第7章 物流貿易促進に係る JICA 支援事業案の検討
7.1 政策の方向性とプロジェクトの優先順位付け(ヨルダン)
7.1.1 SWOT 分析
表 7.1 ヨルダンのSWOT分析 強み
• 戦略的地域拠点としての地政学的地位
• 安定した政治情勢と近隣諸国との良好な 政治関係
• 近隣諸国との良好な通商および経済関係
• 高品質な輸送インフラ(道路)
• 南北回廊と東西回廊の交流点
• グローバル市場への地域的な玄関口とし てのアカバ港
• アカバ港のコンテナ取扱いの比較的高い 効率性
• NAFITH が提供する高品質の貨物マッチ
ングサービス
• 現代的な税関制度
弱み
• 脆弱なトラック産業(個人ドライバーの 増加とトラックの過剰供給)
• 貨物トラックの古さ、低品質、脆弱性
• 道路輸送への依存(バルク輸送でさえも 鉄道の使用が限定的)
• アカバ(および西岸)以外のコンテナの入 境制限
• 通関や貨物取扱いの能力の限界(スキャ ナ不足、国境処理能力の低さ、面倒な手続 き)
• 輸送インフラ整備と改修に要する時間の 長さ
• 輸送部門への限られた公共投資
• KHB国境での交通渋滞
• イ ス ラ エ ル と 西 岸 の国 境で の Back-to-Back輸送の強制(高いコスト、長い時間、
商品への損害)
• 国境の交差点での冷蔵施設の不在 機会
• イラクとの国境再開
• シリア、イラクにおける復興需要
• シリア復興の基地としてのマフラック物 流ゾーン(空港を含む)
• イスラエル港湾の拡大
• ハイファハブ(イスラエル~サウジ回廊開 発)
• 4つの国境(KHB、ジャベール、カラマ、
オマリ)と主要な輸送ルート(南北回廊と 東西回廊)に沿った交通需要の増加
• 交通・物流における開発パートナー、官民 組織の高い関心
• 国内および周辺市場の人口増加
• アジア・東アジアにおけるイスラム市場の 成長
• 5 つの鉄道改善計画を含む2018 年の国家 輸送マスタープランの準備
• NEOM開発のアカバへの裨益
脅威
• 近隣諸国の政治的不安定性
• シリアとの国境閉鎖
• サウジアラビア/カタールとサウジアラ ビア/イエメンの国境の閉鎖
• セキュリティリスク(例えば、国境でのテ ロ)
• 周辺国との物流サービス互換性の維持に 必要な支出の高さ
• 地域市場におけるトルコ、イランとの競 争
(1) 機会・強さの分析(強みを使って機会を活かす)
ヨルダンは、中東地域における地政学的な有利性と紅海へのアクセスを有しており、地域 の物流ハブとして位置づけられる。イラク、パレスチナ、シリアなどへの地域貿易ネットワ ークと、欧州、湾岸諸国、アジアなどの主要周辺市場にとって中心となり得る国である。ヨ ルダンには2つの主要な物流回廊が存在する。
南北回廊(シリア・イラクからヨルダン、アカバへ抜ける回廊)は、国内および地域経済 を支える国土幹線輸送網の主軸である。最近のシリアとイラクとの国境閉鎖により交通量 が減少したが、これらの国々では再建・復興が予想されており、交通量の増加が期待できる。
特に、南北回廊沿いのマフラック地域は、シリア、イラク復興のための物流ハブとして開発 される可能性がある。これに対応して、運輸省は現在、この機会を活用した国家運輸マスタ ープラン(例えば、南北の鉄道路線の開発)について見直しを行っている。物流改善に関す る事業案(ドライポートの導入など)を組み込むには最適のタイミングと言える。しかし、
南北回廊の強化に要する資金は不足している。
ヨルダンにおけるもう一つの主要な物流回廊は、イスラエル・パレスチナからヨルダンを 介してサウジ・GCC 諸国と結ぶ東西回廊である。本調査では、サウジアラビアとの国境で あるオマリを通過する交通量が最も増加すると予測した。一方で、イスラエルのハイファと シェイクフセイン橋(SHB)間の鉄道線の建設、サウジアラビア資金によるヨルダン国内の 道路改修など、近隣の国々からのインフラ投資が既に進められている
前述したように、シリア復興は、これら両回廊を活性化させる重要な要因である。復興拠 点は、ヨルダンの既存インフラを活性化するだけでなく、ヨルダン国民とシリア難民への雇 用創出拠点となる。復興プロセスの支援は、地域における平和と安定に寄与する。
強みを用いて機会を活かすために、以下の戦略を策定した。
南北回廊物流の強化(戦略1) 及び
支援復興に資する物流(戦略2)
(2) 機会・弱みの分析(機会を活かして弱みを克服する)
ヨルダン貿易円滑化と物流システムの強化が進まない理由の一つとして、トラック業界 における多くの制度的および企業の能力制約がある。トラック業界の大部分が個人事業者 によって運営されており、業界は断片化し競争力がない。トラックの過剰供給と輸送料金の 低下によって、事業拡大ができず、所有者・事業者の収益性を低下させている。収益性悪化、
運用効率の低下は、トラック車両自体の弱体化をもたらし、多くのトラックは国際間輸送に 必要な安全性などの品質を満たしていない。これらの結果、Back-to-Back(国境における積 み替え)には手間と時間がかかる。国境再開と復興需要に伴う交通量の増加が予想されるに もかかわらず、トラック輸送業界の現状(例えば、高い運行コスト、非効率的で古い国境施 設、限られたコンテナ取扱能力等)は、この成長のペースを制限することになる。今後のト ラック産業の機会を活用するためには、トラック業界の再編(健全な中小企業への集約など)
が急務である。同時に、予測された交通量増加は、周辺地域からの流入期待に基づいており、
この効果を確保するため通関手続きとトランジット運行効率を高めて、ヨルダン周辺地域 を接続するシームレスな陸上輸送を実現することにより、ヨルダンの運転手は近隣諸国で 操業できるようになり、また地域全体での輸送・貿易による利益を最大化できる。
機会を活かして弱みを克服するために、以下の戦略を策定した。
トラック輸送業界の制度・能力の強化(戦略3) 及び
国境運用の効率性の向上(戦略4)
(3) 脅威・強みの分析(強みを活かして脅威を回避する)
本地域におけるテロは、ヨルダンにとって、特に近隣諸国との貿易・地域輸送におけるリ スクである。この安全保障上の問題により、イラクとシリアとの国境が閉鎖され、陸運業界 を中心としてヨルダン経済に多大な損害が発生した。しかしヨルダン特有の地政学的な安 定性・地位は、そのようなリスクに向き合った状況でも、地域物流ハブとしての機能を際立 たせる可能性がある。開発パートナーは、ヨルダンの貿易円滑化と物流インフラの支援を行 ってきたが、域内物流網の安定性とサプライチェーンを確保するためのサポートは引き続 き必要である。
ヨルダンを地域物流ハブにするには、2つの要素がある。1つ目は、貿易に関する法制上 の枠組みを通じて、周辺国規定との調和を図ることである。車検、通関、イミグレ制度、検 疫(CIQ)、食品衛生、植物検疫等の規定について周辺国と統一・調和を進めることで、どの 国と貿易しても適合できる環境を作るのである。もう一つの要素は、アカバ港のコンテナ取 扱いの高効率化を活用して、アカバを世界市場への地域玄関口としてさらに発展させるた めに、引き続きアカバ港の能力増強に取り組む必要があろう。
強みを活かして脅威を回避する視点から、以下の戦略が抽出できる。
地域物流ハブとしてのヨルダンの潜在力の向上(戦略5)
(4) 脅威・弱みの分析(弱みを最小化して、最悪の状況を回避する)
国際的な輸送における様々な障壁(例えば、テロ懸念、国外への乗り入れ、ビザ取得の難 しさ・高コスト)のため、ヨルダン人運転手はヨルダン国外で運転に従事することが難しい 状況になっている。地域の不安定さと情報の欠如(例えば、越境手続きの変更、通行規制に 関する情報不足、検査の重複など)や、国境再開可能性は、引き続きヨルダンのトラック業 界に悪影響を与える可能性がある。しかし、これらの弱点は、前のサブセクションで策定さ れた5つの戦略によって最小限に抑えることが出来ると考えられる。但し、(アカバコンテ ナターミナルの利益確保のための)コンテナ入境のアカバ港縛りはヨルダン物流網の自由 度を引き続き下げることになるだろう。
7.1.2 戦略に基づくプロジェクト案の優先順位検討
6 章で提示したプロジェクト群に対して、前節で提示したヨルダンにおける物流戦略(1
~5)への適合性を評価し、点数付けを行うことで、プロジェクトの優先順位を検討した。
検討結果を表 7.2に示す。