第 3 章 反ド · ジッター空間とその性質 36
3.2.2 Chern-Simons 理論
この節では、前節で導入した多脚場とスピン接続を用いて3 次元重力理論がChern-Simons 理 論に帰着できることを示す[18][19]。3 次元の負の宇宙定数(Λ =−2/l2)を持った物質のないとき の作用は次のようになる。
S = 1 16πG
∫ d3x√
g (
R+ 2 l2
)
(3.39)
計量はEuclidean であるとして、Gを3次元におけるニュートン定数とした。運動方程式は計量
で変分をとることで求められ、
Rµν = 1
2Rgµν− 1
l2gµν (3.40)
となる。リーマン曲率テンソルRµνρσは添字を前 2 つ(µν) 後ろ2 つ (ρσ) ずつ組にすると、そ れぞれの組の中の添字の入れ換えに対して反対称なので、独立な成分は3 つずつとなる。組と組 の入れ換えに対しては反対称なので、運動方程式と同じ数の成分をもっていることが分かる。し たがって、運動方程式からリーマン曲率テンソルRµνρσ を決めることができ、
Rµνρσ =−1
l2(gµρgνσ−gµσgνρ) (3.41) となる。実際に運動方程式に代入することで成り立っていることが分かる。
次に式(3.39)の作用を前節で定義した多脚場とスピン接続を用いて書き直す。第一項はepsilon
tensorの公式
ϵµνλϵαβλ = 1
2(δαµδνβ−δανδµβ)
eϵαβλ = ϵabceaαebβecλ (3.42) を利用すると、
∫ √ gR =
∫
eδαµδβνRαβµν
= 1 2
∫
eϵµνλϵαβλRαβµν
= 1 2
∫
ϵµνλϵabcRαβµνeaαebβecλ
=
∫
ϵabcRαβec (3.43)
と書き換えることができる。第二項も同様に計算することができて、両方を合わせると、
S= 1 16πG
∫ ϵabc
(
Rab+ 1 3l2eaeb
)
ec (3.44)
となる。
今3 次元なので、epsilon tensor を用いることで次のような量を定義することができる。
ωa=−1
2ϵabcωbc, Ra=−1
2ϵabcRbc (3.45)
2 つの量からRa=dωa+12ϵabcωbωc と書き直せることが分かる。今定義した量を用いてAa、A¯a という量を次のように定義する。
Aa=ωa+i
lea, A¯a=ωa− i
lea (3.46)
逆に解き直すと、
ωa= 1
2(Aa+ ¯Aa), ea =−il
2(Aa−A¯a) (3.47)
となることを利用して、式(3.44)をAa、A¯aで書き表すと、
S= 1 16πG
∫ [il
2(AadAa+1
3ϵabcAaAbAc)−il
2( ¯AadA¯a+1
3ϵabcA¯aA¯bA¯c) ]
(3.48) となる。
anti-hermitian のSU(2)の生成子を導入して作用を更に書き換える。
T1= i 2
( 0 1 1 0
)
, T2= i 2
( 0 −1 1 0
)
, T3 = i 2
( 1 0 0 −1
)
(3.49) 交換関係は[Ta, Tb] =ϵabcTc となっている。また、Tr(TaTb) =−(1/2)δabとなっている。ここで、
次のような場を導入する。
A=AaTa, A¯= ¯AaTa (3.50) この場を利用して式(3.48)を書き換えると、次のように A のみによる作用と A¯ のみによる作用 とを分離することができる。
S =iI[A]−iI[ ¯A] (3.51)
ただし、I[A]は次のような作用である。
I[A] = k 4π
∫
Tr(AdA+2
3AAA) (3.52)
この作用はChern-Simons 作用と呼ばれるもので、 今 level k=− l
4G (3.53)
を持っている。Aa、A¯aが複素数となっていたので、場A、A¯の群はSL(2, C)となり、non-compact になっている。Chern-Simons 作用 の運動方程式はEinstein方程式に対応しているが、
Fa= 0, F¯a= 0 (3.54)
となっていて、考えている多様体の内部にあたるbulkには自由度が存在していないことが分かる。
次に一般のChern-Simons理論において、境界にaffine Kac-Moodyの対称性の存在することを示 す。作用(3.52)をHamilton形式にするために、時間方向と空間方向を分離して、Aa=Aa0dt+Aaidxi
とする。ここで、a, b,··= 1,2,· · ·, N とする。ただし、N は群G の次元とした。このとき作用 (3.52)は、
I = k 8π
∫ dt
∫
Σ
ϵijδab(AaiA˙bj −Aa0Fijb) (3.55) と書き直すことができる。ただし、Σはxi ではられる2 次元空間とする。
Aa0 は時間微分を含んでいないため補助場となっていて、Aa0に対する運動方程式を解くことに よって、
Fija = 0 (3.56)
という式が得られる。したがって、δAai =Diλa というゲージ変換に対して理論が不変であること が分かる。Aai は物理的な自由度となり、次のpoisson 括弧を満たす。
{Aai(x), Abj(y)}= 4π
k ϵijδabδ(x−y) (3.57)
物理的な場はAai だけなので、自由度は2N 個ある。ただし、Fija = 0という制約がかかるので、
自由度は2N −N =N 個になる。ゲージ変換による同一視を考えると、自由度はN−N = 0 個 になり、物理的な自由度が存在しないことになってしまう。ただし、今多様体に境界のある場合 を考えているため、ゲージ対称性が境界の寄与によって破れてしまっている。Fija = 0を満たして いても、境界で異なる Aai 同士は移りあうことができない。
次に実際に境界にある自由度を調べることにする。群の生成子をTaで表し、先に定義したSU(2) の生成子の規格化とあわせるために、Tr(TaTb) =−(1/2)δabと決める。∫Σ=−2∫ΣTrと定義し直 して式(3.55)を書き換えると、
I = k 4π
∫ dt
∫
Σ
(AA˙−A0F) (3.58)
となる。ただし、A =AaiTadxi、F =FijaTadxidxj とした。今、F = 0が成り立っているので、
ゲージ場A はpure gauge でかけ、
A=g−1dg (3.59)
となる。D=d+ [A, ]を用いると、δA=D(g−1δg)、A˙ =D(g−1g)˙ と書き直せることを利用す ると、δA だけずらした時の作用の変分は、
δI = − k 2π
∫ dt
∫
Σ
AδA˙
= − k 2π
∫ dt
∫
Σ
D(g−1g)D(g˙ −1δg)
= k
π
∫ dt
∫
∂Σ
Dγ(g−1δg)g−1δg
= k
π
∫ dt
∫
∂Σ
A˙γ
1
DγδAγ (3.60)
となる。ただし、ここで ∂Σは2 次元空間 Σの境界とし、δAγ、Dγはそれぞれ作用を境界上に 制限したものとする。γ は∂Σ のパラメーターとする。
この理論のpoisson 括弧は作用の変分から読み取ることができ、
{Aγ, Aγ}= 2π
k Dγ (3.61)
となる。
Aγ = 2 k
∑
n
Jneinγ (3.62)
とmode展開して、この逆
Jna=−2Tr(JnTa) =− k 2π
∫
∂Σ
(Aγe−inγTa) (3.63) に対するpoisson 括弧を計算すると、式(3.61)を利用することで、
{Jna, Jmb}=−ϵabcJn+mc +ink
2 δabδn+m,0 (3.64)
となる。poisson 括弧を交換子にかえて、−i倍すると、
[Jna, Jmb] =iϵabcJn+mc +nk
2 δabδn+m,0 (3.65)
となり、levelk のsu(2) affine Kac-Moody代数の生成子となっていることが読み取れる。