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第 7 章 結論

7.2 創作システムの未来像

創作活動においては,“手間”が重要であると考える.

創作作業におけるコンピュータ利用は,以前では,高度な専門知識を持つ専門家が中 心になされていた.しかし,コンピュータ技術,インタフェース技術の進歩により,子 供やお年寄りといったコンピュータ操作を熟知していないユーザでも扱えるようにな った.ユーザは,簡単に,高度で効果的な表現を用いた作品を制作することが可能とな った.創作システムは,機能性,操作性ともに充実してきていると考える.

しかし,何か新しいものを作り出すという創作活動においては,新しいものを生み出 す苦悩や,模索する過程が大切である.模索する中で,失敗や成功を経験し,その過程 で得られた知識・アイディアを反映させ結果としてより良い作品が作り上げられる.現 状の創作システムでは,機能性,操作性が充実する一方で,この創作過程の簡素化が見

創作過程の簡素化により,ユーザが持つ個性や独自の表現力の欠落したケースが,本 研究の第2章においても見られた.紙とコンピュータによる描画行動を比較するため実 施した予備実験の作品結果(2.3.3節,pp.12)を見ると,図2.1のクレヨンによる描画 では,被験者の力強い線によって,被験者のイメージするライオン像が表現豊かに描か れている.一方,図2.3の多機能を持つ描画ソフトによる描画では,自分で線を描くと いう操作がなくなり,備わっている図形ツールとスタンプ機能だけで作品を仕上げてい る.クレヨンのように,イメージしたものを自己流に表現する被験者独特の表現がなく なった.これは,クレヨンでは,イメージしたものを描きたい順にイメージどおりに描 き上げていたのに対し,描画ソフトでは,最初に書きたいものをイメージするのではな く,図形ツールやスタンプを選択して,絵の上に置いてか何を描くか決めているようで あった.

描画では,幼児たちが見たり,聞いたり,感じたことをまとめ,試行錯誤し自分なり の表現方法を見つけ,表現することが大切である.描画ソフトの図形ツールとスタンプ での描画は,パズルのように組み合わせて作る創作に変化している.パズルの創作には,

パズル特有の創造性を育成する効果がある.しかし,本件の場合,描画本来の頭にイメ ージしたものを独自の感性で表現する過程が欠落している.本当の意味で幼児の描画支 援を行うのであれば,描画活動において重要であるこの様な創作過程を排除するのでは なく,創作過程という“手間”をより効果的に提供するシステムが必要と考える.

本研究で提案した混色作成システムTPは,混色する過程を重要視し,混色という手 間をかけて色を作り出すシステムを提案した.色を選ぶという点では,マウスをクリッ クすれば選択できるインタフェースの方が,簡単に操作できユーザビリティには優れて いるかもしれない.しかし,混色という手間をかけた創作過程を通じて,色彩の変化の 中からの新しい発見や偶発的にできた期待以上の色,また,試行錯誤の上やっと出来た 色などを経験できる.経験から得られた知識は,柔軟性を伴い,次回の混色や今までの アイディアにない色を生み出す創作に役立つ.

ユーザの創造性や感性の育成において大切と思われる行動に関しては,あえて手間を 与える,これが本当の創作支援となり,結果的にユーザの創造的活動を促進させると考 える.コンピュータの創作ツールにおける役割は,この“手間”を効果的にユーザに提 供する道具となることであり,今後,創作システムに望まれる支援であると考える.

謝 辞

本研究の全過程を通して,直接懇切なるご指導,御鞭撻を請け賜わりました日本放送 協会放送技術研究所企画総務副部長・比留間伸行博士,電気通信大学大学院情報システ ム学研究科基盤ソフトウェア学講座・多田好克教授に衷心より深く感謝致します.

本研究の遂行にあたり,暖かい励ましとご指導を頂いた電気通信大学大学院情報シス テム学研究科,データベース学講座・星守教授に厚く御礼申し上げます.

本研究の機会を与えて下さり,実習生として迎え入れて頂きました日本放送協会放送 技術研究所人間・情報部長・伊藤崇之博士,同所人間・情報,認知科学グループの皆様 に厚く御礼申し上げます.本研究の遂行にあたり,同所人間・情報,認知科学・森田寿 哉主任研究員より,種々の貴重なご助言と御鞭撻を頂いた.実験の準備等にあたっては,

同所人間・情報,認知科学・小峯一晃専任研究員にご協力頂いた.深く感謝致します.

また,同所研究主幹・佐藤史朗博士には,本論文をまとめるにあたり,終始変らぬ暖か い励ましとご指導を頂いた.厚く御礼申し上げます.

電気通信大学大学院・佐藤喬助手,多田研究室の学生の皆様には有意義なご意見を提 供して頂いた.皆様のご支援,ご協力に深く感謝致します.さらに,電気通信大学大学 院情報システム学研究科・渡辺俊典教授,出澤正徳教授,小池英樹教授より専門的な見 地よりご指導,ご助言を頂いた.厚く御礼申し上げます.

また,本実験の被験者として快くご協力くださり,貴重なデータを提供してください ました被験者の方々に感謝致します.

最後に,研究の遂行と本論文の執筆において,様々な面で日々支えてくれた家族に心 より感謝いたします.

参考文献

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[34] 石村貞夫:すぐわかる統計処理, 東京図書, 2000.

[35] Viscuit:http://www.viscuit.com [36] Squeak:http://www.squeak.org

本研究に関する発表論文等

● 論文

[1] 千川文子, 比留間伸行, 多田好克:幼児の紙とコンピュータでの描画比較に関す る定量的な行動分析, 日本デザイン学会研究論文集, Vol.55, No.3, 2008(2008年 9月号掲載予定).(第2章の内容)

[2] 千川文子, 比留間伸行, 多田好克:創造的制作作業に適したカラーパレット”Tile Palette” の 提 案, ヒ ュ ー マ ン イ ン タ フ ェ ー ス 学 会 論 文 誌, Vol.9, No.3, pp.325-334, 2007.(第3章, 第4章, 第5章の内容)

● 国際会議発表

[1] A. CHIKAWA, M. IWATA, S. TANO:Quantitative Analysis of Infant's Computer-supported Sketch and Design of Drawing Software, 6th Asian Design International Conference, 2003, 10.(第2章の内容)

[2] A. CHIKAWA, N. HIRUMA, Y. TADA:Proposal of “Tile Palette” as a Color Palette on Display, The 14th International Display Workshops, 2007, 12.

(第4章, 第5章の内容)

● 国内学会発表

[1] 千川文子, 岩田満, 田野俊一:紙へのスケッチとコンピュータを用いた描画にお ける創造性への影響, ヒューマン・インタフェース・シンポジウム2000論文集, pp. 219-222, 2000.9.(第2章の内容)

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