5-1 緒言
連続焼鈍工程は従来の箱焼鈍工程/1/に代わる製造期間の大幅短縮化を実現した画期的 な製造プロセスの一つであり、海外へも技術供与もますます活発に行われている。一方、
こうした焼鈍工程についても、今後、新たに焼鈍設備の設置する場合には、まず、生産性 の大幅向上を実現するプロセスであると同時に、現行の連続焼鈍プロセスに比べてよりコ ンパクトな設備とすることが重要と考えられる。そのため、従来の“炉”から“機”への 変革を一つの方向性と捉えた場合、例えばストリップに対し、通電加熱や誘導加熱といっ た電気加熱法/2/は有力な手段となるものと考えられる。この加熱方法の特徴は、電圧をか けて電流を流し、鋼板自体の抵抗を使って加熱する点にある。そのため、応答性や均温性 の視点からみると、加熱帯の大幅な短縮化が図れると同時に、コイル内の材質変動を極力 軽減した製品の製造が可能となるものと考えられる。そこで、例えば図5-1(b)に示すよ うに、現行の連続焼鈍工程(a)よりもさらに短時間で熱処理を行うことが可能になるものと 考えられる。また、高温焼鈍が比較的容易に実施できるとともに、簡易的な炉との組合せ により炉温=板温とすることも可能であると考えられる。したがって、機能的な熱処理装 置としての可能性を高める技術として期待できる。
ところで、軟質冷延鋼板における再結晶挙動に及ぼす加熱速度の影響について調査した 結果では、加熱速度が速くなると一般的に、再結晶集合組織において主方位となる ND//
<111>方位の集積度が低下することが知られている/3~5/。しかし、加熱速度としては本 章で検討した条件に比べて低く、100℃/secを超える加熱速度での影響については不明で
(a)現行 (b)急速加熱適用 図5-1 連続焼鈍工程の比較
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ある。また、加熱速度の増加に伴う再結晶挙動に与える影響として考えられる点は、以下 の通りである。すなわち、加熱速度が遅い場合は再結晶の核生成サイトは主として粒界で あるが、加熱速度が速くなると粒内に析出している塊状のセメンタイト近傍からも再結晶 が開始することである。つまり、粒界で生じる再結晶粒の方位は主としてND//<111>方 位/6-8/であるが、粒内セメンタイト近傍から生じる再結晶粒は種々の方位からなる/9/。そ のため、ND//<111>方位の集積度が低下すると説明される。さらに最近の調査では、加 熱速度の増加は、再結晶/粒成長挙動に及ぼす影響のみならず、変態挙動に対しても大き く変化を与えることも示唆されている/10,11/。そのため、連続焼鈍工程における再結晶挙 動や変態挙動に及ぼす加熱速度の影響について、従来の加熱速度の領域を大幅に超える条 件下での挙動を明らかとすることは、焼鈍工程における組織制御の視点からは非常に重要 と考える。
そこで、本章では、再結晶集合組織形成に及ぼす加熱速度の影響を調査することに主眼 を置き、極低炭素鋼を対象として、引張特性に及ぼす焼鈍時加熱速度の影響について調査 した。さらに、集合組織制御の視点から、異方性の変化に与える影響因子として、加熱時 の再結晶挙動に及ぼすヒートパターンの影響にも着目して検討した。
5-2 実験方法
供試鋼は表5-1に示す組成の極低炭素鋼である。素材は実機スラブから切り出し、ま ず、250mm 厚から30mm厚までラボの大型圧延機でFT>Ar3変態点以上の条件で圧延 を実施した。それを機械加工により 30mm 厚×150 幅×200 長の鋼片にした後、それを 1050℃×60minの加熱後、ラボの連続熱延機/12/により、30→20→12→7→4→3の5パス で3mm厚に仕上げた。仕上圧延温度は930℃とし、その後、50℃/secで冷却し、650及
び750℃に設定された電気炉に入れ、60min保熱した後に電源を切って炉冷した。その熱
延板を酸洗後、3→0.6mm(冷延率:80%)まで冷延した。
焼鈍はグリーブル通電加熱装置を使用して実施した。試験片サイズは、0.6mm 厚×
40mm幅×140mm長とし、焼鈍は一定の加熱速度で所定の温度に昇温後、直ちに水冷す るパターンで行った。この時、加熱速度は10、300及び1000℃/secとし、一部、1℃/sec
表5-1 供試鋼の化学組成(mass%)
C Si Mn P S Al N
0.0029 0.017 0.10 0.005 0.003 0.066 0.0022
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のデータも採取した。さらに、600℃までは 10℃/sec で加熱し、その後、300℃/sec で昇 温した実験(ステップ加熱)も行った。ここで、温度測定は試料の中心部にスポット溶接
された0.1mmφの熱電対を使用し、そこから得られた電位変化デジタル信号に変換して記
憶させ、試験後に出力して熱処理条件を確認した。これにより、プリンター出力では慣性 の影響によって生じていた測定誤差もなく、とくに本研究で実施したような加熱速度が速 い場合でも精度良く熱処理条件の測定が可能となった。また、0.1mmφの熱電対を使用す ることにより、熱慣性の大幅な抑制が実現され、加熱速度:1000℃/secで実施しても、測
定誤差を5℃以下として温度測定が可能な事を確認した。
組織観察は試験片の中心部の板厚中心層で行った。ここで再結晶率は20×20の400の 格子点を使用し、再結晶粒の有無により求めた。再結晶の進行に伴う単位面積あたりの再 結晶粒の数の変化、倍率:100倍の写真を用い、その写真内の800mm2の面積中の粒数よ り計算で求めた。また、完全再結晶組織における粒径も同様に800mm2の面積中の結晶粒 の数を異なる5視野について測定し、同様に計算して求めた。
さらに集合組織の測定は、島津製作所製XD-3D型 X 線回折装置及び EBSP(Electron Back Scattering Pattern)/13/を用いて実施した。ここで、再結晶の進行に伴う集合組織の 変化は、11面の逆極点図から求めた。また、各焼鈍条件による再結晶集合組織の相違を詳
図5-2 集合組織の3次元解析結果の表示方法
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細に検討するために、完全再結晶後の極点図のデータをRuerとBaroが提唱し/14/、太田 ら/15/が改良したベクトル法により 3 次元解析を行った。その結果は、圧延及び再結晶集 合組織の主要な結晶方位ならびに結晶回転系を含む図5-2に示す2次元的表示法で整理 した。一方、再結晶初期の再結晶粒の方位の決定にはEBSPを用いた。
5-3 実験結果
図5-3は 1000℃/sec で加熱し、所定の温度に到達後、直ちに水冷した時の熱履歴を 示す。設定値を到達温度まで一定としたProgram originalでは、実測値は途中から昇温速 度が遅くなっている。これは、装置がプログラムに従って温度を合わせに行くためである。
900 800 700 600 500 400 300 200 100
0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
Time (sec)
T em pe ra tu re ( ℃ )
Program modified Program original
Measured
Coresponding with Program modified
Measured
Coresponding with Program original
図5-3 焼鈍熱履歴の実験データ例
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そこで、途中から加熱速度の設定値を大きくしたProgram modifiedを採用した。その 結果、高温域においても高精度の加熱速度での実験が行うことができた。さらに、到達温 度域付近での熱履歴の精度をさらに上げるため、設定温度を所定の温度よりも高く設定し、
プログラム上で設定温度に到達する前に水冷をするように工夫している。この図より、昇 温速度は加熱域全般にわたってほぼ一定であり、最高到達温度から直ちに冷却されている ことが確認できた。また、本実験における冷却速度は、板厚:0.6mmにおいては約4500℃
/sec程度であった。
図5-4及び5-5は、巻取温度:650℃材(低CT材)及び750℃材(高CT材)の 再結晶挙動に及ぼす加熱速度の影響について調査した結果である。ここで、低CT材及び 高CT材の熱延板粒径はそれぞれ21.8μm及び25.2μmであった。また、それぞれの熱延 板段階での固溶C及びN量については、内部摩擦測定より低CT材ではそれぞれ5ppmな
らびに12ppmであり、高CT材では4ppmと1ppmであった。これらの図が示すように、
加熱速度が速くなると再結晶が遅れる傾向を示し、再結晶終了温度は高温側にシフトする。
例えば、再結晶率が50%となる温度で比較すると、10℃/secで加熱した材料に比べ、1000℃
/secで加熱した材料では約70℃高くなっている。
図5-4 650℃巻取り材の再結晶挙動に及ぼす焼鈍条件の影響
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そこで、巻取温度の影響をより明確に示すために、巻取温度をパラメーターとして図5
-6及び5-7に示す。すなわち、図5-6は10℃/sec及び1000℃/sec で加熱した材料 での比較、図5-7は600℃までは10℃/secで加熱し、その後、300℃/secで加熱した加 熱(ステップ加熱)した材料と、最初から300℃/sec で加熱した材料の再結晶挙動の違い を示す。これらの図が示すように、10℃/secで加熱した場合は、わずかに低CT材で再結 晶が遅れる傾向がある。一方、300及び1000℃/secと加熱速度が速くなると、巻取温度の 影響はほとんど見られなくなる。また、図5-7に見られるように、600℃までは10℃/sec で加熱し、その後、300℃/secで加熱した材料は、最初から300℃/secで加熱した材料に比 べ、再結晶が遅れるだけでなく、その遅れは高CT材に比べて低CT材で顕著であること がわかる。さらに、再結晶終了直後の結晶粒径で比較すると、本実験条件内では巻取温度、
加熱速度及び加熱パターンにはほとんど依存せず、ASTM 粒度番号ではいずれも 9±0.2 であった。しかし、再結晶終了温度は加熱速度によって異なるため、同じ焼鈍温度で比較 すると加熱速度が速い方が細粒になる。例えば、高 CT 材における 10℃/sec 加熱材と
1000℃/sec加熱材について、焼鈍温度:775℃での粒径で比較すると、前者は再結晶完了
図5-5 750℃巻取り材の再結晶挙動に及ぼす焼鈍条件の影響