第 3 章 反ド · ジッター空間とその性質 36
3.3 BTZ ブラックホール
を定義する。この行列には逆が存在するので、Dirac 括弧を定義することができる。ここで、式 (3.65)をJn± を用いて書き直すと
[Jm+, Jn−] = kmδm+n,0+ 2Jm+n3
[Jm3, Jn±] = ±Jm+n± (3.88)
[Jm3, Jn3] = k
2mδm,−n
となることを用いた。行列C−1 を用いることで普通の交換子とDirac括弧に対応する交換子は次 のような関係をもつ。
[a, b]∗= [a, b] + n
2k[a, Jn+][J−+n, b] + 1
k[a, Jn+][J−3n, b]− 1
k[a, Jn3][J−+n, b] (3.89)
この Dirac括弧に対応する交換子を用いることで、Virasoro代数の交換関係
[Ln, Lm]∗ = (n−m)Ln+m− k
2n3δn+m (3.90)
を再現することができる。central chargeは
c=−6k (3.91)
となっている。式(3.53)からk=−l/(4G)という関係がついているため、ニュートン定数を用い てcentral charge を書き表すと、
c= 3l
2G (3.92)
となる。この解はVirasoro 解と呼ばれる。Brownと Henneaux [17]は計量の形式を用いて境界 でAdS3 空間となるような条件の元で、境界に存在する共形場理論のVirasoro代数の生成子を求 めた。計量を用いる方法と Chern-Simons 理論を用いる方法とは互いに入れ換えることができる ため、本質的にこの節で行ったことと同じことをしている。
となる。horizonはN(r) = 0の点に対応していて、実際に計算することで、
r±2 = 4GM l2
1±
√ 1−
( J M l
)2
(3.96)
と求まる。horizonが存在するためには、質量が正M >0であることと、BPS条件 |J| ≥M lを 満たしている必要がある。|J|=M lのときにはr+ =r− が成り立っていてextremal な状態に対 応している。Bekenstein-Hawking の公式からエントロピーを求めると、
S = Area
4G = 2πr+
4G (3.97)
となる。J = 0、M =−1/(8G) としてみると、
ds2=l2 (
1 +r2 l2
) dτ2+
( 1 +r2
l2 )−1
dr2+r2dϕ2 (3.98) となり、式(3.16)の式と一致している。すなわち、角運動量がなく、質量が負のある決まった値 の時のBTZブラックホールはAdS3 空間そのものになっていて、特異点が存在していないことが 分かる。
今調べた BTZ ブラックホールを 第 2.2 節で調べた Chern-Simons 理論との関係を求めるこ とにする。そのためには、 Chern-Simons 理論から計量を使った方法に変換する必要がある。式 (3.47)から多脚場とゲージ場との関係はeaµ =−(il/2)(Aaµ−A¯aµ)となっており、式(3.21)から 多脚場と計量との関係はgµν =ηabeaµebν となっている。SU(2)の生成子Ta を用いてeµ=eaµTa
と定義したとき、
eµ=−i1
2(Aµ−A¯µ) (3.99)
と多脚場を行列形式で表すことがでる。計量はSU(2)の生成子のトレースがTr(TaTb) =−(1/2)δab となっていることから、
gµν =−2Tr(eµeν) (3.100)
を用いて計算することができる。
実際にVirasoro解を用いてBrown-Henneauxの共形場理論の Virasoro代数の生成子と計量と の関係を求める。Virasoro解のゲージ場を式(3.99)に代入すると、
ew = l 2
( 0 eρ e−ρ Lk 0
)
(3.101) ew¯ = −l
2
( 0 e−ρLk¯ eρ 0
)
(3.102) eρ = l
( i
2 0
0 −2i )
(3.103) となる。式(3.100)を用いて多脚場から計量に変換すると、
ds2= 4Gl(Ldw2+ ¯Ldw¯2) + (l2e2ρ+ 16G2LLe¯ −2ρ)dwdw¯+l2dρ2 (3.104)
となり、Virasoro代数の生成子を用いて計量を書き表すことができた。ただし、ここで式(3.53) のcurrent 代数の levelと3 次元の重力理論における変数との変換式 k=−l/(4G) を用いた。
Virasoro代数の生成子が定数のときがブラックホールに対応している。もしVirasoro代数の生
成子が torus上に定義されているならば、global にtorus上に定義することのできる関数は定数
のみである。ここで、次のように規格化を決めたとき、式(3.93)に一致することを示すことがで きる。
L0+ ¯L0 = M l = r2++r2−
8Gl (3.105)
L0−L¯0 = J = 2r+r−
8Gl (3.106)
式(3.93)と比較するためには変数変換をする必要がある。そこで、
w=ϕ+it (3.107)
として、radial方向を
r2 =r+2 cosh2(ρ−ρ0)−r2−sinh2(ρ−ρ0) (3.108) とする。ρ0 は
e2ρ= r+2 −r−2
4l2 (3.109)
を満たすとする。このような座標を選ぶことによって、l2dρ2=N−2dr2 の性質を持たせることが できる。実際にこれらの座標変換を行うことによって、式(3.104)の計量が式(3.105)と式(3.106) の元で、式(3.93)の計量と一致することが示される。
式(3.105)と式(3.106)によって、Brown-Henneauxの共形場理論のVirasoro代数の生成子と、
ブラックホールの質量と角運動量との関係をつけることができたので、式(2.87)のCardyの公式
を用いてBrown-Henneauxの共形場理論の立場からブラックホールのエントロピーを求めてみる。
Cardy の公式は
S(L0,L¯0)∼2π
√ cL0
6 + 2π
√ cL¯0
6 (3.110)
で、共形場理論のcentral charge は式(3.92) c= 3l
2G (3.111)
なので、これらの式を元にしてエントロピーを計算すると、
S ∼ 2π
√
l(M l+J)
8G + 2π
√
l(M l−J) 8G
=
√ π2
2Gl(2M l+ 2√M l2−J2)
= 2πr+
4G = Area
4G (3.112)
となり、Bekenstein-Hawking の公式を用いて計算した値と一致している。このことはbulk の情 報が境界にある共形場理論から得られることを示唆しており、反ド·ジッター空間のbulk の情報 とその境界にある共形場理論の情報か対応しているという AdS/CFT 対応[12][30][34]になって いる。
境界にある共形場理論は effective には Liouville 理論[35] で表すことができ、そのときには cef f = 1 を用いるべきという議論もある[36]が、Liouville理論で表すときにはAa とA¯a を組み 合わせて新しく場を定義し直しているため、自由度が落ちてしまっておりエントロピーの議論を する際にはLiouville理論に帰着させる方法は向いていないと思われる[19][37]。