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第 2 章 爆発物の検出方法

2.3 高感度検出についての検討

2.3.2 間接競合法

間接競合法では抗原類似物質への抗体の結合が抗原の存在によって競合す ることを用いる. すなわち抗原が存在すると抗体は抗原類似物質よりも抗原に 吸着しやすくなり, 抗原類似物質を固定しているセンサ表面には抗体は吸着し にくくなる. この時, 表面に吸着している抗体の量から抗原濃度を推定する.

次に具体的な方法を述べる. 間接競合法ではある一定濃度の抗体溶液を使用 する. 抗体溶液はSPR測定に用いるランニングバッファを溶媒として作製する.

まず最終濃度の倍の濃度の抗体溶液を用意する. この溶液と同容量のランニン グバッファを混合させ抗体溶液を作製する. 同様に最終濃度の倍の抗体溶液と 最終濃度の倍の抗原溶液を1:1で混合させて抗体抗原混合溶液を作製する. この 抗体抗原混合溶液は抗原分子と抗体を結合させるため必要に応じて一定時間静 置する(インキュベーション). 測定においてはまず抗体溶液をセンサ表面に流 通させる. この時, センサ表面の類似物質に抗体が結合しセンサグラムが上昇 する. 一定時間の流通の後, 流通前後のセンサグラム変化を0として記録する.

次に再生溶液を流通させてセンサ表面から抗体を解離させる. その後, 抗体抗 原混合溶液を先ほどと同じ時間流通させて流通前後のセンサグラム変化を1

として記録する. この時, 抗体抗原混合溶液では抗原濃度に応じて抗体が抗原 分子と結合している. この様な抗体は表面と結合しないため抗原濃度に応じて 表面へ結合する抗体の量は小さくなる. この時のセンサグラムと実験の概要を 図2-1に示す. この1/0の比を結合率(Bond Percentage)と呼ぶ. この結合率 を各抗原濃度で測定し検量線を作成する. また各濃度で3回の測定を行う. 検出 限界は最も低濃度の抗原溶液での測定値の標準偏差の3倍から求める.

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図 2-1 間接競合法のセンサグラムと実験の様子

次に間接競合法で測定に影響を与える要因を探るためにモデル化を試みる.

間接競合法における抗原と抗体の濃度の関係は Piehler らによって報告されて いる22). この報告では抗原と抗体の親和性と抗原, 抗体, 抗原抗体複合体の濃度 を用いて定式化されている. しかし我々のセンサでは抗原と抗体の親和性だけ でなく抗原類似物質と抗体の親和性も重要である. そこで抗原類似物質の要素 を含めて定式化を試みた. ただし簡単化のため抗体と抗原・抗原類似物質の結合

時間

Sen sor gr am

抗原 抗原類似物質 抗体

0

1

抗体 再生 のみ フロー

抗体+

TNT フロー

再生 抗体 再生 のみ フロー

抗体 再生 のみ フロー 抗体+

TNT フロー

再生

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は簡単化のため一価のみとした. また抗原・抗体および抗原類似物質・抗体の結 合量は平衡状態であるとした. これは実際の測定においては溶液の流通時間を 無限時間としたことに対応する. 定式化に用いるパラメータを表2-1に示す. ま ず平衡の関係から次の式が導かれる.

𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔

𝐶𝑎𝑏∙𝐶𝑎𝑔 = 𝐾1 (2.1)

𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝

𝐶𝑎𝑏∙𝐶ℎ𝑎𝑝 = 𝐾2 (2.2) 次に抗原・抗体・抗原類似物質の総量は一定であるから次の式が導かれる.

𝐶𝑎𝑏,0 = 𝐶𝑎𝑏 + 𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔+ 𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 (2.3) 𝐶𝑎𝑔,0 = 𝐶𝑎𝑔 + 𝐶𝑎𝑏𝑎𝑔 (2.4) 𝐶ℎ𝑎𝑝,0 = 𝐶ℎ𝑎𝑝+ 𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 (2.5)

最終的にSPRセンサの信号として出力されるのは類似物質に結合した抗体なの

でCabhapを求める必要があるが, ここではまずCabを求める. まず式(2.1)(2.2)を

用いて連立方程式(2.3)(2.4)(2.5)は次の様に書き換えられる.

𝐶𝑎𝑏,0= 𝐶𝑎𝑏 + 𝐾1𝐶𝑎𝑏𝐶𝑎𝑔+ 𝐾2𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝 (2.6) 𝐶𝑎𝑔,0 = 𝐶𝑎𝑔+ 𝐾1𝐶𝑎𝑏𝐶𝑎𝑔 (2.7) 𝐶ℎ𝑎𝑝,0 = 𝐶ℎ𝑎𝑝+ 𝐾2𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝 (2.8)

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表 2-1 間接競合法の定式化に用いたパラメータ

連立方程式(2.6)(2.7)(2.8)をCabに対して一つにまとめると次の様になる.

𝐾1𝐾2𝐶𝑎𝑏3+ {𝐾1+ 𝐾2+ 𝐾1𝐾2(𝐶𝑎𝑔,0 + 𝐶ℎ𝑎𝑝,0− 𝐶𝑎𝑏,0)}𝐶𝑎𝑏2+ {𝐾1(𝐶𝑎𝑔,0− 𝐶𝑎𝑏,0) + 𝐾2(𝐶ℎ𝑎𝑝,0− 𝐶𝑎𝑏,0) + 1}𝐶𝑎𝑏 − 𝐶𝑎𝑏,0 = 0 (2.9)

この式をCabについて解を求める. 解は複雑であるため記述は省略する. そして 式(2.2)(2.5)から得られる次式でCabhapに変換する.

𝐶𝑎𝑏ℎ𝑎𝑝 =𝐾2𝐾𝐶𝑎𝑏𝐶ℎ𝑎𝑝,0

2𝐶𝑎𝑏+1 (2.10) Cab 平衡時の抗原・類似物質と結合していない抗体濃度

Cag 平衡時の抗体に結合していない抗原濃度 Chap 平衡時の抗体に結合していない類似物質濃度 Cab,0 初期の抗体濃度

Cag,0 初期の抗原濃度

Chap,0 初期の類似物質濃度

Cabag 平衡時の抗体抗原複合体濃度

Cabhap 平衡時の抗体抗原類似物質複合体濃度

K1 抗体と抗原の結合定数

K2 抗体と抗原類似物質の結合定数

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得られた式に対してK1 = 1010 M-1, Chap,0 = 10-8 mol/l, Cab,0 = 100 ppb (ng/ml)と 固定し, 抗体と類似物質の親和性を表すK2 = 108, 109, 1010, 1011, 1012 M-1 と変 化させた場合の検量線のシミュレーション結果を図2-2に示す. またK1 = 1010 M-1, Chap,0 = 10-8 mol/l, K2 = 108 M-1と固定し, 用いる抗体濃度を表すCab,0 = 1, 10, 100, 1000, 10000 ppb (ng/ml)と変化させた場合の結果を図2-3に示す. これ らが示すのは抗体と類似物質の親和性が抗体と抗原の親和性より低いほど高感 度に検出できることを意味する. また用いる抗体も低濃度の方が高感度検出に 有利なことが分かる. しかしこのシミュレーションではSPR 測定の信号の誤差 等が全く考慮されていない. 抗体と類似物質の親和性や用いる抗体濃度が低す ぎる場合はセンサ表面に吸着する抗体の量が少なくなるため, センサ応答が小 さくなり SN 比が低くなる. そのためノイズの影響が増大し測定値の標準偏差 が大きくなることで検出限界が結果的に上昇してしまい, 高感度検出が難しく なると想定される. これらの事から間接競合法において抗体との親和性がなる べく低いセンサ表面を作成し低濃度の抗体溶液を使用して測定すれば高感度検 出が可能となると考えられる.

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固定:K1 = 1010 M-1, Chap,0 = 10-8 mol/l, Cab,0 = 100 ppb (ng/ml) 変化:K2 = 108, 109, 1010, 1011, 1012 M-1

図 2-2 抗体と類似物質の親和性と結合率の関係

固定:K1=1010 M-1, Chap,0=10-8 mol/l, K2=108 M-1 変化:Cab,0=1, 10, 100, 1000, 10000 ppb (ng/ml)

図 2-3 抗体濃度と結合率の関係

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1 100 10000 1000000

結合率

測定対象濃度 [ppt]

K2=1e8 K2=1e9 K2=1e10 K2=1e11 K2=1e12

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1 100 10000 1000000

結合率

測定対象濃度 [ppt]

Cab=1 ppb Cab=10 ppb Cab=100 ppb Cab=1000 ppb Cab=10000 ppb

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