4.2 Bulk の寄与の入った時空の共形場理論
4.2.1 SL(2, C)/SU (2) coset 模型
この節では、H3+ 上の WZW 模型[46][47][48]を考える。SL(2, C)/SU(2) の coset 模型は群 SL(2, C) の要素を
h=
( e−ϕ+γ¯γeϕ eϕγ eϕγ¯ eϕ
)
(4.121) に制限したSL(2, C) WZW模型によって表すことができる[21][22]。実際に SL(2, C) WZW 模 型の作用にh を代入することで、
S= k 2π
∫
d2z(∂ϕ∂ϕ¯ +e2ϕ∂¯γ∂γ)¯ (4.122) が得られ、式(4.11)と一致する。したがって、SL(2, C)/SU(2)の coset 模型の作用は AdS3 上 の弦理論の作用とみなせる。
もともとのSL(2, C) のWZW模型の作用には g∈SL(2, C) に対して、
g→U(z)gV†(¯z), U, V ∈SL(2, C) (4.123) の対称性があったのだが、式(4.121)でh を hermitian に制限したせいで、左右の作用に対して 対角成分のみが対称性として残っている。
g→U(z)gU†(¯z), U ∈SL(2, C) (4.124) 群の生成子は Neother の定理でも求められるが、ここでは別の方法をとる。sl(2, C) Lie 代数の 生成子の2×2行列形式を次のように定義する。
T+=
( 0 0
−1 0 )
, T3 = 1 2
( 1 0 0 −1
)
, T−=
( 0 1 0 0
)
(4.125) このとき、current の生成子を次のように定義できる。
J0af(h) ≡ ( ∂
∂τf (
eτ Taheτ T¯ a†
))
τ=0
(4.126) J¯0af(h) ≡
( ∂
∂¯τf (
eτ Taheτ T¯ a†
))
τ=0
(4.127) 実際に計算することで、current は次のように書けることが分かる。
J0− =∂γ, J03=γ∂γ− 1
2∂ϕ, J0+=γ2∂γ−γ∂ϕ−e−2ϕ∂¯γ (4.128) J¯0− =∂γ¯, J¯03= ¯γ∂¯γ− 1
2∂ϕ, J¯0+= ¯γ2∂γ¯−γ∂¯ ϕ−e−2ϕ∂γ (4.129) ここで補助場(x,x)¯ を導入して、H+3 上の関数を分類することで理論を調べることにする。この (x,x)¯ はAdS3 空間の境界に存在する共形場理論の座標と解釈することのできる量である。(x,x)¯ を用いて、式(4.44)と同じように currrent を定義できる。
J−=− ∂
∂x, J3=−(h+x ∂
∂x), J+=−(2hx+x2 ∂
∂x) (4.130)
J¯−=− ∂
∂¯x, J¯3=−(h+ ¯x ∂
∂x¯), J¯+=−(2hx¯+ ¯x2 ∂
∂xj¯ ) (4.131) ここでh=j+ 1とした。−j とj+ 1が入れ換わっているが、これは後の議論に便利なようにす るためである。
次にsl(2, C)×sl(2, C) の Lie代数の元で、スピン(j,¯j) = (h−1,¯h−1)のような変換性を示 す関数fh,¯h(ϕ, γ,γ¯;x.¯x)を探すことにする。このとき、関数 fh,¯h(ϕ, γ,¯γ;x.¯x)は次の式を満たして いる。
[J0−, fh,¯h] = −∂xfh,¯h = ∂γfh,¯h
[ ¯J0−, fh,¯h] = −∂¯xfh,¯h = ∂¯γfh,¯h
[J03 , fh,¯h] = −(x∂x+h)fh,¯h = (γ∂γ−1
2∂ϕ)fh,¯h
[ ¯J03 , fh,¯h] = −(¯x∂x¯+h)fh,¯h = (¯γ∂γ¯−1
2∂ϕ)fh,¯h
[J0+, fh,¯h] = −(x2∂x+ 2hx)fh,h¯ = (γ2∂γ−γ∂ϕ−e−2ϕ∂¯γ)fh,¯h
[ ¯J0+, fh,¯h] = −(¯x2∂x¯+ 2hx)f¯ h,h¯ = (¯γ2∂¯γ−¯γ∂ϕ−e−2ϕ∂γ)fh,¯h
(4.132)
h= ¯h のときのみ解を見付けることができ、
fh,¯h ≡Φh = 1 π
( 1
(γ−x)(¯γ−x)e¯ ϕ+e−ϕ )2h
(4.133) となっている。実際に式(4.132)に代入することで確かめることができる。この関数は全てのx に おいて特異点を持たない関数となっている.
式(4.133)で求めた関数の性質を少し調べてみる。ϕ→ ∞ での振舞は、
Φh = 1 π
( 1
(γ−x)(¯γ−x)e¯ ϕ+e−ϕ )2h
∼ 1
2h−1e2(h−1)ϕδ(2)(γ−x) +O(e2(h−2)ϕ) + e−2hϕ
π(γ−x)4h +O(e−2(h+1)ϕ) (4.134) となり、2 つの系列に分けることができる。ここで、式(2.12)のようにDirac の delta 関数を定 義したときに、
δ(2)(z) = n−1 π lim
ϵ→0
ϵ2n−2
(ϵ2− |z|2)n (4.135) と書き表せることを用いた。両辺を積分することで証明できる。式(4.134)の2つの系列のうち、
γ ∼x のときには第一項が効いてくる。SL(2, C) の 2 次のCasimir は bulk の Laplacian とみ なすことができ[34]、この関数は x を AdS3 空間の境界の座標と思うと境界上にdelta 関数の supportが存在しているため、bulk から境界へのpropagater [13][14]と思うことができる。また、
x を AdS3 空間の境界の座標と思い、そこに共形場理論があるとすると式(4.132) の構成法から 分かるように、 Φh は時空の共形場理論においてconformal weight (h, h) の変換をする。
Φhi を用いて時空の共形場理論の場を表す演算子Vhiを構成する。 このとき、AdS/CFT 対応 からの提案として次のような相関関数が成り立つとできる。
<∏
i
∫
d2ziVhi(ϕ, γ,¯γ;xi,x¯i)>worldsheet=<∏
i
Vhi(xi,x¯i)>boundary (4.136)
一般の次元では重力理論の近似でしか扱えないが、AdS3/CF T2 対応の場合は弦理論を用いて比 較ができる。worldsheet上に演算子 Vhi(ϕ, γ,γ¯;xi.¯xi) が挿入した場合には、その演算子は境界近 くでは delta関数的な supportを持つため、worldsheet は挿入された場のところで境界にくっつ いているような状態になる。したがって、式(4.136) の弦理論側の計算は図4.1のworldsheet の 計算していることに対応している。
worldsheet x
x
1
2
図4.1: 演算子の挿入されたときのworldsheet
J0− =−∂x∂ 、J¯0− =−∂∂x¯ であることを利用して一般の演算子Θ(x,x)¯ をΘ(0)を用いて定義する。
Θ(x,x)¯ ≡e−xJ0−e−¯xJ¯0−Θ(0)exJ0−ex¯J¯0− (4.137) この定義のもとで、次のような値を定義する。
J+(x;z) = e−xJ0−J+(z)exJ0− = J+(z)−2xJ3(z) +x2J−(z) J3(x;z) = e−xJ0−J3(z)exJ0− = J3(z)−xJ−(z) = −1
2∂xJ+(x;z) (4.138) J−(x;z) = e−xJ0−J−(z)exJ0− = J−(z) = 1
2∂x2J+(x;z)
この 3つの演算子はx についての微分をしてやることで移りあうので、次の演算子で代表させる ことができる。
J(x;z)≡ −J+(x;z) =−J+(z) + 2xJ3(z)−x2J−(z) (4.139) J(x;z)の境界における共形場理論におけるconformal weightはxについてのべきを数えることで 求められ、(−1,0)となっている。反正則な部分も同様に作ることができる。J0(x)によるΦh(y,y)¯
に対する作用は、式(4.132)を利用することで求められ、
[J0(x),Φh(y,y)] = [(y¯ −x)2∂y+ 2h(y−x)]Φh(y,y)¯ (4.140) となる。
current は式(2.121)から式(4.125)のsl(2, C) のLie 代数の生成子を用いると、
J(z) = ηabJaTb = −k 2∂hh−1
= −k 2
( −∂ϕ+γe2ϕ∂¯γ −γ2e2ϕ∂γ¯+ 2γ∂ϕ+∂γ e2ϕ∂γ¯ ∂ϕ−e2ϕγ∂¯γ
)
(4.141) とできる。したがって、
J−(z) = k(e2ϕ∂¯γ)
J3(z) = k(−∂ϕ+γe2ϕ∂¯γ) (4.142) J+(z) = k(−γ2e2ϕ∂γ¯+ 2γ∂ϕ+∂γ)
となる。この表式を用いることで、式(4.139)は次のように書き表すことができる。
J(x;z) =k[(x−γ)2e2ϕ∂¯γ+ 2(x−γ)∂ϕ−∂γ] (4.143) 最後に後の議論で役に立つ演算子を定義しておく。J¯(¯x; ¯z)Φ1(x,x;¯ z,z)¯ を計算すると、次の様 にまとめられる。
π
kJΦ¯ 1 =∂¯zΛ (4.144)
ただし、
Λ =− 1 γ−x
(γ−x)(¯γ−x)¯
(γ−x)(¯γ−x)e¯ 2ϕ+ 1 (4.145) とした。Φ1 の conformal weight が (1,1) で、 J¯のconformal weight は (0,−1)なので、Λ の conformal weight は(1,0) となっている。今作った新しい演算子 Λ が SL(2)×SL(2) の対称性 のもとでどのような変換を示すかを求めてみる。Φh(y,y)¯ に対する作用を求めたときと同様に式
(4.132)を利用することで次のような変換性が得られる。
[J0(x),Λ(y,y)]¯ = [(y−x)2∂y+ 2(x−y)]Λ(y,y)¯ −1 (4.146) [ ¯J0(¯x),Λ(y,y)]¯ = (¯y−x)¯ 2∂y¯Λ(y,y)¯ (4.147) したがって、定数分のずれが生じてΛ はよい演算子にはなっていないことが分かる。ただし、一 回微分してやると定数分を消すことができるので、∂z¯Λ はよい演算子になっている。このことは 弦理論においてもX 自体はlogの特異点を持ってしまうことからよい演算子になっていないのだ が、∂zX はよい演算子になっていることに対応している。
今までは古典論的な取り扱いをしてきたのだが、ここから量子論に持っていくことを考える。そ のとき、current は式(4.48)のOPEを満たす。primary state Φh は次のようなOPEを満たすも のとして定義する。
J−(z)Φh(x,x;¯ w,w)¯ = −∂xΦh(x,x;¯ w,w)¯ z−x
J3(z)Φh(x,x;¯ w,w)¯ = −(x∂x+h)Φh(x,x;¯ w,w)¯
z−x (4.148)
J+(z)Φh(x,x;¯ w,w)¯ = −(x2∂x+ 2hx)Φh(x,x;¯ w,w)¯ z−x
zero mode の寄与のみを考えると古典論の場合と一致する[47]。decendant は primary field に J(x;z) あるいはそのx についての微分を作用することで作ることができる。エネルギー·運動量 テンソルもいつもと同じように構成できて、primary field は worldsheet 上の共形場理論に対し て、conformal weight
∆h = ∆¯h=−h(h−1)
k−2 (4.149)
を持つ状態となっている。式(4.139)の表式を用いることで、current 同士の OPE (4.48)は J(x;z)J(y;w) =k(y−x)2
(z−w)2 + 1
z−w[(y−x)2∂y−2(y−x)]J(y;w) (4.150) とまとめ直すことができる。current とprimary field のOPEも同様にまとめられて、
J(x;z)Φh(y,y;¯ w,w) =¯ 1
z−w[(y−x)2∂y+ 2h(y−x)]Φh(y,y;¯ w,w)¯ (4.151) となる。ここで注目したいのは、J(x)Φh(x,x)¯ は特異点を持たないということで、そのため、式 (4.144)で定義される∂¯zΛ = (π/k) ¯JΦ1 はprimary stateになっていて、量子論でも成立する式と なっている。
primary state Φh の性質は調べられていて[47][48]、相関関数やOPEも知られている。ただし、
非常に複雑になってしまうので、このあとの議論で用いる次の形を引用しておくにとどめる[49]。
zlim→wΦ1(x,x;¯ z,z)Φ¯ h(y,y;¯ w,w) =¯ δ(2)(x−y)Φh(y,y;¯ w,w)¯ (4.152) ただし、表現として discrete series D+ を用いた。OPEがdelta 関数的な係数を持ち得るとこは
SL(2, C) 不変性からも示すことができて、このdelta 関数のおかげでこの後構成する時空の共形
場理論のcurrentが、時空の共形場理論の座標に対して特異点を持たせることができる。