第 2 章 紙とコンピュータによる幼児の描画行動の比較分析
2.6 分析結果
2.6.1. 一般的な描画特性
表2.6 使用した色の数 (使用色数/各ツールの提供色数) ツール
被験者 P T1 T2 T3
A 5/12 4/14 2/8 3/8
B 3/12 2/14 4/8 2/8
C 2/12 5/14 4/8 4/8
D 5/12 9/14 8/8 5/8
平 均 3.8/12 5.0/14 4.5/8 3.5/8
【実描画行動の時間】
描画時間内に,線を描く,色を塗る,スタンプを押すなど,実際に手を動かして描画 している時間(表 2.4 の「Object の描画」の「描画」カテゴリーの結果)の割合を表
2.7(a)に示した.ツールによる有意差は認められず,3 割の時間が描画以外の行動に費
やされている.
また,注目点が描画画面上にある時に,実際に描画を行っていた割合を調べた.表
2.4の「Objectの描画」の「描画」と「注目点」の「絵」の結果を対応させ,その割合
を表2.7(b)に示した.やはりツールの種類による差はなく,ノンパラメトリック検定法
の一つであり,2つの水準差を検定する手法のウィルコクスン検定[16]の結果からも有意 差は認められなかった.
表2.7 描画行動の割合
(a) 描画時間内の描画行動の割合 ツール
被験者 P T1 T2 T3
A 55% (52/95) 66% (39/59) 70% (40/57) 70% (69/99) B 70% (44/63) 70% (21/30) 64% (28/44) 55% (17/31) C 75% (9/12) 75% (21/28) 81% (38/47) 70% (26/37) D 65% (43/66) 58% (57/98) 69% (64/93) 71% (75/105)
* [ 「Objectの描画」カテゴリーにチェックがあった回数 / (描画時間) ]
(b) 注目点が描画画面にある時の描画活動の割合 ツール
被験者 P T1 T2 T3
A 69% (52/75) 89% (39/44) 91% (40/44) 84% (69/82) B 85% (44/52) 88% (21/24) 80% (28/35) 85% (17/20) C 82% (9/11) 88% (21/24) 97% (38/39) 81% (26/32) D 74% (43/58) 80% (57/71) 88% (64/73) 95% (75/79)
* [ 「Objectの描画」カテゴリーにチェックがある回数 / 注目点が描画画面にある回数 ]
【過去のObjectに対して追加描画】
表 2.4の「描画対象」の「過去の対象」のカテゴリーは,過去に描いた絵(Object)に 対して追加描画をした回数を示す.ここで,「Object」とは,描画対象を意味し,一つ の集合で意味を持つ場合を1Object とする.例えば,ウサギを2匹描画した場合は,
2Objectとなる.分析結果より,過去のObjectに対して追加描画を行ったのは被験者A
の紙での描画における1回しか観察されなかった.小学児童や大人においては,過去の 対象への追加描画行動が顕著に見られている[11, 17].更なる調査が必要であるが,これら の先行研究との比較より,幼児の描画では,用いた実験ツールや描いた Object数に関 係なく,過去の対象へ追加描画するという行動は,比較的行なわないと考えられる.
【注目点:絵 vs. パレット/クレヨン】
描画時間内に,ツールアイコン,色アイコンまたはクレヨン(以後,この3つをまと めて「パレット等」と記述する)に注目があった時間,描画画面 (絵)に注目があった時 間の割合(%)を表 2.8 に示した.本実験では幼児の注目点の移動が速く,一つの観察単 位内に「クレヨン」から「絵」というように二つの領域を移動する傾向が頻繁に見られ た.そこで,注目点に関しては観察単位内に「クレヨン」,「絵」,「その他」に重複して チェックをした.そのため,「描画時間=パレット等+描画画面(絵)+それ以外」と いう式には当てはまらず,表では平均値の和が100%を超える場合もある.
表から,ツール・個人に関係なく,パレット等より描画画面を長く見ていることがわ かる.この注目点の時間割合は,ウィルコクスン検定の結果より,有意差が認められた.
パレット等より描画画面を長く見ることは,当然の結果と思われるが,パレット等を見
表2.8 描画中の注目点
パレット等を見ていた時間の割合(%) 描画画面を見ていた時間の割合(%)
P T1 T2 T3 P T1 T2 T3
A 39 (37/95)
14 (8/59)
23 (13/57)
28
(28/99) A 79 (75/95)
75 (44/59)
79 (45/57)
84 (83/99) B 27
(17/63)
33 (10/30)
48 (21/44)
61
(19/31) B 83 (52/63)
80 (24/30)
80 (35/44)
65 (20/31) C 17
(2/12)
29 (8/28)
32 (15/47)
41
(15/37) C 92 (11/12)
86 (24/28)
83 (39/47)
86 (32/37) D 30
(20/66)
37 (36/98)
37 (34/93)
46
(48/105) D 88 (58/66)
72 (71/98)
78 (73/93)
75 (79/105)
平均 34% 平均 80%
(各注目点の回数 / 描画時間)
ている時間は30%にもなる.T2,T3では図形ツールやスタンプも含まれるが,図形ツ ール等の使用頻度は少なく,また,クレヨンやペンツールしか持たないT1においても,
3割近くに達している.幼児の描画活動において,色の選択は重要な活動であると考え られる.