本章では,TPの応用活用について検討し,可能性として考えられる利用方法として,
ターゲットユーザの拡張と教育ツールへの転用に関して議論する.
6.1 ターゲットユーザの拡張
TPは,色の専門知識を要さず,色を作成出来るシステムとして提案し,ターゲット ユーザには,コンピュータでの作業中,色の生成作業を行う機会を持つが,特に色の専 門知識を持たない,専門知識の学習が困難である,また,積極的に自ら色彩について学 習する意欲のないユーザを想定した.評価実験においても,想定ユーザにおけるTPの 有効性を示した.
しかし,TP は,色彩の知識を持つ専門家や,色彩に関する教育をまだ受けていない 就学前の幼児にも適用できると考える.その有効性を示すためには,想定ユーザによる システム評価が必要であるが,その可能性について以下に議論する.
6.1.1. 専門家における TP の活用
デザイナーやイラストレータといった色を扱う専門家は,色彩学の知識だけでなく,
コンピュータによる色の再現法に関する知識を習熟している場合が多い.色の数値的な 制御を使いこなし,細かいレベルで色彩をとらえている.しかし,近年では,専門家の 作業場において,ペンタブレットといった従来の絵の具に近いインタフェースの利用が 見られる.絵の具のように,ユーザの感性や色彩感覚に基づき感覚的に色を混色し,色 を生成している.数値表現を熟知した専門家においても,各々が持つ色彩感や感性によ り感覚的に混色できるシステムの必要性が指摘できる.
TPは,ユーザの色彩感覚に合わせてタイルを配置することで混色範囲を設定し,そ の設定範囲内で混色できる.その為,色の微調整において評価結果が高く,その効果が
実験より示された.細かいレベルでの調整を要求される専門家において,TP の微調整 手法は有効的に活用できると考える.また,TPは,色の専門知識を要さず,色を作成 出来るシステムとして提案したため,実装したプロトタイプシステムでは,数値表現を 排除した.しかし,専門家への適用を検討すると,タイルの配置による視覚的な表現だ けでなく,混色結果のタイルについての色と色空間内の位置情報など,RGB 値等の数 値情報も同時に表示することにより,専門家において有用な道具になると考える.
6.1.2. 幼児における TP の活用
第2章において,幼児の紙とコンピュータによる描画行動の比較分析を行なった.そ の結果から,ツールごとに使用した色数は,ツールの種類や各ツールが提供する色数に 関係なく,結果に影響しないというデータが得られている(表 2.6).幼児は,普段より ツールが提供する色数の中から(用意されたクレヨンから)使用する色を選択している.
そのため,馴染みのある,または,気に入った色を主に使用する傾向があると示唆され る.
一般的な玩具に限らず,子供の衣類や用品・用具は,赤,青,緑,黄色といった色に 彩られていることが多く,子供は,無彩色や清濁色といった色に出会う経験が少ない.
そのため,子供の色彩に関する情報は,片寄ってしまうという指摘がある[33].子供たち の色彩感覚を育むためにも,多くの色に接する機会を持つことが重要である.この様な 子供を取り巻く環境のなか,混色は,子供たちの色彩感覚を豊かにする手段であり,自 分で色を混色することより色の調和を直感したり体験したりする重要な機会である.
色数に影響が見られなかったものの,幼児の描画時間内でパレットまたはクレヨンを 見ている時間は3割を占めており,幼児の描画活動において色の選択は重要な行動の一 つであると指摘した.そこで,この様な色と接する時間を利用し,色彩感覚の育成支援 が行なえれば,幼児達の描画活動にも良い影響を及ぼすことが出来ると考える.
コンピュータ利用の低年齢化に伴い,幼児たちの創作活動におけるコンピュータの利 用は,今後とも拡大するであろう.絵の具といった従来のインタフェースとは異なり,
コンピュータでは簡単により様々な色を選択できる.TPは,絵の具の混色とコンピュ ータが得意とする数値的な計算を適用し,混色操作より色を体得でき,色を自動的に生 成するグラデーション機能により多くの色に触れることができる.TPにより新しい色 と接する機会を提供することより,幼児たちの色彩感覚を豊かにする支援につながると
しかし,幼児のインタフェースのユーザビリティにおいは,第2章において,ディス プレイ上のフィードバックでは明確に認識できない,または,作業記憶における幼児の 認知特性より,ディスプレイの情報を外化させ,物理世界での直接的な働きがけの必要 性を指摘した.子供や幼児を対象とした創作システムにおいては,タンジブルなインタ フェースが多く採用されている[2-3].幼児の手続きの習得,意味内容の理解を促進させ るためにも,TPにおいて,物理的なタイルを用い操作できるシステムの検討が必要で ある.
6.2 教育ツールへの転用
TPは,混色作成支援システムとして提案した.しかし,タイルインタフェースの表 現力や操作性より,次のような教育的ツールとしての可能性が考えられる.
6.2.1. 色彩学習支援
TPは,加法混色・減法混色・平均混色といった混色原理に従い,色を混合して新し い色を作り出すことができる.そのため,色を作り出す方法や理論を体験的に学ぶこと ができ,色彩を学習するツールとして適用できると考えられる.
色を扱う専門家においては,様々な色の表示方法や配色効果について詳細に学ぶ.ま た,色彩教育は,色を楽しむ・混色を楽しむことを中心に就学前の幼児や小学生から始 まり,高校までに色の体系的理解(色相環など)や配色について学ぶ.
TPは,混色結果やグラデーションによる色相や色のトーンなど,タイルインタフェ ースを並べることで表現できる.そのため,実際に学習教材として用いられる色が並べ られた紙ベースの色見本と同じように,色を体系的に理解できる.また,混色範囲をユ ーザ自身が決めるため,タイルを置く位置により様々な配色を楽しむことができる.
以上より,それぞれの学習レベルによる改良や学習ガイドなどの必要性はあるが,
TPのタイルを並べるという特徴より,色彩を学習するツールとして期待ができる.
6.2.2. プログラミングへの応用
TPは,色の情報を持つタイルを並べて配置することで,混色し新しい色を作り出せ る.色の混色ルールに従い混色結果を表示することより,TPは,プログラミングの要 素を持つと考える.現在は,予め用意されている加法混色・減法混色・平均混色・加重 計算といった混色ルールに従い混色が実行される.しかし,このルールを変更すること より,同様の手続きで新たな色の変化を楽しむことが出来る.
色を扱う専門家においては,独自の色彩感が確立されていると考える.独自の色彩感 にあわせた混色ルールを登録しておけば,目的の色をユーザの色彩感覚・感性に合わせ て混色でき,色を作成できる.ユーザそれぞれの色彩感覚や感性に適した,色作成支援 が可能となる.
また,プログラミングは,子供の創造性を促進するとして注目されている.プログラ ミングを通じて,子供たちは想像する世界をディスプレイ上で簡単に創作・表現できる だけでなく,プログラミングの基本的な考え方や理論的な思考を身につけることが出来 るとされている.子供を対象としたプログラミング技法として,処理を表すアイコンを ドラッグ&ドロップするだけでプログラムが組めるビジュアル言語や[35-36],パソコン上 でプログラミングしLEGO ブロックで組み立てた作品を思い通りに動かすことが出来
るMindstorm[3]などが開発されている.TPにおいても,混色ルールの入力をビジュア
ル言語やタンジブルインタフェースなどを用い実行できるよう改良を加えることで,子 供の個性を活かした混色の世界を表現することができ,子供の創造性を促進する創作ツ ールと成り得ると考える.
6.3 まとめ
本章では,TPの応用活用について検討し,ターゲットユーザの拡張と教育ツールへ の転用について議論した.
ターゲットユーザの拡張については,専門家と幼児におけるTPの利用を検討した.
専門家については,細かいレベルでの調整が要求されるため,微調整のしやすいTPの 調整手法は有効的に活用できる可能性を指摘した.一方,幼児については,TPの混色 操作やグラデーション機能により,幼児たちに多くの色に触れる機会を提供することが でき,幼児たちの色彩感覚を豊かにするツールとして期待が持てる.しかし,幼児の認