濃厚NH4Cl溶液による腐食機構の解明については,濃厚 NH4Cl溶液を用いた浸漬試験の結果と電気化学測定からその機構を解明した.同時に様々な 材料における耐食性評価を行い,炭素鋼で25.4 mm/y (NH4Cl 20 wt%),60.4 mm/y (NH4Cl 40
wt%)といった激しい腐食を発生させる環境においても,PREN(孔食指数)が40を超える
と全面腐食も孔食も認めず,十分耐食性を有することを明らかにした.PRENが30未満の 材料では,PRENが大きいほど最大孔食深さが小さくなる関係を示すことにより,NH4Cl 環境ではPRENが孔食進展評価に適用できる可能性があることを見出した.これより,
NH4Cl腐食による耐食材料としては経験的にAlloy 625やAlloy C276としてきたが,二相ス テンレス鋼(DP-3W,Alloy 2507),254SMO,改良型Alloy 825も候補材料となることを明 らかにし,低コストで耐食性を有する新規候補材料を見出した.
第4章では,NH4Cl塩析出防止のための洗浄水注入システムの最適化を図り,実装置で その効果を実証した.気相部にNH4Cl塩が残存し湿潤状態になると激しい腐食を引き起こ す.その防食方法として洗浄水注入ノズル改良により,水蒸発量を増加させ水分飽和のガ スとすることによって,その下流の熱交換器で冷却されたガスから凝縮水を生成させる.
これにより,気相部で析出した塩を希釈させる新たな防食方法を導入した.伝熱管入口部 で,相対湿度を100 %以上とするために,露点を伝熱管表面温度以上の条件に維持し伝熱管 内壁に水膜を形成させることが有効であることを明らかにした.そのためには,洗浄水の スプレーノズルの液滴径,角度を小さくし,洗浄水温度を上げ,ガス温度を低下させる方 法が有効であることを見出した.解析結果に基づきスプレーノズルの改造とガス温度低下 を行った結果,相対湿度を100 %以上とすることに成功し,改造後腐食を認めなかったこと から,実装置で解析結果を実証することができた.
第5章では,NH4HSによる腐食機構について述べた.NH4HS濃度が30 wt%を超えると,
流れの乱れや流速の影響が無くても急激に腐食が進行する現象を見出し,濃度と腐食速度 の関係を明らかにした.浸漬試験後の溶液中に[Fe(NH3)6]2+が存在することをシンクロトロ ン放射光を用いた吸収X線スペクトル解析にて確認し,これまで推定の域を超えなかった NH4HSの異常腐食における錯イオンの関与を明らかにした.また,30 wt%を超える濃厚 NH4HS溶液では,著しい炭素鋼の溶解反応となることをアノードピーク電流値から示し,
電気化学測定結果からもその腐食現象を明らかにした.
第6章では,NH4HS濃縮モデルを構築し,空冷式熱交換器伝熱管の気相凝縮部でNH4HS が局部濃縮する機構を解明した.伝熱管表面温度が大きく低下した場合,気相凝縮部では 伝熱係数が大きいため局所的な流体温度の低下を認め,NH4HSが濃縮し腐食環境を過酷化
することを明らかにした.これより,気相部と液相部での実装置での腐食環境の差異を定 量的に説明することができた.また.空冷式熱交換器気相凝縮部でのNH4HS濃縮は外気温 度が大きく影響することも示した.
第7章では,局所的に発生するアンモニウム塩の腐食を設計段階で防止するための新た な防食設計の概念を提案するために,NH4Cl,NH4HSに分けて各アンモニウム塩の防食モ デルを構築した.NH4Clについては,NH4Cl塩の腐食機構を相対湿度および濃度,温度によ る影響の点から解明し,塩析出防止方法,塩濃縮防止方法,更に耐食材料の選定方法につ いて新たな概念を防食設計に導入し検証した結果を提案した.NH4HSについては,空冷式 熱交換器伝熱管でNH4HSが局所的に濃縮する機構を解明し,局所濃縮は伝熱管の著しい冷 却が要因となることを明らかにした.伝熱管表面温度低下防止方法について,空気温度の 上昇,空気風速,内部流体の流量を設計段階で考慮することを提案した.
第8章では本研究で得られたアンモニウム塩の腐食機構と新たな防食設計方案の有効性 について示した.
用語集
(1)サルファーフリー
軽油やガソリンに含まれる硫化物の量を10wtppm以下まで低減させた,超低硫黄燃料を サルファーフリー燃料という。環境保全の取り組みからサルファーフリー燃料の早期導 入(軽油2007年,ガソリン2008年)が必要との審議会の答申を受け,石油業界では強 制規制化に先駆けて2005年より燃料を供給している。
(2)水素化脱硫装置
原油を沸点によって分けた各留分の油(ナフサ,灯油,軽油,重油)には,まだ硫化 物を多く含んでいるため,各石油製品の硫黄濃度の規定値を満足させるために,水素 化脱硫装置において硫化物を除去する。反応塔の中に脱硫触媒と脱窒素触媒が充填さ れてあり,各種原料油を水素と合流させ反応塔を高温高圧で通すことにより,水素化 脱硫反応が生じ硫化物は硫化水素に,窒化物はアンモニアに変換され,ガス洗浄装置 に送られる。
(3)水素化分解装置
水素化脱硫装置とは反応の種類が異なり重質の軽油を水素と合流させ高温高圧で反応 塔を通すことによって,ガソリンや軽油などの石油製品を製造する。本装置の反応に は一部脱硫触媒や脱窒素触媒も含まれるため,水素化脱硫装置と同様に,反応塔下流 では硫化水素やアンモニアが存在する。
(4)リアクターエフルエント
反応塔から出る流体。反応塔で脱硫された油と水素,硫化水素,アンモニア,塩化水 素を含む。
(5)REAC:リアクターエフルエント空冷式熱交換器
反応塔下流流体を冷却するための空冷式熱交換器。Reactor Effluent Air Coolerの頭文字 をとって業界ではREACと称される。
(6)NACE:National Association of Corrosion Engineers
米国腐食技術者協会.米国ヒューストンに本部を持つ.
(7)API:American Petroleum Institute
米国石油協会.Recommended Practice (RP),Standard,Publicationなどの数多くの規格を 発行しており,定期的な国際会議が開催される.ワシントンに本部がある.
(8)NPRA:National Petrochemical and Refiner Association
米国石油化学及び石油精製協会.定期的に米国で国際会議が開催される.
(9)常圧蒸留装置
石油精製プラントの中で,最も上流に位置する装置である.原油を通し,熱をかけて 沸点に応じて,ナフサ,灯油,軽油,重油の各留分に分ける.ここでは,まだ硫黄分 を含むため,下流の水素化脱硫装置で各留分の硫黄分を取り除き,製品とする.
(10)精留塔
油を加熱し,沸点毎に留分を分ける.
(11)廃水処理装置(廃水ストリッパー)
液体中に溶解または九州されている揮発成分を追い出すことをストリッピングという.
各装置で使用されたH2S,NH3を含む水を塔内で水蒸気を吹き込んで熱を与え,これら ガス成分を追い出し,追い出した後の水を再利用する装置を廃水処理装置という.
(12)スプレーノズル
石油精製プラントでは,腐食性ガスの水への溶解,腐食性物質の希釈,熱交換器伝熱 管における塩による詰まり防止などの目的で洗浄水を注入する場合が多い.この際に,
腐食性ガスの水への溶解を効果的にする場合はガスとの接触効果を向上させるために,
水をスプレー状に噴霧させたノズルを使用するケースがある.タイプによって噴霧状 態が異なる.
研究業績
種 類 別 題名,発表・発行掲載誌名,発表・発行年月,連名者(申請者含む)
論文
(査読有)
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1. K. Toba, M. Ueyama, K. Kawano, and J. Sakai:Corrosion of Carbon Steel and Alloys in Concentrated Ammonium Chloride Solutions,Corrosion, 68, 6, 2012.
2. K. Toba, T. Suzuki, K. kawano, and J. Sakai:The Effect of Relative Humidity on NH4Cl Corrosion in Refineries,Corrosion, 67, 5, 2011.
3. Kazuhiro Toba, Koji Kawano, Kotaro Tanaka, Hirohito Iwawaki, and Jun’ichi Sakai:Study of NH4HS Concentration Mechanism in Air Cooled Heat Exchanger, Corrosion Engineering, 60, 225-264, 2011.
4. Kazuhiro Toba, Koji Kawano, and Jun’ichi Sakai:Development of a New Design for Corrosion Prevention in NH4HS Environments, Corrosion Engineering, 58, 542-555, 2009.
5. 鳥羽和宏,阿蘇谷利光,川野浩二,酒井潤一:NH4HS環境での腐食に及ぼ す流れの影響,Zairyo-to-Kankyo, 61, 56-63, 2012.
6. 鳥羽和宏,川野浩二,田中耕太郎,岩脇大仁,酒井潤一:空冷式熱交換器 伝熱管におけるNH4HSの濃縮機構解明,Zairyo-to-Kankyo, 60, 304-311, 2011.
7. 鳥羽和宏,川野浩二,酒井潤一:NH4HS環境における新防食設計手法の確 立, Zairyo-to-Kankyo, 58, 441-447, 2009.
8. Kazuhiro Toba, and Koji Kawano:Investigation of Titanium Corrosion in Sour Water Stripper Overhead Streams, Proc. 17th International Corrosion Congress, Paper No.3192, 1-11, 2008.10.
9. Hirohito Iwawaki and Kazuhiro Toba:Corrosion Behavior of Steels in Concentrated NH4HS Environments, Corrosion 2007, Paper No.07576, 2007.
10. Kazuhiro Toba, Koji Kawano, Koji Yamamoto, and Yoshiaki Arakawa:The Application of Process Analyses to Prevent Corrosion in Sour Water Stripper Overhead Cooler Tubes, Corrosion 2005, Paper No.05569, 2005.
11. K. Toba, H. Ishimoto, Y. Murakami, T. Asotani, and T. Uegaki:A New Approach to Prevent Corrosion of the Reactor Effluent System in HDS Units, Corrosion 2003, Paper No.03653, 2003.