• 検索結果がありません。

34 3-4 考察

3-4-1 窒化処理による析出挙動

Cr添加量による軟窒化後の板厚方向の硬度分布を図3-5に示す。最表層面の硬度はCr添加

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

Distance from surface /mm

ΔHv(500g)

base 0.5Cr 1Cr

図3-5 Cr添加量に伴う軟窒化処理(570℃×1hour)後の硬度分布

0 100 200 300 400 500 600 700 800

10000 100000 1000000 10000000 100000000

35

量の増加に伴い高い値を示すが、深さ方向の硬度分布については、Cr 添加量が少ない方がより 深い位置まで硬化しており、無添加鋼が最も深くまで窒化が進んでいる。また、Cr 無添加の base 鋼とは明らかにその硬度分布が異なることから、軟窒化処理によって生じる板厚方向の析出物分 布の相違によるものと推察される。

そこで、こうした軟窒化処理後に生じる硬度分布の原因を解明するために、1Cr鋼について 板厚方向における析出物の析出状況を調査した。表層下0.1mm及び0.8mmの部分から薄 膜を作成し、TEM観察を実施した。写真3-2には、表層下0.8mmの領域で観察された 析出物を示す。10nm程度の粒状の析出物(矢印)が多数観察され、格子回折像よりCu粒子 と推定された。また、写真3-3には、表面下 0.1mm の領域で観察された析出物を示す。

中心層部分で観察された析出物とは形態が全く異なり、格子回折像より(001)方位と平行に 析出した板状の析出物が観察された。したがって、板厚方向で表層部と中心部では観察さ れる析出物が異なる。

写真3-2及び3-3で観察された析出物の析出状況を詳細に調査するため、1Cr鋼の同 じ窒化処理材から針状のサンプルを作製し、3D-APによる調査を実施した/10/。図3-6に

表面下0.8、0.28及び0.16mmの位置における元素マッピングの結果を示す。表面下0.8mm

の部分では、写真3-2でも示したように10nm程度のCu粒子のみが分散していることが 確認された。一方、表面下0.28mmではCr窒化物が析出しており、その窒化物は全て析出 Cu と対になっていることがわかる。また、こうした窒化物の周りにおいては、明瞭な Cr の欠乏層は形成されていない。さらに、表面に最も近い領域として、表面下 0.16mmでの 測定結果を見ると、Crのほとんどが窒化物形成に寄与しており、とくにCuと対になって 析出し、その結果としてCr窒化物の周囲にはCrの欠乏層が形成されている。さらに板厚 方向の硬度分布は、析出するCuが表層からの窒素の拡散に伴ってCr窒化物とペアとなっ て析出することで安定化し、粒成長が抑制されたことにより析出強化に寄与したものと推 察される。このことは、図3-7に示すCuの析出に着目した3D-APによるマッピングか らもわかるように、明らかに表層部ではCuの析出は微細化し、オストワルド成長が抑制さ れていることが確認された。これは、岸田ら/7/が調査したように、570℃付近の温度域では Cu がすでに 1min 程度で析出していることから、窒化処理中にまずCu が析出し、Cr窒化 物がそれを核として析出したことに起因するものである/11/。したがって、このような Cu の析出挙動を考慮すると、窒化物を形成させる元素の種類とその添加量によって板厚方向 の硬度分布を制御することができるものと考えられる。

36

50nm

[100]

[001]

[010]

写真3-2 1Cr鋼の表層下0.8mmで観察された析出物(TEM)

写真3-3 1Cr鋼の表層下0.1mmで観察された析出物(TEM)

37

図3-6 軟窒化処理した1Cr鋼の3D-APによる元素マッピング

38 3-4-2 添加元素による表層部硬度分布の違い

図3-1に示したような添加元素による硬度分布の差が生じた原因として、各元素の窒 素との結合力の違いや、Cr窒化物の析出に誘起されたことが原因と推察される。すなわち、

宮本ら/12/の報告にもあるように、AlやVはTiと同様に窒素との結合力が非常に強いこと から、Cr窒化物よりも先に析出するものと推察される。そのため、1Cr-0.3V鋼や1Cr-

1Al -0.3V 鋼において、表層部硬度が1Cr 鋼よりも高く、とくに1Cr-1Al -0.3V 鋼で は、Cr窒化物の析出に誘起されてAl窒化物が析出したことにも起因するものと考えられる

/12/。また、両鋼の硬化層深さは、1Cr鋼と比較して浅く、とくに1Cr-1Al -0.3V鋼では、

0.2mm程度に留まっている。これは、Al窒化物が窒素の拡散を妨げるためとの推察もある

/13/。

3-4-3 窒化層深さに及ぼすCu添加の影響

前述したように、軟窒化処理によるCr窒化物の析出はCuの析出に影響を受けているも のと考えられる。そこで、軟窒化処理後の板厚方向硬度分布に及ぼすCu添加の有無による 変化を調査した。表3-3に示すように、極低炭素鋼をベース(steel1)として、Cr添加量を 0.15及び1mass%添加したsteel2及び3と、steel1にCuを添加したsteel4をベースとし て同様にCrを添加したsteel5及び6を真空溶解し、3-2に示した方法と同様に、熱間圧 延を行った。得られた熱延板について軟窒化処理として 570℃×3hourの軟窒化処理を実施

800mm 280mm 160mm

10nm

図3-7軟窒化処理した1Cr鋼におけるCuの析出状態

39

し、ビッカース(荷重:500gf)により板厚方向の硬度分布を測定した。得られた結果を図3

-8に示す。最表層部の最高硬度及び中心部の硬度に差は無いが、Cr添加量やCu添加の 有無によって深さ方向の硬度分布が異なっている。まず、Cr 添加量の影響として、

0.15mass%と少ない鋼(steel2及び5)では、最表層部から0.3mm程度の領域での硬度増加

量は少ない。しかし、1mass%に増加した鋼(steel3 及び 6)ではその硬度分布が大きく変化 する。すなわち、最表層部ではHv:500を超える硬度となっている。さらに、Cu添加によ り、表層部での窒化深さが深くなることがわかる。これは前述したように析出したCuを核

0 100 200 300 400 500 600

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

H v (500 g)

Distance from surface /mm

steel1(base) steel2(+0.15Cr) steel3(+1Cr)

steel4(base+1.3Cu) steel5(+0.15Cr) steel6(+1Cr)

図3-8 軟窒化処理後の硬度分布に及ぼすCu及びCrの影響 表3-3 供試鋼の化学組成(mass%)

steel C Si Mn Cu Cr Al N

1 <0.001 <0.01 <0.01 - - 0.020 <0.001

2 <0.001 <0.01 <0.01 - 0.15 0.020 <0.001

3 <0.001 <0.01 <0.01 - 1.00 0.020 <0.001

4 <0.001 <0.01 <0.01 1.30 - 0.020 <0.001

5 <0.001 <0.01 <0.01 1.30 0.15 0.020 <0.001

6 <0.001 <0.01 <0.01 1.30 1.00 0.020 <0.001

40

として Cr 窒化物の析出が促進されたためと考えられる。また、Cu無添加鋼では窒化深さ が浅くなるばかりでなく、中心部ではCuによる析出強化が無いため、硬度分布の低下も急 峻である。

こうした視点から、図3-1に示したような窒化元素による硬度分布の違いは、N との 結合力とその添加量によって変化するものと考えられる。このことは工業的には、例えば 必要な強度や耐摩耗性は、添加される元素の種類とその組み合わせや添加量によって調整 が可能と考えられる。また、図3-2及び3-3に示した軟窒化処理温度やその処理時間 による硬度分布の変化は、Cuの析出挙動を利用することにより、窒化物形成元素の選択と 合わせ、窒化処理後の硬度分布制御の可能性を示唆するものである。

3-4-4 窒化処理による表層部特性

図3-9に板厚方向の窒素量をEPMAによって分析した結果を示す。これは、図3-1 に示す硬度分布と対応した分布を示していることや、写真3-3及び図3-6に示したよ うに、表面に近いほど析出密度が高くなっていることから、表層領域の硬化は主にこうし た窒化物の析出状態によるものと考えられる。

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

N c o n tent / m as s%

Depth /μ m

図3-9 軟窒化処理後の板厚方向の窒素濃度分布(1Cr鋼)

41

図3-4に示したように、窒化処理後の平面曲げ疲労強度が著しく高くなった原因につ いては、1Cr 鋼について板厚方向の残留応力測定により考察を行った。得られた結果を図 3-10に示すが、前述の図3-5に示したような硬度分布を示す領域では、圧縮の残留 応力が生じている。したがって、窒化処理材で高い疲労限が得られた原因として、窒化処 理により表層部の硬度が高くなったことに加え、窒化物の形成によって表層部が体積膨張 し、この領域に圧縮残留応力が形成されたためと推察される。すなわち、疲労試験中に生 じる亀裂の発生とその伝播が抑制されたためと考えられる。

3-5 結言

Cuを添加した極低炭素鋼にCr、Al及びVを単独あるいは複合添加した熱延板について、

軟窒化処理を施した結果、以下のような知見が得られた。

(1)添加する元素によって窒化挙動が異なり、窒化深さとしては,Cr 単独添加が最も深 くなる。

(2)1Cr鋼について窒化処理後の析出物をTEM観察した結果、窒化処理によって生じる 硬度分布は、中心部ではCuの粒子による析出強化に起因し、表層~中心部では、窒化物に

-500 -400 -300 -200 -100 0 100

0 200 400 600 800 1000

Distance from surface /μ m

Residual stress /MPa

図3-10 軟窒化処理後の板厚方向の残留応力分布(1Cr鋼)

42

よる析出強化と窒素による固溶強化によって生じるものと推察された。

(3)3D-AP を使用し、表層部~中心部で観察された析出物を詳細に調査した結果、微細 なCu粒子とCr窒化物が確認され、ある程度の深さ領域では、Cr窒化物はCuと対で析出 していることがわかった。その結果、窒化深さが確保されたものと推察される。

(4)1Cr鋼について、窒化処理後の平面曲げ疲労強度を調査した結果、窒化処理前の強度 に比べて疲労限で2倍近い強度を示した。これは、Cr窒化物の析出に起因した圧縮残留応 力の発生に起因するものと考えられる。

関連したドキュメント