4-1 緒言
昨今の原材料価格の著しい高騰や、BRIC’sを中心とした中進国における鉄鋼需要の拡大 基調が続く中、とくに自動車用の薄板製品については、顧客からの注文に対する工期短縮 化及び製造コスト低減に加えて、材質及び品質面での競争力強化が求められている。薄板 製造工程で見るとこれまでにも連続鋳造、高速連続熱延プロセス及び連続焼鈍設備の確立 により、高生産性と高機能性を具備した薄板商品が開発されてきた/1~5/。自動車用鋼板に ついては、厳しい表面品位が要求されていることに加え、優れたプレス成形性が求められ ているため、これまでの製造工程を簡省略することは、ミクロ組織制御の視点から難しい と考えられてきた。とくにプロセスの簡省略は析出や再結晶挙動が従来工程の製品とは大 きく異なる可能性が高く、プレス成形性/6/を劣化させる懸念がある。例えば、薄スラブ化/7
~11/は図4-1及び4-2に示すように従来の熱延工程における加熱及び粗圧延工程の簡 省略が可能となる。さらに、鋳造厚を従来の熱延鋼板相当まで下げられれば、熱延工程を 完全に省略することも可能となる。しかし、これまでの自動車用鋼板における製造条件は、
すでに述べてきたように、表面品位やプレス成形性を考慮した製造条件として確立されて きたものである。そのため、熱延工程の簡省略はこうした鋼板特性に大きな影響を及ぼす ものと考えられ/12/、その影響度合いをよく検証し、従来のプロセスで製造できた品質と材 質を作り込むことができるか否かを見極めるとともに、最適な製造条件としての確立が求 められる/13/。当該プロセスは北米や欧州、さらに中国においてはすでに実生産プロセスと して稼働しており/14,15/、鋳造から熱延工程における熱履歴を考慮し、析出強化型熱延ハ イテンや熱延DPハイテンへ適用されている。一方、鋳造から熱延終了までの時間の影響に ついては、CC-DR プロセス(いわゆる鋳造-熱延の直結化)が開発された際に、主としてマ イクロアロイ鋼で多くの研究が行われてきた/16~23/。しかし、軟質冷延鋼板については AlNの析出挙動に関する報告/24,25/があるものの、十分な検討がなされていない。
そこで、本章では、自動車用の軟質鋼板として広く使用され、薄鋳片-熱延簡・省略プ ロセスでも代表的な製造鋼種と位置付けられる低炭素アルミキルド鋼(低 C-Al-k)を対象と した。その際に表面品質及び材質に及ぼす影響因子として、鋳造厚及び鋳造後に実施する 保熱条件の影響に加え、凝固後の圧延条件の影響に着目して検討した。
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46 4-2 実験方法
供試鋼は軟質鋼板として一般的に使用される低C-Al-kを用いた。表4-1にその化学組 成を示す。これらの鋼を真空溶解炉で溶製し、Ar 雰囲気で 4~50mm 厚×200mm 幅×
250mm長の扁平割り鋳型に注入し、凝固後直ちに炉外に取り出し、型抜き後に熱延を実施
した。なお、8mm以下の鋳片については、鋳片の温度分布均一化を図るため、鋳造後取出 した鋳片を1250℃の加熱炉で1min保定した後に熱延を実施した。また、MnSの析出量を 変える目的で、型抜き後に一旦、所定の温度で保持して析出処理を行った後、熱延を実施 した試料も作成した。熱延条件は仕上温度を900℃とし、各鋳造厚から4パスで4mmまで 圧延した。熱延後、650℃までの平均冷却速度:50℃/sec で冷却し、650℃で 1h 保持した 後、室温まで炉冷することにより、巻取りのシミュレーションとした。なお、4mmに鋳造 したものは熱延を実施せずに、そのまま同様の巻取り処理を実施した。比較材として通常 のプロセスを模擬するために、95mm厚の冷塊を 1250℃に再加熱し、4mmまで熱延した 試料も作製した。熱延後の条件は、酸洗後、0.8mmまで80%の冷間圧延を実施し、低C-Al-k
では 725℃×1min+400℃×3min で連続焼鈍を模擬した熱処理を行った。各熱処理材につ
いては1%の調質圧延を実施した後に引張試験(JIS5号引張試験片)による強度、延性及びr
値を測定した。なお、r値の測定は第2章と同様の条件で実施した。一方、熱延板段階の析 出物については、抽出残渣による化学分析による定量的な調査に加え、抽出レプリカを使 用し、透過電子顕微鏡(TEM)によるその析出サイズ及び分布を調査するとともに、EDAX による組成分析も実施した。
表4-1 供試鋼の化学組成(mass%)
47 4-3 実験結果
B 鋼について、冷延・焼鈍後の延性及び深絞り性に及ぼす鋳片厚の影響を調査し、その 結果を図4-3に示す。鋳片厚が厚くなるほど、すなわち、熱延圧下率が高くなるほど硬 質化し、Elが低い。一方、r_値は逆に鋳片厚の増加に伴い高くなる。また、鋳片厚が薄く、
図4-3 鋳片厚による冷延・焼鈍後の材質特性
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熱延圧下率が低いものには、リジングと呼ばれる肌荒れ/26/が生じた。
写真4-1に各鋳片厚から熱延を実施した熱延板(以後、簡熱材と呼ぶ)のミクロ組織の 変化を示す。なお、低C-Al-kは焼き入れ性が低く、旧オーステナイト粒を直接観察するこ とができないため、熱延板で観察されるフェライト粒の状態から推定した。簡熱材のミク ロ組織が混粒であれば、変態前のオーステナイトは未再結晶であり、整粒であった場合は 再結晶が完了していたものと判断した。したがって、鋳片厚が薄く、熱延での圧下率が低 いものは凝固後の粗大なオーステナイト粒が再結晶せず、その結果、簡熱材の組織は粗大 なフェライト粒を含む混粒組織となる。一方、鋳片厚が厚くなるほど、すなわち、熱延で の圧下率が高くなるほど、簡熱材の組織は微細なフェライト粒が増加する。これはすでに 熱間加工におけるオーステナイト組織の変化について検討されているように/27,28/、導入 される加工ひずみの増加により、オーステナイトの再結晶が促進されたためと考えられる。
次に、S量の異なるA、B及びC鋼について、鋳造厚:15mmとした鋳片から熱延を実 施した簡熱材のミクロ組織を写真4-2に示す。S量によってフェライト粒の形態及びその サイズが異なる。この写真が示すようにS量の低いA鋼では、平均粒径が15μm程度の粒 フェライト組織である。しかし、S量の増加に伴いA 鋼で観察された整粒のフェライト粒 に加え、扁平率の大きい比較的粗粒のフェライト粒が混在した混粒組織となっている。本 研究で使用した鋼は低炭素鋼のため、旧オーステナイト粒径をエッチング技術により現出 することが困難である。そのため、直接的な証明は難しいが、旧オーステナイト組織を現 出できる高張力鋼での結果/28/から推定すると、粗粒部分は熱延段階では十分に再結晶が進 まないまま粗大オーステナイト粒から変態したものと考えられる。
図4-4は、簡熱材と通常プロセスを模擬した比較材の、冷延・焼鈍後の引張特性に及 ぼす S 添加量の影響を示したものである。簡熱材は通常プロセス材に比べて硬質であり、
加工性が劣る。すなわち、S添加量が多いほど降伏点、引張強度が高く、延性が低下し、通 常プロセス材との差が大きくなる。
写真4-3に簡熱材の熱延板の幅方向端部の写真である。S 添加量が 0.004mass%と少 ないA鋼では、熱延時に幅方向端部で生じる割れ(以後、耳割れという)は生じていないが、
S添加量が多くなると耳割れが生じ、熱間加工性が問題となる。
Sを含んだ鋼の熱間脆性はMn添加量によっても大きく影響されることが知られている。そ こで、写真4-3で見られたような耳割れ発生の有無と、Mn及びSの添加量との関係をよ り詳細に調査した。その結果を、表4-2に示す。S 添加量を 0.01mass%とし、Mn添加 量を0.06mass%及び0.20mass%含む2種類の材料を、ラボの連続ミル/29/を用いて2パス
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図4-4 薄スラブ及び現行工程の冷延・焼鈍後の引張特性に及ぼすS量の影響
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で60%の圧延を実施した。鋳造後直ちに1400℃で圧延を実施した場合、どちらの鋼におい
ても耳割れは発生しなかった。また、1200℃まで放冷してから圧延を行うと、耳割れが発 生した。しかし、1200℃で圧延を実施する前に1250℃で1時間の保熱後に圧延を行うと、
Mn添加量の多い鋼では耳割れは生じなくなるが、Mn添加量が少ない材料では、耳割れの 発生を回避することができなかった。
次に、Mn添加量を変化させたD、E及びF鋼の簡熱材の熱延板のミクロ組織を写真4
-4に示す。この場合、写真4-1で S 添加量が多い時に観察された混粒組織が、低 Mn 鋼で観察される。また、図4-5に抽出残渣で捕えられなかったS量を示すDissolved S